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お迎え 最終話
しおりを挟むチャオが抱えているツボのような入れ物に手を突っ込んで薄く細長い干し肉を一枚取って口に食わえる、テオ。
「また魔物が来るんすか?」
ヘラヘラしてるチャオから殺気が。
「・・・魔物じゃない。アリッシュの国王」
どこか楽しそうに、不敵な笑みを浮かべるテオ。
オレはもう嫌な予感しかしない。
やり合うって、テオとロウが?? 魔法では雷と火ってどっちが強いんだっけ??
自分の魔法だけで他の魔法の知識はまだ全然わからん。考えようとしてもゲーム内での魔法攻略しかわからん。でも、子供の頃はロウに勝ったことないって言ってたよな?
そのわりには対戦する気満々のテオはなんなんだ?
チリッと右耳のピアスが熱を持って痛みが走った。こっちはロウの火魔法が注入された魔石。魔力が戻ったんだ!
数分後、開口部から熱風とともに渦を巻いた炎がゴォォッとテオめがけて入って来た。
テオは、干し肉を食わえながらジャンプして炎をひらりとかわす。
身軽な動き!
オレはあとからきた風圧でよろけ、転びそうになったところを俊敏な動きでテオが腕を引いて助けてくれた。
「大丈夫か?」
「お、おぅ。ありがと」
やっぱり猫種族だ。身体能力がハンパない。
食料不足でやせ細ってるのかと思ったけど、案外身軽に動けるようにあえてスタイル維持してんのかも。
ゴオオッッとまた炎の渦が。オレとテオを引き裂くように突っ込んできた。
「うわわぁ!」
慌てて逃げようとするオレをテオが自分の方に引っ張って背中を盾にして守ってくれた。(良い奴)
「ロウ。ダイヤを迎えに来たんだろ。丸焦げになってもいいのか」
「丸焦げになるのはテオ、お前だけだ」
開口部からロウが建物内に入って来た。
襟無しのシャツにズボン、分厚いブーツを履いた、身長の高い見慣れたロウが目の前に立っている。
魔法を使ったせいで髪と目が赤いけど、まぎれもなく大人のロウだ!
「ロウ! よかった、マジで戻ったんだ」
嬉しさのあまり駆け寄ると、ガシッと頭を掴かまれる。
「おい、なにあいつに助けられてるんだ?」
「いででで。子供のロウの方がよかった」
半べそで冗談を言うと、ロウがマジギレ顔に。
「子供のロウは惜しいけど、やっぱりこっちのロウの方が好きだな」
「当たり前だ」
数日ぶりの大人のロウと見つめ合っていると、ビリビリッと電気がロウとオレの間を走った。うっかり感電しそうになる。
ロウがスッとオレの前に立ち、戦闘モードとばかりにオレンジ色の火をまとう。
「テオ、まだ生きてたんだな。とっくに滅んだのかと思った」
「へー言ってくれるじゃん。ロウのほうこそおれの術にまんまとかかるなんて、気がゆるんでるんじゃん?」
「猫種族の術は魔法術と違う。そう簡単に気づけるか」
「それって褒めてる? 嬉しくないけど」
バチバチッとロウとテオの間に見えない火花が。
さすがのチャオもツボの入れ物をかかえたまますごすごと部屋の奥へと下がった。
え。
マジでやり合うの? これって止めたほうがいい?
金髪だったテオの髪が白銀になってる。瞳の瞳孔がさっきから細いままだ。
猫を飼ってないから知識はあんまりないけど、瞳孔が細いのって確か戦闘モードとかじゃなかったっけ?
