ボクの推しアイドルに会える方法

たっぷりチョコ

文字の大きさ
上 下
40 / 57

「恋人のトモセくん」

しおりを挟む

 1日経ってさっそく立川くんから落とし物申請を出したと報告のラインがきた。
 しかも優しいことに、ボクの代わりに体育館や廊下などを探してくれたみたいだ。
 だけど、それらしいストラップは見つからなかったと教えてくれた。

「はぁ、どこ行っちゃったんだろう」
 自然とため息がこぼれる。
「アーキ。聞いてよ、今日さー」
 のしッとトモセくんが後ろから寄りかかってきた。
 振り返ると目の前に推しの顔が。(近っ)
「・・・何かあった?」
 真顔でじっと見つめられ、ボクの心臓がドキドキとうるさい。
「べ、べつに何もないよ! トモセくんは今日何かあったの? 今言いかけたよね?」
「聞いてよ、アキ。バラエティの収録があったんだけど、むちゃぶりされてさー。マジしんどかった」
「そ、そっか。それは大変だったね」
「・・・うん」
 再びじっと見つめられ、ハッとしてトモセくんの頭を優しく撫でる。
「お、お疲れ様ぁ~」
「・・・うん」
 こつん、とおでこをボクの肩に乗せ甘えモードに入るトモセくん。

 ボクの恋人がかっわいぃぃぃ!

 夢の中ではいつもこんな感じだ。
 とにかくトモセくんが今日の出来事を愚痴って(愚痴じゃない時もある)甘えてくる。
 これが自分の願望かと思うと・・・ちょっと恥ずかしいけど、グッジョブ、自分っ!!
 
「先週の土日ってまた剣道部の試合だった?」
 ボクのお腹に腕を回してバックハグしたままトモセくんが聞いてきた。
「そうだよ。今月は毎週試合があるんだ」
「秋の新人戦終わったのに大変だね。そんなに試合ってあるもんなの?」
「うーん、時期にもよるんだけど、でも、大きな試合は冬までなくて、今はどっちかっていうと交流的なものだったり・・・」
「交流的って?」
「開催する学校との交流試合だよ。先週の試合も声をかけてもらったから参加したんだ」
「へー。それって誰でも見れる?」
「もちろんだよ、普通に公開してる。見に来るのは高校のOBとか剣道好きくらいだけど」
「ふーん。そっか。アキの剣道姿見てみたいな.。めちゃくちゃかっこいいんだろうなー」
「へ?! か、かっこよくないよ?! 強くないし」
「先週の試合は?」
「えーと・・・決勝戦手前で負けた」
「それってすごいの?」
「まさか」
 はははと笑うボクにトモセくんが他にもいろいろと聞いてくる。

 恋人になってから変化したことはトモセくんが以前よりもっとボクにいろいろと聞いてくることだ。
 それに、他の夢で話したことをちゃんと覚えている。会話がなりたっているのだ。
 変化、というより進化。みたいだ。

「アキが前に話してくれたストラップ、まだ持ってる?」
「も、持ってるよぉ! もちろんだよ!」
 びっくりしながらも勢いよく嘘で答えた。
 脈絡のない、唐突な質問に心臓が飛び出るかと思った。
「な、なんで急にそんなこと聞いてきたの?」
「ん? オレがデザインしたプリンのストラップを友達から譲ってもらったって嬉しそうに話してくれたの思い出したから。大事にしてくれてるかなーて」
「も、ももちろん」
 声がどもってしまった。

 今まさにそのストラップで落ち込んでるのに、なにこのどんぴしゃりな会話は!
 実は失くしましたなんて、口が裂けても言えない。

「どこに付けてるの? まさかしまい込んでるとか?」
「へ?! えーと、防具袋とかバックに付けてるよ」
「防具って剣道の?」
「そうだよ」
「試合の時も持って行ってる?」
「・・・そうだよ、試合の時はお守りの代わりに袴にくくりつけてる・・・て聞いてくるね?」
「愛用してくれてるのが嬉しくて、ごめん、しつこく聞いちゃって」
「すごく大事にしてるよ! ホントだよ」
 失くしたことをとがめられてる気がして、思わず力強く言ったらトモセくんが優しく笑ってくれた。
「ありがとう」

 ズキズキと良心が痛む。
 一生言えない、失くしただなんてっっ!!

