ボクの推しアイドルに会える方法

たっぷりチョコ

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「キミは大勢のファンのひとり」ートモセ視点ー

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 クリスマスイベントは無事終わった。

 控室で椅子に座りながらぐったりとうつむく。

「オレってマジでプロのアイドルだったんだ」
 引きつった笑みがこぼれる。

 メンタルボロボロなのにどうにかなった自分を褒めたい。

「何言ってんだよ、ほら、スタッフの帽子とTシャツ。さっさと着替えろ」
 ボスッとオレの膝に投げてよこすジュン。
「・・・やだ」
「あぁ? 今なんつった?」
 ステージでの余韻が残っているジュンはフェイスタオルで顔の汗を拭いながらペットボトルの水を喉を鳴らしながら一気飲みした。
 プハッとペットボトルから口を放し、
「わざわざスタッフを言いくるめて別の控室確保してやったんだぞ。さっさと着替えろ」
「ジュンも見ただろ、アキの隣に座ってる人」
「・・・見た。お前が言ってたとろりプリンの写真が貼ってあるうちわを持ってたな。ふたり仲良く」
「あーそれなし! ていうか、いつの間に拡散されてたの?! オレのファンらしき人みんな似たようなうちわ持ってたし!」
「それな! マジウケる」
 ぷぷっとジュンがバカにするように笑った。

 アキ本人が拡散したかはわからないけど、オレのファンらしき人がとろりプリンの写真を貼ったうちわを持っていた。
 なかにはイラストやアキが恥ずかしがって断固拒否したとろりプリン自体持ってきてる人も・・・。
「まーいいじゃん、アキだけ浮いてなくて。これでトモのアイテムはプリンだな」
「だね」
 ニヤニヤするジュンをギロリと睨みつける。

「まーでも、監視カメラでしか知らないけど、あれはアキだな。間違いない。男のファンにあるあるだよな。彼女が好きだから一緒に応援してたらハマったとか、な?」
 ジュンの言葉に両手で顔を覆う。
「あー最悪だ」
「まだ彼女だって決まったわけじゃないだろ」
「ジュンだって見ただろ。イベント中、ずっと仲良くくっついてたし、オレだって見たことない表情だってしてた」
 思い出しても胸が締め付けられる。
 慌てたり赤面したり、コロコロ変わるアキの表情を見てきたつもりだったけど、あんな、無邪気な笑顔は見たことない。
「じゃーなにか? 夢ん中で聞くのか? イベントで一緒にいた人誰だーって」
「・・・やだよそんなの。多分、アキのことだから否定するに決まってる。違う、アキだからじゃない、夢だからオレの望んでるように言ってくれる」
「ご都合主義って奴だろ。つーか、否定しても肯定しても夢だから信じる気ないんじゃーねの」
「え?」
「結局、夢だからっておまえ、信じられないんだろ。夢の中のアキがいくら否定しても」
 まっすぐな視線で言われ、図星とばかりに視線を外す。

 信じたい。
 信じたいから現実でアキを探した。だけど、ファンレターもまだ見つかってない。
「今回はうちわも席も言ってたとおりだったんだろ」
「・・・うん」
 でも・・・と納得がいかない自分がいる。

 コツンと空っぽのペットボトルでジュンに頭を小突かれた。
「いいかげん会って来いよ。オレの計画はあずって奴が渋ってうまくいかねーし。もう現実のアキに会うのは今日だけかもしれねーぞ。直接会って、ちゃんと聞けよ」
 呆れながらも励まそうとしてるようなジュンの瞳にちょっとだけ勇気が湧いてくる。
「ま、ふられても慰めてやるから」
「なんでそうなるんだよ。ていうか、この場合二股じゃ」
「二股っつーか、アキって奴、やっぱ自覚ないんじゃね? いろいろ手は尽くしてみたんだけどなー」
「どうゆうこと?」
 頭にはてなを浮かべるオレに、ジュンが膝に乗っている帽子を奪ってオレに被せた。
「早くしろ。じゃないとアキが電車に乗って帰るぞ」

 適当に被らされた帽子をスポッと取り、ネクタイを抜きながらワイシャツの第一ボタンを外す。
「うん、腹くくる」
 
 予定とは違ったけど、アキに会いに行く。





 
 時間がないからといって、スタッフ用のTシャツに下はスーツのまま。靴だって尖がった革靴のままだ。
 帽子を深く被ってジュンの誘導のもと裏口から外へ出る。
 失敗した。
 このTシャツ、半袖だ。
 真冬の夜に上着もなしって・・・。
 でも今更戻ったらアキに会えなくなる可能性が高い。
 やけくそとばかりに鳥肌を立たせながらコンサートホールの建物の入り口へと向かう。
 街中は夜でも外灯の明かりで眩しいくらいだ。人探しにはちょうどいい。
 来てくれたファンらしき人たちが駅へと向かう姿をちらほらと見かける。
 来るのがちょっと遅かったのか、人が少ない。

