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「好き」ートモセ視点ー
しおりを挟む「ただいま~」
自分の部屋に入るなり、二段ベッドの下段に身体を投げる。
「とも兄、おかえりー。今日は収録?」
上段だから弟の光喜が下りてきた。
「そう。マジ疲れたー。ひたすらアヒルのボート漕ぎまくった」
「え、なにそれ。ウケる。ていうか、とも兄、またそのまま寝るなよぉー」
ゲシッと光喜にベッドからはみ出ている脚を蹴られた。
オレの兄弟は上に兄がいて下に弟がいる。
2階建ての一軒家なのに、父さんが書斎として部屋を使ってるせいでオレと光喜は同部屋だ。
おかげで体が大きくなっても小学生の頃から変わらず二段ベッドだ。
光喜も中2で身体がどんどんデカくなってきてるから、正直男ふたりで5畳の部屋は狭い。
蹴られた脚をベッドの中に収め、振動したスマホをズボンのポケットから取り出す。
見ると、メンバー全員からラインが。
ラブずのメンバーでグループを作ってて、そのライングループにリーダを先頭にショウ、ミツル、リュウ、アツシから今日の収録お疲れ様。とねぎらいのコメントが。
カイはなぜか個別で同じようなねぎらいのラインをしてきた。
アイもさっき別れたばかりなのに、ちゃんと家に着いたかとラインが。
みんなオレが倒れたのを相当心配したみたいで・・・。
なんか申し訳ない。
今度、振り付けで集まる時にみんなに差し入れを持っていこう。
じーんと感動しながらスマホを胸に当てていると、ジュンからラインじゃなくて電話がきた。
寝返りをうってうつ伏せの状態でスマホに出る。
「はい」
『おぅ、俺』
「ジュン? なに?」
まだ仕事中なのか、外らしきざわざわした音が耳に雑音として入る。
『今家? ちゃんと宮本さんに送ってもらったか?』
「うん。宮本さんの運転だよ。ていうか、ジュンはいつからオレの親になったんだよ」
『あ? お前、俺にそんなこと言える立場か?』
「うっ・・・」
倒れる前のことを思い出すと言葉に詰まる。
「・・・あの時は・・・ほんとごめん。ジュンが言ってることちゃんと聞かなくて」
フッと受話器越しにジュンが鼻で笑ったのが聞こえた。
「今、笑った? バカとか思ってるだろ?」
『おー思っとるわ! 忠告も聞かず倒れやがって。バカじゃねぇ、クソだ』
「口悪っ! あーどうせオレはクソだよ! 電話切るぞっ!」
『おい、まだ切んな。アキのことで電話したんだわ』
「アキ?」
ドキッと心臓が反応する。
『有力情報が手に入ったんだよ。うまくいけばアキって奴に会えるかも』
「・・・」
『トモ?』
「・・・もう、いいんだ」
『あ?』
「アキのことは忘れて」
『はぁ?! 何言って・・・』
ジュンがしゃべってる途中でブチッと通話を切った。
勢いがあった感情はすっかり消え、心が静かだ。
スマホが振動してまたジュンから電話がきたけどスルーしたら、ラインで逆切れされた。
「欲張りだったんだ」
アイの言う通り、欲張りすぎたんだ。
夢だけじゃなくて現実のアキにも会いたいなんて、欲張ったから会えなくなったんだ、多分。
しかも、アキの存在を証明したいなんて・・・。
「そんなのどうでもいい。アキに会いたい」
アキがオレのことただのアイドルとして好きでも、オレはアキが好きだ。
もう、探したりしないから夢に出てきてほしい。
「アキ」
どうしようもない切ない感情をなんとか収めようと、ギュッと顔を布団に押し付けた。
気がつくと目の前にアキが立っていた。
いつものTシャツにスウェットのズボンを履いている。
何か考えているのか、百面相しながら忙しそうだ。
気づいてもらうのを待つより先に感情のままにアキを力強く抱きしめる。
「アキッッ!! やっと会えたっ!」
会えたっ!
アキにやっと会えたっ!
すげー嬉しいっ!!
アキ、アキアキアキアキアキアキアキアキアキアキアキアキアキアキアキアキアキーーーーーッッ。
アキの合宿以来だから1ヵ月くらいなんだろうけど、数か月ぶりの気分だ。
アイと雰囲気が似てると思っていたけど、確かに背格好とか身長が近いかもしれない。
夢の中だからか、抱きしめた感触は正直わかんない。アイみたいに良い匂いがするわけないし。
だけど、アイに感じない気持ちがアキにはめちゃくちゃ感じる。
アキのしぐさ、表情のどれもがいちいちクる。
女子じゃないけど・・・キュンキュンするっ
オレ、マジでアキが好きなんだ。なんて、改めて実感する。
アキーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ。
弾けるようにハッと目が覚める。
視界の先にはベッドの上段の底が見える。
かすかだけど光喜の寝息が聞こえる。
昨日の服のまま、掛け布団もかけず寝てしまったらしい。
「・・・」
まだ頭の中で余韻としてアキの姿が残っていることに、顔がニヤける。
ヤバイ、アキに会えた。
アキに・・・。
告られたッッーーーーーーーーー!!!
寝返りをうって、身体をおもいっきりねじりながら声にならない声で叫ぶ。
応援じゃなくて、ファンじゃなくてオレのこと恋愛として好きって言ったッッ!!
「ッシャッッ!!」
喜びのあまりガッツポーズと一緒に声が出る。
しかも、アキとキスまでしてしまった。
「マジ、ヤバイ」
抜けてるところがないくらい夢での記憶が鮮明に思い出せる。
アキがオレにため口で話しかけてくれたことも、アキの表情も力いっぱい抱きしめたことも、アキのキス顔も・・・。
キス。
カイとした時はただただ気持ち悪いだけだったけど、夢のせいなのかアキとのキスは全然嫌じゃなかった。
嫌どころかもっとしたくなった。
きょとんしてるアキを見下ろす自分を思い出し、いてもたってもいられずベッドの中で身をよじりまくって悶える。
アキが全然抵抗しないからって、手ぇ出すの早すぎだよっ!! さすがにっっ!!
と思いつつ、顔がめちゃくちゃニヤける。
まさか、次夢で会ったら今日以上のことも・・・っ!
いや、落ち着け。それはさすがにダメでしょ。ここは清く正しく美しいお付き合いを。
「・・・」
チラッと上目遣いでオレを見てきたアキの顔を思い出し、身悶えする。
好きッッ。
マジ好きッ。
宇宙いちかわいいっ。
上目遣いでまた見られたら我慢できる自信ないし、誘ってると思うでしょ?!
「落ち着け~。手の早いアイドルってどうなの?! カイかよ?! それは絶対嫌だッ」
でも、ワンチャンあったら乗っからない自信ないッ! いや、無理でしょ!
頭の中で葛藤していると、下半身の異変に気づき起き上がる。
「朝だから元気なのはいつものことだからしょうがないけど・・・アキのこと考えてたから余計に・・・」
自分のアホさに恥ずかしくなる。
スマホを見ると、もう少しで光喜がサッカー部の朝練で起きる時間になる。
兄弟とはいえ、気まずいのはお互い嫌なので・・・2階の男専用と化しているトイレに行くことに。(母さんは一切近寄らない)
ベッドから下りたところでふと疑問が浮かぶ。
「男同士ってどうやんの?」
未知との遭遇をした気分だ。
すかさずスマホを持ってトイレにこもった。
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