聖女の兄で、すみません!

たっぷりチョコ

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「妹をよろしく」

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 いつもの時間に目が覚め、身支度を済ませて朝食をとる。
 廊下の窓から見える白い月をふたつ、眺めながら思う。

「デカ。デカすぎだろ! オレの世界の月の2倍、いや、3倍はある?! それがふたつって・・・存在ありすぎだろ。ていうか、太陽並みに外が明るすぎてなにこれって思うんだけど。ほとんど異常事態じゃん」

 思ったことが口から出ていた。

 ついに桃花が召喚される日になった。そんで、オレが自分の世界に帰る日。
 昨日は頼まれた討伐を10件やって、サムデさんが団員たちと一緒にお別れ会という名の飲み会をしてくれた。(こっちだと飲みパーティーらしい)
 魔石は良い物が買えたけどできあがるまでに日数がかかるとかで、サムデさんが受け取って桃花に渡してくれることになった。ついでにお礼としてサムデさんにも内緒で魔石を買った。(オレの魔力注入)こっちは店主が直接渡してくれることに。
 もっと感傷に浸ったりするかと思ったけどそんな暇は全然ない。でもかえってその方がよかった。あと、第一王子のことも考えなくてすむ。

 今日もそんな感じであっという間に儀式の時間になるんだろうと思っている。
 ちなみに今日の予定は、これからフォ・ドさんのところへ行ってそのあとはやり残したことをもろもろしようと思う。
 第一王子は「延長になった」以来特に音沙汰なし。ルノーから無事、円卓会議は終わったと聞いたけど。
 このまま儀式は不参加でお願いしたい。(切実)
 会ったら絶対気持ちがグラグラする。
 3ヵ月のことを思い返すとマジで最低な奴だったなーと思うけど、いい奴でもある。特に火魔法は感動する。
 最低でやっぱり嫌いだってなったらどんなに楽だって思うんだけど、もうそんな気持ちには全然ならないんだよな。むしろもっと好きになった。
 最悪だ。好きなままお別れするんだ。
 きれいごとを言うけど、オレ抜きで桃花と第一王子とこの国が幸せであってほしいと思う。
 聖女の兄として願っておく。



 


 夕食を済ませシャワーを浴びて身支度を整える。
 地球でのオレの服はどこへ行ったかと思ったら厳重に保管してくれていた。(大げさでびっくり)
 久々にTシャツを着た。
「お、おぉ!」
 懐かしいのとなんか着心地の良さに地球の服ってすごいなーって思った。(こっちの服もそれなりに着心地はよかったけど)
 
 ルノーに聞いたらやっぱり一緒に何かを持っていくことはできないとはっきり言われた。(仕方ない)
 ちなみに第一王子に付けられた魔石のピアスを外そうと何度も試みたけどオレの耳がちぎれそうで怖くて結局断念した。(どういうことだよ)
 フォ・ドさんいわく、自分の世界に戻ったら魔石は何の効力も持たずただの石になるだけ、と。(もちろん第一王子も波動を感じれない)
 しょーがないからおしゃれとして受け入れることにした。(ピアスデビューだ。ゆきやんがなんて思うか)

 朝いちでフォ・ドさんに会いに行ったら忙しすぎて挨拶もそこそこで雑用を手伝わされた。
 自分の部屋に戻ってからは第一王子に手紙を書こうとしたけどうまく言葉が出てこなくてだいぶ時間がかかった。
 結局『妹をよろしく』だけ書いた。
 これじゃー第一王子とあんま変わらないことにちょっと落胆した。
 悔しいから『結婚相手はひとりにしろ』と付け足した。これでオレが勝った。


