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魂の戯れ part.10
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ここは、天国だ。目の前の平原には、ありとあらゆる花が咲き乱れ、山々から心地の良い風が吹いてきている。
私は旅行に来ていた。一人だ。地上の人間観察も面白いのだが、たまには一人でいてもいい瞬間もある。
目の前に山小屋があったので、入ることにした。お腹は空いてもいないが、何か食べてもいい気分だった。
あらゆる自由を感じることも天国の楽しみの一つだ。
小屋に入ると、何か一瞬、違和感を感じた。壁には国も無いのに国旗が飾られていて、テーブルにはそれぞれ水を入れた瓶に花がささっている。見た感じ、特に違和感はないのだが。
椅子に座ると、キッチンの奥から店主と思しき男が出て来た。頭にはハチマキが巻かれており、シャツ一枚だった。先ほどまで爽やかな気分だったのに、なぜか暑苦しい。それと同時に、違和感の正体も分かった。
生臭いのだ。魚の匂いがうっすらと小屋の中に立ちこめている。
「らっしゃい!兄さん、今はコハダが美味いよ!」
「あの」
「うん? 」
「ここは、寿司屋か何かなんですか? 」
「そうだよ!みんな山ん中で寿司食えると思ってねえから、裏かいたんだよ。これぞ、天国だから出来る贅沢!」
客も何人か戸惑った表情で寿司を口に運んでいた。表情はまんざらでもないから、美味しいのだろう。ただ、苦笑いが途切れない理由は分かる気がした。とりあえず、椅子に腰かけた。紅茶の似合いそうな山小屋の中で、緑茶が出て来た。
「兄さん、どうする? 」
「じゃオススメを」
「へいよ!」
店主が奥に引っ込むと同時に、私は隣りの客に話しかけた。
「ここが寿司屋だと知ってて、来たんですか? 」
「いや、あなたと同じですよ。この爽やかな山々だし、溶けたチーズとパンでも出て来ると思ったんですけどね」
そう言って、彼は苦笑いをした。すると、額にうっすらと汗が浮いていることに気付いた。そう言えば、先ほどまで寒いに近い位、涼しかったのだが、なぜか今は暑い。暖炉でもあるのかと思ったら、それもない。
すると、エアコンが設置されていた。ガンガンに起動している。
客が入って来た。女性の二人組だ。私と同じように、何か違和感を感じ取ったのだろう。顔を見合わせて来た。店主が出て来る。どうやら、一人でやってるらしい。
二人組の注文を取り終えた際に、私は店主に話しかけた。
「あの」
「はいはい。どうしました? 」
「エアコン、めっちゃ起動してないですか? 」
「そうだよ!寒いところで、暖房をたきまくる贅沢!あ、ちなみに、ウチアイスもやってるから!暖房の利いた部屋で食べるアイス、これぞ本当の天国!」
店主が戻ると、私は改めて店内を見渡した。装飾はタータンチェックのカーテン、アンティークのチェアと女性的なのだが、店主の趣味なのだろうか。先ほどの女性客二人もレイアウトについては、褒め合っているようだ。
このギャップも違和感の一つなのだろうか。だとしたら、何個違和感があるのだろうか。間違い探しをやるような気分で、私は店の中を見渡すようになった。
忘れた頃に注文が届いた。ちょうど私はレジに置いてあるカチューシャを見ていたところだった。売り物なのだろうか。
「へい、お待ち。オススメだよ」
運ばれた寿司下駄を見ると、ほとんどが軍艦と巻物だった。ツナマヨ、カッパ、ねぎとろ、コーン、卵、挙句の果てにエビ天などというラインナップだ。
「店主、これは生物がギリギリねぎとろしかないですね。あの、生魚は? 」
「マグロとか出て来ると思っただろ? 出さないんだよ。裏かいちゃうから」
「コハダは? 」
「裏かかれた方が面白いだろ? だから俺のオススメは生魚無し!」
