ボクの推しアイドルに会える方法

たっぷりチョコ

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「証拠」ートモセ視点ー2/2

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 1日が一瞬で消えるくらい激多忙。
 学校、芸能の仕事、受験勉強、ときどき生配信。
 どれも手が抜けず、全力でやる毎日。
 隙間をみては寝るけど、アキに会えるどころか爆睡。
 夢で会えないならと、相変わらずパンケーキ専門店に通い、宮本さんに頼んで過去のファンレターを漁ってアキを探す。

「おい、トモ」
 収録が終わって廊下を歩いていると、ポンッとジュンが肩に手を置く。
 ワンテンポ遅く振り返って反応する。
「・・・え? なに?」
 ゲッとジュンが一歩後ろに下がった。
「おまえ・・・ちゃんと睡眠とってるか? 飯は?」
「・・・とってるよ。親みたいなこと聞くね」
「顔色やべーって。クマもひどい。コンシーラーで隠せてないんじゃね? 自分じゃなくてメイクさんにやってもらえよ」
「・・・えー?」
 ジュンと話してるのに足元がふわふわする。ジュンの声もなんだか遠く聞こえる。
 頭の中はさっき詰め込んだ英単語でいっぱいだ。
 来月は中間テストがあるからそこで挽回しなきゃマズい。模試もCからAに戻さないと。
 
 アキ・・・。
 アキに会いたい。

 英単語の横でアキの笑顔がオレの気力を支える。

 ガシッとジュンがオレの腕をつかんだ。
「なに?」
「なにじゃねーだろ。さっきからフラフラなんだよっ。おまえはもう家に帰るんだろ? 宮本さんに送ってもらうよう頼んでやるからとりあえず控室で寝てろ」
 そう言われてズボンのポケットからスマホを取り出し今が何時かチェックする。
「中途半端だ。この時間に寝てもアキに会えない」
「あ?」
「いろんな時間に寝てみたんだけど、アキに会える確率はやっぱり夜の11時くらいからなんだよね。だから、この時間だと寝ても・・・」
「うっせ! アキなんてどうでもいいんだよっ! 夢なんか見んな! ちゃんと休息とれ!」
「どうでもよくないよ! 全然アキに会えてないんだ! アキの合宿は2週間で終わったはずなのにっ!」
 ジュンに言われてカーッと頭に血がのぼる。
 廊下に声が響いた。

「だーから・・・それは・・・」
 イラ立つジュンが言いかけてため息をついた。気持ちを切り替えたのか、落ち着いた表情で、
「いいからまず寝ろ」
「でも・・・この時間はアキに会えない」
 ジュンの落ち着いた声に、うつむいて呟く。
「なんでそんなにアキに執着すんだよ」
「え?」
 ふいに顔を上げるとジュンと目が合う。真っすぐにオレを見てる。
「あれだろ? カズ先輩がニューヨーク行ったから代わりにアキに頼ってるんだろ」
「は?」
 まったく頭になかったことを言われて目が開く。

「・・・なんでカズ先輩が出てくるんだよ」
「カズ先輩がいなくて寂しさを埋めるためにアキに執着してるんじゃねーの?」
「はぁぁ?! ふっざけんな! 子供扱いすんなって言ってるだろ!」
 再び頭に血がのぼり、バッと勢いよくジュンの手を振り払って控室へと向かった。

 なんでアキをカズ先輩の代わりにするんだよ!
 ジュンの奴、なにかとカズ先輩のこと出して、なんなんだよっっっ!!

 八つ当たりとばかりに控室のドアを力任せに閉め、収録用の服を脱ごうとしたところでクラッとめまいが。
「ヤバ・・・」
 よろけてすぐ近くにあるテーブルに手をつこうとしたらバランスが崩れるのと同時に視界が回った・・・。







 オレと似たような髪型をした男子が目の前に立っていた。
 幼く丸い顔をして、弟の光喜より背は低いけど同じ中学生くらいだと思った。
 彼はオレを見るなり目を輝かせ、
「とっ!! ととととととととトモセくんっですよね?!!」
 すごいどもった人、初めて見た。
「はい」
「ラブずの木山知世くん! ですよね!!」
「そうですね」
 二度も確認された。
 オレがラブずの木山知世だと確認できたところで、彼のテンションがマックスに。
 女子みたいに黄色い声をあげて喜んだり、こんなボクがトモセくんと話してるなんてと土下座してきたり。(なんで?)
 とにかくコロコロと表情が変わって落ち着きがなかった。
 話しかけようなら、いちいち過剰に反応して顔を赤くしたり逃げようとしたり。

 あきらかにオレのファンなんだろうけど、挙動すぎて笑える。

 今日は某番組のロケで嫌な思いをした日だった。
 前からやたらと弄ってくる芸人さんがいたけど、その人とロケが一緒だった。
 他にもメンバーが2人いたのに、オレばかり終始弄ってくるし、カメラが回ってるならまだわかるけど、それ以外でも嫌味まで言われる始末。
 睨みつけてやりたかったけど、そんなことしたらネタにされるだけ。
 ロケが終わるまでひたすら耐えた。
 他にもロケ中に軽くミスったり。マジでさんざんな日だった。

 こうゆう時はカズ先輩に愚痴を聞いてもらっていたけど、そのカズ先輩は留学でニューヨークに行ってしまった。
 愚痴くらいでメールするのも・・・。カズ先輩も向こうで頑張ってるのに。
 正直、だいぶストレスも溜まっていて、こうゆう嫌なことがあると芸能活動辞めたいって思う。
 単純かもしれないけど、たいしてアイドル業に執着もなく。

