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最終話「会いたいから頑張る」1/2
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これからは夢の中と現実でトモセくんに会えるんだ。
と、喜びもつかの間、アイドルは本当に多忙な日々をおくっているのを実感した。
朝の5時にトモセくんにラインをしてから数時間ごとにトモセくんからラインがきた。付き合ってる実感をかみしめていたけど、それは全然続かなくて、2日目でおはようのラインがきたあと「なかなかラインができなくてごめん」の返事としょんぼりしてる子犬のスタンプがあって終了。
3日目はおはようのラインで終わった。
ボクも迷惑をかけちゃいけないと自分からラインをするのは気が引けてしなかった。
それから新年が明け、ジュンくんとトモセくんのダブル出演の深夜ドラマがスタートし、主人公の友達という出番の少ないちょい役にも関わらずトモセくんの演技がヤバいと、人気が一気に爆発。
色気はドラマの役のために作りこんだんじゃないかとファンの間で話題になり、彼女いる説がいつの間にか消え、逆に役に対してのストイックさが推せると・・・もう勝手に言いたい放題だ。
忙しいせいか、寝る時間がずれているのか、夢の中でも会えなくなってしまった。
トモセくんが大学に合格したことはネット記事で知った。
それから数か月、ボクは高3になった。
4月。
「アキ、こっちこっち」
あずくんが手招きをする。
見上げると背の高いビルに圧倒され、口を開けているとあずくんに腕を引っ張られ建物の中へ。
「迷子にならないでよ」
「迷子って」
あずくんに言われボクの方が年上なのにと思うけど、目の前にいるあずくんを見るとボクが年下に見えてもおかしくない。
受験シーズンで会えない間、あずくんはスクスク成長しボクより身長が伸びた。まだ伸びているとか。(ガーン)
顔立ちも大人っぽくなって声だって少し太く落ち着いた声になった。
そんなあずくんと今日は都心のとあるビルに来ている。男性アイドルオーディションの2次審査があるのだ。
土曜日に珍しく学校も部活もバイトもないボクがリビングでまったりしていたら、あずくんが暇なら付き添ってほしいと頼まれて仕方なく・・・。(せっかくのオフが)
「なんだよ、アキは僕を応援してくれるんじゃないの?」
窓口で受け付けを済ませたあずくんがムッとする。
「もちろん応援してるよ。予定がない日なんて久しぶりだったからのんびりしたかったなぁ・・・なんてちょっと思っただけだよ」
「・・・ジジイか」
「ひ、ひどい」
地味にショックを受けているとジュンくんからラインが。
「そーだ、このオーディションにスペシャルゲストとしてラブずのジュンが審査員に加わるらしいよ」
「そ、そーなんだ」
ラインを見ながらあずくんに向ける笑顔が引きつった。
そのスペシャルゲストの本人からも同じことをラインで言われた。片手でそのオーディションの付き添いで来てることを打つと、すぐさまジュンくんから、
『マジか。じゃーちょうどいい。ちょっとだけ相手してやって』
相手してやって?
ジュンくんのラインに頭の上にはてなが浮かぶ。
「アキ、聞いてる?」
ひょっこりとあずくんが覗き込む。
「ご、ごめん。友達にラインの返信してて」
「ふーん。部活剣道にするって言ったんだよ」
「へ?! うちの部に入部するの? いいの? あずくんなら空手部で大将はれるのに」
「やだよ。アキが剣道やってるから興味があったんだ。あと、バイトもアキと同じところに昨日面接に行ってきた。多分、採用だと思う」
「へ?!」
面接に美少年が来たと飯島さんが喜んでいたけど、まさかあずくんだったとは。
「ボクと同じバイト先でいいの? パンケーキの匂いつくよ?」
「別にいい。アキがいれば親も安心すると思うし」
「な、なるほど」
あずくんはボクが通う都立高校に受験し合格した。
横浜に住んでるから本来なら受験はできないんだけど、あずくんのお姉さんが本格的にパリで仕事をすることになりそれにおばさんも付いて行くことになったらしいんだけど、仕事人間の父親と二人暮らしは嫌だという理由で、あずくんは東京に住んでる親戚の家に居候させてもらうことにして、東京にあるボクが通う高校に受験したという。
だけど、ボクが知らない間にあずくんはうちの姉さんたちにこのことを話したらしく、それならうちに居候した方が学校も近いし、気兼ねなく暮らせるんじゃない?(主にオタ活とか)と姉さんたちが勝手に決め、1週間前からあずくんがうちに暮らしている。おとといから一緒に学校にも通ってる。
違和感ないくらい溶け込んでいるあずくんがすごい。(前から雨野家と仲良かったのもある)
控室となっている部屋に入ると、オーディション待ちの人たちの緊張感がピリピリしてて居づらい。
