ボクの推しアイドルに会える方法

たっぷりチョコ

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「協力者」ートモセ視点ー

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 今日から大阪でのコンサートがスタートする。
 気を引き締めて挑む・・・はずが、
「ジュン、聞いてよ! 昨日、即寝で爆睡だったのに夢見たんだよ! しかも、アキの夢! 断片的とかじゃなくて目が覚めるまで何話してたかも覚えてる! アキの顔もしっかり覚えてて、やっぱりコンサートで見たアキとそのままだった!! すごくない?!」
 
 控室に入るなり、オレは大興奮でジュンに一気に話した。
 朝起きて、夢で見たことをしっかり覚えてることが嬉しすぎて、アキに会えたことが嬉しすぎて、ホテルからコンサート会場に着くまでずっと興奮していた。
 とにかく誰かに言いたくて仕方なかった。

「・・・」
 無言で黒のスカーフを腕に巻くジュン。
「聞いてる?」
「聞いとるわっ! つーか、その沸騰した脳みそを切り替えろ。へましてもフォローしねーぞ」
 噛みつきそうな勢いのジュンに言われ、渋々衣装に着替えることに。

 ちょっとくらい話にのっかってくれてもいいのに。と、思うが、衣装を着て鏡の前でスタイリストさんに最終チェックをしてもらっているとさすがに気持ちが切り替わってきた。
 大阪のコンサート初日はカメラも入る。へまなんてしたらアキに見せる顔がない。

 キュッと水色のスカーフを首に巻いてリボン結びをする。
「よし、アキも合宿で頑張ってるんだ、オレもコンサートを盛り上げる!」
 今朝見たばかりのアキの笑顔を思い出しながらステージ裏へと向かった。


 
 室内の呼び鈴が鳴り、ドアを開けるとジュンが立っていた。
 すかさずオレの首に腕を回しながら部屋に入る。
「おいっ! 今日のコンサートふざけてんのかっ!」
「ふざけてないよ! ちゃんと盛り上げたじゃん」
「どこがだっ! ファンを騙せても俺を騙せると思ってんのか! ずっとキョロキョロソワソワしやがって」
「うっ・・・」
 ジュンに指摘され、視線が泳ぐ。
「どうせアキとかいう奴のこと探してたんだろ。お前、自分で言ったよな? チケット取るの難しいって!」
「いや、そうなんだけど。頭ではわかっててもつい気になっちゃって」
「気になっても集中しろやっ!」
 グイグイと腕の力を強められ首が締まる。
「いたいたい、マジで痛いってー」
 
 コンサートが終わりホテルに戻って来た。
 ジュンは約束どおりオレの話を聞いてくれると言ってオレの部屋にくることになっていたけど、まさかコンサートでの反省会になるとは。
 反省会というよりほとんど説教だよ、これ。

 設置されている冷蔵庫の中から水のペットボトルをふたつ取り出し、ツインベッドのひとつに座っているジュンにひとつ渡した。
「今の話聞く限り変な期待は捨てろ!」
「うっ・・・」
 朝見た夢をジュンに覚えてるだけ話した。
「マジで剣道の合宿に行ってるならコンサートに来れるわけないだろ。2週間なんてすげーな。部活ってそうゆうもん?」
「わかんない。中学入ってすぐアイドルになったから部活なんて入ってないし。小学校の時は授業の一環だったし」
「俺は・・・中学の時荒れてたから部活なんてしてない。つーか、学校なんてまともに行ってねー」
「やっぱり校舎裏でタバコ吸ってたの?」
「あ?」
「なんでもない」

 ジュンに絞められた首がまだ痛い。
 明日のコンサートに響かないといいけど。(元ヤン、ヤバイ)

 部屋に入る前にホテル内のコンビニで買ったお菓子やデザートをジュンと食べ合う。
「東京公演のことだけど、俺、CAに知り合いがいてさー」
 ホイップクリームたっぷりの菓子パンを頬張りながらスマホをいじりながらしゃべる、ジュン。
「CA・・・て、カメラアシスタント?」
「おう、気が合う奴がいてさ」
「元ヤン同志?」
「ヤンキーネタから離れろや」
「・・・ごめん、で?」
「東京公演はそいつの会社が担当だったんだけど、そいつも配属されてたから聞いた」
「なにを?」
 ポテトチップスを食べる手が止まる。
「商業用のカメラ以外にも監視カメラとか含めて・・・トモが見てた東側の2階席を映してたカメラの映像を送ってもらった」
「え?! いいの?!」
 思わずベッドから立ち上がる。

