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第一章~探求者パーティー集結~

EPISODE4~【契約騎士】~

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「犯罪者をみすみす見逃すなんて、冒険者としてどうなんですか~?」

 聞こえた方に目を向けると、黒髪で糸目の女。

 黒と紫色で装飾された鎧を纏い、スラリと背が高い女騎士。

 ティルシアとデイルは、まだ魔力感知を発動させたままで、魔力の接近があれば反応できる。

 声を掛けられるまで気付かなかったとなると、女騎士が只者ではない事が分かる。

「その鎧…。アルキス帝国騎士か。そして…」

 デイルが睨む。

 現在、魔王討伐後、世界を統治する国家が4つあり、それぞれ東西南北に分かれて統治している。

 アルキス帝国は四大大国の1つ、西領を統一している武装国家であり、他国を力でねじ伏せ成り上がった大国だ。

 四大国の中で最も在籍している【契約騎士】が多く、騎士や兵士一人一人が精錬されている。

「腰にある細剣。何でお前がここに居る…!」

 デイルは敵意を剥き出しに、剣を女騎士へ向けた。

「知り合い?」

 ティルシアが尋ねる。

「騎士やってたら、嫌でも耳に入るぜ」

「貴方のような元剣聖に覚えて頂いているとは、光栄ですね~」

 女騎士は【元】を強調しながら、デイルに軽くお辞儀をした。

「でも、貴方に用はないのですよ。あるのは、そちらのお嬢さんです」

「え?わたし!?」

「私はアルキス帝国契約騎士、スィン・デルガロと申します。ティルシア様、是非ともアルキス帝国騎士団へ入団して頂きたく参りました」

 スィンは深々と頭を下げるとティルシアは小首を傾げる。

 アルキス帝国領で活動はおろか、恨みを買うような事は多分していないからだ。

「貴女様の妹君、フィルキア様も望んでいる事です」

 フィルキア。

 ティルシアの双子の妹で、騎士になったと聞いているがそれから音信不通となっている。

「フィーが?」

「ええ」

「なら伝えといて!お姉ちゃん、音信不通で怒ってるよ!たまには連絡くらい寄越しなさいやって。あと、騎士にはならないって」

「ハハハ…。はっきりと仰る方ですね、フィルキア様の言伝は、仲間になるなら迎えるがそうでなければ…死んでも構わないとーー」

 抜剣。

 それはまるで閃光。

 スィンの細剣は、ティルシアの首目掛けて放たれていた。

 当然、その動作を見逃さなかったデイルは、受け止めると同時にスィンを弾き飛ばす。

「ティー下がってろ!ここは俺が相手する」

 ティルシアは、スィンに言われた事がにわかに信じられない様子だった。

 血を分けた姉妹。

 長年過ごしてきた妹が姉の死を願うと思ってもみなかったからだ。

 ティルシアは、頭を切り替え、直ぐに距離を取った。

「2人でも良いんですよ?」

「不意打ちする卑怯者は、俺一人で十分だ」

 デイルはキレていた。

 会話の途中で命を狙う卑怯さに。

 仲間として許せるはずもない。

「なら…さっさと片付けて終わらせますよ」

 スィンが体勢を低く構えた。

 その姿はまるで、獲物を狙う肉食動物のようだ。

 デイルの言った通り、スィンの名は嫌でも耳に入る。

 アルキス帝国が保有する戦力、契約騎士の一人で
 三帝と呼ばれる一人でもある。

 三帝は、一騎当千と謳われる契約騎士の中でも更に別格で国1つ攻め滅ぼせると恐れられていた。

 アルキス帝国皇帝は、弱者に対しては強気な姿勢を貫くが、地位を脅かす存在に対して臆病な所がある。

 他国への抑止力よりも自身の国、地位が三帝に脅かされるのを恐れ投獄したという。

 釈放した事に疑問が残る。

 スィンは、一呼吸で数十メートルあった距離を一瞬にして詰めて来る。

 懐に入り込む前にデイルは、横薙ぎに足元を斬り払った。

 しかし、手応えはなく、土埃が舞うだけだ。

 スィンは静かに真上に飛び上がっていた。

 動きを予測し、懐に入る直前に飛び上がっていたのだ。

 足場のない空中。

 殺してくれと言わんばかりの大きすぎる隙。

 デイルが見逃すはずもない。

「もらったッ!!」

 デイルの剣には魔力が纏わりつく。

 魔法というよりは自信の魔力をそのまま、剣に纏わせている。

【魔力操作】というものである。

 魔力操作は、自身が保有する魔力を理解し、精錬する事によって自在に操る事が出来る。

 体に纏わせれば、魔法を防ぐ防御力にもなり、武器に纏わせれば、どんなに強固な鎧さえ斬り裂く事が可能となる。

 …が。

 魔力操作は、自身の魔力をいかに精錬しているかが重要だ。

 それによって攻撃力も防御力も異なる。

 そのため、魔力操作が出来るからといって必ずしも強者とは限らない。

「ふんッ!!」

 繰り出された斬撃は、空気を揺るがす程だった。

 剣から放出される魔力斬撃の余波は、周囲の木に切り込みを入れる。

