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「騒動と違和感」ートモセ視点ー
しおりを挟む受験勉強に、アイドル活動と日に日に忙しさが増す中、夏休みに公開予定の映画の件でやられた。
「あ、トモよん! トモよんがシェアハウスにいるぅー!」
後ろからぎゅむーっと抱きつきながら頬をスリスリと寄せてくるアイ。
「どしてここに? ついにトモよんもここに住むことに?!」
あからさまに喜ぶアイは大きな目をキラキラと輝かせるけど、オレはげっそりした顔をアイに向けた。
「ごめん、違うんだ。あれのせい」
広いリビングの壁際にあるどでかいテレビの画面を指さす。
オレを悩ませるワイドショーが数日前から同じことを飽きもせず繰り返し報道している。
それを見てアイのテンションが一気に落ちた。
「あぁ、なるほどね。三上愛瑠(みかみあいる)の事務所の社長もよくやるよねー。トモよんかわいそう」
また自分の頬をオレにくっつけてスリスリしてくる。
「なにやってるんだよ、アイ! トモも嫌がれよ!」
2階から下りてきたジュンが青い顔でアイをオレから引き離す。
「えーいいじゃんー、減るもんじゃなし! トモよんの頬もちもちすべすべでボク好きなんだから~。やっぱり十代の肌は違うよねー」
「うるせー、おっさん!」
「あー! 言ったなー! ボクまだ22なんだぞー! 傷ついた! 傷ついたからね!」
「十代の肌撫でまわしといてセクハラだっ」
「誰がセクハラだー! トモよんがいいって言ってるんだから問題ないよ」
「誰がいいって言ったぁ?! あぁ?」
う、うるさい。
アイとジュンがキャンキャンと口喧嘩を始めたからオレはそそくさとリビングを出た。
ここは事務所が管理してるシェアハウス。(まるっとでかい二階建ての一軒家)
実家で待機してたけど、記者たちが家まで押しかけてきたりと家族や近所のひとたちにまで迷惑をかけてきたらから、マネージャーの宮本さんの指示でここに逃げてきた。
オレはまだ未成年だし、親の希望で自宅から通ってるけど、メンバー全員ここに住んでる。なにげにオレの部屋もちゃんと用意されている。
高校卒業したらここに引っ越してくることも一応決まっていたりする。
アイドルの三上愛瑠が主演の映画に恋人役として出演させてもらった。
本当はカイがやる役だったけどスケジュールが合わず、都合がすぐについたオレに話が回って来た。
その時は特に問題もなく撮影が始まって順調に終わったんだけど・・・公開直前に三上愛瑠の社長が売り上げを心配しだし、オレと三上愛瑠がプライベートでも恋人仲だと嘘の情報を流した。
恋人発覚。というやつだ。
もちろん、こっちにはなんの相談もなく、寝耳に水状態。
報道されてから事務所は対応に追われてるし、うちの社長もさすがに怒ってる。
「トモ! ここにいたのかよ。中庭でこれ食おうぜ。お前が食べたいっていうからちゃんと専門店で買ってきてやったぜ」
ジュンがテイクアウトしたであろう紙袋を持ち上げ中庭の入り口へとオレを誘う。
「アイは?」
「次の撮影だって」
聞いたくせに「ふーん」とどうでもいいような相づちを打ちながら中庭専用のサンダルに履き替えて外に出る。
建物の真ん中をくり抜いたようにぽっかりとある中庭。
ちゃんと整備されていて、壁際にベンチが置いてあったり、花壇もある。足元は石畳でライトも埋め込められているから夜でも明るい。
滑り台と砂場があるちょっと小さめの公園。みたいな中庭。
外から覗かれることなく日光浴できると、ここに住むメンバーや同じ事務所の人に人気。
オレも気分転換したいときに来るし、わりと気に入っている。
日陰(ひかげ)とはいっても暑い。