「アウトに決まってんだろ。だからこれは俺とトモとCAの奴だけ。バレたり流出なんてあったら知り合いの首が飛ぶ」
 ピッと自分の首を切るしぐさをした。
 ごくりとオレの喉が鳴る。急に変な緊張が走る。
「さっき見たけど、トモが投げキッスしてる時のを見つけた。どうよ? いるか?」
 ジュンの隣に座ってスマホを覗き込む。
「・・・あ、いた! アキだ」
「あ?」
「巻き戻して!」
 数秒の出来事にオレの心臓が飛び跳ねる。

 映像とはいえ、本当にアキが映っていることに感動。
 
「こいつか?」
 数回戻しては流しての繰り返しをしてやっとアキが映ってるところで一時停止ができた。
「アキだ! ほら、うちわ持ってる」
 映像が荒いけど、まぎれもなく夢で会っているアキだ。
 一重の目に丸い顔・・・うちわで口元が隠れてるから顔の丸さがわかりづらいのが残念だ。
 
「アキが現実にいるってなんか不思議だ」
 うまくあらわせられない感情がオレの中で沸きあがる。
 泣きたいような、安心するような、不思議な感覚だ。

「心霊系じゃなさそーでよかったな」
「ジュン、やっぱり疑ってたんだ」
「芸能界ってあるらしいじゃん。普通の奴だな・・・て、こいつ、男じゃん」
「うん」
「はぁ?!」
「え? なんで?」
 びっくり顔のジュンにきょとんとするオレ。

「てっきり女かと思った」
「オレも今ジュンに言われて男だって気づいた」
「はぁ?! 知らなかったのか?!」
「顔を思い出すまでは性別わかんなかったし。ていうか、アキが男だろうと女だろうとべつに・・・アキはアキだし」
 今更アキの性別がなんであろうとオレの中では特に何も響かない。
 それより、アキがちゃんと現実に存在していることのほうがワクワクする。

「カイとキスしたのすげー嫌がってたからてっきり男はダメなのかと思った」
 目を細めるジュン。
「え? どうゆうこと?」
「いや、うん、いいんじゃね? 運命の相手に性別なんて関係ねーよな」
「何言ってんの?」
 何かを悟ったかのようにほくそ笑むジュンがなんかムカつく。
「何か勘違いしてるよね? アキは友達!」
「へいへい」
 ニヤニヤしながら視線をスマホに戻された。
 納得がいかないオレはポテトチップスを頬張って気を晴らしていると、ジュンの顔からニヤケが消えて代わりに顔色が悪くなっていた。

「おい、トモ。やっぱこいつ他人の空似じゃね?」
「え? 今更何言ってるの?」
 ジュンが言いにくそうな顔をしたあと、意を決したようにスマホの画面をオレに見せた。
「よく見ろよ、このうちわの持ち手のところにあるスカーフの色、これってカイじゃね?」
「・・・え?」
 からっぽになったポテトチップスの袋をベッドに放ってスマホの画面を凝視する。

 ズームにしたり元のサイズに戻したり。
 何度見てもアキが持ってるうちわの持ち手に結び付けてあるスカーフの色は青だ。

「マジか」

 頭の中が真っ白になった。言葉がなんにも浮かばない。

「・・・あれか? 複数推しって奴か?」
 重い空気を何とかしようとジュンが明るく振舞うがオレには全然響かない。
「まぁ、あれだ! この映像荒いから水色が青に見えるだけかもしんねーぞ。あ、もしかしたら、アキって奴間違って青を買ったのかもしれねーじゃん! 青と水色似てるしよぉ」
「・・・だから水色にするの嫌だったんだ」
 半べそ顔でジュンを睨む。
「おいおいオレが決めたわけじゃねーよ。つーか誰だよ、お前の色決めたの?」
「知らん。気づいたら水色になってた・・・ていうか、なんでカイーーっ」
 