あずくんとボクは隅っこに置かれているパイプ椅子に座って待つことに。
「アキってあの女といつもつるんでるの?」
特に緊張もしていないあずくんが唐突に質問してきた。
ギロリとイケメンに睨まれ、小声で答える。
「もしかして浜村さんのこと? 今年も同じクラスになったけどつるんではないよ。浜村さん、学校ではオタク隠してるから」
「ふーん。でも昨日、僕とアキの3人で途中まで帰ったよね?」
「そうだね。ラブずの話がある時は一緒に帰ったり、お昼とか一緒に食べたりしてるかなぁ」
「お昼も?! お弁当始まったら僕にも声かけてよね、絶対!」
食い気味のあずくんに思わずパイプ椅子から落ちそうになる。
「わ、わかった」
「あの女、絶対下心ある!」
ギリギリと歯を鳴らすあずくんがちょっと怖い。
「浜村さんがボクのことを~とか言うんだったらお門違いだよ、あずくん」
「は?」
「優良物件だとか言われたことあるけど、秒で振られたよ。トモセくんみたいな、元カレをギャフンといわせる彼氏が欲しいんだって」
はははと最初の頃を思い出してついつい和む。
「アキって、本当にバカだよね」
うつろな目であずくんにバカにされた。(ガーン)
話がちょうど切れたところでジュンくんからラインがあり、トイレに行ってくると言って席を立って控室を出た。
ジュンくんからオーディションが始まる前に会いたいと言われ廊下に出てきたけど・・・と返事をして既読がつくのを待ちながら歩いていると、ふいに誰かに手を繋がられ今来た方へと引っ張られる。
一瞬、ジュンくんかと思ったけど、後ろ姿は背は高いものの筋肉質ではなく細身でスタイルが良い。髪がストレートで水色のTシャツに白のスウェットパンツ。部屋着というよりブランド物をおしゃれに着こなしている感じだ。靴が白のローファなのがスタイリストさんの影がちらつく。
も、もしかして・・・。
どこに連れて行かれるかという恐怖より、胸の高鳴りが増していく。
角を曲がると非常階段に通じるドアで行き止まりになっていた。引き返すのかと思いきや、繋いでいた手を放してその場でギュッと抱きしめられる。
「やっっっと会えたー」
ため息と一緒に吐き出された言葉にボクの心臓がバクバクと心拍数を上げる。
トモセくんだーーーッッ!
ジュンくんの『相手してやって』はトモセくんのことだったんだぁぁ。
雑誌やテレビ、グッズでは毎日のように会っているけど、本物のトモセくんは数ヵ月ぶり。さすがのボクも恥ずかしい気持ちより嬉しい気持ちが勝った。
寄りかかるように抱きしめてくるトモセくんのせいで腕が背中まで回せず袖にしがみつくはめに。それでも嬉しい気持ちを込めてギュッと力を込める。
トモセくんから良い匂いが・・・と、今日はちょっときつめの香水の匂いがする。仕事・・・用かなぁ。
「アキ、会いたかった」
目を合わせ、瞳を潤ませてトモセくんが言った。
やっぱり恥ずかしくなってきた。逃げたいけどトモセくんにがっちりホールドされてびくともしない。
観念して、
「ぼ、ボクも・・・会えてうれ・・・」
嬉しいと言う前にトモセくんの唇に邪魔された。チュッと触れる程度の軽いキスだった。
急なことにびっくりして目がまん丸くなるボクをじっと見つめるトモセくん。このあとのボクの反応が気になるみたいだ。
案の定、恥ずかしさのあまり顔が熱くなってきて視線をそらした。
夢の中では何十回としてきたけど、現実では初めてだ。一瞬でよくわからなかったけど。
「嫌だった?」
ずるい質問だ。
「・・・いやとかじゃ・・・」
蚊の鳴くような声しか出なかったけど、トモセくんには十分聞こえたみたいだ。チュッとまた軽いキスをされボクが反応するより早くまたキス。短いキスを数回繰り返しされた。
隙をみて、
「いくら死角になってるからって誰かに見られたらまずいよ」
そう言ってストップをかけるのにトモセくんは、
「アキはオレと会えて嬉しくないの?」
だからその質問はずるいよぉぉ。
「嬉しいよ! 嬉しいけど、ここじゃ・・・」
また言い終わる前にキスで邪魔された。しかも次は一瞬で終わるキスじゃなくて長かった。トモセくんの唇の柔らかさがわかるくらいしばらく口を塞がられた。
こうみえても現実ではこれがファーストキスなので、鼻で呼吸をするということにまったく頭が回っていなくて苦しさのあまり力任せでトモセくんの唇から離れた。
トモセくんも同じなのか、ふたりして肩で息をしながら見つめ合う。
トモセくんも頬が赤い。袖から感じる体温もさっきより熱い気がする。興奮、してるのか。ボクを見る視線が熱っぽい気がする。
会えたのは本当に嬉しいけどこのままここでキスをするのはマズいと思う、絶対に。トモセくんはオーディションの審査員でここにいるわけじゃないと思うけど、この格好は多分衣装だと思うし、そしたら仕事中かもしれない。
誰かスタッフの人が探しに来て見られたら・・・。その人が週刊誌に売るような人だったら!!(恐ろしい!)
