小さな詩集

硝子の人形

中身は空っぽだった。
透き通って美しいけれど、何も自分からは映さなかった。
落としたら危ないからと微妙な距離があった。


弱くて、脆くて、儚くて。

でもそれは、生きていくためには必要無くて。


透明で、薄くて、何も無くて。

そんな人形は、生きていく事なんて無理で。





何にも感じない。
悲しいってことも。
嬉しいってことも。
君が本当は大切なんだってことも。

全部、思い出っていう綺麗な硝子箱にしまったよ。

壊して感情を取り戻す事だって出来る。


だけど、取り戻したからって何か変わるかい？
破壊した心の破片を拾い集めてたって、所詮作り物なんだ。
だったら、疲れるだけだろう？


硝子の人形は眠る事を望んだ。
自分はもう誰にも望まれていないから。
硝子の心は相変わらず何も映さない。
自分はもう誰にも望まれていないから。



独りぼっちの美しい硝子人形。

硝子の人形は壊れる事は無かった。

硝子人形の傍には、もう誰も近づきやしなかったから。




初めて硝子の人形は、光以外の物を映した。

それは、他の誰でも無い空っぽの自分。

独りぼっちで生きてきた作り物の自分。

何にも感じないのに、自ら心を壊した自分自身。