 ヤバイ、もう帰ったかも。

 そう思いながらも辺りを見回していたら女性の興奮する声が聞こえてきた。
「アキー、めちゃめちゃよかったねー! もうサイコー!」
「ボクもサイコー!」
 ニコニコで答えるアキの姿が視界に入りコソコソとあとをつける。
 会えたことを喜びたいけど、彼女らしき人がやっぱり一緒にいることに全然喜べない。
 紺色のダッフルコートにタータンチェックのマフラーを巻いたアキ。
 声をかけたいけど、彼女らしき人がアキと腕を組んでてもう・・・オレのメンタルはズタボロ。
「あげたマフラー似合うね!」
「きれいな水色だね。すごく気に入ってる」
「嬉しいー」
「ボクがあげたのも気に入ってくれた?」
「もちろん! すっごく嬉しかった! 絶対使う」

 聞こえてくる会話に口から吐血しそうだ。
 寒さで凍死が先か。

「近くでイルミネーションがあるから帰る前に寄って行かない?」
「わぁ見たい! 向こうのイルミもすごかったけど日本のもいいよねー。あ、今年もクリスマスケーキはアキの手作り?」
「うん、今回はちょっと新たな挑戦をしてみた」
「わぉ! 気になる! 早く見たい!」
「イルミネーションは?」
「イルミもー!」
 
 もう心が凍死だ。
 なに今の会話!
 「今年も」っていつからつきあってんの? ていうか、これから同じところに帰るの? え? 泊り?!

 ふたりの楽しそうな後ろ姿を見ながら足が止まる。
 もうこれ以上何を聞けばいいんだ。
 ていうか、聞くことなくない?
 どうみても付き合ってるでしょ。

 寒すぎて帰ろうと背中を向けようとしたらアキが、
「トモセくんに会えて今年は良いクリスマスになったなぁ。でもちょっと、顔色悪かったような・・・」
「アキは本当にトモセくん好きだねぇ」
「えへへ、うん、大好き」

 彼女いるくせになに言ってんの。
 どうせミーハーな気持ちなんだろ。
 アキはただのその他大勢のファンのひとりだって思いたいのに。
 そんな可愛く言われたら。

 ポケットに入ってるプリンのストラップを取り出し、アキへとまっすぐ歩く。
「すみません、落としましたよ」
「へ?」
 オレの声に気づき振り返るアキ。
 彼女がそっと腕から手を放し一歩下がった。
 帽子のツバで顔を隠しながらストラップの入った拳をアキに差し出す。
「あ、すみません。なに落としたんだろう」
 夢の中でいつも聞く声。

 アキだ。

 認めたくないけど、目の前にいるのは本当にアキだ。
 夢の中で会ってる、オレの好きな人。

 差し出すアキの手のひらに拳を重ねてそっとストラップを渡す。
「すっかり渡すのが遅くなっちゃってすみません」
「・・・いえ」
「最高のクリスマスになりましたか?」
「は、はい!・・・!」
 返事をしながら受け取ったストラップを見てアキが弾けるように顔を上げた。
「それはよかった」
 帽子のツバを上げて、驚くアキにアイドルスマイルで応える。
「それじゃ、彼女さんとお幸せに。メリークリスマス」
「へ?」
 軽く帽子を取って挨拶し、被り直しながらアキに背を向けて歩き出す。

 寒すぎてズボンに両手を入れて歩き続ける。
 吐く息が白い。
「寒っ」

 ついかっこつけてしまった。
 彼女さんとお幸せに、なんて。
 しょせんアイドルなんてつまんない人生にときめくための趣味のひとつなんだ。
 心の支えになってもパートナーには選ばれないし、マジになったりもしない。
 なったらヤバイし。
 でも、アキがそれで毎日が楽しいて言ってくれるなら、笑顔でいてくれるならアイドルも悪くない。
 ビル街の高い夜空を見上げ、白い息がのぼっていく。
「今日は夢で会えるかなー」
 じわりと景色がゆがんでぼやける。

「あのっ!」
 聞き覚えのある男の声に振り返ると、少し離れたところにアキが立っていた。
 ぎゅっと両手をにぎりしめて、寒さで鼻が赤くなってる。
「あのっ、と、トモセくん・・・ですよね」
「・・・はい」
「ラブずの木山知世くん、ですよね」
「そうですね」
「もしよかったら、握手、してもらってもいいですか?」
「・・・いいですよ」
 オレの返事にアキがキュッと唇を閉じてゆっくり近づいてくる。
 ダッフルコートのポケットにオレが渡したストラップを大事そうにしまい、向き合ったところでおそるそる右手を差し出した。
 夢の中で何度か握手をしたことがるその手はオレより小さくて指が細かった。
 だけど、まぎれもなく男の手だ。
 手のひらにいくつか固そうなタコがある。潰れてるのも。
 きっと剣道の練習でできたものだ。
 夢じゃ気づけなかったこと。
 初めて見た、アキの手。
 ズボンから左手を出し、アキの手を握る。
 手袋をしてないアキの手はひんやりと冷たい。

「逃げないんだね。あ、土下座はダメだよ」
「し、しません! あれは、夢の中だけでっ・・・」
 慌てるアキと目が合う。
「なんで敬語?」
「・・・現実だから?」
 確信が抑えきれずふっと笑みがこぼれる。
 アキは目を丸くしたと思ったら瞳が潤みだし涙目になった。
「アキ」
 愛しくて呼ばずにはいられない。
「トモセくんッ」
 手を繋いでいない手で口元を抑えながらアキが泣いた。
 オレも泣きそうなのを堪えながらアキの涙をもう片方の手で拭った。

 アキに彼女がいようと構わない。
 今はただただ、アキが愛しい。

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