ボクの推しアイドルに会える方法

たっぷりチョコ

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「全部叶えたい!」

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『夢の中ならそれが全部叶えられる!』

 アイドルオタク仲間でもあるあずくんに言われた言葉を合図に、ボクはパチッと目を覚ます。
 辺りを見回すと、そこはここ最近毎日のように見る夢の中、真っ白な世界。
 何もない空間に、Tシャツとスウェットパンツ姿のボクがぽつんと突っ立っている。

 よしっ! とガッツポーズ。
 今夜もここに来れたことに誰でもいいから感謝したい気分だ。

 あずくんだってボクの夢のことは半信半疑だと思う。それでも納得できる裏付けまで考えてくれて、いつまでも夢の中のトモセくんに緊張するボクの背中まで押してくれて・・・。
 しかも、ボクの夢を笑ったりけなしたりせず、ちゃんと聞いてくれたあずくんに感謝。

 ボクって恵まれてるなぁ。あずくんのこと大事にしなきゃ。(同志として)

 フンッと鼻息を荒くして、気持ちを切り替える。
 今日のボクは今までのボクとは違う。
 あずくんが提案してくれたことを実行するために、寝る直前に念じて今ここにいるのだ。

「トモセくんと握手したい! トモセくんにサインしてもらう! トモセくんとっっ!!」

 あわわわわと両手で顔を覆う。
 口にするとやっぱり恥ずい。いくら夢の中とはいえ、ボクの身勝手すぎるお願い事にトモセくんは呆れたりしないかなぁ。
 ため息をつきつつ、トモセくんに叶えてもらいたいことを口に出さずに念じ続けていると、

「アキ!」

 青い声が白い空間に響き、ボクの耳に届く。

「と、トモセくん!」
 振り返ると、今日観た生配信のトモセくんがボクの目の前に。(あぁ、尊すぎて死す)
 焦げ茶色のやわらかそうなストレートヘア、整った顔立ち、二重の丸い瞳。はにかむ口元が今日も可愛い!(ボクの推ししか勝たん!!)
 いつものようにハート型の心臓に矢が刺さりまくってるし、尊すぎて失神したいのをなんとか堪え、目の前にいる推しと向き合う。

 あずくんが言ってくれた、『夢の中の住人だよ?』という言葉を心の中で唱え、さらに、目の前にいるのはトモセくんだけど! ボクが好きすぎて作りだした妄想のトモセくんだ! と何度も自分に言い聞かせる。
 もちろんそのとおりで、今目の前にいるトモセくんの格好は、寝る数時間前に観た生配信のトモセくんと同じ格好をしている。
 水色のロゴ入りパーカーに・・・下はさすがに映ってなかったからきっとボクの創造だと思うけど、緑のチェック柄ズボンだ。(制服?)

「今日は逃げないね」
 推しの素直な一言に危うく逃げそうになる・・・が、なんとか持ちこたえたボクは、
「な、ななな生配信観ました!」
 声がおもいっきり裏返ってしまった。(恥ずか死ぬ)
「ありがとう」
「そ、そそのパーカ、生配信と同じですよね! 何語かわかりませんけど印象的なロゴで覚えてて! ズボンも制服っぽいなーって!」
「実は、生配信のあと家に帰ったんだけど着替えるのが面倒くさくてそのまま受験勉強したんだよねー。しかも眠くなってそのまま寝ちゃって今にいたる」
 ズボンは正真正銘の今通っている制服のズボンだと教えてくれるトモセくんに、ボクの脳みそはなんて想像力豊かなんだろうと自分に驚く。
 テンパりすぎたとはいえ、自分の記憶力にツッコミを入れても夢の中のトモセくんは困るだけだと思っていたのに。
 どうやら、夢の中の住人の推しは思っている以上にクオリティーが高いみたいだ。そして、ボキャブラリーがある。(AIか?)
 