 ショックだ。
 めちゃくちゃショックだ。
 映像は荒いけどもう他人の空似とは思えない。
 スカーフの色だって何度見ても青だ。
 
「・・・でも、アキはうちわのこと喜んでた」
「うちわに書いてある投げキッスのことか?」
「うん」
「・・・ここでちょっとわかんなくなってきたな」
「え?」
 ジュンが急に難しい顔をしだす。
「夢と現実で話が繋がってるように思ってたけど、青いスカーフでわかんなくなったな」
「・・・」

 動画に映る男はアキだ。
 アキだと信じたい。
 夢と現実が繋がってると信じたい。

「動画だけじゃわかんない。彼がアキだって証拠を見つける。アキがオレの推しだっていう証拠を」
「探すって当てでもあんのか?」
「夢の中でアキが手紙を書くって言ってたんだ」
「お! アキのファンボックスからそいつのファンレターが見つかればマジで証拠じゃん!」
「うんっ! 今すぐ宮本さんにラインして聞いてみるっ!」
「ラインじゃめんどくせー。電話しろよ! 電話っ」
 ジュンが急かすからラインじゃなくて電話にした。

「あ、宮本さん? お疲れ様です。東京公演でのファンレターなんですけど・・・」
 ピッと通話を切る。
「どうだ?」
 ジュンが探るような視線を送ってくる。
「事務所にあるって。けっこうな量だから持ってくるのは難しいって。大阪公演が終わったら事務所に行こうと思う」
「よし、俺も探すの手伝ってやる!」
「え、さすがに悪いよ」
「気になるだろ。乗っかった船だ。つきあうぜ」
「ジュン、いい奴ー」
「だろ?」

 感動してると呼び鈴が鳴る。
「誰だろう」
 スマホを覗くとすでに深夜0時をまわろうとしている。
「メンバーの誰かなんじゃね? おおかたアイあたりかもな」
 誰かもわからないのに呆れた顔をするジュン。
 
 ガチャッとドアを開けると、ドンピシャリだった。
 22歳とは思えないほどのニコニコ顔でアイとショウが腕を組んで立っていた。
「トモよーん! 一緒にお酒飲もうー!」
 コンビニで買ってきたらしいお酒やお菓子が入った袋をオレに押し付けて部屋の中に入る。
 横切るふたりからすでにお酒の匂いが。

 ここに来る前にだいぶ飲んでるな。
 明日もコンサートあるのに。

「お酒飲もうってオレ、まだ未成年なんだけど」
「はぃぃ? おれらが買ってきた酒が飲めないってか?」
 ショウが睨みをきかせながら絡んでくる。(めんどくさい)
「つーか、おれを見下ろすなっ! おれの方が年上なんだぞー! 年下のくせにニョキニョキ伸びやがってー」
「・・・そんなこと言われても」
 メンバーのひとり、ショウ。20歳でアイドルやりながら専門学校に通っている。
 ムードメーカ担当だけあっていつもテンション高くてなにかと盛り上げてくれる。だけど、アイと同じで瞳が大きい童顔だ。しかも身長が低くてそれがコンプレックスらしい。
 年下のオレが途中で背が伸びたことが今でもムカつくらしく、何かと絡んでくるしよくわかんないけどライバル視されている。
 「かわいい」というと盛大に舌打ちする。

「おい、おっさんら明日もコンサートあんのに酒飲んでると明日に響くぞ!」
 ジュンだ。
「こらー、誰がおっさんだー! ボクたちまだまだピチピチなんだぞぉ~」
「ピチピチ~」
 アイとショウが顔を揃えてかわいいポーズをする。

 ダメだ、完全に酒に吞まれてる。

 ベッドの上でアイとショウがキャッキャしながら宴会を始めた。
「あーあ。知らねーぞ、明日」
 ジュンが呆れ顔だ。
「ていうか、オレ、もうそろそろ寝たい」
 
 次の日。案の定、二日酔いで会場に来たふたりはリーダーにたっぷり説教をうけた。

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