そう言って店主が奥に引っ込んでいった。呆気に取られながらエビ天を口に運んだ。身には噛みごたえがあり、アツアツで、丁寧な仕込みがなされていた。またしても、裏をかかれたようだ。
私は旅行に来ていた。一人だ。地上の人間観察も面白いのだが、たまには一人でいてもいい瞬間もある。
目の前に山小屋があったので、入ることにした。お腹は空いてもいないが、何か食べてもいい気分だった。
あらゆる自由を感じることも天国の楽しみの一つだ。
小屋に入ると、何か一瞬、違和感を感じた。壁には国も無いのに国旗が飾られていて、テーブルにはそれぞれ水を入れた瓶に花がささっている。見た感じ、特に違和感はないのだが。
椅子に座ると、キッチンの奥から店主と思しき男が出て来た。頭にはハチマキが巻かれており、シャツ一枚だった。先ほどまで爽やかな気分だったのに、なぜか暑苦しい。それと同時に、違和感の正体も分かった。
生臭いのだ。魚の匂いがうっすらと小屋の中に立ちこめている。
「らっしゃい!兄さん、今はコハダが美味いよ!」
「あの」
「うん? 」
「ここは、寿司屋か何かなんですか? 」
「そうだよ!みんな山ん中で寿司食えると思ってねえから、裏かいたんだよ。これぞ、天国だから出来る贅沢!」
客も何人か戸惑った表情で寿司を口に運んでいた。表情はまんざらでもないから、美味しいのだろう。ただ、苦笑いが途切れない理由は分かる気がした。とりあえず、椅子に腰かけた。紅茶の似合いそうな山小屋の中で、緑茶が出て来た。
「兄さん、どうする? 」
「じゃオススメを」
「へいよ!」
店主が奥に引っ込むと同時に、私は隣りの客に話しかけた。
「ここが寿司屋だと知ってて、来たんですか? 」
「いや、あなたと同じですよ。この爽やかな山々だし、溶けたチーズとパンでも出て来ると思ったんですけどね」
そう言って、彼は苦笑いをした。すると、額にうっすらと汗が浮いていることに気付いた。そう言えば、先ほどまで寒いに近い位、涼しかったのだが、なぜか今は暑い。暖炉でもあるのかと思ったら、それもない。
すると、エアコンが設置されていた。ガンガンに起動している。
客が入って来た。女性の二人組だ。私と同じように、何か違和感を感じ取ったのだろう。顔を見合わせて来た。店主が出て来る。どうやら、一人でやってるらしい。
二人組の注文を取り終えた際に、私は店主に話しかけた。
「あの」
「はいはい。どうしました? 」
「エアコン、めっちゃ起動してないですか? 」
「そうだよ!寒いところで、暖房をたきまくる贅沢!あ、ちなみに、ウチアイスもやってるから!暖房の利いた部屋で食べるアイス、これぞ本当の天国!」
店主が戻ると、私は改めて店内を見渡した。装飾はタータンチェックのカーテン、アンティークのチェアと女性的なのだが、店主の趣味なのだろうか。先ほどの女性客二人もレイアウトについては、褒め合っているようだ。
このギャップも違和感の一つなのだろうか。だとしたら、何個違和感があるのだろうか。間違い探しをやるような気分で、私は店の中を見渡すようになった。
忘れた頃に注文が届いた。ちょうど私はレジに置いてあるカチューシャを見ていたところだった。売り物なのだろうか。
「へい、お待ち。オススメだよ」
運ばれた寿司下駄を見ると、ほとんどが軍艦と巻物だった。ツナマヨ、カッパ、ねぎとろ、コーン、卵、挙句の果てにエビ天などというラインナップだ。
「店主、これは生物がギリギリねぎとろしかないですね。あの、生魚は? 」
「マグロとか出て来ると思っただろ? 出さないんだよ。裏かいちゃうから」
「コハダは? 」
「裏かかれた方が面白いだろ? だから俺のオススメは生魚無し!」
そう言って店主が奥に引っ込んでいった。呆気に取られながらエビ天を口に運んだ。身には噛みごたえがあり、アツアツで、丁寧な仕込みがなされていた。またしても、裏をかかれたようだ。
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