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「悩み事」
しおりを挟む☆R指定はありませんが、軽く生理的・性的な単語が出てきます。苦手な方はご注意ください。
ボクには悩み事がある。
それは数週間前にできた恋人の件でだ。
恋人っていっても人に話せば『妄想野郎』とキモがられると思う。
だって、その恋人は推しである男性アイドルグループの『ラブず』のメンバーのひとり、木山知世(きやまともせ)くん。
そしてトモセくんとは夢の中でのお付き合いなのだ。(完全非公式!)
悩み事というのは・・・。
「あー・・・またやっちゃった。もう何回目だろう」
ため息をつきながら自分の下着を洗面所で洗う朝5時すぎ。
ガチャッとドアが開き、次女の美紀姉が顔をひょっこり出した。
とっさに下着を手で見えないように隠す。
「おはよーアキ。あれ? 今日って高校の文化祭じゃなかった? 起きるの早くない?」
まだ眠そうに美紀姉がまぶたをこすりながら話しかける。
「お、おはよう、美紀姉。文化祭の前に剣道の自主練しようと思ってて」
「えー、偉すぎでしょ! なに? 今年は優勝でも目指してるの?」
「そ、そうゆうわけじゃないけど・・・副部長として頑張らないと部員に示しがつかないかなぁ・・・と思って」
はははと笑顔が引きつる。
「ふーん。副部長も大変ねぇ!」
「それより美紀姉は? まだ朝の5時だよ」
「トイレで起きただけ」
ヒラヒラと手を振りながら洗面所から出て行った美紀姉を見届けるなり、緊張感が一気に解放される。
「バレるかと思ったぁぁぁぁぁー」
高2の弟が朝からパンツ洗ってるなんて姉に絶対知られたくないッ!
母さんは看護師だから男の生理現象は理解してるからそっとしておいてくれるけど、(それでも見られたくない)姉さんたちは絶対茶化してくるに決まってる。それか、必要以上に心配してくるか。
味方の父さんは転勤でイギリスだから頼りにならない。
こうゆう時、男の兄弟に憧れる。
ボクの悩み事はまぎれもなくこの朝から下着を洗うこと。
というのも、好きすぎて夢の中で推しのトモセくんに会えるようになっただけじゃなく、両想いで付き合うことになったんだけど、(あくまでボクの夢の中だけ)とにかくイチャイチャしかしてないッ!
学校に部活にバイトに毎日忙しすぎて爆睡しちゃうから以前と違って毎日夢で会うことはできないけど、それでも会うたびキスしかしてない!!(注:一線は超えてません!!)
違った、キスかハグか。両方か。
おかげで目が覚めると夢精してる時がある。
これはボクの夢だ。そう、ボクが見る夢。
今まで推しをそうゆう対象として見たことなかったのに、マジ恋になった途端そうゆう対象にッッ!!
「なにが悩ましいって、ボクがトモセくんとキスばっかしたい願望があったなんてッ!しかも、しすぎだよぉーーー!! あんなことやこんなことまで!!」
夢でのことを思い出して恥ずかしさのあまり口に出てしまい、慌てて濡れた手で口をふさぐけど誰もこない。トイレで起きた美紀姉もすでに部屋に戻ったみたいだ。
はぁぁぁーーーと重いため息をついて下着をきつく絞って洗濯機の中に放り込んだ。
付き合う前から距離が近いなぁとは思っていたけど、それは男同士気兼ねなさからくるものだと思ってたし、リアルのトモセくんもメンバーとの距離がいつも近い。
だけど、近いじゃなくて、もう会うなりくっついてきて、耳元で喋ったり、(わざと?!)疲れたといいながらどさくさに紛れて地面に押し倒してキスのエンドレス・・・。
「甘えん坊の推し、可愛すぎる!! 可愛すぎるけどッッ!!」
これまたキスしながらあちこち触ってくる推しを思い出し、恥ずかしさで死ねる。
こんな夢見てムラムラしないわけない。
気になる子がいた時はちょっとくらいムラムラしたことはあるけど。(ボクも男ですから)推しにムラムラするなんてッッ!
