探究者パーティーがヤバ過ぎる!?

白城梨々子

文字の大きさ
上 下
12 / 21
第二章~黒き騎士~

EPISODE11~黒き騎士~

しおりを挟む
 廃村付近ーー。

 ティルシアとエスティは、地響きを捉え、ピタリと足を止めていた。

「聞こえた?今の轟音」

「無論だ」

 ライが放った強烈な一撃の余波が数キロ離れた所まで響き渡っていた。

「大丈夫?ベルドを殺したりしてないよね?もし殺ったら…」

 完全にルゼル王国と敵対関係になる事間違いなしだ。

 全力で報復して来るに違いない。

「心配するな。奴は頑丈だからな」

「なら、いっか」

 2人の予想とは裏腹にベルドは瀕死という結果になっていた。

 意外とベルドに対しては評価は高い。

「そろそろ廃村近いけど、瘴気がどんどん濃くなってるね~」

「そうだな。魔物がいない事を祈る」

 黒き瘴気は、魔物にとって高密度な栄養源となる。

 小鬼|《ゴブリン》と呼ばれる魔物がいる。

 集団で行動しているが、一匹一匹の力は弱く、駆け出しの冒険者パーティーも手順さえ間違えなければ簡単に討伐する事が出来る。

 小鬼|《ゴブリン》が黒き瘴気に触れたならば、屈強な肉体を手に入れ、気性は更に荒くなり、戦闘能力も格段に上がる。

 縄張り意識も非常に高くなり、上位種であるホブゴブリンでさえも簡単に屠る。

 多くの魔物が入り込んでいるなら、最大限まで強化された魔物も相手にしなければならない。

「それフラグ~…って言いたいところだけど」

 ティルシアが道端に転がっている死骸に目を向ける。

「小鬼|《ゴブリン》か」

「沢山転がってる」

 廃村に近付く度に魔物の死骸が多く転がっている。

 爆散した肉片に両断された胴体。

 何者かが倒したか魔物同士で争ったか。

 血の臭いで辺りが埋めつくされている。

 廃村へ到着すると黒き瘴気は濃く漂っており、村は完全に朽ち果てていた。

 廃村の中心には、噴水があったであろう場所があった。

 そこに、黒き騎士が静かに座っていた。

 座っているというよりは、持たれ掛かっている。

 まるで死んでいるようだった。

 普通は慎重に近付くところだろう。

 ティルシアとエスティは違った。

「魔術展開!」

 腰に付けている魔導書に触れると手元に浮き上がり、パラパラとページがめくれて行く。

「詠唱…。魔を払い、魔の者を討ち滅ぼせ」

 エスティが詠唱を始めると、乱雑に書き殴られた古の文字が刻まれた魔法陣が展開される。

「光魔法、光天精ッ!」

 ティルシアが扱う遺跡武器、【根源の魔導書】はあらかじめページに魔法、魔術を刻む事で魔導書が蓄積した魔力を消費して放つ事が出来るため、戦闘での魔力消費はない。

 上級魔法、光天精は光の翼を纏う光玉で相手を追尾し衝突すると爆発を起こす。

「光魔滅光」

 上級魔法、光魔滅光。

 魔物に対して効果を発揮する魔法で、大きな光線は対象を塵と化す。

 光天精が空高くから黒き騎士へ目掛けて急降下すると同時に光線が焼き払う。

 先手必勝。

 煙が立ち込め振り払うと、黒き騎士は無傷だった。

「ティー、気を付けろ。想像以上に厄介な相手になりそうだ」

「りょうかい!」

 黒き騎士の纏う鎧の隙間からは、黒い枝が網目状に包み込むようにして、2人の魔法を防いでいた。

 黒き瘴気を吸い込んだ魔物でさえ、消滅する魔法だった。

 黒い枝は生きているように脈打っており、鎧の中へ引っ込んでいく。

「あれ何?」

 ティルシアがエスティに尋ねる。

「黒き騎士の体内で生成されている細胞だ。防御であり、攻撃手段でもある。当たれば体内で広がるぞ」

 相当厄介な能力だ。

「騎士の中身は人間だろうな。黒き瘴気を吸い込み過ぎて、圧倒的な力を手に入れたんだろう」

「人間って事は生きてる?」

「恐らく死んでるはずだ。黒き瘴気と生成される細胞が侵食し尽くしている」

 ティルシアは、生きていない事を確認すると、魔導書を展開させてまま錆びた剣を構える。

 もし生きているのなら、救出手段を模索するつもりだったが黒き騎士を倒す事に専念することにした。

「ググ…アア…」

 黒き騎士の兜から紅い瞳を覗かせている。

 全身がガタガタと痙攣したかと思うと急に体が動かなくなり、右手で握り締めていたボロボロの片手剣を杖のように扱い立ち上がる。

 両手はがっくりと地面に向けて下がっており、風に煽られているせいか揺れていた。

 正直不気味だ。

