ボクの推しアイドルに会える方法

たっぷりチョコ

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「良い話にはもれなくトラウマが付いてくる」ートモセ視点ー2/2

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「食う?」
 ドン、とテーブルに牛丼がふたつ。
「食う!」
 ベッドから起き上がりテーブルの前に座る。

 ダンスレッスンを終え、その足でジュンと一緒にシェアハウスに来た。
 今はもう実家に戻ってるけど、夏休みをいいことにジュンの部屋に転がり込むことが多い。

 ジュンは元ヤンのくせにわりときれい好きでいつ行っても部屋の中は片付いている。
 ベッドとテーブル、筋トレ用にダンベルが転がってるくらいの清潔感ある部屋だ。

「牛丼うまそー。レッスンしすぎて腹ペコペコだからすごい嬉しい」
 さっそくいただきますをして、牛肉にかぶりつく。
「食え食え! 俺特製の牛丼」
 ドヤ顔をするジュン。
「めっはふまっっ!」(めっちゃうま)
「飲み込んでから言え」
 そう言ってジュンも牛肉をほうばる。
 しばらくふたりして黙々と牛丼を食べ続けた。

 ほぼ同時に食べ終え、ジュンが丼を持って立ち上がった。
「俺おかわりすけど、トモは?」
「いる!」
 迷いなく丼を預けると、ジュンはキッチンへ行き、お肉を山盛りにして戻って来た。
 これをオレはあと1回、ジュンはあと2回繰り返してようやく満腹になった。

「はぁぁー腹いっぱい!」
「俺も」
 ふたりして床にゴロゴロしながら満腹の余韻にしばらく浸った後、どちらから声をかけることもなく起き上がってお互い見つめ合い、
「本題はこっからだぜ、トモ」
「おう!」

 スクッと立ち上がって、一斉に声を張り上げる。
「ドラマ、ダブル出演、決定っーーー!!!」
 パンッとハイタッチして、ガシッと抱き合う。
「やっべーー! マネージャーの増井さんに話された時、は? てなって実感沸かんかった!」
「オレめっちゃ声出た!! 松本さんなんかニヤニヤしながらドヤ顔してたし!!」
「なにそれおもろい!」
「ジュンすごいじゃんっ!! 主人公!」
「トモだってすげーじゃん! 増井さんから聞いたけど、上映中の映画観て監督が声かけてきたって!」
「それっ! オレもびっくりしたっ! そんなの初めてだから感動したっ!」
「巻き込まれ事故にあったかいあったな」
「それ言うな」
「あーやべー! 12月まで待てねー。すぐ母親に報告したい!」
「え? おばさんに言うのもダメなの?」
「増井さんに撮影入るまで口止めされた。どこで漏れるかわかんないって」
「えー厳しい。親くらいいのに」
「まーでも、トモの騒動で事務所側も警戒してんじゃね? 落ち着いてきたとはいえ」
「・・・そっか、なんかごめん」
「なんでトモが謝るんだよ」
 ケラケラ笑いながらオレの肩をポンポンと叩く。
 お互い目が合い、どちらが言うでもなく、拳をコツンと突き合わせる。
「これから頑張ろうぜ」
「うん、お手柔らかに」
 ニッと歯を見せて戦友の笑顔を見せあう。

「それにしてもびーえるー!」
 ボスッとベッドにダイブする。
「なんだよ、不満か? 男同士の恋愛ものっていったらブレイクするとやべーじゃん。最近は海外でも人気あるって話」
「知ってる。知ってるけどぉぉぉぉ」
 すっかり受け入れてるジュンとは違い、オレはまったく作品を受け入れていない。
「・・・もしかして、あれか?」
「・・・そうです、あれです」
 顔を上げると、ベッドによりかかるジュンがこっちを見ている。(察しのいい奴)
 
 きっとジュンだってあれを思い出してるはず。
 オレがどうしてびーえる作品を嫌がるか。

 はぁーとジュンがため息をつく。
「カイのことは犬に噛まれたと思って忘れろよ。増井さんから聞いたけど、爽やか系らしいし、トモはそもそもつきあってる設定らしいけど相手はいないって話だぜ?」
「わかってる・・・けど! 手慣れキャラだよ?! 役作りするためにいろいろ参考のもの見たりしたら嫌でも思い出すっていうか・・・」
 すでに思い出して半袖から出てる腕がぞわぞわと毛が逆立っている。鳥肌まで。
「うぉぉぉぉ、マジ、ムリ!」
 叫ぶオレに、ジュンがドン引きしてる。
「すげー拒否り方だな」

「ジュンだってあの撮影の場にいたから知ってるだろ! 誰だってこーなるよ! しかも、ファーストキスだし」
「大事にしてた?」
「してないけど・・・初めてが男って」
「・・・相手がカイでよかったじゃん。しばらくファンの間でバズってたみたいじゃん」
「冗談じゃない、あいつ、オレの歯、舐めてきたんだぞ!」
「・・・マジか。ずいぶん長いと思ったけど。そんなことが・・・」
 ジュンの目が白目をむきかけている。
「うぉぉぉ、思い出したら全身鳥肌がっっ!」
 いてもたってもいられず枕を抱えながらベッドを下りる。

