ボクの推しアイドルに会える方法

たっぷりチョコ

文字の大きさ
上 下
29 / 57

「良い話にはもれなくトラウマが付いてくる」ートモセ視点ー2/2

しおりを挟む

「食う?」
 ドン、とテーブルに牛丼がふたつ。
「食う!」
 ベッドから起き上がりテーブルの前に座る。

 ダンスレッスンを終え、その足でジュンと一緒にシェアハウスに来た。
 今はもう実家に戻ってるけど、夏休みをいいことにジュンの部屋に転がり込むことが多い。

 ジュンは元ヤンのくせにわりときれい好きでいつ行っても部屋の中は片付いている。
 ベッドとテーブル、筋トレ用にダンベルが転がってるくらいの清潔感ある部屋だ。

「牛丼うまそー。レッスンしすぎて腹ペコペコだからすごい嬉しい」
 さっそくいただきますをして、牛肉にかぶりつく。
「食え食え! 俺特製の牛丼」
 ドヤ顔をするジュン。
「めっはふまっっ!」(めっちゃうま)
「飲み込んでから言え」
 そう言ってジュンも牛肉をほうばる。
 しばらくふたりして黙々と牛丼を食べ続けた。

 ほぼ同時に食べ終え、ジュンが丼を持って立ち上がった。
「俺おかわりすけど、トモは?」
「いる!」
 迷いなく丼を預けると、ジュンはキッチンへ行き、お肉を山盛りにして戻って来た。
 これをオレはあと1回、ジュンはあと2回繰り返してようやく満腹になった。

「はぁぁー腹いっぱい!」
「俺も」
 ふたりして床にゴロゴロしながら満腹の余韻にしばらく浸った後、どちらから声をかけることもなく起き上がってお互い見つめ合い、
「本題はこっからだぜ、トモ」
「おう!」

 スクッと立ち上がって、一斉に声を張り上げる。
「ドラマ、ダブル出演、決定っーーー!!!」
 パンッとハイタッチして、ガシッと抱き合う。
「やっべーー! マネージャーの増井さんに話された時、は? てなって実感沸かんかった!」
「オレめっちゃ声出た!! 松本さんなんかニヤニヤしながらドヤ顔してたし!!」
「なにそれおもろい!」
「ジュンすごいじゃんっ!! 主人公!」
「トモだってすげーじゃん! 増井さんから聞いたけど、上映中の映画観て監督が声かけてきたって!」
「それっ! オレもびっくりしたっ! そんなの初めてだから感動したっ!」
「巻き込まれ事故にあったかいあったな」
「それ言うな」
「あーやべー! 12月まで待てねー。すぐ母親に報告したい!」
「え? おばさんに言うのもダメなの?」
「増井さんに撮影入るまで口止めされた。どこで漏れるかわかんないって」
「えー厳しい。親くらいいのに」
「まーでも、トモの騒動で事務所側も警戒してんじゃね? 落ち着いてきたとはいえ」
「・・・そっか、なんかごめん」
「なんでトモが謝るんだよ」
 ケラケラ笑いながらオレの肩をポンポンと叩く。
 お互い目が合い、どちらが言うでもなく、拳をコツンと突き合わせる。
「これから頑張ろうぜ」
「うん、お手柔らかに」
 ニッと歯を見せて戦友の笑顔を見せあう。

「それにしてもびーえるー!」
 ボスッとベッドにダイブする。
「なんだよ、不満か? 男同士の恋愛ものっていったらブレイクするとやべーじゃん。最近は海外でも人気あるって話」
「知ってる。知ってるけどぉぉぉぉ」
 すっかり受け入れてるジュンとは違い、オレはまったく作品を受け入れていない。
「・・・もしかして、あれか?」
「・・・そうです、あれです」
 顔を上げると、ベッドによりかかるジュンがこっちを見ている。(察しのいい奴)
 
