ボクの推しアイドルに会える方法

たっぷりチョコ

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「落ち込む日もある」2/2

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「あー最悪だぁ。完全にやらかしたぁ」
 ボフッとベッドに倒れこみ、枕に顔をうずめる。
 打ちのめされた心のまま、疲労が一気に溢れだし眠りへと落ちていく。

 
 パチッと目を覚ますと、そこは真っ白な夢の中。
 慌てて飛び起きると、制服姿のままの自分に気づく。
「うわぁヤバイ! バイトから帰ってきてそのまま寝ちゃったんだ。あーもう、最悪だぁ。制服にシワができるよぉ。直すの大変なんだよなぁ」
 しょんぼりしていると、
「アキ?」
「え? ・・・え!」
 振り返るとトモセくんがこっちに近づいてくる姿が。
 サーッと体の血が一気に引いていくのが夢の中なのにリアルに感じる。

 無理。無理無理無理無理ー! 推しに、部活とバイトの汗まみれ&疲れきった顔を見せるなんて!! せめて、風呂くらい入ってから寝ればよかった!(ボクのバカぁ)
 風呂・・・? 風呂っっー-!!

 風呂に入っていない事実に、自分で言った言葉に気づかされ打ちのめされる。
 腕の匂いを嗅ぎながら汗臭ささをチェック。頭もボサボサだ。

 バイトで失敗したのが尾を引いてるからって推しに会えることをすっかり忘れて寝ちゃうなんて!
 今日はなんでこんなにツイてないんだろう。

 白い地面に両手をついて半泣き状態のボクに、トモセくんがボクの前に立ってそのまましゃがみこむ。
「あれ? 今日はなんか雰囲気が違うと思ったら服が違うんだ。それ、制服?」
「・・・身勝手ながら、今日はボクが見えてないということにしてください」
 顔をあげることなく、その場でダンゴムシのように体を丸くして存在を消そうと試みる。
「・・・」
 くすくすとトモセくんの笑う声に、さすがに無理があったと恥ずかしくなる。(尊い)
「なんかあった?」
 トモセくんの優しい青い声に救われる。
「・・・風呂入ってないんです。汗臭いと思うし、パンケーキの匂いも。だから、ボクから離れたほうが・・・」
「んー? 別に臭くないけど?」
「へ?」
 顔を上げると、目の前にトモセくんの顔がっ!(近っ!)
 大慌てで後ろに下がってトモセくんから距離をとる。
「うわぁぁぁ、無理無理無理! ていうか、本当に汗臭いんで!」
「大丈夫、本当に匂わないから」
 ニコッと笑顔を向けるトモセくんに、もう一度腕を嗅いでみると臭くない。どうやらそう思い込んでいただけだったみたいだ。

 ここは夢の中。さすがに匂いまではしないらしい。それなら、格好もアニメみたいに同じ服装に統一するとかにしてほしい。
 なんで、格好だけ反映するんだろう。
 またしょんぼりしていると、
「パンケーキって?」
「えーと、バイト先がパンケーキ専門店なんです。ボク、最初はホール希望だったんですけど、家でも料理するって言ったら調理にまわされて。だから、バイト先ではパンケーキばっかり焼いてるんで、帰る頃には甘い匂いが体に染みついちゃうんです」
「そうなんだ」
「・・・男が甘い匂いさせてるなんて気持ち悪いですよね」
「え? なんで? オレ、パンケーキ好きだから甘い匂いしてたら絶対お腹すきそう」

 トモセくんの言葉に、推し活センサーが反応する。
「知ってます!! 一時期ハマって、メンバーで仲のいいジュンくんとパンケーキの食べ歩きしたって某雑誌のインタビューに書いてありました! ボク、それを見て今のバイト先に決めたんです! 働いてたらもしかしてトモセくんが食べに来てくれるかなぁ、なんて・・・そんなことないんですけどね」
 しょんぼりしてたのに急にハイテンションでペラペラしゃべるから、トモセくんがびっくりした顔をしている。
「わぁぁ、ごめんなさい」
 
 ヤバイ、やらかしたぁ。
 女子に言われたら可愛いですむけど、こんな冴えないDKに言われてもさすがの心の広いトモセくんでもキモイって思うかも。

 クスッと笑う、トモセくん。
「よく知ってるね! 確か去年のアイドル特集かなんかの雑誌インタビューだった気がする。ちょうどジュンとパンケーキにハマってて。ジュン、ヤンキー担当やってるけどめちゃくちゃ甘いもの好きなんだよね」
「し、知ってます。朝からチョコレートケーキのフォールをひとりで食べれるんですよね?」
「そう!」
 あはははとトモセくんが楽しそうに笑う。(天使降臨ー!!)

 トモセくんはメンバーの中で控えめな方で、バラエティ番組に出てもほとんどしゃべることなく番組が終わる・・・なんてしょっちゅうだ。
 省エネアイドルとか草食男子とか呼ばれているから、今ボクの目の前で声を出して笑ってくれるトモセくんは貴重すぎる!

「あの、去年のことまで覚えてるボクってキモくないですか? 男のファンだし」
 トモセくんの笑顔が一瞬で消えた。
 あーまたやらかしちゃった。今日のボクはどうかしてる。
「キモくないよ。めちゃくちゃ嬉しい。可愛い女の子じゃなくて残念とかいう人もいるかもしれないけど、オレは同性のファンに憧られたり、応援してもらえるって同じ男として認めてもらったみたいで嬉しいし、自信がつく」
「・・・トモセくん」
 まっすぐボクの目を見てくれるトモセくんに、じーんと胸が熱くなる。
 まるで、ステージから大勢のファンの中からボクを見つけてもらったみたいな。

「ボク・・・今日バイトでミスしちゃって、お客さん怒らせちゃったんです。ダメですよね、失敗するとどんどん悪い方に考えちゃって。過去の嫌なことまで思い出しちゃって・・・」
 キモいなんて、トモセくんが思うはずないのに。小6の時に言われた言葉だったのに。
 うつむくボクの両手を優しく手にとって、トモセくんが両手で包みこむ。

 へ?!!!

「いつも応援してくれてありがとう。去年のことまで、メンバーのことまで覚えててくれてありがとう。アキのおかげでアイドル活動頑張れてる。これからも一緒に頑張ろう」
「・・・と、トモセくん」
 二度目の推しのまっすぐな瞳に、ボクのクヨクヨした心がやっと吹っ飛んだ。

 贅沢すぎる、ファンサっっっ!!!

 ぎゅっとトモセくんの大きくてキレイな手を握り返し、
「が、頑張りまっす!! もう何があってもトモセくんのファンでい続けます!」
 わーんと今にも泣きそうなテンションで盛り上がる。
「ご、ごめん。これくらいしか励まし方思いつかなくて」
 情けない笑顔を浮かべるトモセくんにキュンキュンしかしないっ!
「一生ついていきまーすっっ!」
「元気、出ました?」
 ボクの顔を覗きこみながら、控えめに聞いてくるトモセくんに首が折れるくらい縦に大きく振って頷く。
「よかった」
 ホッとした笑顔のトモセくん。

 最&高すぎるー!!

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