七夕、どうする

たっぷりチョコ

文字の大きさ
上 下
4 / 4

流星編3/3

しおりを挟む
「そこまでー。はい、答案用紙から離れてー」
 後ろの席から答案用紙を受け取り、前の席に渡す。
 見張り担当の教師が教室を出て行くと、緊張が途切れて一気に開放感へと変わる。
「あーやっと期末テスト終わったー!」
「明日からテスト休みだー!」
「夏期講習って受けるー?」
 テストから解放されにぎやかになる。

 オレはタイミングよく来たヒヨカのラインをチェックする。
『テスト終わった? 今日の放課後うちに集合』
 カップリング論争なんてなかったかのようなライン。
 まぁ、これがオレとヒヨカのいつものこと。
 やれやれとホッと一息つく。

 
 ホームルームが終わり、帰宅ラッシュが始まる。
 友達と教室で別れて3組を覗くもトオルはいない。
 肩を落としながら、今日が7月7日なのを思い出して裏庭へ行くと特に誰もいなかった。
 七夕の日なのに、特になにもないらしい。
 短冊に願いを書いて終わりか。
 空は相変わらず曇っててまだ梅雨が続いている。

「これじゃーイチャイチャもできないじゃん」

 天の川を渡って織姫と彦星が一年に一度会うことがきる日なのに。

「オレも会いたいな」
 できれば、トオルとイチャイチャしたい。

「何ひとりごと言ってんの」
「え?」
 声がする方へと振り向くと、笹の反対側にトオルが空を見上げながら立っていた。
「え! トオル! なんでここにいるの? ていうか、いるなら声かけてよ。オレ、ずっとトオルのこと探してたんだから」
「・・・知ってる」
「え」
 こっちを見るトオルの顔が、笹が邪魔でよく見えない。
「そっち行っていい?」
「なんで」
「顔見て話したいから」
「・・・別にいいじゃん、このままで」
「・・・トオル、なんか怒ってる?」
「なんで」
 プイッとそっぽを向かれ横顔しか見えなくなった。
 なんで怒ってるのかわからないけど、トオルが不機嫌なのは露骨にわかる。
 そっちに行きたいけど、このまま笹を挟んで会話をすることにした。

「トオルの短冊見つけたよ」
「へー」
「・・・あの子って誰かなーって。トオル好きな子いたんだ!」
 明るく振舞ってみるけど、一番聞きたかったとを口にした途端心臓がバクバクと音を立てる。
「・・・誰だっていいじゃん。橋本には関係ない」
 すっぱり言われ、口から見えない血が・・・。
「そ、そうだけど・・・友達として・・・というか」
 相談に乗るとか適当なことが言えない。言いたくない。
「オレも橋本の短冊見つけた」
「え」
「橋本も好きな人いるんだ。オレも知らなかった」
 睨みつけてくるトオルの目と合い、確信に変わった。
 フィッと視線を外したトオルは、
「さっきひとりごとでイチャイチャもできないとか言ってたけど、好きな子にでも振られた? ま、オレには関係ないけど!」

 その場から離れようとするトオルの手をつかむと、そのまま校舎の壁へと追いつめ壁ドンをする。
 困惑するトオルはオレから目をそらしてうつむく。
「な、なんだよ! オレには関係ない。橋本が誰を好きになろうと」
「あるよ。だってオレが好きなのはトオルだもん」
「・・・は?」
 うつむいていたトオルは弾けるように顔を上げ、一気に距離が縮まる。
「近ッ!」
 トオルが叫ぶから一瞬、耳の鼓膜が揺れてキーンと耳鳴りがする。
「ごめん、急に顔上げるから・・・」
 壁から手を放してトオルから少し距離をとる。
 見るとトオルの顔がどんどん赤くなっていくのがわかる。しまいには耳まで真っ赤になる。

「イチャイチャって言ったのは織姫と彦星のことを言ったんだよ」
「・・・はぁ?」
「ほら、曇ってるから天の川を渡れなかったらイチャイチャできないなーって。ふたりって夫婦なんでしょ?」
「・・・知るかッ! ていうか、紛らわしい独り言すんなよ」
「ごめんごめん」
 はははと笑うオレ。
「あーでも、オレも好きな子とイチャイチャしたいのはホント」
「・・・はぁ?」
「好きな子ってトオルのことだよ。さっきも告ったけど」
「告っ・・・! イチャ・・・!」
 バッと腕で口元を隠すトオルだけどもう首まで真っ赤だ。

 トオルが可愛い。
 オレの推しが可愛すぎる。

 久々に会ったせいか、ときめきメーターが壊れそうだ。
 このまま至近距離にいるとトオルの骨が折れるくらいぎゅうぅぅーとハグして深めのキスをしそうだから、とにかく理性が吹っ飛ぶ前にトオルから離れることにした。

 フラッと足元がふらつき、地面に両手をつく。
「橋本? 大丈夫か?」
「あーうん。テストが終わって疲れが一気にきたのかも」
 ヒヨカの手伝いをしててほとんどテスト勉強してなかったから、テスト期間中は詰め込むだけ詰め込んだ。おかげでほとんど寝ていない。
「あっちにベンチがあるからそこで休憩しろよ」
 トオルに言われ、笹から少し離れたところに設置してあるベンチで横になることに。
「曇りのせいだと思ったけど、やっぱり橋本、顔色悪いわ」
「うーん・・・5分経ったら起こして」
「わかった」
 しゃがみこんでオレの顔を覗きむトオルの声が優しい。

 せっかく告ったけど。
 いや、やっと気持ちを伝えられて、誤解も解いた・・・と思うし、ヒヨカとも仲直りしたし。
 5分とはいえ、よく眠れそうだ。

「逃げ回ってごめん。オレがたくさん会いたいのは橋本だから。オレも橋本のこと・・・」

 遠くでトオルの声が聞こえた気がしたけど、何を言ってるのかは聞こえなかった。
 結局、5分どころか30分も寝てしまい、ヒヨカの鬼不在着信のせいで慌ててトオルと別れて学校をあとにした。


 オレの告白は不発に終わって願い事は叶わなかったけど、誤解は解けたから良しとしよう。
  ん?
 結局、トオルの好きな子って誰?!



 おわり。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

ホワイトデー、どうする

たっぷりチョコ
BL
流星はBL好きの腐男子。 友人でもあるトオルは、絶賛推し活中のBL作品の登場人物に激似。 トオルにも密かに推し活をしてときめいている日々。 バレンタインの時に、推しのトオルから成り行きとはいえチョコを貰った流星。 ホワイトデー前日に、ピアスをあげようとショッピングモールへ行くことに・・・。 『バレンタイン、どうする』と話が繋がっています。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

バレンタイン、どうする

たっぷりチョコ
BL
バレンタイン前日、池田トオルは気になってる人がいた。 女友達に「男からあげても大丈夫!」と背中を押されるが・・・。 相手は男。 仲の良い橋本だった。 女の子が好きなはずなのに、気になるのは男友達。 自分の気持ちに戸惑い、葛藤する池田のバレンタインの行方は―。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

センパイ、受け取ってください。

たっぷりチョコ
BL
 秘かに想いをよせているセンパイにバレンタインチョコを渡そうと教室へ向かうが・・・。  先輩×後輩 ラブコメ *投稿1周年記念としての短編作品  

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談? 本気? 二人の結末は? 美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

処理中です...