チラッとチャオを見ると、オレに「ヤバイっすよ!」と目で訴えてくる。
見つめ合ったまま微動だにしないロウとテオ。
腹の中を探り合っているのか、仕掛けるタイミングを見計らっているのか。
見てるこっちがハラハラして居たたまれない。
チャオがツボの入れ物を抱えながら身振りで「行け」と煽ってくる。オレも負けじと「チャオが行け」と顎で促す。
そんなことをしてたら、テオが建物内で一発ドンッと雷を落とした。
すごい音に耳の鼓膜が破れるかと思った。
「相変わらずやり方が荒いな」
と、ロウ。口元でニヤッと笑ってる。
「どっちが。ちょうどいいじゃん。あの頃は負けっぱなしだったけど今のおれ、強いよ」
ドヤ顔で煽ってくる、テオ。
「自分のこと強いとかいう奴ほど弱いんだよ」
ドヤ顔で返す、ロウ。
バチバチッとふたりの間にまた火花が。
あ。
もうこれはヤバイ。
ロウが戦闘モードとばかりに仁王立ちしたところで慌ててふたりの間に立った。
「ストーーーップ! そうゆうのは日を改めて他の日にしろ!! つーか、ロウはオレを迎えに来たんじゃないのかよ」
不満な顔をしつつ、
「・・・そうだった。帰るぞ、ダイヤ」
「お、おう!」
回避できたことにホッとする。チャオもグッと親指を立てて喜ぶ。
建物を出ようとするロウを追いかけようとしたその時、引っ張られて足が止まる。振り返ると、テオがオレの腕をつかんでいた。
「聖女はいらないからダイヤをちょーだい」
ん??
テオがオレにじゃなく、背中を向けてるロウに言った。
もちろん、振り返ったロウが「うん」と言うわけなくて、「はぁ?」と盛大に露骨な顔をした。しかも、足元に火が舞っている。(戦闘回避したのにーーー)
「テオ、何言ってんの? オレは聖女じゃないから役に立たないよ」
「そんなことないって。自分の命まで削ろうとまでして湖を復活させてくれたじゃん。もうこれは愛だね」
「え???」
ニッと満面の笑みを浮かべる、テオ。
今、「愛」て言った??
そうゆうふうに受け取られちゃったの??
困惑してると、片方の腕をロウがつかんで引っ張った。
「おい、いいかげん放せ」
「嫌だね。聖女がいるんだから聖女の兄くらいくれたっていいだろ」
「こいつは俺のだ」
「今からオレの」
ふたりしてオレの腕を引っ張り合う。
前にもこんなことが・・・って、ロウと桃花がやってたじゃん! なんでオレって取り合われるの?! つーか、腕もげる! 痛い!
ボッと火魔法の火がオレの腕に燃え広がった。慌てて腕を振って消そうともがく。
「うわぁぁ! ロウ、なにやってんだよ! テオ、もう放して! 火傷する!」
「こんなのどうってことない」
手をまったく放さないテオは、火を消すんじゃなく、電気を放ってロウに攻撃した。
ビリッときたのか、一瞬ロウの顔が歪んだ。が、ロウもオレから手を放さなかった。
オレはなぜか感電もしないし、火も熱くない。魔石のピアスのおかげか、防御魔法がかけられているのか。
じっと睨み合うふたり。なんか、嫌な予感がする・・・と思ったら、お互い電気と火でやり合い始めた。
オレの腕は燃えまくるし、ロウは感電しまくってるし。遠くで見てるチャオは心配そうにオロオロしてるし。
自分で強いと言ってただけあって、ロウが若干おされてるような・・・。(マジか)
いくら待ってもやめるどころか加速していく。
さすがに腹が立って、ロウとテオの前に氷の壁を地面から突き上げた。
ふたりとも反射的にオレから手を放し、魔法を使うのをやめた。
「いいかげんにしろ」
オレの低い声が氷の壁に反射して響いた。
返事はないけど、とりあえずやり合うのはやめたみたいだ。(つーか、反省しろ)
氷を水で溶かし、ロウの隣に並ぶ。
「帰ろう」
「・・・あぁ」