 スィンは、その強烈な一撃を紙一重、急降下しかわしていた。

 そればかりか、同時にデイルの肩に細剣を振り下ろしながら着地し再び距離を取る。

「ぐっ…!」

 デイルの肩から上がる鮮血。

 傷は浅い。

「へぇ。斬り飛ばしたと思ったんですけどね。流石元剣聖ですね」

「なるほどな…当然詠唱なしで発動出来るよな」

 デイルは頭では分かっていたが、体が付いていかなかった。

 急降下した時、デイルは攻撃に回した魔力を咄嗟に防御へ回したが間に合わなかった。

 圧倒的にスィンの速度が上回っているという事だ。

【詠唱省略】。

 言葉の通り、魔法を発動させる時、自身の想像力のみで発動させる事が出来る高等技術である。

 高位の魔法ほど難易度は増すというデメリットはある。

 空中に飛び上がり、中級魔法に分類される空間魔法の1つである空歩。

 一時的に空間を固め足場を作る魔法だ。

「なら、これならどうです?炎よ…纏え」

 スィンは細剣を指でなぞると炎が纏う。

「付呪魔法、獄炎剣。斬った相手を溶かすこの剣ならいかがですかね?」

 細剣を振り払うと地面に落ちた炎は、穴を空けぐつぐつと煮えている。

 上級魔法に分類される付呪魔法、獄炎剣。

 魔力を纏った状態であれば、硬質な鎧や魔力防御を簡単に溶解させる威力を持つ。

「やってみやがれッ!」

 デイルは右足を前に出し、剣を左腰まで持っていく。

「無駄ですよ」

 再び、スィンが距離を一瞬にして詰めようと、踏み出すが少し仰け反った。

「剣閃ッ!!」

 振り抜いた一撃は凄まじかった。

 魔法ではなく、魔力を帯びた斬撃。

 その斬撃はスィンが踏み出すのを躊躇わせる速度と威力を持っていた。

 地面を抉りながら、スィンへと向かっていく。

 飛び上がり避けると、後方の木々を薙ぎ倒しながら飛んで行った。

 衝突音と共に斬撃の嵐を巻き起こし、薙ぎ倒した木々をバラバラにする。

 スィンは、その技を知っているからこそ躊躇った。

 それは4年前に行われた御前試合まで遡る。

 各国の王達が魔王討伐戦に向け、士気を高める為に開催した。

 選ばれた当時の剣聖であったデイル。

 そして、アルキス帝国騎士のスィン。

 名の知れた騎士であり、誰もが楽しみにしていた御前試合だった。

 互いの技を競い、高め合い、健闘を讃える。

 そうなるはずだったが、始まった試合は本当に死合になった。

 健闘を讃えるなんてものじゃない。

 両者が全力でぶつかりあい、観客さえ避難するほどの激闘。

 互いの鮮血が飛び交う斬り合い、一挙手一投足が確実に相手を仕留めるための戦いであった。

 その時にスィン唯一恐怖したのが、剣閃という技である。

 上級魔法に魔法拒否マジック・キャンセルというものがある。

 相手の魔法に応じた魔力を消費し、相殺する事ができるのだが、剣閃は魔法ではない。

 剣聖が死と隣り合わせの修行で、習得するとされる奥義の1つである。

 まさに初見殺しとも言える技だ。

 自身が1秒間に繰り出せる斬撃を溜めて放出する魔力斬撃。

 魔力操作で生成された斬撃のため、魔力防御は紙クズ同然。

 そして1番厄介なのは、斬撃の命中率によって斬撃が連鎖していく事にある。

 先程、デイルが溜めて放った斬撃は5回。

 溜めた斬撃の数だけ連鎖していく。

 使用者自身も運任せの連鎖斬撃は、初撃に比べて威力が落ちるが木々をバラバラにするのは容易い。

 弱点があるとするならば、味方が多い戦場と使用者自身の魔力消費が大きいという点だ。

「ちっ…避けやがったか」

 デイルは空中に飛び上がったまま静止しているスィンを見て舌打ちをする。

「これだから…殺し合いは止められないんですよね」

 一方でスィンはニタリと笑みを浮かべていた。

 スィンの生き甲斐は、強者との本気の殺し合いだ。

 空中に浮かんだまま、スィンは高々と細剣を掲げる。

「アレを使う気か…!ティーッ!下がってろ!」

 声を荒らげるデイル。

 スィンが何を繰り出すか分かっているため、知らないであろうティルシアに忠告する。

 しかし、ティルシアから返って来たのは、気の抜けた返事だった。

「あっ、大丈夫大丈夫~」

 ティルシアは、見上げたまま、ひらひらと手を振る。

「どうなっても知らねぇぞ…」

 デイルは剣を握り締めて、剣や体に魔力を纏わせる。

 スィンが放つ魔法を知っているからだ。

「我は『彗星』。汝の力欲する者なり。顕現せよ、【彗星騎士】」

 辺りを包み込むほどの眩く神秘的な光。

 まるで神でも降臨したかのような神々しさが、細剣の先から溢れ出ている。

 そしてスィンの体を眩い蒼き光が包み込み、透き通った海のような鎧を纏う。

 姿だけ見れば、神々しい騎士が降臨したかのように見える。

 だが、スィンの口元は歪み、表情は邪悪そのものだった。
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