ベンチに座ってジュンが買ってきてくれた専門店のパンケーキをホークも使わずそのまま食べる。
「トモってわりとめんどくさがりだよな」
「なんで?」
「ホーク使って食べる上品な奴かと思ってた」
「よく言われる。弟の光喜にも服脱ぎっぱなしとか言って怒られるし、風呂入らないでそのまま寝ちゃうこともしょっちゅう」
「ファンが聞いたらショックだろーなー。あ、そういえば、生配信の時、パーカー着てごまかしてるけど、中制服だろ! ときどきトモの配信に参加するけど、ズボンとかさーパーカーの隙間からワイシャツが見えんだよ。ズボラすぎね?」
「いちいち着替えるのめんどくさい」
ケラケラと楽しそうに笑うジュン。
ジュンは器用にも膝の上でホークを使ってパンケーキを食べる。(こっちも意外だ)
「なんで急にパンケーキ? ハマってた頃にさんざん食べたからしばらくいらないとか言ってなかったっけ?」
「うーん・・・朝起きたらパンケーキが食べたくなった。みたいな?」
「はぁ??? パンケーキの夢でも見たのか?」
「・・・そうゆうわけじゃ・・・ていうか、夢見たかなんて覚えてない。でも、最近、起きるとパンケーキが食べたくなる」
「なんだそれ」
ジュンと一緒にはてなを浮かべながらパンケーキをとにかく食べる。
美味しい。
美味しいけど、なんかもっと違うパンケーキを食べたかったような・・・。他に食べたいパンケーキがあったような。
思い出せそうで思い出せないモヤモヤを抱えながらパンケーキを食べ続けた。
「あ、そういえばラブずの公式サイト、炎上したらしいぜ」
パンケーキを食べ終え、ジュンがペットボトルの水を飲みながら言った。
「うん、知ってる。マネージャーの宮本さんが管理してくれてるツイッターもやられた」
「こえーよなー、三上愛瑠の過激なファンだぜ? 多分」
「・・・うん。なんかごめん、みんなに嫌な思いさせて」
「はぁ? トモは何も悪くないだろ? もしかしてマジで?」
「まさか! 撮影は半年前に終わってるし、挨拶以外会話なんて全然しなかったし。ていうか、カイのせいで空気がピリピリしてそれどころじゃないっていうか居心地が悪かった」
げっそり顔のオレにジュンが気の毒そうな目でこっちを見る。
「都合が合わないとか言って、実は三上愛瑠とカイができてたんだろ? しかも、撮影中にカイが二股かけてたのがバレてケンカ別れしたって・・・今回の件もそうだけど、元をたどれば全部カイが悪いってことで、トモは完全に巻き込まれ事故だな」
「オレもそう思う。そう思うけど・・・こうゆう時、自分の人気の無さが悪いのかなって凹む」
「はぁ?」
「最初はやる気なかったから、みんながどんどん自分をアピールしてる中で大人しかったじゃん? それで省エネアイドルとか草食系男子とか言われて。気持ち切り替えて頑張ろうと思った時にはマネージャーの宮本さんにそのキャラでいこう! とか言われちゃって・・・。控えめアイドルとしてやってるけど全然ウケてないのがわかる。やっぱり、キャラ変してもっと前に出たほうがいいのかなー」
うーん・・・と悩む。
気にしないようにしてても、メンバーのみんなが活躍していると自分の情けなさが嫌でも気になる。
特にこうゆうトラブルがあった時は自分のふがいなさで気持ちがどんどん落ちていく。
「なに言ってんだよ。メンバーみんなが押せ押せだったら見てる人がドン引きするだろ? それに、トモは控えめアイドルじゃなくて“癒し系年下アイドル”だろ」
「・・・オレ見て癒されるかなー?」
正直、癒し系と言われて全然腑に落ちない。
癒し系って言ったら・・・。
一瞬浮かんだ顔に、はてなが浮かぶ。
その顔はすぐ頭の中で消えてしまった。誰だっけ?
