上 下
10 / 20

10,迷い子羊

しおりを挟む
目を覚ますと、目の前には見慣れない天井が広がっている。

…そうだ、私はレイと一緒に街へ来たのだった。



「お、おはようございます…」
「はよ、よく眠れたか?」
「…………」
「ったく、アルも愛されてんなぁ」



アルの事を考えると、あまり眠れなかった。
今はどうしていて、傷は大丈夫なのか、聞きたい事がいっぱいありすぎる。

だけど、リントに迷惑をかける訳にもいかない。
居候の身でそんな事…。



「おはよ、未ちゃん!」
「レイちゃん…おはよう」
「おい嬢ちゃん達、朝飯出来たぜ」



レイと共にリビングへ向かう。
机の上には焼きたてのパンと、温かなコーンスープが置いてある。



「これ食べ終わったら街の散策しよ!」
「獣人ってバレないように気を付けろよ」



リントがぶつくさとそう言うのを聞きもせずに、レイはあっという間に朝ごはんをペロリと平らげた。











「わー!何回来ても街はすごいね!」
「レイちゃんは街に来たことあるんだよね?」
「うん、結構あるよ!そういえば未ちゃん、指輪買っていく?可愛いって言ってたし」
「指輪は、まだいいかな……」



不意に、ガラスに私達の姿が映る。

片方は、細くて白くて栄養が足りているのか心配。
なのにほんの少し垂れている目ばかりが赤く光っている。
肌と同じく真っ白い髪の毛が、肩の長さで揺れた。

もう片方は、健康的で薄く焼けている肌。
髪の毛はうっすらと透明がかった灰色で、緩やかなウェーブがかかってる。
少しだけ尖った瞳が月の様だ。


私達は、フードを被っている。
角、耳、そして尻尾。
それらは全て人間に見られてはいけないものだから。



なんで私は今、こうして街にいるのか自問自答したくなる。

答えは何度聞いてもこう返ってくるばかりだ。
『彼に好意を抱いた私のせい』
まるで棘みたいにそう放り投げてくる。



「……レイちゃん、ごめんね…私の、せいでっ…!」
「未ちゃんのせいじゃないよ!私だって好きな人は羊族で、種族違いなんだから、私も未ちゃんも同じなんだよ?」



レイは最初に出会ったあの時も、そう言っていた。
彼女は自分の親にも自分自身にも胸を張ってそう言える、とっても強い女の子。


私も、強くならなきゃ。


弱い子は強い者に食べられてしまう。
それが私達の生きる世界の掟で暗黙の了解だから。



「レイちゃん、私…アルさんが、好き……!」
「うん……」
「だから私…、私もっと強くなるから…!」
「………っ、うん!」



じわりと湧いた涙が、私の目でもレイの目の中でもきらりと光った。











リントの家からかなり離れてしまったために、街の中の小路で私達は迷子になってしまった。

ずっと同じ所を歩き続けていたレイは、ため息混じりに呟く。



「足がいたーい…ねぇ、これ同じ所何回も通ってない?」
「この看板見るの、四回目だよね……」
「やっぱり迷子になった?」



不安になったのか、彼女は私の腕に自分の腕を絡めてきた。

安心する温もりを傍に抱えながらただ歩き続けるが、歩いても歩いても流れる景色は同じで、代わり映えしない。



「……ねぇそこの女の子、俺達と遊ばない?」
「いいでしょ、遊ぼうぜ」

「あの人達、何?」
「分かんない…でも、危ないかも」



不意に少し遠くから出てきた連中に声をかけられた。
お互いに組んだ腕の力がきゅっと強くなる。

赤い髪をした男性。
金色の髪で青い瞳の男性。
指輪やペンダント、装飾品がたくさんついている男性。


三人は私を舐めるように見ると、遠慮もマナーも無い下品な笑いを上げながら、何やら喋っている。



「俺はそっちの気が強そうな子が好みかな」
「いや、そっちの白い子だろ」
「もっと顔を見せてよ」

「─やっ、止めてください!」
「だ、駄目っ!!」



ずかずかと近付いて、男達は私達のフードを外そうとする。

外してしまうと獣人だって事がバレてしまう。
それはマズイ。



必死の抵抗も虚しくフードを外されそうになったその時、聞き覚えのある声が前から聞こえてきた。



「悪いけど、俺の連れだから」

「………っ!」



そう。

それはリントの声だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【1/23取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~

椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」 私を脅して、別れを決断させた彼の両親。 彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。 私とは住む世界が違った…… 別れを命じられ、私の恋が終わった。 叶わない身分差の恋だったはずが―― ※R-15くらいなので※マークはありません。 ※視点切り替えあり。 ※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

処理中です...