ボクの推しアイドルに会える方法

たっぷりチョコ

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「コンサート」

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 こ、この時が来てしまったー--!!!

 「いよいよだね」
 トイレから戻って来たあずくんが席につくなりボクに声をかける。
「うん! 会場に入ってからずっと興奮してるよ。ステージの裏にはすでにトモセくんがいると思うと・・・尊い」
「それな」
 ふたりして胸に手を当ててどこかにいるであろう推しの存在を想像する。

 ついにラヴずのコンサート当日。
 あずくんがゲットしたチケットは夜の部だというのに、昼間からコンサート会場に来てグッズを買ったり、会場前にあるポップなどの前で記念写真を撮ったり、早めの夕飯を済ませたりとまだ始まってもいないのに満喫しまくっている。
 今は2階の指定席に座って始まるのを今かと待っている最中だ。

「あずくん、今日は本当にありがとう、チケット取ってくれて」
「いいよ、しゃくだけど、姉ちゃんのマネのおかげだし。こうゆう時だけ姉ちゃんが芸能活動しててラッキーて思うところだよね」
「でも、平気? あまりコネとか使いたくないっていつも言ってたのに」
「今回は緊急事態だからしょうがない。僕もアキも運がなさすぎ! それに、頼んでも無理な時は無理だし。今回はホントにたまたま。マネの後輩が今回のコンサートのプロジェクトに参加してたから貰えたチケットだし」
「えー、すごい。何かお礼した方がいいよね?」
「マネには僕がするからアキは気にしなくていいよ」
「うーん、でも・・・おこぼれとはいえラヴずのチケットだし」
「じゃー、お菓子作ってよ。アップルパイがいーなー」
「それってあずくんの好みじゃん」
「ブーブー」


 会場内がだんだん賑やかになり、あっという間に5階まである席が埋まった。
 開始時間5分前には、ラヴずメンバーのアナウンスが流れ会場内は一気に興奮に包まれる。それから5分後、明かりが消え、暗くなったところでラヴずの曲とともにステージがライトに照らされ、メンバーが一人ずつ走って出てきた。
 大きな液晶画面にもアップで映し出される。

 曲が聞こえないくらい歓声が響き渡り、耳が痛いくらいだ。あずくんもボクも、会場の人たちみんな立ち上がってペンライトやうちわを振ってメンバーを歓迎する。
 最後にトモセくんが歌いながらステージに現れ、ボクの興奮はマックス!

 全体的に白を基調とした衣装。半袖のシャツにはそれぞれの担当カラーのスカーフを身に着けていて、トモセくんは水色のスカーフをリボン結びにして首に巻いている。かわいいっ。
 他のメンバーもスカーフをネクタイ結びにしたり、首から下げるだけにしたり、腕に巻いたりといろいろ。

 ちなみに、そのスカーフは販売店で売っていて、コンサート限定グッズのひとつ&アイテムだったり。勘の良いファンは推しのカラーを買ってコンサートに参戦。
 ボクとあずくんは事前にSNSですでにコンサートに参加した人たちのコメントで知っていたから買わないわけがない。(ちゃっかり手首に推しカラーのスカーフを付けている)

 ステージ内を歌いながら走り回って、メンバー全員が真ん中のメインステージに集まったところで曲が終わると、一層歓声が響き渡る。
「みんなー、今日は暑い中来てくれてありがとう!」
 リーダーのルイが第一声をあげ、会場内が沸き立つ。そのあとを続いてメンバーがひとりずつ手を挙げながら一言いっていく。
 
 あぁ、これぞラヴずのコンサートっ!! 運がなさすぎて2年も経っちゃったけど。
 お決まりの挨拶を見ながらじーんと感動する。カイくんが手を挙げた瞬間、隣にいるあずくんが黄色い声をあげてその場でジャンプ。
 普段、ツンとしてるあずくんも推しの前ではしゃいじゃって可愛いなぁ。わかる、わかるよ、だってカイはボクの元カレだもん。
 仏の顔をしながら、2年前はボクも元カレにキャーキャー言ってたなぁ・・・なんて。
 元推しのことをついつい元カレと呼びたくなる、このオタクの心理は一体なんだろう。そして、なんでも知ってるよ的な元カノ面したくなる心理も一体・・・。(フッ)

 物思いにふけていると、トモセくんの番が来ていた。
「こんにちはーー! 今日は楽しんでいきましょうー!」
「と、ともっっ!!」
 声をあげようとしたら、前列の女子の声にかき消されてしまった。どうやらボクと同じトモセくん推しみたいだ。(ま、負けた)
 他のメンバーより人気は劣っているとはいえ、トモセくんを推してるファンは大勢いるわけで。視点を変えれば仲間なわけで。
 ステージの上で手を振るトモセくんが小さい。あ、違った。いつもより、いつもどころじゃない、トモセくんが遠すぎる。
 2階は全体が見れて良い。なんて思ってたけど、さすがに遠い。一生懸命作ったうちわもちゃんとトモセくんの視界に入っているか疑わしい。
 秘密なんて言わずにちゃんと教えておけばよかった。なんて、あそこにいるのはボクがいつも夢で会ってるトモセくんじゃない。