オレ、今誰を思い浮かべたんだろ。
なんか、最近思い出せなくてモヤモヤすることが増えた気がする。
「ほら見ろって! メディアの言うことなんか気にするなって。お前のファンはちゃんとお前の良さをわかってるんだからさ」
「え?」
スマホの画面をオレに見せるジュン。
「あ。ツィッター復活したんだ」
「違う。ファンの子がトモよんを応援しようって拡散してるやつ」
「え」
「いいね」もリツイートもすごい数字だ。返信ツイートも。
ジュンが書きこみ見ろよ、と言って画面をタッチしてもう1度スマホをオレに向ける。
ファンと言ってもコメントを見るのは怖い。
恐る恐る覗くと応援のメッセージばかりに肩の力が抜ける。
「よかったな」
ジュンがなぜかドヤ顔だ。
ジュンなりに励ましてくれてるのかと思うとちょっとこそばゆい。
『応援してます!』というメッセージについ目が留まる。
いつもならただの社交辞令的に受け取っていた言葉だけど、なぜかこの言葉を言われると心がポカポカするというか・・・。
「誰かに言われた気がする。めちゃくちゃ力強く」
「は? 何が?」
考えていたことがつい口から漏れていたことにアホ面してるジュンでハッと気づく。
「えーと・・・なんていうか、どう言えばいいかオレにもよくわからないんだけど、誰かにめちゃくちゃ力強く応援された気がするんだよね。それも何度も。ここ最近調子いいのも、嫌なことがあってもあんまり気にならなくなったのもそのおかげかなーって今、思った・・・ていうか。ごめん、変なこと言った」
なに言ってんだこいつ。とか絶対思ってる。
オレも、自分で言って何言ってるんだて思った。
だけど、ジュンは意外に平然と、
「忘れてるだけじゃね?」
「え?」
「俺もあるそーゆうの。印象だけ残っててどんな時に誰に言われたとか覚えてねーんだよな」
「そう、そんな感じ!」
ジュンに共感され、つい嬉しくてテンションが上がる。
「俺の場合、夢で見たやつだって後から思い出したりするけど」
「夢? うーん・・・オレ、熟睡派だから夢見ないんだよね」
「覚えてないだけだろ? 夢って覚えてないだけで見てるって聞くし」
「そうかな? 気にしたことないからわからん」
夢・・・。夢かー。
言われてもピンとこない。
眠りは深い方だと思ってるし、寝つきは良い方だし、寝起きも良い。
夢を見た記憶がないくらい、オレにとって縁遠いもの・・・と思っていたけど、ジュンに言われるとちょっと気になってくる。
「でもよかったじゃん、お前のファン、理解あるみたいでさ。ほら、ふたりの恋を応援しますーって書いてくれてる子がいる」
「え」
ジュンにその書きこみを見せられ、なぜか気持ちがモヤッとする。
『愛瑠ちゃんとトモセくんお似合いだと思います。ふたりのこと大好きなのでこれからも応援してます』
他にも三上愛瑠とセットで応援するとか、心の広い励ましの書きこみにモヤモヤが積もる。
「なんか誤解されてるの嫌だ」
「なんでだよ? 付き合っててもいいって言ってんだぜ? 解くにしても多分、社長はオッケーしないと思うぜ? このままだんまりで通すと俺は思う。三上愛瑠側の事務所も大手だし、こっちが実はデマでしたーなんて謝罪でもしたら向こうがどう復習してくるか・・・考えるだけでも怖いだろ?」
「・・・うっ」
「ここは大人しく肯定も否定もしない。これがお互いのためだって。ファンの子もわかってて応援してくれてるんだぜ? きっと」
「・・・なんか、そうゆうところ嫌だ」
「・・・意外と正義感強い?」
「そうゆうわけじゃない・・・ただ・・・」
ただ。
ファンの子もそうだけど、誤解してほしくない子がいる・・・ような。
記憶の中に靄がかかってはっきりしない。
こうゆうの気持ち悪くて嫌だけど、思い出せない。
物思いにふけっていると、ジュンがスクッとベンチから立ちあがる。
「俺、もうそろそろロケがあるから行くな」
「あ、うん! パンケーキありがとう、美味しかった」
「おう、そーいえば、カズ先輩からメールあった?」
「あー・・・うん、逆に利用してやれって」
ぷはっとジュンが笑う。
「さっすがカズ先輩! つーかニューヨークにいてもバレるんだな」
「さすがにニューヨークで騒がられるほど有名じゃないけど、多分、元メンバーとかから聞いたんじゃない?」
「かもなー。カズ先輩もグループ解散後、演技の勉強とかいって海外留学するんだからすげーよな」
「・・・うん」
「なに? カズ先輩が恋しくなった?」
意地悪く言うジュンにムッとする。
「子供扱いするなって。いなくなって寂しいとは思うけど、そこまでじゃない」
「はいはい。あ、マネージャーの増井さんからだ。じゃ、俺行くな。ま、受験勉強でもガンバッとけ」
「言われなくても」
スマホで電話しながら中庭を出ていくジュンに手を振ったあと、自分もベンチから立ち上がる。
確かにちょうどいい機会だ。今のうちに勉強をみっちりやっておこう。
と、思うけど、さっきのことが頭から離れない。
今すぐにでも誤解を解きたい。と思ってる自分がいる。
それが誰なのか、よくわかってないのに。
誰だろ。
数秒考えたところでめんどくさがりの自分が顔を出し、
「ま、いっか」
背伸びをして、自分の部屋へ戻った。
外は暑い。
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