 ちなみに、
「このロゴはイタリア語で『トマト』をアレンジしてる」
 と、嬉しそうに話してくれた。(適当すぎる、ボクの脳みそ)

 会話が途切れたところで深呼吸をして、さっきまで念じていたことを思い切って口にすることに。
「あ、あの! ふぁ、ファンサお願いしまっす!」
 なぜか体育会系の声の張りに、トモセくんと一緒に自分まできょとんとする。

 うわぁぁぁ~、緊張しすぎてやらかしたぁ!
 穴があったら深くまで掘ってそのまま生き埋めにしたい!

 耳まで真っ赤なボクをトモセくんは、
「いいよ、握手する?」
「へ?」

 今、『握手』て言った?!
 トモセくんから握手のお誘いがー-ー-----!!!!

 嬉しすぎて失神しそうなのをグッと堪え、
「お、お願い、しま、す」
 今度は声を張らずにいつもの音量を心掛け、おずおずと右手を差し出した。
「いつも応援してくれてありがとう。アキ」
 ニコッとアイドルスマイルを放ち、ボクの手を両手で優しく包み込む。

 か、神対応ー----!!!!(尊いっ!)

 しかも、ボクの名前まで呼んでくれたっ!!(さっきから呼んでる)
 ヤバイ、夢の中でも推しに認知してもらえるなんてっっっ!!

 握手した右手が黄金になったかのように、ものすごく価値のあるものになった。
 
「一生、手を洗いません」
 右手を大事にするボクに、
「いや、洗ってね?」
 推しにツッコミされた。

「もし他にしてほしいことがあったら言って」
「えぇぇぇー、いいんですか?!」
 推しから後押ししてもらえるなんてっ。
 あずくんに感謝せずにはいられない。念じながら寝てよかったぁぁー。

「えと、さ、サインをお願いしたいんですけど・・・」
「サイン? いいけどー・・・」
 トモセくんがうーんと少し困った顔を。(推しの困り顔も尊いっ!)
 トモセくんがなんで困っているのか今更気づき、自分の詰めの甘さを痛感する。
「す、すみませぇん! ペン持ってきてなくて」
 というか、夢の中なんだからペンなんて持ってこれるわけない。それとも、ペンを持って寝たらペンも一緒に夢の中に・・・?

「あ、待って。そういえば、なかなか覚えれないことを手に書くようにしてて」
 ズボンのポケットから油性のマジックペンを取り出す。
「・・・そのペンだとすぐ消えませんよ?」
「そう、だから、カメラとかに映らない手のひらとか、腕に書くようにしてて」
『変な癖だよね?』と言いたげな瞳でクスッとはにかむトモセくんが、可愛いっっ。

 自分に厳しいところ、マジ尊いっっ! もーいっそ、
「ボクもそうします! 油性ペンで英単語を書きまくります!」
「書きまくるのはやめたほうがいいよ?」
 また推しにツッコミされた。
「どこに書く?」
「あ、じゃー・・・」
 この流れだと手のひらか腕でお願いします。と言いたいところだけど、それだと油性ペンでもいつかは消えてしまう。(それは断固拒否)
「Tシャツにお願いします」
「了解」(推しが了解って言った! 推せるっ)
 
 書きやすいように着ているTシャツの両方の裾を引っ張って広げる。それでも書きづらいはずなのにトモセくんは文句ひとつ言わず書きなれた手つきでサインをしてくれた。

 ヤバい。
 感動して泣きそう。

「これでどう?」
 自分で書いたサインを距離をとって確認するトモセくんに、ボクは首がもげるくらい大きく縦に振りまくった。
「全然オッケーです! 一生の宝物にします。一生洗いません!!」
「あはっ。洗濯してね?」
 三回目の推しからのツッコミ。

 幸せすぎるっ。


 

 スマホのアラームで目が覚める。
「本当に叶っちゃった」
 夢でだけど。
 まだ余韻にひたりながら上半身だけ起こし、着ているTシャツに目をむけると、ただの白いTシャツだった。
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