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「恋人発覚」2/2
しおりを挟むトモセくん出演の映画は、熱愛騒動のおかげで売り上げが予想より2倍も上がり、作品自体も好評で良いスタートを切った。
起用されたラヴずの新曲もいつもより売れて、売り上げランキング1位に。
クラスメイトの女子に印象の薄いアイドル呼ばわりされていたトモセくんも、今回のことで演技の上手いアイドルとしてファンが増えたとか。
「すごくよかったです、トモセくん! あの最後のシーンなんて泣きそうになっちゃいました」
白い世界にボクの興奮した声が響き渡る。
「アキにそう言ってもらえてホッとした」
隣に座るトモセくんが胸を撫でおろしながら微笑む。
「大丈夫! 友達も良作だって言ってたし、SNSでも評判いいですよ。今、部活がちょっと忙しくて2回しか観れてないけど、夏休みに入ったら毎日のように行きまっす!」
興奮しすぎてちょっと大げさなことを口走っちゃったけど、あと20回は確実に行く予定。
「もう2回も観たの?! 昨日公開されたばっかりなのに」
「もちろん! というか、ファンとしては初日に行けなかったのがすごく悔しいです!」
昨日はバイトで行けなかったのがボクなりの心残りだ。
後悔の余韻に浸っていると、真顔のトモセくんに「アキ」と呼ばれる。
「アキにはちゃんと言っておこうと思って」
「へ?」
「今回の映画の主演でもあり、オレの恋人役でもある三上愛瑠との熱愛報道が流れたと思うけど、アキ、知ってるよね?」
「・・・」
「アキは何も言わずにいつもどおり接してくれてたけど・・・。ありがとう、嬉しかった」
「・・・トモセくん」
優しく微笑むトモセくんに、キュンとときめく。
ファンとして当然なことをしたけど、トモセくん直々に褒められた! ボクこそ嬉しすぎて失神しそう。
「トモセくんに恋人がいても、ボクはファンとしてずっと応援してまっす! これからは三上愛瑠ちゃんも一緒に応援しまっす!」
安心して、トモセくん。
ボクはこれかもトモセくんを。トモセくんだけを推していくから。
熱い気持ちをぶつけすぎたのか、トモセくんの顔色が心なしか悪くなっていく。もしかして、引かれた?!
「・・・そこまで応援してくれるのは本当に嬉しいんだけど・・・ごめん、アキ」
「も、もしかしてうざかったですか?! ファン失格?! あわわわごめんなさいぃぃ」
「違う違う! そうじゃなくて!」
土下座しそうなボクを慌てて止めにはいる、トモセくん。
「嘘だから」
「へ?」
「三上愛瑠との熱愛は真っ赤な嘘。映画を盛り上げたくて三上愛瑠側の事務所の社長が勝手にやったことだから」
「・・・」
目が点になるボクをスルーして、トモセくんは話を続ける。
「最初はカイが恋人役の予定だったんだ。だけど、スケジュールがまとまらなくてオレに話が回ってきて。だけど、カイより売れてないオレなのが不安だったみたいで、三上愛瑠の社長がプライベートでもつきあってるっていう噂を流せば、話題になるって思ったらしくて・・・。実際、うまくいったのがちょっと腑に落ちないけど。オレがあまり人気ないのが悪いし、今回は向こうを立てるってことで合わせたんだけど・・・」
「お、お付き合いされてない?」
「うん、ごめん、すぐ本当のこと言えなくて。こうゆうことは秘密厳守だから。アキ、普通に接してくれてるけど、なんか前より無理して盛り上げてくれてるっていうか・・・我慢できなくて」
「・・・」
そんなふうにトモセくんに見られていたなんて・・・。自分では普通にしていたつもりだったから、無意識とはいえ、
「ご、ごめんなさい、トモセくんに気を遣わせちゃって」
「ううん、オレがアキをそうさせたんだから。他のファンにも嫌な思いさせて・・・正直、罪悪感でしかない」
普段見せないトモセくんのうつむく顔に、胸がツキッと痛む。
こうだったらいいと推測を立てていた。望んでいたことをトモセくんの、夢の住人のトモセくんに言ってもらえて、嬉しくないと言えば嘘になる。
現実でも本当にそうならいいとさえ思う。
だけど、トモセくんはボクたちファンより嘘をつきとおすことで傷ついている。現実のトモセくんも、もしかしたら・・・。
そんな簡単なこと、なんで気づかなかったんだろう。
「実は・・・なんとなくそうかなぁと思ってました!」
「え?」
「だって、三上愛瑠ちゃんとの恋人らしき証拠写真とか載ってないし、騒がられてるのに映画が中止とかにならないから。ファンにはお見通しですよ、トモセくん」
「・・・アキ」
トモセくんの瞳が潤む。(尊い)
「だから安心して下さい。あ、あと、もし本当に付き合ってるとしてもファンを辞める気は本当にないんで! それも安心して下さい!」
力説するボクを、トモセくんは力が抜けたような柔らかい笑顔を見せ、
「だから、付き合ってないよ。あと、ファンだけど、アキはオレの友達でしょ?」
「はい・・・。そうでした!」
友達・・・。
例え、夢の中でもトモセくんはアイドルでボクは大勢の中のいちファン。
間違えちゃダメなんだ。
「・・・」
間違えるって何を?
自分の考えにきょとんとしていると、トモセくんが顔を覗き込んできてびっくりする。
「へ? あ、え?!」
「ごめん、さっきから声かけてるんだけどボーッとしてたから。何かあった?」
「あ、いえ、なんでも、ないです」
近すぎるトモセくんから距離をとって呼吸を整える。
間違いってなんだろう。夢と現実のことだろうか。
確かにリンクしてる分、トモセくんと仲良くなれて勘違いしたらまずい。でも、トモセくんにはそう簡単に会える人物じゃないから、勘違いしたとしても別になにも起こらないはず。
むしろ、ボクが痛い奴になる。トモセくんと仲良しだなんて言った日には姉さんたちが心配するに決まってる。
実際、あのあずくんにさえ優しくするとまで言わせちゃったし。
トモセくんが観察するようにじっとボクを見ていることに気づく。
「へ?! いつから?」
「さっき声かけてからずっと。アキって、顔に出るんだね。いろんな表情して見てて飽きないっていうか、面白い」
「え、えー・・・」
推しにそんなこと言われたら、恥ずか死ぬ。というか、推しに見つめられてる時点で死ぬ。
「あ、顔赤い」
クスッと笑いながらボクの頬を指で突っつくトモセくんに、ボクは一瞬で石のように硬直して顔がりんごのように真っ赤になった。
危険だ。
ボクのシックスセンスがいってる。
これはいろいろと間違えちゃダメだ。
友達どころか、恋人同士みたいなんて間違っても勘違いしちゃダメだ!!
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