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「証拠」ートモセ視点ー1/2
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大阪でのコンサートが終わった。
次は福岡だけど、その前に1日だけ東京に戻って事務所へと向かった。
メンバーの中では一番ファンが少ないからすぐアキの手紙を見つけられると、実家でゆっくりしてからお昼頃事務所に行ったけど、甘かった。
空き部屋に段ボール6箱。ぎゅうぎゅうに押し込まれたファンレターの山。
手紙以外にぬいぐるみとか手作りのアルバムとかプレゼントもある。
最初は意気揚々と探し始めたけど・・・。
「さっきから見てるけど全然ねーな」
本当に手伝いに来てくれたジュンが手紙をひとつひとつ確認しながらぼやく。
「うーん・・・まさかこんなにあるとは」
椅子に座ってやるのが疲れて、オレもジュンも床にあぐらをかきながら名前と住所をチェック。
「さっきから惜しいのはあるんだよな、アキナとかアキラとか。他にヒントとかないのかよ。苗字とかどこに住んでるとか」
「ない。アキはアキ」
「マジか」
というか、どこに住んでるかなんて知るわけない。
やっとひと箱観終わったところでため息がこぼれる。
夢の中で会ってるとはいえ、オレってアキのこと何も知らないんだ。いや、部活とかバイトとかは知ってるけど、もっと特定できること。
「トモのファンなんだろ? 見覚えとかねーの? 握手会で会ったとか、今回のコンサート以外で見たことあるとかさー」
「ない。と思う。ファンが少ないのにちゃんとファンの顔見てないっていうか」
「見ろよ」
「・・・だって、すごい見てくるから恥ずいっていうか。番組企画で会うファンとかならギリ覚えてる」
「まーあんだけいるからいちいち覚えてられねーけど。でも、印象強い奴なら俺は覚えてるけど」
「オレ、薄情なのかなー」
「・・・薄情っつーか、まーでも、アキはどこにでもいそうな地味な顔だからいくら見ても忘れちまうかもな!」
「ジュン!」
励ますにしてもひどい。
握手会とはいえば・・・。
「オレ、夢の中でアキに聞いてた」
「あ?」
「握手会とかコンサートとか行ったことあるかって。そしたらアキ、コンサートは2回あるって。握手会は抽選に応募してるけど毎回落ちるって」
「抽選・・・つーことは、最近のファンか」
「アキ、握手会が抽選になる前にファンになっとけばよかったって後悔してた」
「・・・夢で聞いたって言ったよな? 夢ん中で意識あんのか?」
「え? わかんない。今まで覚えてなかったし。コンサートでアキを見つけた後に見た夢はちゃんと覚えてたけど」
「おもろいな。覚えてねーのに夢の中のお前はアキにちゃっかり聞いてんだな」
「・・・そう言われると、夢の中のオレが別にいるみたいで怖・・・」
「まーそれだけトモの中で気になってたことなんじゃねーの?」
「どうゆうこと?」
はてなを浮かべるオレに、ジュンが一呼吸置いてから口を開いた。
「俺、亡くなったばーちゃんが夢に出てきたことあんだわ」
「デビュー前に亡くなったって言ってたっけ」
「おう。俺がアイドルになるのすげー楽しみにしてたからさ。ずっと引っかかってて。そしたら、コンサートしてる夢見てさ、客席にばーちゃんいんの。マジウケた」
はははと笑うジュンが優しい目をしてる。
「いいね、夢叶ったじゃん」
「だろ? 夢ん中のばーちゃん嬉しそうな顔してたから俺も安心した」
「うん」
「話を戻すと・・・気になってることが夢に反映されるってことなんじゃねーかって俺は思う。だから、トモがアキについて知りたいから夢で聞いたんじゃね?」