「というか、推しになにさせてるんだ!! 変態だッ! ボクは変態だッ! リアルトモセくんに合わせる顔がない!」
朝からハイテンションで学校に行くはめに。
「アキ!」
校舎の廊下を小走りで駆け寄ってくる学ラン姿のあずくんに気づき、軽く手を振る。
「あずくん! 久しぶりだねぇ」
「昨日もビデオ通話したじゃん」
相変わらずの素っ気ない態度になんだかほっこりする。
「うちの文化祭に来てくれてありがとう。道迷わなかった?」
「初めて来たけど平気だったよ。駅からわりと歩かせる学校だよね」
「あはは、そうだね。何か飲む? 座る? 疲れた?」
「僕、アキより若いよ?」
「じゃぁ、うちのクラス行く? 展示だけど」
「何を展示してるの?」
「えっとねー」
受験勉強の息抜きになると思って誘ったらふた返事で来てくれた。
隣を歩くあずくんと直接会うのは久しぶりだけど変わらず美少年だ。すれ違う生徒や一般人が2度見するほど。
慣れていたことだけど、久しぶりのせいか、なんだか落ち着かない。場所がうちの学校というのもあるのかもしれない。
とりあえず、一通り校舎の中を散策し、校庭に建てらている屋台で焼きそばや飲み物を買って裏庭のベンチで食べた。
「ここ静かだね。人全然いない」
あずくんが休憩所となっている裏庭を見渡しながら言った。
「そうだね。一応パンフレットには書いてあるけど、屋台から遠いから穴場になってるのかも」
食べ終わった容器を設置してあるごみ箱に捨ててベンチに戻り、ポケットに忍ばせていたパンフレットを取り出してまだ行ってない場所がないかチェックする。
「次どこ行こうか。あずくん見たいところある?」
「もうほとんど行ったんじゃない? それより人の多さに疲れたからここでアキと一緒にいたい」
「それでいいの?」
パンフレットからあずくんに視線を移すと目が合った。というより、さっきからボクを見ていたみたいだ。
淡いブラウンの瞳がボクを映す。
久しぶりに見つめられたせいか、一瞬ドキッとする。
あずくんの瞳は吸い込まれそうで不思議な気持ちになる。
「うん、アキと一緒にいたい」
「じゃぁ、お互い近況報告でもする?」
「めんどくさ。いつもラインしてるじゃん。今日も朝練してきたんでしょ」
「正解!」
「あ、カイがSNSで呟いてる」
あずくんがスマホをいじってるのを横目で見ていると、ふと疑問が沸いた。
「あずくんはカイにムラムラしたりする?」
「・・・は?」
きょとんとするあずくんを見て、やらかしたと全身の血が一気に引く。
魔が差した。やらかした。
いくら男同士でアイドルオタクの仲間とはいえ、アウトな話題だってある。
「ごめん、今のは忘れて! 口が滑ったっていうか・・・とにかく忘れて!」
慌てて手を強く振ってなかったことにしようと振舞う。
さすがに気持ちがられたかも。
ボクってバカだっ、年下のあずくんに何聞いてるんだよぉ。
朝のテンションがまだ残ってたんだ。最悪だぁぁぁぁ。
「・・・それって、カイをオカズにして抜いてるかって聞いてる?」
「・・・へ・・・ぬ、抜・・・へぁ?!!!」
美少年の口から衝撃発言にベンチから落ちそうになった。
「わぁぁぁ! あずくん、誰かに聞かれたらどうするの?! ていうか、ボク、そこまで聞いてないよ! というか、この話は忘れて!」
恥ずかしさのあまりあわあわするボクとは違い、あずくんはいたって平静だ。
「アキはトモセにムラムラするの?」
「ッッ!!!」
カッと顔が真っ赤になる。
穴があったら入りたいくらいすごく恥ずかしいッッ!!
