ボクの推しアイドルに会える方法

たっぷりチョコ

文字の大きさ
上 下
49 / 57

「マジ恋が成就してしまった」

しおりを挟む
 
 マジ恋が成就してしまった。

 マネージャーの宮本さんに送ってもらって家に着くと、姉さんたちが今かと待ちかまえていた。予想どおり質問攻めされ「よくやった!」と危うく胴上げされそうになった。
 希愛ちゃんを家まで送ってくれたジュンくんが、たまたま偶然、剣道大会でボクと会ってプリンのストラップをきっかけにファンと推しということで仲良くなったと、姉さんたちに説明したらしい。(ジュンくんの機転! 尊いッ)
 ラブずのメンバーと友達なんて、アイドルオタク一家としては前代未聞だ。めったに泣かない美紀姉さんが泣いて喜ぶくらい。なぜか、隅っこにいた父さんまで泣いてたのが不思議だったけど。(ファンでもないのに)
 でもまさか、推しと夢で出会って現実でも付き合うことになったなんてそんなこと・・・言ったら確実に心療内科に連れて行かれるかもしれない。母さん付きで。

 その日は興奮がおさまらない姉さんたちから逃げるように部活へ行き、一心不乱に竹刀を振って稽古に集中した。
 午後はバイトに行き、何も考えず一心不乱にパンケーキを焼きまくった。
 そして帰宅後、風呂に入ってようやく自分の部屋のベッドで一息ついた瞬間、スイッチが入ったかのようにめちゃくちゃ興奮して悶えまくった。
 何からツッコミを入れればいいかわからないくらいたくさんのことがありすぎて、思い出すだけで数秒経たずにキャパ越えとばかりに転がりまくってベッドから落ちる。
 それを1時間近くも繰り返し、0時をまわったところでようやく少し落ち着きスマホを手に取る。

 帰り際、マネージャーの宮本さんからトモセくんのラインIDを教えてもらった。(プライベートの!!)
 いろいろルールみたいなことをくどくど説明され、守ることを条件にされた。
 宮本さんの連絡先も教えてもらい、住所はトモセくんにじゃなく宮本さんに教えるよう言われ、ラインで伝えることになった。
 とりあえず、ともう遅いから送るのは明日の朝にして、文だけでも先に書いておこうとラインのアプリを開く。
 
 トモセくんへのラインも明日でいいよね。こんな夜中にラインなんて迷惑すぎる。というか、まだ夢で会えるのかなぁ。

 ふと疑問が沸いた。
 一生分の推しに会ってしまった今、好きなのは変わらないし、前よりももっと大好きになったけど、会いたいという気持ちは満腹を通り過ぎて別腹すら入らない。
 
「ドラマとか物語の展開だと、現実で会っちゃったりすると今までの方法で会えなくなったりするよね? あの白い世界の夢も同じなのかなぁ」
 これから寝るけど、もう白い世界の夢は見れない? 夢の中のトモセくんには会えない?
 
「そんなの、寂しいなぁ」

 ボソッと口から零れた。

 別腹すら入らないほど満腹なのに、夢でも会いたいなんて、ボクってなんて貪欲なんだ。だいたい、夢で会ってたトモセくんは結局本物だったんだから、夢で会えなくても現実で会えばいいだけじゃん。
 
「・・・なんて、アイドルのトモセくんと付き合えることになったからってそう簡単にホイホイ会えるわけじゃないよぉ!! 多分! ジュンくんも言ってたじゃん、入試試験にドラマの撮影もあって忙しいって」
 自分に憤慨しながらツッコミを入れる。
 誰もいないからってひとり二役のコントみたいなことをしてる自分にちょっと恥ずかしくなる。

 1日頑張ったあと、夢の中で推しに会えるのが楽しみなっていたから、それがなくなるのは寂しいと思っただけと自分に言い聞かせ、欲張りになったわけじゃないと言い聞かせ、スマホを枕元に置いて部屋の電気を消して布団に入る。

 寝てみればわかることなんだ。寝て、白い世界にいたらまだ会える。
 疲れていたのか、わりとあっさり眠りに入った。

  





 スマホのアラームで目が覚め、眠気の余韻なくベッドから下りてラグマットの上に座る。

 寝た結果、会えた!

