ボクの推しアイドルに会える方法

たっぷりチョコ

文字の大きさ
上 下
21 / 57

「新しい気持ち」1/2

しおりを挟む
 コンサートからの帰宅後、あずくんの言うとおり姉さんたちに捕まり、深夜になろうとしているにもかかわらずコンサートについて語り明かすはめになった。
 おかげで夢を見るどころか、自分がいつ寝たのかさえ覚えていない。しかも、リビングでみんなして雑魚寝。
 母さんが夜勤から帰ってきたところでボクだけ反射的に起きて、朝シャンを浴び、洗濯、朝食を作って、あずくんを母さんに頼んで部活へと向かった。

 ん?
 何かすっごく重要なことを忘れているような・・・。

 部活の休憩時間、外の水場で蛇口から直接頭に水を被っていると、ふとコンサート直後のことを思い出し、おもいっきり蛇口に頭を打ち付け痛い思いをした。

「ヤバイ、浜村さんにバレたんだった!!」
 頭部をさすりながら血の気が体から引いていくのを感じる。
 フェイスタオルを被って水気を拭きながら、どうしようどうしようとそればかり。
 バレたんだからもう取り繕うこともできないんだけど。それに、浜村さんだってきっと同じ心境かもしれない。
 
 昨日はあのあと誘導のスタッフに注意されてその場をすぐ離れたから何も会話はなかったけど・・・。
 浜村さんの格好を思い出しても正真正銘のアイドルオタクだ。それも、ボクよりかなりヤバめの。(全身トモセくんカラーに痛バ!)
 アイドルなんて興味なさそうだったし、オタクを毛嫌いしてるように見えたけど・・・。
 ボクのシックスセンスが働く。浜村さんはプライド高めの隠れオタクだ。
 今は夏休み中だから会うことはないけど、2学期が始まったら口止めとして呼び出されるかもしれない。そう思うと、ゾッと背筋が凍って寒気がする。夏の日差しを浴びてるのに暑さを感じない肝試しをしている気分だ。

 はぁぁぁと重いため息。
「2学期、始まって欲しくない」
 落ち込んでいたら後ろから人の気配がしてとっさに身構えると、部長の波瀬さんが驚いた顔で後ろに立っていた。
 同じ紺色の袴を着た波瀬さんはすぐさま平静さを取り戻し、きつく結んでるポニーテールを軽く揺らす。
 夏なのに清涼感たっぷりの凛としたたたずまいは、男のボクでさえかっこいいと思える。

「どうしたの、殺気だって」
「あ、ごめん・・・気にしないで」
 ははははと笑ってごまかす。浜村さんがわざわざ来たのかと思った。
「・・・さすが先輩方に副部長を任されるだけあって良い反射神経ね。部活後はバイト?」
「へ? うん、一応。というか、ボクより波瀬さんの方がすごいよ」
「謙虚のつもり? 個人戦でインターハイまで行っておいて、1回戦で負けたのに?」
 言葉に棘がある。ボク、波瀬さんに何か不快な思いでもさせたかな?
「・・・そうゆうつもりじゃ・・・。というか、1回戦で負けたけど、インターハイ自体行けることがそもそもすごいよ! 部長以外みんな予選で負けたんだから」
「・・・あさってからの合宿、他校と混合だからまた怪我なんてしてこないでね。それから、それだけの反射神経があるなら、夏休み中にやる試合で優勝でもしたら? あと、秋の新人戦も」
 言いたいことだけ言って、フンッと鼻息を残して道場館に戻って行った波瀬さん。

 うわぁぁぁ。
 夏休み前にバイト先で手首を痛めたこと、まだ根に持っていたんだと背中がゾッとして夏なのに鳥肌が立つ。
 インターハイのこともまだ引きずってるみたいだし・・・。
 何か甘いものでも作って差し入れしようかなぁ。余計なお世話かなぁ。

 うちの剣道部の合宿は毎年他校との合同だ。しかも、2週間という長さ。(残りの夏休みがほとんど合宿で潰される)
 複数の顧問とOBにしごかれ、最終日には他校との対抗試合で幕を閉じる。とにかく、顧問同士のライバル視が熱い。(都立なのに)
 
 悩みの種がもうひとつできた。昨日行ったラヴずのコンサートの余韻なんてこれっぽちもない、これがボクのリアル・・・なんて。
 歌いながら手を振っていたトモセくんはキラキラして輝いていた。アイドルそのものだ。
 昨日のことなのに、もう遠い記憶のようで、また唐突に寂しさが押し寄せてくる。胸のあたりがぎゅーっとして不安に近い気持ちになる。
 推しを見てこんな気持ちになるのは初めてだ。

「合宿・・・行く前に、夢の中で会えるといいな」

 会いたい。夢の中のトモセくんに。
 確証した、ボクの新しい気持ち。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

腐男子ですが何か?