 だから、急に現れた男子のふるまいにドン引きするどころか、なんか気が抜けた。
 
「なんて呼べばいい?」
「そ、そそそそんな! 嬉しすぎるファンサッ!!」
「ファンサじゃなくて、名前知らないと呼べないと思って」
「よ、呼んでくれるんですかっ!!」
「呼びます。だから、名前教えて」
「・・・アキ・・・て呼んでくれますか?」
 くれますか・・・て、名前なのに。
 思わずクスッと笑みがこぼれる。
「アキ」
 オレがそう呼んだら、アキは走って逃げて戻って来た。(おもろい)

「あー。 なんか、ここ何もなくていいね! 真っ白だし」
 んーっ! と腕を上げて伸びをした。
 どこを見ても上も足元も真っ白で、建物さえも、なにもない。
 自分がどこにいるかわからなくなりそうな空間なのに、今のオレには妙に居心地がいい。
 多分、いつも大勢の人に囲まれ、見られ、聞きたくもない雑音ばかり聞いてるからだ。

「あ、あの、何か嫌なことでもありましたか?」
「え?」
 恐る恐る聞いてくるアキに、オレの目が開いた。
 見透かされた。
「・・・なんで?」
「あ、えーと・・・なんとなく? トモセくんの表情がいつもと違うなぁと思って」
「・・・オレってわかりやすいかな?」
「ご、ごごごめんなさい! ボクなんかが出しゃばってっ!」
 ただ質問しただけなのに、急にアキが土下座をしようとするから慌てて止めた。

「実はロケの仕事で・・・嫌な芸人さんがいて・・・てごめん」
 ファンに話すことじゃないと続きを濁すと、
「もしかして、スネ夫みたいな顔をした芸人さんですか?」
「え」
「番組で時々一緒に出演されてますよね! 最近気になってたんです。あのスネ夫似の芸人さんトモセくんにやたら悪い絡みしてくるなぁって! ファンの間でも言わてて!」
 真剣に話をしてくれてるのに、「スネ夫似」に思いのほかツボって耐えらず吹き出した。
「ヤバっ。 スネ夫似ってっ!! 確かに似てるっ!」
 久々に爆笑して涙まで出た。

 きょとんとするアキにしまったと笑うのをやめる。
 アイドルの木山知世は爆笑なんてしない。
「えーと・・・普段はもっと静かに笑うんだけど・・・その」
 なんていいわけをしようか。イメージを壊しちゃったことをどうフォローしようか悩んでいると、
「トモセくんの笑い声が聞けて嬉しいです!」
「え」
 イメージが崩れたと怒られるどころか、笑顔で喜んでいる。
「ボク・・・なにやってんだろうって思うことが多くて。トモセくんの生配信観ました! たまたまだったんですけど、その時、コンビニでなにげに買った安いプリンをトモセくんも持ってて」
 
 プリン・・・。カズ先輩に貰ってから気に入ってことあるごとに買っては食べてる「とろりプリン」のことか。

「プリンのことを熱く語るトモセくんを観て・・・。アイドルでも安いプリン食べるんだなぁて」
「そこ?」
「あ、いえいえいえ! なんていうか、アイドルでも嫌なことがあったら甘いもので癒されたいとか思うんだなぁて。今までアイドルに共感を持ったことがなくて。憧れで雲の上の存在というか。だから、トモセくんが身近に感じたんです! アイドルなのに!」
 慌ててたのに、急に真顔で力強く言われた。
「トモセくんがいるから毎日頑張れるんです・・・。ボクっ! トモセくんの大ファンです! 応援してますっ! ずっとずっと!」
「・・・ありがとう」

 同じプリンを食べてただけでファン・・・て面白すぎる。
 こんなファン、初めてだ。
 アイドルっぽくないオレがいいなんて・・・。






 視界がぼやけて見える。
 どこかの天井?
 意識がはっきりしたところで、病院の天井だということに気づく。
「目が覚めたかい?」
 宮本さんが顔を覗かせホッとした顔をする。
「・・・オレ・・・」
 周りを見渡すと個室らしき病室に、オレひとりベッドの中にいる。
 チクッと痛みを感じると思ったら、右腕に点滴の管がつけられていた。
「貧血と過労だって。ごめんね、無理させて」
「・・・いえ、オレこそ」
「とりあえず、今日はこのまま病院に泊まって問題なさそうだったら明日退院だ。ちょっと事務所に電話してくるよ。ご両親には僕から連絡するから。トモセくんはとにかく安静にしてて」
 そう言って宮本さんがさっそくスマホを片手に病室を出て行った。

 頭がボーッとする。

 さっきの夢はきっとアキと初めて会った時の夢だ。

 倒れる前にジュンと話してたことを思い出し、言葉にならない感情が沸きあがってきた。

 ジュンの言う通り、カズ先輩がいなくて相談や愚痴れる人がいなくて、頼れずに辛かった。
 そんな時にアキが夢に出てきた。

 目頭が熱くなり、誰もいないのに左腕で隠した。
「アキに会いたい」

 なんでこんな大事なこと忘れるんだよ。
 あの夢から、オレの中でアキがどれだけ心の支えになっていたか。
 
 カズ先輩の代わりじゃない。
 
 きっかけだったのかもしれないけど、同じプリンを食べてただけでファンになるような、オレを身近に感じたアキだから。

『トモセくんがいるから毎日頑張れるんです』
 オレもだよ、アキ。

『応援してます! ずっとずっと』
 アキがそう言ってくれるから頑張れるんだよ?

 今、どこで何してるの?

 会いたい、て言ったら、夢から出てきて会いにきてくれる?

「アキが好きなんだ」
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