ちょっとバツの悪そうな顔をするロウが面白い。ロウでもこうゆう顔するんだな。
「テオ、オレ帰るね。また湖の様子見にくるから」
「さっきの本気だから。ロウに飽きたらいつでも来て」
チャオも歓迎とばかりにニコニコしてる。
どう返せばいいかわからなくて、とりあえず笑って頷いた。
グイッとロウに腕を引っ張られ、促されながらふたりに手を振って建物を出た。
炎天下の外に出たはずなのに見慣れた廊下に立っていた。
あたりをキョロキョロ見回したあと、
「ここもしかして城内の廊下? まっすぐ進むとオレの部屋があるよな?」
「なにあたりまえのことを言ってるんだ」
きょとんとするロウ。
「なんで?! 大陸外だと移動魔法が効かないって言ってなかった?!」
「それはおまえの魔力が低かったからだ。今はルノーの魔力を得て魔力が上がったから探りやすくなった。遠距離にも耐えられる」
「なるほど」
思わず納得する。
唐突に片手でオレを引き寄せぎゅっと抱きしめてきた。オレもロウの背中に腕を回してぎゅっと抱きしめる。
「なに捕まってるんだよ。むちゃするなって言っただろ」
「いや、無理だから。つーか、桃花と間違われただけ」
「は? あいつやっぱバカだな」
「テオはいい奴だよ。チャオも」
そう言ったらスッとオレから離れ、
「そうやって騙されんな。南南西大陸の人間はそうやって相手を騙して生きてる奴ばかりだ」
ロウにそう言われ、騙されたテオを思うとそのとおりなのかもしれないと思いつつ、
「だからってテオまでそうとは限らないだろ」
「テオも、だ。あいつにどう言いくるめられたかは知らないが・・・こんなの付けられたくせに」
スッと手を伸ばして左耳についてるピアスに触れた。
「しょーがないだろ。気づいたら付けられてたんだよ。つーか、ロウ、人のこと言えないだろ」
ピアスを握りつぶそうとするロウのせいで耳たぶに激痛が。
「痛い痛い! いってーよ! ふざけんな!」
潰しても壊れないピアスに火魔法まで使ってきた。が、防衛が働いたのかピアスがピカッと光って火を払った。ついでにロウに電気まで飛ばした。
ビリッと感電したロウの顔が一瞬歪んだ。
「ふざけんな! オレの耳だぞ」
「絶対はずしてやる」
悔しがるロウがちょっと面白い。案外テオは悔しがるロウが見たくてわざとこんなことをしたのかも。
「テオは聖女じゃなくてオレがいいって言ってたけど、ロウに勝ちたくてわざとロウが嫌がること言ったのかもな。ピアスもロウに対しての嫌がらせじゃん」
やり合う前もどこか楽しそうだったし。
「テオってロウと友達になりたいんじゃ・・・」
ハッとひらめいたように言うオレに、ロウが露骨に呆れた顔をした。
「おまえ・・・どうしたらそういう発想になるんだ?」
「だって子供の頃勝負し合ってたんだろ。仲良くなりたいほど絡むって言うじゃん」
「聞いたことがない。どう見ても言葉どおりだろ」
ロウの眉間にしわがよる。
「絶対そうだって! いいじゃん、今度湖の様子見に行くときにロウも一緒に行こうぜ。そんでサクッと友達になってついでに国の復興手伝っちゃえ!」
「ふざけんな。それでもう行くな」
頭が痛いとばかりに額を手でおさえた。
「なんでだよ。同じ国王同士じゃん。同期みたいなもんだろ? 同じ大陸同士は協力し合うのに別の大陸だと無視ってひどくない? 助けてよ」
「ずいぶん食い下がるな」
ロウの視線の先を見ると、いつの間にかロウの袖を引っ張っていた。自分でもびっくりだ。
「いや・・・他人事じゃないっていうか」
多分、テオから「王族は土地と契約する」という話を聞いたからだ。実はけっこう引っかかってた。だって、アリッシュに何かあればロウも・・・。
袖から手を放すとロウが手を握ってきた。