 白い世界でトモセくんに会えた。しかも、ボクが創り出した偽物のトモセくんじゃなくて本物だった。
 会った瞬間、強くハグされ、ボクと別れたあとのことをノンストップで喋り続けたトモセくん。紛れもなく本人だと思うしかない内容ばっかりだった。特にラブずメンバーのこととか。

 今思えば、今までの夢でもなんかおかしいなぁ? と思うことはそれなりにあった。バグ? なんて混乱したこともあった。とろりプリンを持ってきてなんて言われた時とか。
 自分なりに理由を探して解釈してたけど、単純なことだった。本人だった! そう思うと腑に落ちることがあれこれ出てきて頭を抱えて悶絶したいけど、今はやらなきゃいけないことがあるから我慢だ。

 恥ずかしい気持ちを外においやって、スマホを片手にラインのアプリを開く。
 朝の5時だけどおかまいなくトモセくんにラインをする。それというのも、夢の中で会ったトモセくんにラインがまだこないとめちゃくちゃ催促されたから。
 すぐさま既読が付いてトモセくんから返事が。

『おはよう! めちゃくちゃごめん!』

 謝ってきたから何かと思ったら、昨日、ボクと別れたあとにラインが全然来ないことへの不安と焦りがそのまま夢の中でボクに喋りまくったことをすごく反省しての「ごめん」だった。
 どうやらプリンのストラップを返したせいか、意識のコントロールがうまくいかないとかなんとか。(へ?)
 ジュンくんが、プリンのストラップを拾ってからいろいろ聞けるようになったとか言ってたことを思い出し、夢の法則に疑問が沸いてきた。相手の私物で夢の中でできることが左右されるってことかなぁ?
 
 うーん・・・と起きたばかりの思考回路で考えるけど、うまく働かない。とにかく今回は思ったことが全部夢の中で喋っちゃった。てことかと理解すると、それはそれで一日中落ち着かなかったトモセくんを想像すると可愛すぎて尊いッッ!!(朝キュンッ)

「あ、ヤバい、朝練があるんだった!」
 
 慌ててTシャツを脱いでワイシャツに着替え、洗面所へと向かう。
 夢の中でトモセくんは他にもたくさん話してくれた。ジュンくんも手伝ってくれた朝食のこととか。
 ボクが作るパンケーキをやっと食べれたと喜んでくれたのはすごく嬉しかった。
 他のラブずメンバーも食べてくれて、すごく好評だったとか。最後の1枚をカイくんに取られて悔しかったと言うトモセくんが・・・かわいいッ。(いくらでも作りまっす!)
 
 まだ夢の中で会えることにじーんと感動しつつ、これ以上頭の中をトモセくん一色にしていると生活できないからいったん隅においやって、顔を洗いながら気持ちを切り替えた。

 





*あとがき*
 読んでくださりありがとうございます!
 次で最終話になります。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

腐男子ですが何か?

みーやん
BL
俺は田中玲央。何処にでもいる一般人。 ただ少し趣味が特殊で男と男がイチャコラしているのをみるのが大好きだってこと以外はね。 そんな俺は中学一年生の頃から密かに企んでいた計画がある。青藍学園。そう全寮制男子校へ入学することだ。しかし定番ながら学費がバカみたい高額だ。そこで特待生を狙うべく勉強に励んだ。 幸いにも俺にはすこぶる頭のいい姉がいたため、中学一年生からの成績は常にトップ。そのまま三年間走り切ったのだ。 そしてついに高校入試の試験。 見事特待生と首席をもぎとったのだ。 「さぁ!ここからが俺の人生の始まりだ! って。え? 首席って…めっちゃ目立つくねぇ?! やっちまったぁ!!」 この作品はごく普通の顔をした一般人に思えた田中玲央が実は隠れ美少年だということを知らずに腐男子を隠しながら学園生活を送る物語である。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話

あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ハンター ライト(17) ???? アル(20) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 後半のキャラ崩壊は許してください;;

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

灰かぶり君

渡里あずま
BL
谷出灰(たに いずりは)十六歳。平凡だが、職業(ケータイ小説家)はちょっと非凡(本人談)。 お嬢様学校でのガールズライフを書いていた彼だったがある日、担当から「次は王道学園物(BL)ね♪」と無茶振りされてしまう。 「出灰君は安心して、王道君を主人公にした王道学園物を書いてちょうだい!」 「……禿げる」 テンション低め(脳内ではお喋り)な主人公の運命はいかに? ※重複投稿作品※

俺の推し♂が路頭に迷っていたので

木野 章
BL
️アフターストーリーは中途半端ですが、本編は完結しております(何処かでまた書き直すつもりです) どこにでも居る冴えない男 左江内 巨輝(さえない おおき)は 地下アイドルグループ『wedge stone』のメンバーである琥珀の熱烈なファンであった。 しかしある日、グループのメンバー数人が大炎上してしまい、その流れで解散となってしまった… 推しを失ってしまった左江内は抜け殻のように日々を過ごしていたのだが…???

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

処理中です...