 どんどん顔色が悪くなるボクとは違い、トモセくんはニコニコとすごく機嫌が良さそうだ。
 ストラップのことがそんなに嬉しかったのだろうか。
 ここは立川くんにお願いして、自分で校舎内を徹底的に捜索した方がいいのでは・・・とあれこれ考えていたら急にトモセくんが口にキスしてきた。
「トモセくん?!」
 どう考えてもそうゆう雰囲気でもないのに。

 どうやらスイッチが入ったらしく、そのあとも口にキスをしてきてバックハグから向き合う形に変わる。
 舌が入ってきたと同時に腰に手を回し、そのまま白い地面へと優しく押し倒された。
 こうなったらもう止まらないのが恋人になってからの流れだ。
 ボクも身を任せ、トモセくんの背中に腕を回してキスに集中する。
 目が覚めるまで、めちゃくちゃキスした。

 




 よく考えたらボクの夢なんだからべつにトモセくんにストラップを失くしたことがバレても問題ないんだ。
 やたらストラップのことで聞いてくるとヒヤヒヤしたけど、それだけストラップのことを気にかけてる証拠だ。
 気になることは夢に反映されるというやつだ。

 
「はぁぁぁ」
 盛大にため息が出た。
 あれから3日後、立川くんからラインがきた。
 申請を出した結果、ストラップは預かってもいないし、見つかってもいないという報告だった。
「最悪だぁぁぁ。譲ってくれた浜村さんにも悪いけど、なにより自分がショックだぁぁ」
 白い世界でしゃがみこんで半べそ顔になる。
 現実でもさんざん落ち込んだけど、夢の中でも引きずっている。
 
 何度も記憶を探っても落としただろう場所はあの高校に間違いないはず。
 もしかして、ラブずファンの子が拾って貰っちゃったんじゃ・・・。
「ありえる!」
 ひとり、ドヤ顔をするボクの耳にフッと突然息を吹きかけられ、びっくりして地面に尻もちをつく。
「と、とととトモセくん?!」
 息を吹きかけられた耳を抑えながらクスクスと笑うトモセくんを見上げる。
「ごめん、声かけたんだけど集中してるみたいだったから、つい」
 つい、イタズラしちゃったって?
 これもボクの願望なのかわからないけど、トモセくんは意外とイタズラ好きだ。
 尊いけど、ボクの心臓がいくつあっても持たない。

「もー、気づかなかったのは謝るけど、普通に声かけて欲しい」
「ごめんごめん。それで何を落ち込んでたの? すごいため息してたね」
「そこから?!」
「それで?」
 やたら距離が近いトモセくんの興味津々の顔に見惚れつつ、これは夢だ。
 ストラップのことを話しても現実のトモセくんに伝わるわけがないんだ。そう思うとこのショックな気持ちを聞いてもらいたくなって口が開く。
「プリンのストラップのことなんだけど」
「前回話したプリンのストラップのこと?」
「・・・うん。実は・・・試合会場でもある高校で失くしちゃったみたいで」
「・・・へぇー」
 夢とはいえ、ついついトモセくんの様子を伺うけど、特に顔色ひとつ変えず普通だ。内心ホッとしつつ話を続ける。