ボクもあずくんの付き添いで来たから早く戻らないと。(あずくんが探しにきたら大変だ)
「トモセくん、ボクもうそろそろ」
「もう1回だけ、お願い。アキ」
瞳を潤ませ懇願するトモセくんがチワワに・・・見える!!(チワワの推し、尊いッ)
ボクってちょろいなぁと思いながらオッケーしたらすぐさまキスされ舌まで入れられた。しかも、背中に回している片方の手が服の中に入ってきたから、あずくんにもしもの時用に教えてもらった技で、推しでもあるトモセくんの腕をねじ伏せてやった。
「誰かに見られたらどうするんだよ! メンバーに迷惑かけちゃいけません!」
「ごもっともです!」
ごめんなさいと痛がりながら謝るトモセくん。(そんな推しも尊い)
「数ヵ月ぶりのアキなのに・・・やっとキスできたのに・・・。めちゃくちゃ会いたかったのに忙しすぎて大学合格の報告もできなかったし、肝心の夢は、疲れて爆睡してまったく覚えてないし!!」(夢でも会ってません)
しょんぼりするトモセくんがかわいい・・・じゃなくてかわいそうだ。
実はトモセくんに会えていなかった数ヵ月間、ボクはジュンくんになぜか気に入られてラインがしょっちゅうきていた。もちろん今も。
パンケーキも気に入ったらしく、バイト先にもよく来るように。(すっかり常連さん)剣道にも興味が沸いたと言って、空いてる時間が被った日はシェアハウスに呼ばれて地下室の練習部屋で剣道を教えたり。
泊まらせてもらった時に作った朝食がラブずメンバーのみんなにも好評で、ジュンくん経由でライン交換していたり。ときどきリクエストされてパンケーキを焼きに行ったり。
トモセくん以外のメンバーとめちゃくちゃ交流していた。
ジュンくんはなんだかんだ言ってトモセくんのことをちくいち報告してくれる優しい人だ。大学合格もネット記事の次にジュンくんから教えてもらった。
他にも生配信やSNS、雑誌やテレビでトモセくんのことを知れるから、会いたいけど不安になることはなかったし我慢もできた。
そう思うと、推しに会える方法ってわりとたくさんあるんだと発見する。直接だろうと間接的だろうと。
だけど、ボクは一般人だ。SNSは一応やってるけどバズるほどの影響があるわけじゃないからトモセくんの目には留まっていないはず。
「もう遠慮しないでトモセくんに毎日ラインするよ! いらないかもしれないけど自撮りも毎日送りつけるよ!」
言いながら恥ずかしくなって顔が赤面していく。
「アキ」
「だから、頑張ろう。ボクもトモセくんに会いたいから毎日頑張る」
「うん」
クシャッとアイドルスマイルじゃない、木山知世の笑顔をするトモセくん。
「せっかくだからオカズ・・・じゃない、エロいアキの写真をお願いします」
「絶対無理、無理です!」
くだらない話で盛り上がっていたらジュンくんが探しに来てトモセくんの首根っこを捕まえて仕事場へと戻って行った。
ボクもあずくんから鬼のようなラインが来ていることにびっくりして慌てて控室へと戻った。
と、喜びもつかの間、アイドルは本当に多忙な日々をおくっているのを実感した。
朝の5時にトモセくんにラインをしてから数時間ごとにトモセくんからラインがきた。付き合ってる実感をかみしめていたけど、それは全然続かなくて、2日目でおはようのラインがきたあと「なかなかラインができなくてごめん」の返事としょんぼりしてる子犬のスタンプがあって終了。
3日目はおはようのラインで終わった。
ボクも迷惑をかけちゃいけないと自分からラインをするのは気が引けてしなかった。
それから新年が明け、ジュンくんとトモセくんのダブル出演の深夜ドラマがスタートし、主人公の友達という出番の少ないちょい役にも関わらずトモセくんの演技がヤバいと、人気が一気に爆発。
色気はドラマの役のために作りこんだんじゃないかとファンの間で話題になり、彼女いる説がいつの間にか消え、逆に役に対してのストイックさが推せると・・・もう勝手に言いたい放題だ。
忙しいせいか、寝る時間がずれているのか、夢の中でも会えなくなってしまった。
トモセくんが大学に合格したことはネット記事で知った。
それから数か月、ボクは高3になった。
4月。