 動きが止まった瞬間、ティルシアは目を見開く。

 黒き騎士は、音もなく忽然と消えた。

 エスティが叫ぶよりも早く、ティルシアは仰け反る体勢を取っていた。

「ティーッ!」

 ティルシアがいち早く気付いていなければ、頭を貫かれていただろう。

 黒き騎士はティルシアの懐に飛び込むと同時に鎧の隙間から黒い枝を突き出していた。

 魔力防御を纏い枝を防ごうと試みたが、触れた瞬間に回避という選択肢を取った。

 あのまま魔力防御をしていれば、間違いなく即死だった。

 ティルシアの魔力感知は、少し変わっている。

 通常、魔力感知は人に限らず魔力を纏ったものであれば捉えることが出来る。

 しかし、ティルシアの魔力感知は、相手が巡らせる魔力の流れを見極める事が可能だ。

 ティルシアは、魔力の流れを見極め、次にどのような攻撃、行動を繰り出すかある程度予測して選択している。

 黒き騎士が纏う魔力からは魔力の流れは阻害され正確に捉えられず、一瞬にして距離を詰められていた。

 繰り出された枝も魔力が歪に絡んでいたため、「あっ、これはヤバい」と本能で回避していたのだった。

「えい!」

 ティルシアは錆びた剣に魔力を纏わせ斬払うが、黒い枝がすぐさまそれを防いでみせる。

 枝の反応も速い。

「衝撃波|《インパクト》」

 エスティは左手に魔力を込めながら振り払う。

 本来なら直接相手に触れて最大限の威力を持つが、触れる訳にはいかないため、魔力を上乗せして放つ。

 魔力の精錬は申し分ない。

 威力も最大限に近い状態だ。

 衝突と共に枝の破片が飛び散っただけで、黒き騎士には届いていない。

 エスティは続け様に魔法を発動させる。

 地面に触れ黒き騎士から距離を取った。

 すると朽ち果てた大地に緑が芽生え、黒き騎士の周囲に草木が生い茂る。

「拘束」

 生い茂る草木は、魔力を纏う蔓となり、黒い枝と同じようにして網目状に広がった。

 展開しようとする枝を蔓が押し留め、間を縫うようにして蔓が黒き騎士の右腕に絡みついた。

爆速成長する植物ハイスピード・プラント】。

 植物成長スピード・プラントという魔法を魔力操作によって成長加速、操る事を可能にした派生魔法。

 展開させた植物は、変幻自在で絡みつくと四肢をバラバラにする威力持つ。

 絡みついたつるは瞬く間に腕から黒き騎士の全身を拘束してみせたのだが、蔓は黒く染まり崩れ去ってしまった。

 黒き騎士から、どす黒い魔力が漏れるとその場の植物も朽ち果ててしまう。

 矛先がティルシアからエスティへと変わる。

 ギロリと睨みつけ、ティルシアが視界から外れた。

「魔力衝撃|《インパクト・マジック》!」

 ティルシアは錆びた剣に魔力を纏わせたまま殴り付ける。

 エスティに矛先を向けたのが大きな隙となり、錆びた剣は頭に直撃した。

 直撃した魔力は反発し首をへし折りながら吹き飛ばす。

 黒き騎士は瓦礫に体を突っ込むが、枝が瓦礫に突き刺さり体勢を整えていた。

 首は完全にへし折れ、兜は大きく凹んでいるのだが、たちまち修復する。

「結構、思いっきり殴ったのになー」

 仕留めるつもりで放った魔力衝撃|《インパクト・マジック》は、普通であれば頭が消し飛んでいる。

 黒き騎士に大したダメージは与えられていない。

 ダメージを与えているのかさえ、分からない状態だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

追い出された万能職に新しい人生が始まりました

東堂大稀(旧:To-do)
ファンタジー
「お前、クビな」 その一言で『万能職』の青年ロアは勇者パーティーから追い出された。 『万能職』は冒険者の最底辺職だ。 冒険者ギルドの区分では『万能職』と耳触りのいい呼び方をされているが、めったにそんな呼び方をしてもらえない職業だった。 『雑用係』『運び屋』『なんでも屋』『小間使い』『見習い』。 口汚い者たちなど『寄生虫」と呼んだり、あえて『万能様』と皮肉を効かせて呼んでいた。 要するにパーティーの戦闘以外の仕事をなんでもこなす、雑用専門の最下級職だった。 その底辺職を7年も勤めた彼は、追い出されたことによって新しい人生を始める……。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐@書籍発売中
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...