「いつもみたいに袴にくくりつけたまでは覚えてるんだけど・・・どこで失くしたか記憶がなくて」
「探してみた?」
「他校だから勝手に中に入れないから警備員さんに落とし物申請は出したよ。あ、その高校の生徒で優しい人が出してくれたんだ。代わりに探してもくれて・・・だけど、落とし物として預かってもいないし、見つかってないしで・・・もしかして、拾った人に持ってかれたのかなぁぁて。あのストラップ、トモセくんファンならわかるけど、出回ってる数が少ないからレアなんだ。あー、めちゃくちゃ落ち込むぅ」
 口にしたら余計にへこんで膝に顔を突っ伏す。
 ポンポン、とトモセくんが頭を撫でてくれる。(優しい)

「・・・トモセくん、ごめんね。大事にしてたのは本当なんだ。でも、嘘ついて・・・失くしちゃってごめんなさい」
 顔を上げてトモセくんの目を見て謝る。
 優しく微笑んだ・・・かと思ったら、トモセくんの顔がニヤニヤしだして一瞬引いた。(へ?)
 すぐさま表情筋を引き締めていつもの・・・というか急にアイドルスマイルになった。(なんかおかしい?!)
「と、トモセくん?! もしかしてやっぱり怒ってる?」
 困惑するボクにトモセくんが、
「ご、ごめん。全然怒ってないよ! すごく大事にしてくれてるのがわかって・・・その、嬉しくて! でも、どっか行っちゃったのは悲しいよね。誰かが持って行ったのなら返して欲しいし・・・うん」
 あきらかに動揺してるトモセくん。(バグ?)

 これはどうゆうことだろう。
 ボクの夢なのに、全然わからない。

 困惑しているとトモセくんが、
「話は変わるんだけど、12月にファンクラブ会員限定のクリスマスイベントがあるのは知ってる?」
「もちろん知ってるよぉ! 毎年抽選200人のイベントだよね」
 ラブずの話になったら急に元気が出てきた。
「抽選結果が出たと思うんだけど、どうだった? もし落選してたら・・・オレが・・・」
 トモセくんが全部言う前にいてもたってもいられず、
「今年は行けるんだよぉ!! トモセくんっっ!!」
 学校で浜村さんが話してくれたことを思い出しテンションが上がる。
「本当? 抽選に当たったの?」
「ボクじゃないんだけどね、推し仲間の子が当たってペアチケットだからって誘ってくれたんだ」
「それはよかったね。じゃー・・・クリスマスイベントで会えるね」
「うんっ! すっごく楽しみにしてる」
「うわープレッシャー」
「あ、ご、ごめんね。そんなつもりじゃ」
 慌てるボクをトモセくんがクスクスと笑う。
「冗談だよ。めちゃくちゃ楽しみにしてて。最高のクリスマスにするから」
 優しく笑いながらポンッとボクの頭を撫でる。

 きゅーんっと心臓がときめく。
 
 好き。
 トモセくんが好き。
 どんどんトモセくんを好きになっていく。

「アキにお願いがあるんだけど」
「へ?」
 トモセくんが頭を撫でた手でボクの毛先を指に絡めながら、
「そのイベントでオレの好きな『とろりプリン』を持ってきて欲しいんだけど」
「へ? イベント会場にとろりプリンを?」
 きゅんきゅんが止まり、目が点になる。
 頭にはてなしか浮かんでこない。
「それをうちわの代わりにかかげてくれたりなんてしてくれたらありがたい」
「うちわの代わりに?? へ? え?」
 
 頭の中でうちわの代わりにとろりプリンを持ってトモセくんを応援してる自分が浮かんだ。
 どう考えても目立つし、SNSで拡散されそうだ。
「無理無理無理、無理だよぉ」
 首を横に振って否定する。
 いくらトモセくんのお願いとはいえ、悪目立ちはしたくない。というか、今日のトモセくん、なんかおかしくない?!(バグ?)

