37 / 57
「悩み事」
しおりを挟む☆R指定はありませんが、軽く生理的・性的な単語が出てきます。苦手な方はご注意ください。
ボクには悩み事がある。
それは数週間前にできた恋人の件でだ。
恋人っていっても人に話せば『妄想野郎』とキモがられると思う。
だって、その恋人は推しである男性アイドルグループの『ラブず』のメンバーのひとり、木山知世(きやまともせ)くん。
そしてトモセくんとは夢の中でのお付き合いなのだ。(完全非公式!)
悩み事というのは・・・。
「あー・・・またやっちゃった。もう何回目だろう」
ため息をつきながら自分の下着を洗面所で洗う朝5時すぎ。
ガチャッとドアが開き、次女の美紀姉が顔をひょっこり出した。
とっさに下着を手で見えないように隠す。
「おはよーアキ。あれ? 今日って高校の文化祭じゃなかった? 起きるの早くない?」
まだ眠そうに美紀姉がまぶたをこすりながら話しかける。
「お、おはよう、美紀姉。文化祭の前に剣道の自主練しようと思ってて」
「えー、偉すぎでしょ! なに? 今年は優勝でも目指してるの?」
「そ、そうゆうわけじゃないけど・・・副部長として頑張らないと部員に示しがつかないかなぁ・・・と思って」
はははと笑顔が引きつる。
「ふーん。副部長も大変ねぇ!」
「それより美紀姉は? まだ朝の5時だよ」
「トイレで起きただけ」
ヒラヒラと手を振りながら洗面所から出て行った美紀姉を見届けるなり、緊張感が一気に解放される。
「バレるかと思ったぁぁぁぁぁー」
高2の弟が朝からパンツ洗ってるなんて姉に絶対知られたくないッ!
母さんは看護師だから男の生理現象は理解してるからそっとしておいてくれるけど、(それでも見られたくない)姉さんたちは絶対茶化してくるに決まってる。それか、必要以上に心配してくるか。
味方の父さんは転勤でイギリスだから頼りにならない。
こうゆう時、男の兄弟に憧れる。
ボクの悩み事はまぎれもなくこの朝から下着を洗うこと。
というのも、好きすぎて夢の中で推しのトモセくんに会えるようになっただけじゃなく、両想いで付き合うことになったんだけど、(あくまでボクの夢の中だけ)とにかくイチャイチャしかしてないッ!
学校に部活にバイトに毎日忙しすぎて爆睡しちゃうから以前と違って毎日夢で会うことはできないけど、それでも会うたびキスしかしてない!!(注:一線は超えてません!!)
違った、キスかハグか。両方か。
おかげで目が覚めると夢精してる時がある。
これはボクの夢だ。そう、ボクが見る夢。
今まで推しをそうゆう対象として見たことなかったのに、マジ恋になった途端そうゆう対象にッッ!!
「なにが悩ましいって、ボクがトモセくんとキスばっかしたい願望があったなんてッ!しかも、しすぎだよぉーーー!! あんなことやこんなことまで!!」
夢でのことを思い出して恥ずかしさのあまり口に出てしまい、慌てて濡れた手で口をふさぐけど誰もこない。トイレで起きた美紀姉もすでに部屋に戻ったみたいだ。
はぁぁぁーーーと重いため息をついて下着をきつく絞って洗濯機の中に放り込んだ。
付き合う前から距離が近いなぁとは思っていたけど、それは男同士気兼ねなさからくるものだと思ってたし、リアルのトモセくんもメンバーとの距離がいつも近い。
だけど、近いじゃなくて、もう会うなりくっついてきて、耳元で喋ったり、(わざと?!)疲れたといいながらどさくさに紛れて地面に押し倒してキスのエンドレス・・・。
「甘えん坊の推し、可愛すぎる!! 可愛すぎるけどッッ!!」
これまたキスしながらあちこち触ってくる推しを思い出し、恥ずかしさで死ねる。
こんな夢見てムラムラしないわけない。
気になる子がいた時はちょっとくらいムラムラしたことはあるけど。(ボクも男ですから)推しにムラムラするなんてッッ!