 きっとジュンだってあれを思い出してるはず。
 オレがどうしてびーえる作品を嫌がるか。

 はぁーとジュンがため息をつく。
「カイのことは犬に噛まれたと思って忘れろよ。増井さんから聞いたけど、爽やか系らしいし、トモはそもそもつきあってる設定らしいけど相手はいないって話だぜ?」
「わかってる・・・けど! 手慣れキャラだよ?! 役作りするためにいろいろ参考のもの見たりしたら嫌でも思い出すっていうか・・・」
 すでに思い出して半袖から出てる腕がぞわぞわと毛が逆立っている。鳥肌まで。
「うぉぉぉぉ、マジ、ムリ!」
 叫ぶオレに、ジュンがドン引きしてる。
「すげー拒否り方だな」

「ジュンだってあの撮影の場にいたから知ってるだろ! 誰だってこーなるよ! しかも、ファーストキスだし」
「大事にしてた?」
「してないけど・・・初めてが男って」
「・・・相手がカイでよかったじゃん。しばらくファンの間でバズってたみたいじゃん」
「冗談じゃない、あいつ、オレの歯、舐めてきたんだぞ!」
「・・・マジか。ずいぶん長いと思ったけど。そんなことが・・・」
 ジュンの目が白目をむきかけている。
「うぉぉぉ、思い出したら全身鳥肌がっっ!」
 いてもたってもいられず枕を抱えながらベッドを下りる。

 オレがカイを嫌う理由のひとつ、それは某番組企画の罰ゲームでカイにキスされたこと。
 ファーストキスや男同士のキスだということを100歩譲ったとしても譲れきれずにトラウマになったのは、ひとえにカイが最低な奴だってこと。
 ただ口にするだけでいいのに、視聴率目的でディープキスしてきた。
 メンバーになってからオレが年下だということもあってやたら絡んできたりからかってきたけど、そんなのたいして気にならなかった。(兄がよくやってくるし)
 意地悪いと思ったこともあったけど、オレだけにじゃなかったし。
 だけど、前言撤回。
 キス以来、オレにとってカイは天敵でしかない。同じメンバーじゃなかったら口もきかないところだ。
 当本人はキスした直後、「ごちそうさま」とか言ってくるし。(マジキモい)

「せっかくジュンと一緒にドラマできるのに・・・なんでびーえるっ!」
 ぶつぶつ言いながら丸くなってるオレに、ジュンがまたため息をつく。
「ラブコメなんだし、付き合ってる相手が男と思わなくてもよくね?」
「え?」
「用は恋愛経験豊富なキャラを演じればいいんだろ? ヤることは一緒なんだし、女子でも思い浮かべれば?」
「身もふたもないことを」
「だってせっかくのダブル出演だぜ? カイ野郎に邪魔されたくねーじゃん」
「そう・・・だけど」
「他に思い当たる子とかいねーの? 好きな子とか気になってる奴とか。そういえば、トモって浮いた話全然ないよな」
 ふむ、と考え込むジュン。

「・・・そんなのいないよ」
「芸能界でいねーの? つきあったりとかは? 学校とかは?」
「学校は男子校! 芸能入りする時に心配性の母さんが芸能人の女の子と付き合うなって釘刺された」
「うわー」
 ドン引き顔のジュン。
「女子・・・。中学の時にアイドルになったけどさ、学校の女子が急に態度変えて。それまでは「どいてよ」とかキツい言い方してたのに、ぶりっ子してきたり、あからさまな態度とったり・・・オレのことどこ見てるんだろうなーって・・・」
「・・・トモ・・・おまえ、カイ以前に人間不信かよ。なんか、可愛そうになってきた」
 瞳を潤ますジュンにドン引きする。
「やめろってそうゆうの。べつに人間不信まではいってないから。ただ・・・簡単に人を好きになれないだけ」
「・・・そっか。なんか悪かったな。適当なこと言って」
「・・・オレこそ、全部否定してごめん」
「なんでトモが謝るんだよ。あれだ! なんも参考にしなくていいっつーか、原作があるんだからそれだけでよくね? あ、そういえば、アイとはよくじゃれてんじゃん。アイならいけんじゃね?」
「そう言われると・・・なんかアイって誰かに似てるっていうか、最近特に。名前に『あ』が付いてるのが気になるっていうか」
「なんだよそれ」