「だよねー、さすがにそれはやりすぎだよね」
 否定されるのがわかっていたのか、はははと笑うトモセくん。
「じゃー、プリンを膝の上に乗せる・・・とか。あーでもそれじゃーさすがにステージから見えないかも。プリンを食べる? 目立つっていうか変だって」
 ブツブツと言いながらトモセくんが何かいい案がないかと思案している。
 いつも見ない光景にぽかーんとしちゃったけど、もしかして、自分のファンをわかりやすくしたいとか? 
 他のメンバーとの差をつけたいとか?
 でもなんでプリン?
 あ、そっか。とろりプリンはトモセくんの大好物だもんね。マイカラー的にプリンを定着させたいとか?
 でもなんでそんなことを・・・。
 
 ハッとして、浜村さんとうちわのデコデザインについて話してたことを思い出す。
 ふたりでおそろいのデザインにしてトモセくんにアピールしたいって浜村さんが言ってた。すっかり忘れてたけど、まさかそれが夢に、トモセくんの口で反映されるとは。

 納得したところでまだ考えこんでるトモセくんに声をかける。
「とろりプリンを直接持っていくのは無理だけど、うちわにとろりプリンを描くのはどうかなぁ?」
「とろりプリンの絵?」
「あまり上手じゃないけど。それとか、トモセくんがデザインしたプリンのストラップを描くとか。実際のとろりプリンの写真の方がいいかなぁ?」
「・・・いいね、そうしよう! わかりやすいほうがいいから写真がいい」
「わかった! クリスマスのイベントの時、うちわのデコデザインはとろりプリンの写真を貼るよ!」
「絶対だよ。約束だよ!」
「まかせて、トモセくん!」
 ガッツポーズをとると、チュッと口にキスされた。
 トモセくんのキスしたいタイミングがいまいちつかめないと思いつつ、まんざらでもない自分がいる。


 目が覚めたら浜村さんに伝えよう。
 リアルトモセくんも喜んでくれるといいなぁ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

腐男子ですが何か?

みーやん
BL
俺は田中玲央。何処にでもいる一般人。 ただ少し趣味が特殊で男と男がイチャコラしているのをみるのが大好きだってこと以外はね。 そんな俺は中学一年生の頃から密かに企んでいた計画がある。青藍学園。そう全寮制男子校へ入学することだ。しかし定番ながら学費がバカみたい高額だ。そこで特待生を狙うべく勉強に励んだ。 幸いにも俺にはすこぶる頭のいい姉がいたため、中学一年生からの成績は常にトップ。そのまま三年間走り切ったのだ。 そしてついに高校入試の試験。 見事特待生と首席をもぎとったのだ。 「さぁ!ここからが俺の人生の始まりだ! って。え? 首席って…めっちゃ目立つくねぇ?! やっちまったぁ!!」 この作品はごく普通の顔をした一般人に思えた田中玲央が実は隠れ美少年だということを知らずに腐男子を隠しながら学園生活を送る物語である。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話

あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ハンター ライト(17) ???? アル(20) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 後半のキャラ崩壊は許してください;;

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

灰かぶり君

渡里あずま
BL
谷出灰(たに いずりは)十六歳。平凡だが、職業(ケータイ小説家)はちょっと非凡(本人談)。 お嬢様学校でのガールズライフを書いていた彼だったがある日、担当から「次は王道学園物(BL)ね♪」と無茶振りされてしまう。 「出灰君は安心して、王道君を主人公にした王道学園物を書いてちょうだい!」 「……禿げる」 テンション低め(脳内ではお喋り)な主人公の運命はいかに? ※重複投稿作品※

俺の推し♂が路頭に迷っていたので

木野 章
BL
️アフターストーリーは中途半端ですが、本編は完結しております(何処かでまた書き直すつもりです) どこにでも居る冴えない男 左江内 巨輝(さえない おおき)は 地下アイドルグループ『wedge stone』のメンバーである琥珀の熱烈なファンであった。 しかしある日、グループのメンバー数人が大炎上してしまい、その流れで解散となってしまった… 推しを失ってしまった左江内は抜け殻のように日々を過ごしていたのだが…???

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

処理中です...