「というか、推しになにさせてるんだ!! 変態だッ! ボクは変態だッ! リアルトモセくんに合わせる顔がない!」
朝からハイテンションで学校に行くはめに。
「アキ!」
校舎の廊下を小走りで駆け寄ってくる学ラン姿のあずくんに気づき、軽く手を振る。
「あずくん! 久しぶりだねぇ」
「昨日もビデオ通話したじゃん」
相変わらずの素っ気ない態度になんだかほっこりする。
「うちの文化祭に来てくれてありがとう。道迷わなかった?」
「初めて来たけど平気だったよ。駅からわりと歩かせる学校だよね」
「あはは、そうだね。何か飲む? 座る? 疲れた?」
「僕、アキより若いよ?」
「じゃぁ、うちのクラス行く? 展示だけど」
「何を展示してるの?」
「えっとねー」
受験勉強の息抜きになると思って誘ったらふた返事で来てくれた。
隣を歩くあずくんと直接会うのは久しぶりだけど変わらず美少年だ。すれ違う生徒や一般人が2度見するほど。
慣れていたことだけど、久しぶりのせいか、なんだか落ち着かない。場所がうちの学校というのもあるのかもしれない。
とりあえず、一通り校舎の中を散策し、校庭に建てらている屋台で焼きそばや飲み物を買って裏庭のベンチで食べた。
「ここ静かだね。人全然いない」
あずくんが休憩所となっている裏庭を見渡しながら言った。
「そうだね。一応パンフレットには書いてあるけど、屋台から遠いから穴場になってるのかも」
食べ終わった容器を設置してあるごみ箱に捨ててベンチに戻り、ポケットに忍ばせていたパンフレットを取り出してまだ行ってない場所がないかチェックする。
「次どこ行こうか。あずくん見たいところある?」
「もうほとんど行ったんじゃない? それより人の多さに疲れたからここでアキと一緒にいたい」
「それでいいの?」
パンフレットからあずくんに視線を移すと目が合った。というより、さっきからボクを見ていたみたいだ。
淡いブラウンの瞳がボクを映す。
久しぶりに見つめられたせいか、一瞬ドキッとする。
あずくんの瞳は吸い込まれそうで不思議な気持ちになる。
「うん、アキと一緒にいたい」
「じゃぁ、お互い近況報告でもする?」
「めんどくさ。いつもラインしてるじゃん。今日も朝練してきたんでしょ」
「正解!」
「あ、カイがSNSで呟いてる」
あずくんがスマホをいじってるのを横目で見ていると、ふと疑問が沸いた。
「あずくんはカイにムラムラしたりする?」
「・・・は?」
きょとんとするあずくんを見て、やらかしたと全身の血が一気に引く。
魔が差した。やらかした。
いくら男同士でアイドルオタクの仲間とはいえ、アウトな話題だってある。
「ごめん、今のは忘れて! 口が滑ったっていうか・・・とにかく忘れて!」
慌てて手を強く振ってなかったことにしようと振舞う。
さすがに気持ちがられたかも。
ボクってバカだっ、年下のあずくんに何聞いてるんだよぉ。
朝のテンションがまだ残ってたんだ。最悪だぁぁぁぁ。
「・・・それって、カイをオカズにして抜いてるかって聞いてる?」
「・・・へ・・・ぬ、抜・・・へぁ?!!!」
美少年の口から衝撃発言にベンチから落ちそうになった。
「わぁぁぁ! あずくん、誰かに聞かれたらどうするの?! ていうか、ボク、そこまで聞いてないよ! というか、この話は忘れて!」
恥ずかしさのあまりあわあわするボクとは違い、あずくんはいたって平静だ。
「アキはトモセにムラムラするの?」
「ッッ!!!」
カッと顔が真っ赤になる。
穴があったら入りたいくらいすごく恥ずかしいッッ!!
穴に入る代わりに両手で顔を隠してみる。
「・・・ボク、変態だったんだ。トモセくんは浮いた話がまったくないからファンの間でも草食系とか、彼女ができても淡泊だとか手も繋げないほどピュアだとか言われてるし、ファンが書く夢小説のトモセくんはとにかくピュアのピュアピュアピュアで、相手が女性でもトモセくんが受けなんだ。なのにボクはトモセくんが攻める方でピュアとは程遠い妄想ばっかりぃぃぃ」(夢の中でとは言えません)
「よくしゃべるな」
「うぅぅごめん、あずくん。変な話しちゃって」
「アキ、僕もカイでそうゆう妄想する」
「へ?!」
突然の暴露に両手を放してあずくんを凝視する。
まったくの真顔のあずくんに嘘なのか本当なのか読めない。
「アキ、部活もバイトも頑張りすぎて溜まってるんでしょ」
「・・・そ、そうなの、かなぁ?」
なるほど、そうゆう考え方はしたことなかった。そういえば前回抜いたのはいつだっけ。
「僕が手伝おうか?」
ん?
淡いブラウンの瞳がまっすぐボクを見つめて吸い込まれそうで、あずくんが言った言葉が幻のように聞こえた。
今なんて言った?!!