 自分で言っててわからん。
 とにかく、最近は特にアイみたいな小柄な男に親近感? みたいのが沸く。
 あと、名前に「あ」がつくもの。

「じゃーアイに協力してもらえよ。あいつ、BLドラマ経験者だし。恋人ごっこでもしてもらえば? そういえば、バラエティ番組でそういう企画あったな」
「・・・恋人・・・ごっこ・・・」
 その言葉になにか引っかかる。
 ふと、誰かの姿がぼんやり浮かんだ。
 夢の中の・・・。

「今日は泊ってくんだろ? おばさんにはラインしたか?」
「した。ジュンによろしくって」
「へーい。ベッド使えよ。俺、敷布団借りてくっから」
「ありがと。ていうか、自分の部屋行けばいいだけなのに、悪い」
「オレの部屋に泊まりに来てんだろ? 気にすんなって。ちょっくら空き部屋行ってくるわ」
「いってら~」
 
 ジュンを見送ったあと、枕を持って再びベッドにのぼる。

 『気になる人』ならいることに気づく。
 夢の中で会う人だ。
 男か女かもわかんないけど。
 いっそその人に頼めたらいいのに。
 なぜかその人を想うと安心する。
 断片的でしか思い出せてないけど、どうやらオレのファンみたいだ。
 そしたら、女子?
 いや、男子のファンも増えてるから決めつけられない。
 ぼんやりだけど背格好は小柄な気がする。
「・・・アイ?」
 ふとひらめいたけど、それはすぐに消した。
 
 ベッドに寝転がっているとレッスンの疲れがどっと出てきて、満腹のせいもあって眠気がどんどん出てくる。
 天井がゆらゆら揺れて、まぶたが重い。
 まだ風呂入ってない。
 ストレートがとれないように事務所でシャワー浴びた時に頭は洗わなかったから洗いたい。
 ふと思い出して、クスッと天井に向かって笑う。
「ネコっ毛が似合うって・・・初めて言われた・・・」
 
 眠気に負けてジュンが戻ってくる前に寝落ちした。
 なんか良い夢見た気がするけど、朝起きた時にはすっかり忘れていた。
 でも、あんなに嫌だったのに不思議とBLドラマをやることに前向きな自分がいた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

腐男子ですが何か?

みーやん
BL
俺は田中玲央。何処にでもいる一般人。 ただ少し趣味が特殊で男と男がイチャコラしているのをみるのが大好きだってこと以外はね。 そんな俺は中学一年生の頃から密かに企んでいた計画がある。青藍学園。そう全寮制男子校へ入学することだ。しかし定番ながら学費がバカみたい高額だ。そこで特待生を狙うべく勉強に励んだ。 幸いにも俺にはすこぶる頭のいい姉がいたため、中学一年生からの成績は常にトップ。そのまま三年間走り切ったのだ。 そしてついに高校入試の試験。 見事特待生と首席をもぎとったのだ。 「さぁ!ここからが俺の人生の始まりだ! って。え? 首席って…めっちゃ目立つくねぇ?! やっちまったぁ!!」 この作品はごく普通の顔をした一般人に思えた田中玲央が実は隠れ美少年だということを知らずに腐男子を隠しながら学園生活を送る物語である。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話

あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ハンター ライト(17) ???? アル(20) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 後半のキャラ崩壊は許してください;;

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

灰かぶり君

渡里あずま
BL
谷出灰(たに いずりは)十六歳。平凡だが、職業(ケータイ小説家)はちょっと非凡(本人談)。 お嬢様学校でのガールズライフを書いていた彼だったがある日、担当から「次は王道学園物(BL)ね♪」と無茶振りされてしまう。 「出灰君は安心して、王道君を主人公にした王道学園物を書いてちょうだい!」 「……禿げる」 テンション低め(脳内ではお喋り)な主人公の運命はいかに? ※重複投稿作品※

俺の推し♂が路頭に迷っていたので

木野 章
BL
️アフターストーリーは中途半端ですが、本編は完結しております(何処かでまた書き直すつもりです) どこにでも居る冴えない男 左江内 巨輝(さえない おおき)は 地下アイドルグループ『wedge stone』のメンバーである琥珀の熱烈なファンであった。 しかしある日、グループのメンバー数人が大炎上してしまい、その流れで解散となってしまった… 推しを失ってしまった左江内は抜け殻のように日々を過ごしていたのだが…???

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

処理中です...