「そっか。だったら連絡先知りたいって思ってたら夢の中で聞けるってこと?!」
「知らねーけど・・・ま、試してみれば? つーか、俺もまたばーちゃんに会いてーな。会いたい奴に夢で会えたら最高だよな」
フッと鼻先で笑うけど、ジュンの目は変わらず優しい目をしてる。
だいぶ前に聞いたけど、おばさんが仕事で家にいない時はおばあさんが面倒みてくれてたって言ってた。アイドルになるのを応援してくれたのも。
荒れてた頃もあるジュンだけど、ほんと、いい奴なんだよな。
しみじみしてるとジュンが声をあげた。
「トモ! あった! アキって名前の手紙!」
「マジ?!」
ジュンが持ってるピンク色の手紙を受け取り、ドキドキしながら封筒を開けて手紙の内容を読んでがっくりと肩を落とす。
「どした?」
「・・・小学生の女の子からだった」
「あちゃー。ま、小学生にも人気が出てきてよかったじゃん」
「・・・うん」
こくりと頷き、アキの手紙探しを再開する。
それから2時間ほど探したところでジュンはバラエティ番組の収録で出て行った。
途中、コンビニでおにぎりを買って、それを食べながらひとり黙々と残りの段ボール箱を調べたけど、結局アキの手紙は見つからなかった。
積んだ。
「まぁ、元気だせよってここどこだよ?」
日を改め、暑い日差しの中、受験勉強をあっちのけにしてジュンを街中に呼び出す。
「ここをまっすぐ歩くとパンケーキ専門店があるんだ。オレがおごるからついて来て」
「あ? またパンケーキにハマってんのか? そういえば、前にもテイクアウトでパンケーキ頼んでたよな」
サングラス姿のジュンが厳つい。
「アキのバイト先がパンケーキ専門店なんだ」
オレはここぞとばかりに日差しをバックにドヤ顔を決めた。
「あ?」
「とりあえず東京にあるパンケーキ専門店に行ってアキを探そうと思う!」
「・・・おい、暑さで脳みそ沸いたか? アキが東京でバイトしてるってわかったのか?」
「わかんない。でも、東京でのコンサートに来たから関東に住んでると思うんだよね」
「・・・お前・・・受験生だろ! なんで時々アホになるんだよ! 東京のコンサートなんて来ようと思えば北海道の奴だって来れるわっっ!!」
ジュンの声が大きく、歩く人たちの視線がこっちに注がれる。
「ジュン・・・目立ってるよ」
「うるせー!! こんっなクソ暑い夏に闇雲にパンケーキ屋なんか行けるかっっ! 手紙が見つからなかったからって無茶しすぎだろ。もっと他に方法ないのかよ」
「・・・だって・・・」
ジュンに叱られ気持ちが落ち込む。
正直、アキからの手紙は簡単に見つかると思ってただけにショックだった。
「これでも夢の中の会話を思い出して、オレなりに次の策を考えたつもりなんだ」
「クソすぎだろ。明日から北海道でのコンサートもあんのに」
「うっ」
「どこのパンケーキ屋とか言ってなかったのか?」
「厨房でパンケーキを作ってるとしか」
「厨房かよー。見えねーじゃん!」
「うっ」
へこむオレにジュンが重いため息を吐く。
「・・・声出したら腹減った。しょーがねーから今日はそのパンケーキ屋行くぞ」
「いいの!」
渋い顔をしながらもオッケーしてくれたジュンにテンションが上がる。
「今日だけだからな!」
「やった! じゃ、3件!」
「3件も行くのかよ?!」
「アキが教えてくれたんだ。店で人気のパンケーキ。それに似たメニューが置いてある店を3件見つけたから」
「へー。とりあえず一応当てはあったんだな」
「よしっ! 行こう!」
スマホを頼りに歩きだすオレにジュンが「とりあえずトモも軽く変装しろ」と怒られた。
結局、パンケーキ専門店も撃沈に終わった。(3件で終了)
北海道の公演も無事に終わり、延期になっていた期末テストも受け、模試も受けた。