「アキ、こっちこっち」
あずくんが手招きをする。
見上げると背の高いビルに圧倒され、口を開けているとあずくんに腕を引っ張られ建物の中へ。
「迷子にならないでよ」
「迷子って」
あずくんに言われボクの方が年上なのにと思うけど、目の前にいるあずくんを見るとボクが年下に見えてもおかしくない。
受験シーズンで会えない間、あずくんはスクスク成長しボクより身長が伸びた。まだ伸びているとか。(ガーン)
顔立ちも大人っぽくなって声だって少し太く落ち着いた声になった。
そんなあずくんと今日は都心のとあるビルに来ている。男性アイドルオーディションの2次審査があるのだ。
土曜日に珍しく学校も部活もバイトもないボクがリビングでまったりしていたら、あずくんが暇なら付き添ってほしいと頼まれて仕方なく・・・。(せっかくのオフが)
「なんだよ、アキは僕を応援してくれるんじゃないの?」
窓口で受け付けを済ませたあずくんがムッとする。
「もちろん応援してるよ。予定がない日なんて久しぶりだったからのんびりしたかったなぁ・・・なんてちょっと思っただけだよ」
「・・・ジジイか」
「ひ、ひどい」
地味にショックを受けているとジュンくんからラインが。
「そーだ、このオーディションにスペシャルゲストとしてラブずのジュンが審査員に加わるらしいよ」
「そ、そーなんだ」
ラインを見ながらあずくんに向ける笑顔が引きつった。
そのスペシャルゲストの本人からも同じことをラインで言われた。片手でそのオーディションの付き添いで来てることを打つと、すぐさまジュンくんから、
『マジか。じゃーちょうどいい。ちょっとだけ相手してやって』
相手してやって?
ジュンくんのラインに頭の上にはてなが浮かぶ。
「アキ、聞いてる?」
ひょっこりとあずくんが覗き込む。
「ご、ごめん。友達にラインの返信してて」
「ふーん。部活剣道にするって言ったんだよ」
「へ?! うちの部に入部するの? いいの? あずくんなら空手部で大将はれるのに」
「やだよ。アキが剣道やってるから興味があったんだ。あと、バイトもアキと同じところに昨日面接に行ってきた。多分、採用だと思う」
「へ?!」
面接に美少年が来たと飯島さんが喜んでいたけど、まさかあずくんだったとは。
「ボクと同じバイト先でいいの? パンケーキの匂いつくよ?」
「別にいい。アキがいれば親も安心すると思うし」
「な、なるほど」
あずくんはボクが通う都立高校に受験し合格した。
横浜に住んでるから本来なら受験はできないんだけど、あずくんのお姉さんが本格的にパリで仕事をすることになりそれにおばさんも付いて行くことになったらしいんだけど、仕事人間の父親と二人暮らしは嫌だという理由で、あずくんは東京に住んでる親戚の家に居候させてもらうことにして、東京にあるボクが通う高校に受験したという。
だけど、ボクが知らない間にあずくんはうちの姉さんたちにこのことを話したらしく、それならうちに居候した方が学校も近いし、気兼ねなく暮らせるんじゃない?(主にオタ活とか)と姉さんたちが勝手に決め、1週間前からあずくんがうちに暮らしている。おとといから一緒に学校にも通ってる。
違和感ないくらい溶け込んでいるあずくんがすごい。(前から雨野家と仲良かったのもある)
控室となっている部屋に入ると、オーディション待ちの人たちの緊張感がピリピリしてて居づらい。
あずくんとボクは隅っこに置かれているパイプ椅子に座って待つことに。
「アキってあの女といつもつるんでるの?」
特に緊張もしていないあずくんが唐突に質問してきた。
ギロリとイケメンに睨まれ、小声で答える。
「もしかして浜村さんのこと? 今年も同じクラスになったけどつるんではないよ。浜村さん、学校ではオタク隠してるから」
「ふーん。でも昨日、僕とアキの3人で途中まで帰ったよね?」
「そうだね。ラブずの話がある時は一緒に帰ったり、お昼とか一緒に食べたりしてるかなぁ」
「お昼も?! お弁当始まったら僕にも声かけてよね、絶対!」
食い気味のあずくんに思わずパイプ椅子から落ちそうになる。
「わ、わかった」
「あの女、絶対下心ある!」