「友達になる気はまったくない。が、助けてやらなくもない」
「なんだそれ」
フッと笑いが出る。
またぎゅっと抱きしめてくるロウに腕を回してぎゅっと返す。
ロウのハグは安心する。匂いとか引き締まった身体付きとか。子供のロウにはない安心感だ。まぁ、あとは今のロウのことが断然好きだから。
それを実感したり。
「オレ、ロウと結婚しようかな」
ぽつっと出た言葉に、ロウがびっくりしてオレの顔を見てきた。
「突然だな、自立はいいのか」
「自立はするけど・・・したいって思ったんだからいいだろ、べつに」
じっと見られると恥ずくなる。うんでもってツンの性格が出る。
「大歓迎だ」
ぎゅっと抱きしめてくる。
自立というか、オレはきっとロウの隣にいられる自信が欲しかったんだ。
『聖女の兄』という肩書がなくても、隣にいられる自信。
あと、子供のロウがオレを頼ってくれたように、ロウに頼られたい。ロウを守りたい。
アリッシュとロウが悲しい結末にならいように、オレも王族の一員になってロウを横で守りたい。
ぎゅっと手に力を入れてロウを抱きしめると、ロウも負けじと抱きしめ返してきた。
「・・・おい、苦しい」
身長差のせいでロウの胸に押しつぶされ苦しい。
「悪い」
腕の力を緩めたロウを見上げると、ロウもオレを見下ろしていた。
自然と目が合い、見つめ合って、ロウの顔がゆっくり近づいてくる。
数日ぶりのキス・・・と思いきや、寸でのところで桃花に邪魔される。
「お兄ちゃんーーー!! 戻ってたの! 無事でよかったーーー!!」
わーーんっと泣きながら廊下の奥からスカートの裾を持って走ってくる。
パッとロウと離れる。チッとロウが舌打ちした。(オレもしたかった)
「今から他国の聖女を奪い返してくる」
「今から?!」
「安心しろ。すぐ戻ってくる」
「お兄ちゃんーー!!」
ギュッとオレに抱きつく桃花と同時にロウの姿がパッと消えた。(桃花から逃げたな)
その数時間後、ロウはあっさり他国の聖女を奪還して元の国に返しアリッシュに戻ってきた。
今回の騒動が落ち着いた頃、元王様に結婚の報告をしたけど、聖女の桃花が断固反対したせいで結婚の話は保留になった。
聖女の意思は王族にとって絶対だから認めてもらえないと結婚が成立しないらしい。
結婚しなくても生活は変わらずで、あいかわらずロウと魔物退治をする日々をおくっている。
もちろん、自立のために本格的に魔法の勉強を始めてみたり、騎士団に半入団してみたり。
そういえばテオからロウの過去について聞きそびれていた。湖の様子も気になるし、近いうちに会いに行こうと思う。
ということで、これからも聖女の兄として異世界で生きていくつもりだ。
おわり。
*あとがき*
読んでくださりありがとうございました!
「続・聖女の兄で、すみません!」完結しました。
番外編を書く予定でしたが、気力尽きました。(笑)
続編はテオくんを登場したくて書いたのですが、思ったより当初の設定とのズレで苦戦しました。(汗)
ダイヤくんは「親友になれそう」と言ってますが、一応BLなので三角関係に発展します。
個性の強い国王が次々と出てきたら楽しいですよね。いろんな国王から魔力の入った魔石をもらいまくる展開もいいなと思いました。
番外編、続編と書きましたが、一番のおすすめはやっぱり本編です。
「聖女の兄で、すみません」はこれで完全に完結します。
ここまで読んでくださり大感謝です。
たくさんのいいねもありがとうございました。本当に励みになりました!
次は新作・新連載頑張ります。
またご縁がありましたら読んで頂けたら幸いです。
たっぷりチョコ。
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