諦めきれずパンケーキ専門店を見つければ入って厨房を覗くのが癖になるくらい行くようになった。
そして、アキと夢で会ってから2週間が過ぎ、夏休みが終わった。
「トモセくん、きみのお母さんから電話があったよ」
「うっ」
撮影が終わった控室でマネージャーの宮本さんが困り顔でオレを椅子に座らせ、宮本さんもテーブルを挟んで座った。
まるで教師と生徒の面談状態だ。
「学校から電話があって、期末テストの成績が下がったみたいだね。模試の結果も良くなかったみたいだ。トモセくんが受ける予定の大学の判定はAからCに下がった。このままだと非常にまずいよ。」
「・・・すみません」
「夏休み中は芸能の仕事を控えて受験勉強に専念してたんじゃなかったのかい? 途中コンサートがあったけど、それも、勉強に影響がないように配慮はしていたつもりだよ」
「・・・ですね」
宮本さんのジワジワくる圧に手が冷える。
「言いたくないけど、もし受験に失敗してももう協力してあげれないから浪人でいくなら仕事と勉強の両立は自分で管理していかなきゃならない。それに、受験生ということはもう世間に公表してあるから来年は現役大学生という肩書でバラエティ番組の仕事もきっとまわってくる。僕が言いたいこと、わかるよね?」
「・・・はい! 仕事は約束どおり入れてください。ちゃんと勉強と両立していきます。浪人なんて絶対しません!」
そんな自信、これっぽっちもないけど、今はそう言い切るしかない。
オレの言葉に宮本さんがニコッと笑顔を向ける。が、目が笑ってない。(こわッ)
「了解! 僕もトモセくんには頑張って欲しいんだ。応援だってしてるんだよ。協力できることはするから。頑張って!」
「は・・・はい、が、頑張ります」
笑顔を貼り付けるけど、引きつってしまった。
宮本さんが控室を出て行くのを見届けたあと、どっと重いため息が出てテーブルに顔をつける。
「マジ怖い、宮本さん! うわー釘刺された」
「おい、さっきのはヤバかったな」
「ジュン」
顔を青くしながらジュンが控室に入って来た。
「聞いてた?」
「入ろうとしたら話し声が聞こえたから・・・入るにも入れず。悪い」
「・・・ジュンでよかった。これがカイとかリーダーだったら最悪だー」
「カイはからかってくるだろうな。リーダーは・・・考えたくねーな」
「ねー」
ふたりして重いため息。控室の空気がお通夜みたいだ。
静かな控室にオレは口を開いた。
「アキに会えないんだ」
「あ?」
「もう2週間経ったし、2学期も始まったのに・・・1度も夢で会えてないんだ! どう思う?!」
起き上がって目を見開くオレに、ジュンの顔がドン引きしてる。
「知らねーよ。成績が下がったのはそのせいか?」
「成績は関係ない。でも、夏休みに勉強放ってアキのこと探してたから」
「おい! 結局関係あんじゃねーか!」
「だーって、気になってそれどころじゃないっていうか」
「しっかりしろよ、アイドルに浪人なんて肩書ねーんだよ!」
「・・・わかってる、かっこ悪いもんね」
プレッシャーがハンパない。
母さんにも説教されたし。
「あーなんでアキに会えないんだろー」
グテッとテーブルに覆いかぶさるように突っ伏す。
「・・・そのアキって奴、マジでカイのファンとかってことねーかな?」
「はぁぁ?!!」
椅子に座ってるジュンが爆弾発言するからデカい声が出た。
「絶対絶対ないっ!! アキはオレのファン!」
「だーからそれが思い込みっつーか。印象強いことが夢ン中で出てくるっつーから、トモがカイのファンで印象に残った奴が夢ン中に出てんじゃねーかと思って」
「ないっ! それだったら現実でのアキのことを覚えてるはずだよ」
「あ? そーか。でもさー忘れてるだけで脳みそは覚えてる的な?」
適当に発言するな!
「でもよー、手紙も見つかんなかったし、カメラに映ってるアキはカイのスカーフ持ってるし、なーんかなー」
「・・・疑うんなら別に協力してくれなくていいよ。オレのことなんだし」
「怒んなって。そーいえば、テレビで前世の記憶を持つ子供の話を観たことがあってさ」
「え?」
「子供があまりにもペラペラとしゃべるから不思議に思った親が調べたらしいんだけど、結局その前世の人物は見つからなかったていう・・・なんか似てね?」
「・・・似てない! ていうか、アキは前世の記憶でもない!」
「前世じゃねーって。似てるっつー話!」
「似てない」
ケラケラ笑うジュンにムカついて控室を出た。
なんだよ、からかって。
アキは前世の人間でもカイのファンでもない。
怒りがやる気スイッチを押し、手に力が入る。
絶対、アキがオレのファンで現実に存在するって証明してやる。
次は福岡だけど、その前に1日だけ東京に戻って事務所へと向かった。
メンバーの中では一番ファンが少ないからすぐアキの手紙を見つけられると、実家でゆっくりしてからお昼頃事務所に行ったけど、甘かった。
空き部屋に段ボール6箱。ぎゅうぎゅうに押し込まれたファンレターの山。
手紙以外にぬいぐるみとか手作りのアルバムとかプレゼントもある。
最初は意気揚々と探し始めたけど・・・。
「さっきから見てるけど全然ねーな」
本当に手伝いに来てくれたジュンが手紙をひとつひとつ確認しながらぼやく。
「うーん・・・まさかこんなにあるとは」
椅子に座ってやるのが疲れて、オレもジュンも床にあぐらをかきながら名前と住所をチェック。
「さっきから惜しいのはあるんだよな、アキナとかアキラとか。他にヒントとかないのかよ。苗字とかどこに住んでるとか」
「ない。アキはアキ」
「マジか」
というか、どこに住んでるかなんて知るわけない。
やっとひと箱観終わったところでため息がこぼれる。
夢の中で会ってるとはいえ、オレってアキのこと何も知らないんだ。いや、部活とかバイトとかは知ってるけど、もっと特定できること。
「トモのファンなんだろ? 見覚えとかねーの? 握手会で会ったとか、今回のコンサート以外で見たことあるとかさー」
「ない。と思う。ファンが少ないのにちゃんとファンの顔見てないっていうか」
「見ろよ」
「・・・だって、すごい見てくるから恥ずいっていうか。番組企画で会うファンとかならギリ覚えてる」
「まーあんだけいるからいちいち覚えてられねーけど。でも、印象強い奴なら俺は覚えてるけど」
「オレ、薄情なのかなー」
「・・・薄情っつーか、まーでも、アキはどこにでもいそうな地味な顔だからいくら見ても忘れちまうかもな!」
「ジュン!」
励ますにしてもひどい。
握手会とはいえば・・・。
「オレ、夢の中でアキに聞いてた」
「あ?」
「握手会とかコンサートとか行ったことあるかって。そしたらアキ、コンサートは2回あるって。握手会は抽選に応募してるけど毎回落ちるって」
「抽選・・・つーことは、最近のファンか」
「アキ、握手会が抽選になる前にファンになっとけばよかったって後悔してた」
「・・・夢で聞いたって言ったよな? 夢ん中で意識あんのか?」
「え? わかんない。今まで覚えてなかったし。コンサートでアキを見つけた後に見た夢はちゃんと覚えてたけど」
「おもろいな。覚えてねーのに夢の中のお前はアキにちゃっかり聞いてんだな」
「・・・そう言われると、夢の中のオレが別にいるみたいで怖・・・」
「まーそれだけトモの中で気になってたことなんじゃねーの?」
「どうゆうこと?」
はてなを浮かべるオレに、ジュンが一呼吸置いてから口を開いた。
「俺、亡くなったばーちゃんが夢に出てきたことあんだわ」
「デビュー前に亡くなったって言ってたっけ」
「おう。俺がアイドルになるのすげー楽しみにしてたからさ。ずっと引っかかってて。そしたら、コンサートしてる夢見てさ、客席にばーちゃんいんの。マジウケた」
はははと笑うジュンが優しい目をしてる。
「いいね、夢叶ったじゃん」
「だろ? 夢ん中のばーちゃん嬉しそうな顔してたから俺も安心した」
「うん」
「話を戻すと・・・気になってることが夢に反映されるってことなんじゃねーかって俺は思う。だから、トモがアキについて知りたいから夢で聞いたんじゃね?」
「そっか。だったら連絡先知りたいって思ってたら夢の中で聞けるってこと?!」
「知らねーけど・・・ま、試してみれば? つーか、俺もまたばーちゃんに会いてーな。会いたい奴に夢で会えたら最高だよな」
フッと鼻先で笑うけど、ジュンの目は変わらず優しい目をしてる。
だいぶ前に聞いたけど、おばさんが仕事で家にいない時はおばあさんが面倒みてくれてたって言ってた。アイドルになるのを応援してくれたのも。
荒れてた頃もあるジュンだけど、ほんと、いい奴なんだよな。
しみじみしてるとジュンが声をあげた。
「トモ! あった! アキって名前の手紙!」
「マジ?!」
ジュンが持ってるピンク色の手紙を受け取り、ドキドキしながら封筒を開けて手紙の内容を読んでがっくりと肩を落とす。
「どした?」
「・・・小学生の女の子からだった」
「あちゃー。ま、小学生にも人気が出てきてよかったじゃん」
「・・・うん」
こくりと頷き、アキの手紙探しを再開する。
それから2時間ほど探したところでジュンはバラエティ番組の収録で出て行った。
途中、コンビニでおにぎりを買って、それを食べながらひとり黙々と残りの段ボール箱を調べたけど、結局アキの手紙は見つからなかった。
積んだ。
「まぁ、元気だせよってここどこだよ?」
日を改め、暑い日差しの中、受験勉強をあっちのけにしてジュンを街中に呼び出す。
「ここをまっすぐ歩くとパンケーキ専門店があるんだ。オレがおごるからついて来て」
「あ? またパンケーキにハマってんのか? そういえば、前にもテイクアウトでパンケーキ頼んでたよな」
サングラス姿のジュンが厳つい。
「アキのバイト先がパンケーキ専門店なんだ」
オレはここぞとばかりに日差しをバックにドヤ顔を決めた。
「あ?」
「とりあえず東京にあるパンケーキ専門店に行ってアキを探そうと思う!」
「・・・おい、暑さで脳みそ沸いたか? アキが東京でバイトしてるってわかったのか?」
「わかんない。でも、東京でのコンサートに来たから関東に住んでると思うんだよね」
「・・・お前・・・受験生だろ! なんで時々アホになるんだよ! 東京のコンサートなんて来ようと思えば北海道の奴だって来れるわっっ!!」
ジュンの声が大きく、歩く人たちの視線がこっちに注がれる。
「ジュン・・・目立ってるよ」
「うるせー!! こんっなクソ暑い夏に闇雲にパンケーキ屋なんか行けるかっっ! 手紙が見つからなかったからって無茶しすぎだろ。もっと他に方法ないのかよ」
「・・・だって・・・」
ジュンに叱られ気持ちが落ち込む。
正直、アキからの手紙は簡単に見つかると思ってただけにショックだった。
「これでも夢の中の会話を思い出して、オレなりに次の策を考えたつもりなんだ」
「クソすぎだろ。明日から北海道でのコンサートもあんのに」
「うっ」
「どこのパンケーキ屋とか言ってなかったのか?」
「厨房でパンケーキを作ってるとしか」
「厨房かよー。見えねーじゃん!」
「うっ」
へこむオレにジュンが重いため息を吐く。
「・・・声出したら腹減った。しょーがねーから今日はそのパンケーキ屋行くぞ」
「いいの!」
渋い顔をしながらもオッケーしてくれたジュンにテンションが上がる。
「今日だけだからな!」
「やった! じゃ、3件!」
「3件も行くのかよ?!」
「アキが教えてくれたんだ。店で人気のパンケーキ。それに似たメニューが置いてある店を3件見つけたから」
「へー。とりあえず一応当てはあったんだな」
「よしっ! 行こう!」
スマホを頼りに歩きだすオレにジュンが「とりあえずトモも軽く変装しろ」と怒られた。
結局、パンケーキ専門店も撃沈に終わった。(3件で終了)
北海道の公演も無事に終わり、延期になっていた期末テストも受け、模試も受けた。
諦めきれずパンケーキ専門店を見つければ入って厨房を覗くのが癖になるくらい行くようになった。
そして、アキと夢で会ってから2週間が過ぎ、夏休みが終わった。
「トモセくん、きみのお母さんから電話があったよ」
「うっ」
撮影が終わった控室でマネージャーの宮本さんが困り顔でオレを椅子に座らせ、宮本さんもテーブルを挟んで座った。
まるで教師と生徒の面談状態だ。
「学校から電話があって、期末テストの成績が下がったみたいだね。模試の結果も良くなかったみたいだ。トモセくんが受ける予定の大学の判定はAからCに下がった。このままだと非常にまずいよ。」
「・・・すみません」
「夏休み中は芸能の仕事を控えて受験勉強に専念してたんじゃなかったのかい? 途中コンサートがあったけど、それも、勉強に影響がないように配慮はしていたつもりだよ」
「・・・ですね」
宮本さんのジワジワくる圧に手が冷える。
「言いたくないけど、もし受験に失敗してももう協力してあげれないから浪人でいくなら仕事と勉強の両立は自分で管理していかなきゃならない。それに、受験生ということはもう世間に公表してあるから来年は現役大学生という肩書でバラエティ番組の仕事もきっとまわってくる。僕が言いたいこと、わかるよね?」
「・・・はい! 仕事は約束どおり入れてください。ちゃんと勉強と両立していきます。浪人なんて絶対しません!」
そんな自信、これっぽっちもないけど、今はそう言い切るしかない。
オレの言葉に宮本さんがニコッと笑顔を向ける。が、目が笑ってない。(こわッ)
「了解! 僕もトモセくんには頑張って欲しいんだ。応援だってしてるんだよ。協力できることはするから。頑張って!」
「は・・・はい、が、頑張ります」
笑顔を貼り付けるけど、引きつってしまった。
宮本さんが控室を出て行くのを見届けたあと、どっと重いため息が出てテーブルに顔をつける。
「マジ怖い、宮本さん! うわー釘刺された」
「おい、さっきのはヤバかったな」
「ジュン」
顔を青くしながらジュンが控室に入って来た。
「聞いてた?」
「入ろうとしたら話し声が聞こえたから・・・入るにも入れず。悪い」
「・・・ジュンでよかった。これがカイとかリーダーだったら最悪だー」
「カイはからかってくるだろうな。リーダーは・・・考えたくねーな」
「ねー」
ふたりして重いため息。控室の空気がお通夜みたいだ。
静かな控室にオレは口を開いた。
「アキに会えないんだ」
「あ?」
「もう2週間経ったし、2学期も始まったのに・・・1度も夢で会えてないんだ! どう思う?!」
起き上がって目を見開くオレに、ジュンの顔がドン引きしてる。
「知らねーよ。成績が下がったのはそのせいか?」
「成績は関係ない。でも、夏休みに勉強放ってアキのこと探してたから」
「おい! 結局関係あんじゃねーか!」
「だーって、気になってそれどころじゃないっていうか」
「しっかりしろよ、アイドルに浪人なんて肩書ねーんだよ!」
「・・・わかってる、かっこ悪いもんね」
プレッシャーがハンパない。
母さんにも説教されたし。
「あーなんでアキに会えないんだろー」
グテッとテーブルに覆いかぶさるように突っ伏す。
「・・・そのアキって奴、マジでカイのファンとかってことねーかな?」
「はぁぁ?!!」
椅子に座ってるジュンが爆弾発言するからデカい声が出た。
「絶対絶対ないっ!! アキはオレのファン!」
「だーからそれが思い込みっつーか。印象強いことが夢ン中で出てくるっつーから、トモがカイのファンで印象に残った奴が夢ン中に出てんじゃねーかと思って」
「ないっ! それだったら現実でのアキのことを覚えてるはずだよ」
「あ? そーか。でもさー忘れてるだけで脳みそは覚えてる的な?」
適当に発言するな!
「でもよー、手紙も見つかんなかったし、カメラに映ってるアキはカイのスカーフ持ってるし、なーんかなー」
「・・・疑うんなら別に協力してくれなくていいよ。オレのことなんだし」
「怒んなって。そーいえば、テレビで前世の記憶を持つ子供の話を観たことがあってさ」
「え?」
「子供があまりにもペラペラとしゃべるから不思議に思った親が調べたらしいんだけど、結局その前世の人物は見つからなかったていう・・・なんか似てね?」
「・・・似てない! ていうか、アキは前世の記憶でもない!」
「前世じゃねーって。似てるっつー話!」
「似てない」
ケラケラ笑うジュンにムカついて控室を出た。
なんだよ、からかって。
アキは前世の人間でもカイのファンでもない。
怒りがやる気スイッチを押し、手に力が入る。
絶対、アキがオレのファンで現実に存在するって証明してやる。
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