 オレがカイを嫌う理由のひとつ、それは某番組企画の罰ゲームでカイにキスされたこと。
 ファーストキスや男同士のキスだということを100歩譲ったとしても譲れきれずにトラウマになったのは、ひとえにカイが最低な奴だってこと。
 ただ口にするだけでいいのに、視聴率目的でディープキスしてきた。
 メンバーになってからオレが年下だということもあってやたら絡んできたりからかってきたけど、そんなのたいして気にならなかった。(兄がよくやってくるし)
 意地悪いと思ったこともあったけど、オレだけにじゃなかったし。
 だけど、前言撤回。
 キス以来、オレにとってカイは天敵でしかない。同じメンバーじゃなかったら口もきかないところだ。
 当本人はキスした直後、「ごちそうさま」とか言ってくるし。(マジキモい)

「せっかくジュンと一緒にドラマできるのに・・・なんでびーえるっ!」
 ぶつぶつ言いながら丸くなってるオレに、ジュンがまたため息をつく。
「ラブコメなんだし、付き合ってる相手が男と思わなくてもよくね?」
「え?」
「用は恋愛経験豊富なキャラを演じればいいんだろ? ヤることは一緒なんだし、女子でも思い浮かべれば?」
「身もふたもないことを」
「だってせっかくのダブル出演だぜ? カイ野郎に邪魔されたくねーじゃん」
「そう・・・だけど」
「他に思い当たる子とかいねーの? 好きな子とか気になってる奴とか。そういえば、トモって浮いた話全然ないよな」
 ふむ、と考え込むジュン。

「・・・そんなのいないよ」
「芸能界でいねーの? つきあったりとかは? 学校とかは?」
「学校は男子校! 芸能入りする時に心配性の母さんが芸能人の女の子と付き合うなって釘刺された」
「うわー」
 ドン引き顔のジュン。
「女子・・・。中学の時にアイドルになったけどさ、学校の女子が急に態度変えて。それまでは「どいてよ」とかキツい言い方してたのに、ぶりっ子してきたり、あからさまな態度とったり・・・オレのことどこ見てるんだろうなーって・・・」
「・・・トモ・・・おまえ、カイ以前に人間不信かよ。なんか、可愛そうになってきた」
 瞳を潤ますジュンにドン引きする。
「やめろってそうゆうの。べつに人間不信まではいってないから。ただ・・・簡単に人を好きになれないだけ」
「・・・そっか。なんか悪かったな。適当なこと言って」
「・・・オレこそ、全部否定してごめん」
「なんでトモが謝るんだよ。あれだ! なんも参考にしなくていいっつーか、原作があるんだからそれだけでよくね? あ、そういえば、アイとはよくじゃれてんじゃん。アイならいけんじゃね?」
「そう言われると・・・なんかアイって誰かに似てるっていうか、最近特に。名前に『あ』が付いてるのが気になるっていうか」
「なんだよそれ」

 自分で言っててわからん。
 とにかく、最近は特にアイみたいな小柄な男に親近感? みたいのが沸く。
 あと、名前に「あ」がつくもの。

「じゃーアイに協力してもらえよ。あいつ、BLドラマ経験者だし。恋人ごっこでもしてもらえば? そういえば、バラエティ番組でそういう企画あったな」
「・・・恋人・・・ごっこ・・・」
 その言葉になにか引っかかる。
 ふと、誰かの姿がぼんやり浮かんだ。
 夢の中の・・・。

「今日は泊ってくんだろ? おばさんにはラインしたか?」
「した。ジュンによろしくって」
「へーい。ベッド使えよ。俺、敷布団借りてくっから」
「ありがと。ていうか、自分の部屋行けばいいだけなのに、悪い」
「オレの部屋に泊まりに来てんだろ? 気にすんなって。ちょっくら空き部屋行ってくるわ」
「いってら~」
 
 ジュンを見送ったあと、枕を持って再びベッドにのぼる。

 『気になる人』ならいることに気づく。
 夢の中で会う人だ。
 男か女かもわかんないけど。
 いっそその人に頼めたらいいのに。
 なぜかその人を想うと安心する。
 断片的でしか思い出せてないけど、どうやらオレのファンみたいだ。
 そしたら、女子?
 いや、男子のファンも増えてるから決めつけられない。
 ぼんやりだけど背格好は小柄な気がする。
「・・・アイ?」
 ふとひらめいたけど、それはすぐに消した。
 
 ベッドに寝転がっているとレッスンの疲れがどっと出てきて、満腹のせいもあって眠気がどんどん出てくる。
 天井がゆらゆら揺れて、まぶたが重い。
 まだ風呂入ってない。
 ストレートがとれないように事務所でシャワー浴びた時に頭は洗わなかったから洗いたい。
 ふと思い出して、クスッと天井に向かって笑う。
「ネコっ毛が似合うって・・・初めて言われた・・・」
 
 眠気に負けてジュンが戻ってくる前に寝落ちした。
 なんか良い夢見た気がするけど、朝起きた時にはすっかり忘れていた。
 でも、あんなに嫌だったのに不思議とBLドラマをやることに前向きな自分がいた。


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