ギリギリと歯を鳴らすあずくんがちょっと怖い。
「浜村さんがボクのことを~とか言うんだったらお門違いだよ、あずくん」
「は?」
「優良物件だとか言われたことあるけど、秒で振られたよ。トモセくんみたいな、元カレをギャフンといわせる彼氏が欲しいんだって」
はははと最初の頃を思い出してついつい和む。
「アキって、本当にバカだよね」
うつろな目であずくんにバカにされた。(ガーン)
話がちょうど切れたところでジュンくんからラインがあり、トイレに行ってくると言って席を立って控室を出た。
ジュンくんからオーディションが始まる前に会いたいと言われ廊下に出てきたけど・・・と返事をして既読がつくのを待ちながら歩いていると、ふいに誰かに手を繋がられ今来た方へと引っ張られる。
一瞬、ジュンくんかと思ったけど、後ろ姿は背は高いものの筋肉質ではなく細身でスタイルが良い。髪がストレートで水色のTシャツに白のスウェットパンツ。部屋着というよりブランド物をおしゃれに着こなしている感じだ。靴が白のローファなのがスタイリストさんの影がちらつく。
も、もしかして・・・。
どこに連れて行かれるかという恐怖より、胸の高鳴りが増していく。
角を曲がると非常階段に通じるドアで行き止まりになっていた。引き返すのかと思いきや、繋いでいた手を放してその場でギュッと抱きしめられる。
「やっっっと会えたー」
ため息と一緒に吐き出された言葉にボクの心臓がバクバクと心拍数を上げる。
トモセくんだーーーッッ!
ジュンくんの『相手してやって』はトモセくんのことだったんだぁぁ。
雑誌やテレビ、グッズでは毎日のように会っているけど、本物のトモセくんは数ヵ月ぶり。さすがのボクも恥ずかしい気持ちより嬉しい気持ちが勝った。
寄りかかるように抱きしめてくるトモセくんのせいで腕が背中まで回せず袖にしがみつくはめに。それでも嬉しい気持ちを込めてギュッと力を込める。
トモセくんから良い匂いが・・・と、今日はちょっときつめの香水の匂いがする。仕事・・・用かなぁ。
「アキ、会いたかった」
目を合わせ、瞳を潤ませてトモセくんが言った。
やっぱり恥ずかしくなってきた。逃げたいけどトモセくんにがっちりホールドされてびくともしない。
観念して、
「ぼ、ボクも・・・会えてうれ・・・」
嬉しいと言う前にトモセくんの唇に邪魔された。チュッと触れる程度の軽いキスだった。
急なことにびっくりして目がまん丸くなるボクをじっと見つめるトモセくん。このあとのボクの反応が気になるみたいだ。
案の定、恥ずかしさのあまり顔が熱くなってきて視線をそらした。
夢の中では何十回としてきたけど、現実では初めてだ。一瞬でよくわからなかったけど。
「嫌だった?」
ずるい質問だ。
「・・・いやとかじゃ・・・」
蚊の鳴くような声しか出なかったけど、トモセくんには十分聞こえたみたいだ。チュッとまた軽いキスをされボクが反応するより早くまたキス。短いキスを数回繰り返しされた。
隙をみて、
「いくら死角になってるからって誰かに見られたらまずいよ」
そう言ってストップをかけるのにトモセくんは、
「アキはオレと会えて嬉しくないの?」
だからその質問はずるいよぉぉ。
「嬉しいよ! 嬉しいけど、ここじゃ・・・」
また言い終わる前にキスで邪魔された。しかも次は一瞬で終わるキスじゃなくて長かった。トモセくんの唇の柔らかさがわかるくらいしばらく口を塞がられた。
こうみえても現実ではこれがファーストキスなので、鼻で呼吸をするということにまったく頭が回っていなくて苦しさのあまり力任せでトモセくんの唇から離れた。
トモセくんも同じなのか、ふたりして肩で息をしながら見つめ合う。
トモセくんも頬が赤い。袖から感じる体温もさっきより熱い気がする。興奮、してるのか。ボクを見る視線が熱っぽい気がする。
会えたのは本当に嬉しいけどこのままここでキスをするのはマズいと思う、絶対に。トモセくんはオーディションの審査員でここにいるわけじゃないと思うけど、この格好は多分衣装だと思うし、そしたら仕事中かもしれない。
誰かスタッフの人が探しに来て見られたら・・・。その人が週刊誌に売るような人だったら!!(恐ろしい!)
ボクもあずくんの付き添いで来たから早く戻らないと。(あずくんが探しにきたら大変だ)
「トモセくん、ボクもうそろそろ」
「もう1回だけ、お願い。アキ」
瞳を潤ませ懇願するトモセくんがチワワに・・・見える!!(チワワの推し、尊いッ)
ボクってちょろいなぁと思いながらオッケーしたらすぐさまキスされ舌まで入れられた。しかも、背中に回している片方の手が服の中に入ってきたから、あずくんにもしもの時用に教えてもらった技で、推しでもあるトモセくんの腕をねじ伏せてやった。
「誰かに見られたらどうするんだよ! メンバーに迷惑かけちゃいけません!」
「ごもっともです!」
ごめんなさいと痛がりながら謝るトモセくん。(そんな推しも尊い)
「数ヵ月ぶりのアキなのに・・・やっとキスできたのに・・・。めちゃくちゃ会いたかったのに忙しすぎて大学合格の報告もできなかったし、肝心の夢は、疲れて爆睡してまったく覚えてないし!!」(夢でも会ってません)
しょんぼりするトモセくんがかわいい・・・じゃなくてかわいそうだ。
実はトモセくんに会えていなかった数ヵ月間、ボクはジュンくんになぜか気に入られてラインがしょっちゅうきていた。もちろん今も。
パンケーキも気に入ったらしく、バイト先にもよく来るように。(すっかり常連さん)剣道にも興味が沸いたと言って、空いてる時間が被った日はシェアハウスに呼ばれて地下室の練習部屋で剣道を教えたり。
泊まらせてもらった時に作った朝食がラブずメンバーのみんなにも好評で、ジュンくん経由でライン交換していたり。ときどきリクエストされてパンケーキを焼きに行ったり。
トモセくん以外のメンバーとめちゃくちゃ交流していた。
ジュンくんはなんだかんだ言ってトモセくんのことをちくいち報告してくれる優しい人だ。大学合格もネット記事の次にジュンくんから教えてもらった。
他にも生配信やSNS、雑誌やテレビでトモセくんのことを知れるから、会いたいけど不安になることはなかったし我慢もできた。
そう思うと、推しに会える方法ってわりとたくさんあるんだと発見する。直接だろうと間接的だろうと。
だけど、ボクは一般人だ。SNSは一応やってるけどバズるほどの影響があるわけじゃないからトモセくんの目には留まっていないはず。
「もう遠慮しないでトモセくんに毎日ラインするよ! いらないかもしれないけど自撮りも毎日送りつけるよ!」
言いながら恥ずかしくなって顔が赤面していく。
「アキ」
「だから、頑張ろう。ボクもトモセくんに会いたいから毎日頑張る」
「うん」
クシャッとアイドルスマイルじゃない、木山知世の笑顔をするトモセくん。
「せっかくだからオカズ・・・じゃない、エロいアキの写真をお願いします」
「絶対無理、無理です!」
くだらない話で盛り上がっていたらジュンくんが探しに来てトモセくんの首根っこを捕まえて仕事場へと戻って行った。
ボクもあずくんから鬼のようなラインが来ていることにびっくりして慌てて控室へと戻った。
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