みーやん
BL
俺は田中玲央。何処にでもいる一般人。 ただ少し趣味が特殊で男と男がイチャコラしているのをみるのが大好きだってこと以外はね。 そんな俺は中学一年生の頃から密かに企んでいた計画がある。青藍学園。そう全寮制男子校へ入学することだ。しかし定番ながら学費がバカみたい高額だ。そこで特待生を狙うべく勉強に励んだ。 幸いにも俺にはすこぶる頭のいい姉がいたため、中学一年生からの成績は常にトップ。そのまま三年間走り切ったのだ。 そしてついに高校入試の試験。 見事特待生と首席をもぎとったのだ。 「さぁ!ここからが俺の人生の始まりだ! って。え? 首席って…めっちゃ目立つくねぇ?! やっちまったぁ!!」 この作品はごく普通の顔をした一般人に思えた田中玲央が実は隠れ美少年だということを知らずに腐男子を隠しながら学園生活を送る物語である。

それはきっと、気の迷い。

葉津緒
BL
王道転入生に親友扱いされている、気弱な平凡脇役くんが主人公。嫌われ後、総狙われ? 主人公→睦実(ムツミ) 王道転入生→珠紀(タマキ) 全寮制王道学園/美形×平凡/コメディ?

バズる間取り

福澤ゆき
BL
元人気子役&アイドルだった伊織は成長すると「劣化した」と叩かれて人気が急落し、世間から忘れられかけていた。ある日、「事故物件に住む」というネットTVの企画の仕事が舞い込んでくる。仕事を選べない伊織は事故物件に住むことになるが、配信中に本当に怪奇現象が起こったことにより、一気にバズり、再び注目を浴びることに。 自称視える隣人イケメン大学生狗飼に「これ以上住まない方がいい」と忠告を受けるが、伊織は芸能界生き残りをかけて、この企画を続行する。やがて怪異はエスカレートしていき…… すでに完結済みの話のため一気に投稿させていただきますmm

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

灰かぶり君

渡里あずま
BL
谷出灰(たに いずりは)十六歳。平凡だが、職業(ケータイ小説家)はちょっと非凡(本人談)。 お嬢様学校でのガールズライフを書いていた彼だったがある日、担当から「次は王道学園物(BL)ね♪」と無茶振りされてしまう。 「出灰君は安心して、王道君を主人公にした王道学園物を書いてちょうだい!」 「……禿げる」 テンション低め(脳内ではお喋り)な主人公の運命はいかに? ※重複投稿作品※

俺の推し♂が路頭に迷っていたので

木野 章
BL
️アフターストーリーは中途半端ですが、本編は完結しております(何処かでまた書き直すつもりです) どこにでも居る冴えない男 左江内 巨輝(さえない おおき)は 地下アイドルグループ『wedge stone』のメンバーである琥珀の熱烈なファンであった。 しかしある日、グループのメンバー数人が大炎上してしまい、その流れで解散となってしまった… 推しを失ってしまった左江内は抜け殻のように日々を過ごしていたのだが…???

ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話

あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ハンター ライト(17) ???? アル(20) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 後半のキャラ崩壊は許してください;;

うまく笑えない君へと捧ぐ

西友
BL
 本編+おまけ話、完結です。  ありがとうございました!  中学二年の夏、彰太(しょうた)は恋愛を諦めた。でも、一人でも恋は出来るから。そんな想いを秘めたまま、彰太は一翔(かずと)に片想いをする。やがて、ハグから始まった二人の恋愛は、三年で幕を閉じることになる。  一翔の左手の薬指には、微かに光る指輪がある。綺麗な奥さんと、一歳になる娘がいるという一翔。あの三年間は、幻だった。一翔はそんな風に思っているかもしれない。  ──でも。おれにとっては、確かに現実だったよ。  もう二度と交差することのない想いを秘め、彰太は遠い場所で笑う一翔に背を向けた。

処理中です...