 再び曲がかかり、2曲目が始まった。会場内が盛り上がっている中、ボクの心に急にぽっかりと穴があいた気がした。
 コンサートに来てるのに、目の前にラヴずがいるのに、ずっと会いたかったが推しがいるのに。どんどん寂しい気持ちになっていく。
 なんで? どうしてだろう? あんなに楽しみにしていたコンサートなのに。生のトモセくんが遠いけどすぐ近くにいるのに。

 前列の女子がキャーッとひときわ大きい声でうちわを振り上げだした。ハッと気づくと、トモセくんが通路を歩きながら2階に向かって手を振り歌っている。
 と、トモセくんだっ! さすがにメインステージと違って、2階とはいえ生トモセくんがちょっと近くに見える。
 ここは積極的にうちわを振ってアピール! 
「へ?」
 前を通りかかったトモセくんと一瞬、目があったような・・・。そんなときめきもよく通るオレンジ色の声にかき消される。

「ヤバいー! 今、トモよんと目があったんだけどぉー!!!」
 めちゃくちゃ喜んでる。しかもあのファン、トモセくんのこと『ともよん』て呼んでるってことは、古株だぁー!(デビュー当時からトモセくんを推してるファンはトモセくんをともよんと呼ぶ)
 他にもあちこちでトモセくんと目が合ったとアピールするファンが続出。
 うん、ボクも一瞬目が合ったと思った。だよね。そうだよね。そんなわけない、ファンの錯覚て奴だよね。
「なわけないじゃん」とあずくんが安定の毒を吐く。

 気づけば、トモセくんはいつの間にかジュンくんと腕を組んで反対側の通路へと歩いている。
「あ」
 トモセくんの後ろ姿を見ながらふと気づく。髪がストレートだ。夢の中のトモセくんは最近いつもネコっ毛のままだったからなんだか新鮮だ。
 アイロンかけるの大変だから面倒だって言ってたなぁ。そういえば、昨日は会えなかったけど、おとといは会えた。その時は東京でのコンサートが初日で、久々の人前で緊張したって言ってたなぁ。
 なんて、思い出すのは夢の中のトモセくんばかりだ。

 キラキラした眩しいアイドルのトモセくんが目の前にいるのに、面倒くさがりで、よく笑って、冗談も言って、弟の愚痴もこぼしたり。ダンスに対してはストイックすぎるほど練習して・・・。ボクのことアキって元気よく呼んでくれる。

 めちゃくちゃ寂しい。
 今すぐ家に帰りたい。帰って眠って、夢の中のトモセくんに会いたい。
 こんなのおかしいて自分でもわかってる。自分が創り出した偽物にすぎない。本物のトモセくんじゃない。
 だけど、ボクが今一番会いたいのは、触れられるほど近くにいるトモセくんだ。
 偽物でもいい、夢の中のトモセくんに会いたい。




 念願のコンサートが終わり、会場内は帰宅ラッシュ。
「アキ、このあと家に泊っていい?」
 席を立ちながらあずくんが聞いてくるから、ボクはふたつ返事でオッケーした。スマホの電源を入れると夜の9時すぎだ。
 この人数だから電車はすごい人混みだと予想して、横浜のあずくんは自宅に着くのにきっと0時を回る・・・と考えると、ここからあずくんよりは遠くないうちに泊まるのがベスト。幸い、今は夏休み真っ最中だ。
「アキんち行ったらラヴずの過去のコンサート観ない? 余韻が残ってるから多分全然寝れないと思う」
「えっ! あずくん寝ないの?!」
「それに、アキのお姉さま方がコンサートの話しろって言ってくると思う」
「うわぁー」

 他愛無い話をしている間に道をふさいでいた人たちがやっといなくなり、ボクたちも出口へと歩きだしたその時、
「はぁぁ、今日来てよかった! マジで。 まさかともよんと目が合うなんてっ。夢に出てきてくれないかなー」
「ともよん」にピクッと反応して思わず前列にいる後ろ姿の女子に視線を向ける。
 水色のTシャツに水色のミニスカート。サンダルまで水色と全身トモセくんコーデだっ!(ボクよりすごいっ!)
 栗色のツインテールはウェーブがかっていてゆるわだ。ちょっとトモセくんのネコっ毛に似ている。なんて、ほっこりしていると、
「お姉ちゃん、バック忘れてる!」
「あ、ヤバ」
 見ると、椅子にこれまた水色の大きいバックが。しかも、トモセくんの缶バッチがびっしり隙間なく付けてある。(痛バだっ)

「うわー、引くレベルの痛バだ」
 お決まりとばかりにあずくんの毒舌が。思わずあずくんに向かって「めっ!」と犬を叱るようなしぐさを口パクでするけど、すでに遅かった。
「はぁ?」
 バックを取りに戻って来た女子があずくんに熱い視線を向けている。(あずくーん!)
「ご、ごめんね、悪気があるわけじゃないんだ、ちょっと口が悪いっていうか」
「・・・え、雨野くん?」
「・・・浜・・・村さん?」
 丸メガネをかけているけど、クラスメイトの浜村さんそっくりだ。というか、本人?
 数秒ほど時間が止まったように固まったあと、ふたりして弾けるように大声を出して驚く。

 オタクだということがついにクラスメイトにバレてしまった! しかも、浜村さんも隠れオタク?!
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