ボクの推しアイドルに会える方法

たっぷりチョコ

文字の大きさ
上 下
3 / 57

ボクの日常 2/3

しおりを挟む
 フライパンの中で目玉焼きが三つ、ジュクジュクと焼けていく。
 頃合いを見て、今だというところで火を止め、すでにウインナーとミニトマトが乗っかっているお皿へと盛り付けていると、ドタドタと階段を下りる足音が。
 ボクがテーブルに朝食の準備をしていると姉さんたちが次々とリビングへと入ってきて、
「おはよーアキ! 悪いけどあたし朝食いらない! 一限に遅れる!」
「え? また寝坊?」
 きょとんとしているボクの目を盗んで、長女の愛理姉さんがウインナーをひょいっと口に放り込んで玄関へと逃げて行った。
「アキ、私ダイエット中なの。お米はよそわないでね」
 次女の美紀姉が静かに席に着くと、上品にミニトマトを口に運ぶ。
「またダイエット?! 美紀姉はもう十分細いよ!」
「・・・あのゲスッ! 今に見てなさい、ギャフンッと言わせてやるんだから!」
 グサッとホークでウインナーを刺す。
「朝から物騒だ・・・」

 青ざめていると、
「アキ~、シャワー浴びたんだけどタオル忘れちゃったぁ~」
 開けっ放しのドアから三女の百里姉の声が。
「また~、ちゃんとタオル出してからシャワー浴びてよぉ」
 慌てて洗面所まで行き、浴室から水を滴らせながら顔を覗かせている百里姉にバスタオルを渡す。
 やれやれとリビングへ戻ろうとしたところで、夜勤明けの母さんが帰ってきた。
「ただいま~、アキ。あー疲れた。工場の爆発事故があってもう大変だったんだからー」
「お帰り、母さん。今日もお疲れ様」
 フラフラな母さんを支えながら一緒にリビングへ入る。

「あー本当だ。今ニュースでやってる」
 母さんの話を聞いて、美紀姉がテレビを観ている。
 テーブルに着く母さんに味噌汁とご飯をよそってテーブルに置くと、疲れがにじみ出た顔でニコッとボクに微笑みかけた。
「アキがいてくれて助かるわ。いつもありがとうね」
「自分の朝食を作るついでだよ、母さんこそいつもボクたちのためにお仕事頑張ってくれてありがとう」
 姉さんたちの分のお弁当を用意しながら笑顔で返す。
「あーん、もう! なんてよくできた息子なのぉ!」
 グイッと腕をつかまれそのままぎゅーっとハグ。
「えーずるい、私も」
 美紀姉が席を立って参戦してくる。
「百里もぉー」
 リビングに入ってきた百里姉も当然とばかりにハグ。
 朝から母さんと姉ふたりに挟まって熱烈な包容をうける。

「う、嬉しいけど・・・学校遅刻しちゃうよ?」
 ボクの一言に姉さんたちがハッと我に返りハグタイムは解散となった。
 もみくちゃにされたボクはやれやれと一息ついてキッチンの片づけにとりかかる。

 ボクはこの雨野家の末っ子長男として生まれた、雨野明。(あめのあきら)家族や仲いい友達はアキって呼ぶ。
 母さんは大きい病院で夜勤看護師として毎日働いている。
 父さんは銀行マンとして去年からイギリスに転勤中。
 4人姉妹の姉さんたちは、上ふたりが大学生。百里姉は専門学生。四女の希愛(のあ)ちゃんは父さんと一緒に去年からイギリスに住み、向こうの高校に通っている。
 ボクは都立の高校に通って2年目になる。(高2ってやつです)
 雨野家は朝からハグするほど仲良し家族。特に姉さんたちはボクを赤ちゃんの頃から可愛がってくれて、ほぼ育ててもらったようなもの。
 
 そう、その育て方が問題だった。
 ボクが生粋のアイドルオタクなのは何を隠そう、四姉妹の絶大な英才教育の玉物だ。
 ボクがアイドルオタクである前に姉さんたちが筋金入りのアイドルオタクなのだ。
 男性アイドル大好きなのも姉さんたちの影響。
 ちなみに、姉さんたちに遊んでもらったおかげで可愛いものが大好きだし、幼い頃は姉さんたちのお下がりの服も着ていた。(男でもスカートを履くのは普通だと思っていた)
 さすがに小学校に上がれば恥ずかしい気持ちも芽生えて、男友達もできて外遊びに夢中になったりもしたけど、女子とアイドルの話をしてる方が好きだった。
 キラキラしたかっこいいイケメンに憧れ、なりたいとも思っていた。さすがに、今はなりたいなんて思わないけど。
 ボクも、姉さんたちと血は争えない、イケメン大好き。(可愛いものも好き)


 「いってきまーす!」
 ベッドで爆睡してる母さんを残し、ゴミ袋を片手に家を後にする。
 紺色のブレザーをはためかせ、自転車で登校。だいたい20分くらいで着く。
 教室に入ると窓際に見知った顔ぶれが。
「はよー、雨野」
「おはよ、宿題やった?」
「一応。答え合わせする?」
「いいね」
 友達は少ないほうだけど仲は良好。
 クラスでは目立ちすぎず、薄すぎず、アイドル好きは封印。

「雨野くーん、宿題忘れちゃったー見せてくれる?」
 クラスの女子が両手を合わせながら寄ってくる。
「いいよ」
 はい、とノートを渡す。
「ありがとー! 今度お礼にクッキー焼いてくるねー」
「あは、ありがとー」
 女子が立ち去ると、鳥海くんがツンツンとボクのブレザーの裾を引っ張る。
「今の浜村さんじゃん。学年で可愛いって人気あるらしいぜ」
「へー」
「雨野、ときどき声かけられるじゃん。脈ありかもよ~」
 鳥海くんがニヤニヤしながらブレザーの裾をまた引っ張る。
「うーん・・・どうだろう」
「なんだよ、かわいい系興味なし?」
「そうゆうわけじゃなくて。そうだったら嬉しいけど・・・浜村さんはボクみたいなの好みじゃないと思うな・・・」
「はいはい、出たー、雨野の謙虚」
「そうゆうんじゃなくて・・・」
 言いかけたところで担任の先生が教室に入って来て慌てて席に着く。

 鳥海くんには話してないけど、浜村さんが女子友達とボクの話をしているのをうっかり聞いちゃったことがある。
『雨野くんていい人だよねー。でも、それだけっていうかー? 顔が残念?』
 ケラケラと友達とおかしそうに笑う浜村さんを思い出し、心がチクッと痛む。
 友達もいるし、クラスのみんなにときどき頼られることもある。先生からの評判も悪くない。
 だけど、冴えない男子のひとり。
 あともうちょっと身長が高かったら。せめて170あれば。
 顔も丸顔じゃなくて、もうちょっと輪郭がはっきりしていれば。
 目も小さくて一重じゃなくて・・・。
 言ったらきりがない。
 外見の悩みは女子だけじゃない。
 今時の男子高校生も悩みは尽きない。


 浜村さんのことをふっきるように、部活でもある剣道でおもいっきり竹刀を振って体を動かす。
 放課後は部活で汗をかく毎日。
 文武両道。
 外見は残念だけど、せめて中身は理想に近づきたくて頑張る。


 部活が終わったあとは地元の駅近くにあるパンケーキ専門店でバイト。
「ホイップクリーム付き、パンケーキふたつお願いしまーす!」
 ウエイトレスの飯島さんがカウンターからキッチンに向かって注文する。
「了解しましたー」
 ボウルにたまご小麦と材料を次々に入れて手慣れた手つきで生地を作り、温めたフライパンを一度濡れた布巾で冷ましてから生地を流し入れる。
 いつもの手順でここの看板商品のパンケーキを焼き上げ、盛り付けをしてカウンターへと出し、飯島さんを呼びつける。
「お願いしまーす!」
「はいはいー。ん~いい匂い。雨野くんの作るパンケーキって特別いい匂いがするのよね~」
 ポニーテールを揺らしながら幸せそうな顔でお皿を手に持つ。
 飯島さんはいつもボクのパンケーキを褒めてくれるから、嬉しくしてついつい頬が緩む。
「レシピ通りに作ってるだけですよ?」
「作る人が違うと違うのよ!」
 チラッとキッチンの奥にいる赤井先輩をギロッと睨みつけ、
「やっぱり、心がピュアだとパンケーキにも表れるのかしらぁ~」
 挑発する飯島さんに赤井先輩がチッと舌打ちをし、間に挟まれているボクはひたすら苦笑いを浮かべるしかない。(バイト先で痴話ゲンカはやめてほしい)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

腐男子ですが何か?

みーやん
BL
俺は田中玲央。何処にでもいる一般人。 ただ少し趣味が特殊で男と男がイチャコラしているのをみるのが大好きだってこと以外はね。 そんな俺は中学一年生の頃から密かに企んでいた計画がある。青藍学園。そう全寮制男子校へ入学することだ。しかし定番ながら学費がバカみたい高額だ。そこで特待生を狙うべく勉強に励んだ。 幸いにも俺にはすこぶる頭のいい姉がいたため、中学一年生からの成績は常にトップ。そのまま三年間走り切ったのだ。 そしてついに高校入試の試験。 見事特待生と首席をもぎとったのだ。 「さぁ!ここからが俺の人生の始まりだ! って。え? 首席って…めっちゃ目立つくねぇ?! やっちまったぁ!!」 この作品はごく普通の顔をした一般人に思えた田中玲央が実は隠れ美少年だということを知らずに腐男子を隠しながら学園生活を送る物語である。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話

あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ハンター ライト(17) ???? アル(20) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 後半のキャラ崩壊は許してください;;

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

灰かぶり君

渡里あずま
BL
谷出灰(たに いずりは)十六歳。平凡だが、職業(ケータイ小説家)はちょっと非凡(本人談)。 お嬢様学校でのガールズライフを書いていた彼だったがある日、担当から「次は王道学園物(BL)ね♪」と無茶振りされてしまう。 「出灰君は安心して、王道君を主人公にした王道学園物を書いてちょうだい!」 「……禿げる」 テンション低め(脳内ではお喋り)な主人公の運命はいかに? ※重複投稿作品※

俺の推し♂が路頭に迷っていたので

木野 章
BL
️アフターストーリーは中途半端ですが、本編は完結しております(何処かでまた書き直すつもりです) どこにでも居る冴えない男 左江内 巨輝(さえない おおき)は 地下アイドルグループ『wedge stone』のメンバーである琥珀の熱烈なファンであった。 しかしある日、グループのメンバー数人が大炎上してしまい、その流れで解散となってしまった… 推しを失ってしまった左江内は抜け殻のように日々を過ごしていたのだが…???

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

処理中です...