遅れてびっくりする。
「あ、あああああずくん?!!」
「勘違いしないでよ。別にそっちの趣味があるわけじゃないから。アキなら僕だっていいって言ってるんだ」
「え、えぇぇぇ?! さ、さすがに手伝って・・・もらうのは」
あずくんの爆誕発言に頭の中がパニックでうまく断る言葉が出てこない。
うーんうーんと悩むボクにアキくんが軽くため息をついた。
「さすがに早かったか」
「へ? 何が?」
「なんでもない。推しにそうゆう妄想するなんてあるあるだよ。アキは気にしすぎ」
むにっとボクの頬を軽くつねった。
「ほ、ほぉなの?」
そうだよと念を押してくれるあずくん。パッと頬から手を放してくれた。
「トモセって本当に浮いた話ないよね。カイはしょっちゅう耳に入るけど。ていうか、アイドルなのにおかしくない? 三上愛瑠との報道はあったけど、結局本当なのかわかんないままだ」
あずくんが話題を変えてくれてホッと胸を撫でおろす。
年下に気を遣わせてしまった。ボクって情けない。
落ち込んでいると友達の鳥海くんからラインがきた。
「あずくんごめん、教室に戻らなきゃ。クラスの展示室の受付やらなきゃいけないんだ。交代制でボクは午後からなんだ」
「わかった」
ベンチから立ち上がりながら、
「帰る時は気をつけて帰ってね」
じゃ、と手を振ってあずくんに背を向けたところでブレザーの裾を引っ張られる。
「終わるまで待っててもいい? 一緒に帰りたい」
「いいけど、まだ時間あるよ?」
「適当に時間潰すから平気」
「あずくんがいいならいいよ。あ、そうだ、図書室開いてるから勉強できるよ?」
「ひとんちの高校に来てまで勉強?」
「ご、ごめん」
良い提案だと思っただけに、あずくんの冷たい視線にボクの笑顔が引きつる。
「図書室行く」
「わかった、えーと図書室の行き方はね~」
場所を教えようとしたらあずくんが待てずに口を開く。
「今日アキんちに泊まっていい? 明日の朝帰るから」
「ボクは明日も文化祭だけど、あずくんは普通に日曜だもんね」
「泊まりたい」
力強い眼差しに思わず気迫負けする。
「わ、わかった、あずくんがいいならいいよ。明日も朝練するつもりだから朝早いけどそれでもいい?」
「全然問題ない」
「じゃぁ、ラブずの撮りためてる録画でも一緒に観る?」
「観る」
「じゃぁ、終わったらラインするね」
学校の案内図でもあるパンフレットをあずくんに渡して裏庭を出る。
それにしても、さっきのはびっくりした。
ボクだって変な話したから人のこと言えないけど。
あずくんが言ったことを思い出し、おさまったはずの恥ずかしさがまた蘇って顔が熱くなる。
「あずくんも男だったんだなぁ」
弟の成長を目の当たりした兄な気分だ。
9
お気に入りに追加
119
あなたにおすすめの小説
腐男子ですが何か?
みーやん
BL
俺は田中玲央。何処にでもいる一般人。
ただ少し趣味が特殊で男と男がイチャコラしているのをみるのが大好きだってこと以外はね。
そんな俺は中学一年生の頃から密かに企んでいた計画がある。青藍学園。そう全寮制男子校へ入学することだ。しかし定番ながら学費がバカみたい高額だ。そこで特待生を狙うべく勉強に励んだ。
幸いにも俺にはすこぶる頭のいい姉がいたため、中学一年生からの成績は常にトップ。そのまま三年間走り切ったのだ。
そしてついに高校入試の試験。
見事特待生と首席をもぎとったのだ。
「さぁ!ここからが俺の人生の始まりだ!
って。え?
首席って…めっちゃ目立つくねぇ?!
やっちまったぁ!!」
この作品はごく普通の顔をした一般人に思えた田中玲央が実は隠れ美少年だということを知らずに腐男子を隠しながら学園生活を送る物語である。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~
乃ぞみ
BL
※ムーンライトの方で500ブクマしたお礼で書いた物をこちらでも追加いたします。(全6話)BL要素少なめですが、よければよろしくお願いします。
【腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者】
エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。
転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。
エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。
死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。
「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」
「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」
全体的に結構シリアスですが、明確な死亡表現や主要キャラの退場は予定しておりません。
闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったります。
本編ド健全です。すみません。
※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。
※ 攻めがまともに出てくるのは五話からです。
※ タイトル変更しております。旧【転生先がバトル漫画の死亡フラグが立っているライバルキャラだった件 ~本筋大幅改変なしでフラグを折りたいけど、何であんたがそこにいる~】
※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。
ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話
あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ハンター ライト(17)
???? アル(20)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後半のキャラ崩壊は許してください;;
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
俺の推し♂が路頭に迷っていたので
木野 章
BL
️アフターストーリーは中途半端ですが、本編は完結しております(何処かでまた書き直すつもりです)
どこにでも居る冴えない男
左江内 巨輝(さえない おおき)は
地下アイドルグループ『wedge stone』のメンバーである琥珀の熱烈なファンであった。
しかしある日、グループのメンバー数人が大炎上してしまい、その流れで解散となってしまった…
推しを失ってしまった左江内は抜け殻のように日々を過ごしていたのだが…???
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~
無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。
自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる