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「アキ」ートモセ視点ー
しおりを挟むおとといから始まった、コンサートツアー。
東京でのコンサート初日は久々の大勢の前で緊張した。
今日は3日目。
朝から胸騒ぎがする。
こうゆう日は決まってなにか起こる日。
予想もしていないような出来事がおこる前触れ。
キュッと鏡の前で水色のスカーフを首に巻いてリボン結びをする。
「・・・」
複雑だ。
18の男にもなって可愛いがすぎる。こうゆうのはアイが似合うのに・・・なんでオレなんだよ。
「お、いいねー似合うねー、可愛いよーと・も・せ・くん!」
軽い口調で話しかけるそいつは、馴れ馴れしくもオレの両肩にポンッと手をのせてきたから構わず頭突きをしてやった。
「っっおいっ!! 本番前だぞぉー!」
振り返るとカイが強打したあごを手でおさえながら憤慨している。
「うるさい。絡んできたのはそっちだろ」
「褒めたじゃん!! おれはトモセを褒めたのっ!」
「なにが褒めただ。嫌味の間違いだろ。誰のせいでこんなスカーフの巻き方になったと思ってんだよ」
「なんでだよ?! 可愛いじゃーん! うちの末っ子トモセくん!」
「そーゆーところがムカつくんだよっ!」
ゲシゲシとカイの脚を蹴る。
「こらこらやめなさいって! 白の衣装が汚れちゃうでしょっ!」
「汚れろっ!」
「ストップ!! なにやってんだよ、本番直前だぞ。もう観客も来てるっていうのに!」
ガシッと後ろからオレの腕をつかんで止めに入って来たジュン。
「おい、なにやってんだ?」
リーダーまで参戦してきた。
しーんと静まる控室。
リーダーが威嚇するようにオレとカイを睨みつける。
「あー・・・なんでもないです。こいつ緊張するとイライラするんで!」
だんまりするオレと違ってジュンが仲裁に入ってくれた。
「そうゆうこと。リーダーは気にしなくていいよー。うちの末っ子はホント気性が荒くて可愛いよねー」
オレが蹴りまくったところを手ではたきながらこっちに向かって笑みを浮かべるカイ。マジでキレそうになる。
察したジュンがグッと腕に力を入れてくる。おかげで動きたくても動けない。
カイが控室を出たところでジュンの腕から解放された。
「力強すぎるよ、跡残ったかも」
「そーでもしねーとカイにつかみかかってただろ?」
「うん」
「即答かよ」
「トモセ」
ジュンと会話しているとリーダーがオレの肩をポンとたたく。
「どうせカイがふっかけてきたんだろうけど、もう子供じゃないんだからいちいちのっかるのやめろ」
するどい目つきでさとされると何も言えなくなる。
リーダーのいうとおりだ。
デビュー当時のオレじゃない。
いつまでも幼稚なからかい方をしてくるカイなんてシカとすればいい。
「・・・すみません」
「そんな顔すんなって。明日で東京の公演は終わるんだからしっかりファンを喜ばせてみろ!」
ニッと歯を見せて笑うリーダー。
「うんっ」
落ち込んだ気持ちがリーダーの笑顔ひとつで復活。(さすがリーダー)
「よぉーし、もうジュンとトモセだけだぞ。さっさとステージ裏に行け」
「はい!」
ジュンと口をそろえて返事をし、控室を後にする。
コンサートが始まり大勢のファンの前でライトを浴びながら歌って踊って走りまくる。
アイドルのコンサートはかなりハードだ。
1回の公演だけで人によっては体重が1K以上落ちる。
汗もかくからMCの隙を見て水分補給はかかせない。
歌いながら2階席や3階席に向かって手を振って通路を歩く。
距離があるから上の階の客が見えてないように思えるけど。実際、そう思われてるけど。
会場を作る人もアホじゃない。死角がないくらい奥まで見えるし、なんならひとりひとりの顔だってよく見える。
それにオレは視力が良い。
偶然だろうけど、東側の2階席はオレのファンがかたよっているのがうちわでわかる。
ちらほらカイのうちわも目に留まるけどそんなのはスルーだ。
あの辺特にオレのうちわが多い。
あ、また全身水色の女の人がいる。
コンサートやイベントごとでよく見かけるから覚えてしまった。
ファンサでちゃんと手を振ってあげよう・・・とその瞬間、ひとりのファンに目が釘付けになる。
目も合った。
「アキだ」
気づいたら口にしていた。
うちわを振ってアピールしてるアキに目が離せないでいると、急にガシッと肩に腕をまわしてきたジュンがとまっているオレを歩かせた。
「なにやってんだ、集中しろ!」
マイクに声をひろわれないように耳元でささやくジュンにハッと我に返る。
「・・・ご、ごめん。けど・・・」
歌うこともすっかり忘れて頭の中が放心状態になる。
丸い顔、オレに似せた髪型、一重の目。弟の光喜より小柄な体型。
『応援してます! ずっとずっと』
靄がかかっていたのがすっかり晴れてアキが嬉しそうにオレに笑いかける姿が。
今やっと思い出した。
ずっと気になってた人。
アキだ。
夢の中で毎日のように会っていたのは、アキだ。
うまくいいあらわせられない感情がワッと押し寄せ、胸が締めつけられて苦しい。
謎が解けたようにスッキリしたのに、泣きたいくらい喉が痛い。
ギュッと服をつかんで必死にこの感情に堪える。
「おい、トモ、大丈夫か?」
心配するジュンに強くうなずく。
我慢しなきゃ。
今はコンサート中だ。
アキも観に来てくれてる。
多分、数分の出来事で、周りから見たらオレとジュンが仲良さそうにくっついて歩いてるにしか見えなかったと思う。
ジュンのおかげでオレも取り乱したりせず、すぐに気持ちを切り替えてコンサートに集中した。
アキと約束したうちわのお願いも叶えることができた。
コンサートが終わった。
ステージ裏で水分補給をして、タオルで軽く汗を拭って、控室とは反対方向へと歩き出すオレに、ジュンが腕をつかんで止めた。
「どこ行くんだよ?! そっちは会場に通じる出口だぞ」
「ごめん、急いでるんだ。話はあとでちゃんと話すから」
ジュンの筋肉質な腕を払って歩き出そうとしてもまた止められた。
「ゲスト席に誰か招待したのか? スタッフの奴に頼めばいいだろ。まだ帰ってないファンが大勢いるんだ。今、お前が行ったら会場内がパニックになるだけだぜ」
「他のメンバーじゃないんだからオレくらいでそんなことにならないよ」
「あぁ?! 本気で言ってんのか!」
「本気だよっ! 帽子やマスクして顔を隠さなくても電車に乗れるんだ! 誰もラブずのメンバーだって気づかない!」
「・・・なにイラ立ってんだよ、らしくないぜ」
「急いでるって言ったじゃん! 早く行かないとアキを見失う」
逃げようとしてもジュンがもう片方の腕でガッチリホールドして動けない。
「よく知らねーけど、また騒動起こしてどうするんだよっ!」
「・・・っ」
それを言われて焦っていた気持ちに冷静さが戻ってくる。
夢じゃない、やっと会えたのに。
「あれー? そこでなにしてるのー? ファンサのサプライズは勝手にやっちゃダメだよー」
ひょこっと顔を覗かせて近寄ってくるアイにすかさずオレから駆け寄って抱きつく。
「おぉーーなになになに?! ていうか、ちょっと! 汗まみれのハグ禁止ー! ベタベタする! キモい! シャワー浴びてからにしよー!」
「シャワー浴びたらマジで慰めてほしい」
「よくわかんないけど、おっけー。とりあえずシャワールーム行こっ」
「アイ、めちゃくちゃいい匂いする」
「ボクの体臭バラの香りだから」
「え」
「うそにきまってんじゃーん」
ぽかんとしているジュンを置いて、オレはアイと一緒にシャワールームに向かった。
ジュンには悪いけど、今はアキと雰囲気が似てるアイと一緒にいる方が、このどうしようもない悔しい気持ちがいくらかまぎれる気がするんだ。
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