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「クリスマスイベント」ートモセ視点ー
しおりを挟む12月24日。
ラブずのクリスマスイベントがあと1時間後に始まる。
控室でスタイリストさんと一緒に衣装の最終チェックをしながら着替える。
クリスマスカラーを取り入れたスーツを身にまとい、鏡の前で自分とにらめっこ。
「トモセくん、とっても似合いますよ~。最近は本当に大人の色気が出てきたからスーツ姿がヤバイですっ!」
スタイリストさんが興奮しながら赤いネクタイをキュッと締める。
「あ、ありがとう」
色気が出たとかセクシーだとか本当によく言われるワードになった。
おかげで、雑誌の撮影が増えて忙しい。
写真集を出さないかという話まで出てるし。
正直、自分では全然わからん。
いくら鏡を覗いても兄貴にちょっと似てきたなーと思う程度だ。(老けた?)
アキは・・・特に言ってない。
雑誌が発売するたびに買ってくれるし感想も言ってくれるけど、アキの口からはそのワードが出ないのがちょっと嬉しい。というか安心する。
いや、ここはドキドキしてもらうところなのかもしれない。
複雑だ。
メイクさんに軽くファンデーションを塗られ、髪をオールバックにされて準備完了。
鏡で見るとだいぶ厳つい自分がいる。(おでこが出てて違和感しかない)
周りを見渡すとメンバーも準備が整ったらしく、それぞれイベントに向けて心の準備に入っている。
瞑想してる奴もいれば、スマホで新曲のおさらいをしてる奴もいる。
リーダーは用意されたお弁当をガツガツ食ってる。(メンタル強っ)
オレはー・・・みんなの目を盗んで控室のドアを音が出ないようにそっと閉めて廊下に出る。
先の尖った革靴がカツカツと音が響き周りの視線が痛い。
コソコソと行きたいところを開き直って堂々と胸を張って会場の舞台裏へと向かった。
本番前の舞台裏はスタッフが慌ただしく行き来していて挨拶をしても特に気にもとめない。
それをいいことに幕の隙間からそっと会場内を覗く。
夏のコンサート会場と違って200人程度の客席しかない会場は狭くてファンとの距離も近い。
ここで覗いてるのがバレそうでヒヤヒヤする。
慌てて変装とばかりに、誰かが置きっぱなしにしているスタッフ用の帽子を被ってツバで顔を隠す。
お目当ての席に視線をゆっくり走らせると・・・いたっ!
アキだ。
真ん中の列の通路側にいる。
ステージから離れているけどここからでもよく見える。
夢の中では3日ぶり。
現実では剣道試合以来だから1か月ぶりぐらいだ。
ひとり席に座っているアキ。グレーのセーターを着ている。
Tシャツに短パンかスウェットパンツ姿に見慣れているせいか、袴もそうだけど、普通の私服にキュンキュンくる。(かわいい)
よく見ると、今日のイベントのパンフレットを持っている手がセーターの袖に隠れて指先がちょっとしか見えない。
かわいすぎて思わず天を仰ぐ。(オレの恋人がかわいすぎるッ)
気になるのはそこじゃない。
気を取り直してアキをじっくり観察する。
夢の中で約束した、とろりプリンの写真を貼ったうちわを探すけど、持っているかここからじゃさすがにわからない。
「始まらないと無理か」
教えてもらった席に座っているアキは本物だ。
それはもう信じることにした。
あとは、本当に同じ夢を見ているか。
夏のコンサートでは失敗したから今回は絶対間違えたくない。
ジュンにもこのことは話したし、アキの席がどこかも教えた。
オレがうっかり見間違えたとしてもジュンがいる。
ズボンのポケットからプリンのストラップを取り出す。
「やっと渡せる」
聞くたびアキはしょんぼりしながら「まだ見つからない」と言う姿に良心が痛んだけど、それも今日で終わり。
アキがとろりプリンの写真を貼ったうちわをかかげればそれが合図。
イベントが終わったらこっそりくすねておいたスタッフ用のTシャツと帽子に着替えて会場を出るアキに会いに行く。
そして、不思議がるアキの前にこのストラップを渡せば・・・。
「ハッピーエンド!!」
グッと拳を握りしめ、何度もシュミレーションしたシナリオに酔いしれる。
興奮と緊張で喉が渇いてきた。
控室に戻る前にアキの顔見たさに客席に視線を向けると、ひとりだと思っていたアキの横に女性がひとり、アキと楽しく会話している姿が目に入る。
セミロングヘアの大人しそうな人だ。よく見ると両耳にピアスをしている。
アキと身長が同じくらいではたからみるとお似合いのカップルだ。
しかも、色違いの赤のセーターを着ている。
一気に血の気が引く。
いや、待った。
このイベントはペアチケットだ。
アキは推し仲間が当てたから誘われたって言ってた。
てっきりあずくんだと思ってたけど、他にも仲間がいたんだ!
アイドル仲間が全員男とは限らない。
男性アイドルだし、男のファンなんてまだまだ少ないし。
女子の推し仲間がいたって不思議じゃない。
セーターはたまたまだ!
どこにでもある形のセーターだし、たまたま被っただけとか。
あれこれ推測するけど、足元がどんどんふわふわしてきた。
よく笑う推し仲間だろう彼女がふいにアキの肩に触れる。
それを嫌がることなくアキは楽しそうに笑いながら彼女の肩に自分の肩をくっつけて寄り添った。
グラッと地面が揺れ、ふらふらしながら幕から離れ廊下へと出た。
そうだ、他人の空似だ。
あれはアキにそっくりな人だ。
うちわだって持ってなかったし。
席の番号は・・・そうだ、オレ、また聞き間違いしたんだ。
それか、やっぱり夢と現実は繋がってないんだ。
アキは現実にいない?
それはない! アキは絶対にいる!
さっき見たのはきっと何かの間違いだ。
「お、トモー! ここにいたのかよ」
ポンッとジュンが肩に手を置く。
ハッと我に返って振り返るとジュンの眉間にしわが寄った。
「おまえ・・・顔色がマジ悪い」
「え・・・」
どうしよう、これからイベントなのに、アキに楽しみにしててって言ったのに。
できる気がしない。
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