穴に入る代わりに両手で顔を隠してみる。
「・・・ボク、変態だったんだ。トモセくんは浮いた話がまったくないからファンの間でも草食系とか、彼女ができても淡泊だとか手も繋げないほどピュアだとか言われてるし、ファンが書く夢小説のトモセくんはとにかくピュアのピュアピュアピュアで、相手が女性でもトモセくんが受けなんだ。なのにボクはトモセくんが攻める方でピュアとは程遠い妄想ばっかりぃぃぃ」(夢の中でとは言えません)
「よくしゃべるな」
「うぅぅごめん、あずくん。変な話しちゃって」
「アキ、僕もカイでそうゆう妄想する」
「へ?!」
突然の暴露に両手を放してあずくんを凝視する。
まったくの真顔のあずくんに嘘なのか本当なのか読めない。
「アキ、部活もバイトも頑張りすぎて溜まってるんでしょ」
「・・・そ、そうなの、かなぁ?」
なるほど、そうゆう考え方はしたことなかった。そういえば前回抜いたのはいつだっけ。
「僕が手伝おうか?」
ん?
淡いブラウンの瞳がまっすぐボクを見つめて吸い込まれそうで、あずくんが言った言葉が幻のように聞こえた。
今なんて言った?!!
遅れてびっくりする。
「あ、あああああずくん?!!」
「勘違いしないでよ。別にそっちの趣味があるわけじゃないから。アキなら僕だっていいって言ってるんだ」
「え、えぇぇぇ?! さ、さすがに手伝って・・・もらうのは」
あずくんの爆誕発言に頭の中がパニックでうまく断る言葉が出てこない。
うーんうーんと悩むボクにアキくんが軽くため息をついた。
「さすがに早かったか」
「へ? 何が?」
「なんでもない。推しにそうゆう妄想するなんてあるあるだよ。アキは気にしすぎ」
むにっとボクの頬を軽くつねった。
「ほ、ほぉなの?」
そうだよと念を押してくれるあずくん。パッと頬から手を放してくれた。
「トモセって本当に浮いた話ないよね。カイはしょっちゅう耳に入るけど。ていうか、アイドルなのにおかしくない? 三上愛瑠との報道はあったけど、結局本当なのかわかんないままだ」
あずくんが話題を変えてくれてホッと胸を撫でおろす。
年下に気を遣わせてしまった。ボクって情けない。
落ち込んでいると友達の鳥海くんからラインがきた。
「あずくんごめん、教室に戻らなきゃ。クラスの展示室の受付やらなきゃいけないんだ。交代制でボクは午後からなんだ」
「わかった」
ベンチから立ち上がりながら、
「帰る時は気をつけて帰ってね」
じゃ、と手を振ってあずくんに背を向けたところでブレザーの裾を引っ張られる。
「終わるまで待っててもいい? 一緒に帰りたい」
「いいけど、まだ時間あるよ?」
「適当に時間潰すから平気」
「あずくんがいいならいいよ。あ、そうだ、図書室開いてるから勉強できるよ?」
「ひとんちの高校に来てまで勉強?」
「ご、ごめん」
良い提案だと思っただけに、あずくんの冷たい視線にボクの笑顔が引きつる。
「図書室行く」
「わかった、えーと図書室の行き方はね~」
場所を教えようとしたらあずくんが待てずに口を開く。
「今日アキんちに泊まっていい? 明日の朝帰るから」
「ボクは明日も文化祭だけど、あずくんは普通に日曜だもんね」
「泊まりたい」
力強い眼差しに思わず気迫負けする。
「わ、わかった、あずくんがいいならいいよ。明日も朝練するつもりだから朝早いけどそれでもいい?」
「全然問題ない」
「じゃぁ、ラブずの撮りためてる録画でも一緒に観る?」
「観る」
「じゃぁ、終わったらラインするね」
学校の案内図でもあるパンフレットをあずくんに渡して裏庭を出る。
それにしても、さっきのはびっくりした。
ボクだって変な話したから人のこと言えないけど。
あずくんが言ったことを思い出し、おさまったはずの恥ずかしさがまた蘇って顔が熱くなる。
「あずくんも男だったんだなぁ」
弟の成長を目の当たりした兄な気分だ。
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