 コンコンとノックの音が響き、返事したらメリアヌさんが部屋に入って来た。
「ダイヤ様、お時間になりました。召喚儀式をする地下へとお越しください」
「わかりました」
 いよいよだ、と唾を飲み込む。
 頭を下げたままのメリアヌさんを横切って廊下を出る。
 メリアヌさんには昨日のうちにちゃんとお礼を伝えた。サムデさんに教えてもらった刺繍入りのポーチもプレゼントした。
 王都の女子たちの間で流行ってるらしい刺繍専門店の物だ。サムデさんと一緒に行ったけど女性ばかりでめちゃくちゃ居心地悪かった。(メリアヌさんが喜んでくれたから良しとする)
 できればメリアヌさんに桃花の世話もお願いしたかったけど、聖女となると貴族じゃなくて王族の者が世話をするらしい。(残念)
 だからせめて話し相手になってほしいとお願いしたけど、それもできるかどうか・・・らしい。

 
 地下へ行くと、ローブを着た男に儀式をする部屋へと案内された。
 そこはろうそくの灯りだけで薄暗かった。
 ここで待つよう言われ立ち止まると、足元に魔法陣が描かれていた。オレがこっちに召喚された時の魔法陣だ。
 ふと横に視線を向けると、少し離れたところにも床に魔法陣が描いてある。多分、桃花用だ。向こうはやたらとローブを着た魔法使いが多い。
 よく見るとルノーもいる。オレのことは気づいてなさそうだ。
 一応、ルノーにも昨日のうちにお礼を言ったからもう言うことはなんもないんだけど。
 聖女のことで頭がいっぱいだという顔を見るとちょっとムッとする。
 桃花が来たらオレのことなんてあっさり忘れるんだろうな。(べつにいいんだけど)

 そんなことを思っていたら魔法陣が急に青白く光りだした。
 オレの家のリビングに現れた魔法陣も同じように青白く光ってた。その時のことをありありと思い出す。
 ごくっと喉が鳴る。

 本当に自分の世界に帰れるんだ。

 3人ほどいた魔法使いのひとりが、
「ダイヤ様、準備はよろしいでしょうか」
「・・・はい」
 ではゆっくり魔法陣の中に。と魔法使いが促すと、わっと歓声が聞こえた。
 振り返るとルノーが喜んでる顔が見え、青白く光っているもうひとつの魔法陣の上に桃花が仰向けで寝ている姿が。

「召喚、されたんだ」

 制服姿の桃花は、オレが召喚される時に見た桃花と同じだ。(時間はあの時と一緒ってことか)
 久々に会えた妹に無事召喚されたことにホッとする。
 桃花はこれからここで聖女としてやっていくんだ。まぁ、最初は大変だろうけど頑張れ。と思いながらうっかり魔法陣に一歩足を入れてしまった。
 安心してやらかした。
 もっと慎重にすすめるはずだったのに。
 パアァァァと光がいっそう強くなり眩しくて顔をそらすと、
「しっかり魔法陣の上に立ってください」
 と、魔法使いのひとりに背中を押され転びそうになりながら魔法陣の上に立った。

 カッと強く光り、足からズズッ・・・と魔法陣の中へ吸い込まれていく。
 
 あーーーマジでこれでこの世界とも終わりか。最後に桃花を見れてよかった。

 まるで成仏する霊みたいな気持ちで魔法陣に身体ぜんぶ吸い込まれるのを待っていると、ふとあることに気づいた。

「あれ? あの時は手首に捕まれたよな?」
 上半身が残ってる状態ではてな顔を浮かべるオレに魔法使いのひとりが眉を寄せた。
 
 あの時の手首はいったい誰のだったんだろう。てっきり召喚儀式をしてるおっさんのだと思ってたんだけど。そういえば、召喚された時におっさんのひとりが「知らん」とか言ってたような・・・。
 肩まで浸かった状態で考えこんでいると、突然聞き覚えのあるイケボが耳に入ってきた。

 ん?

 顔を上げると駆け寄ってくる第一王子と目が合った。

 んん?!!

 いつもは表情ひとつ変えない第一王子がめちゃくちゃ慌ててる顔をしてる。(人魚の時よりレアだ!)
「ダイヤ!!」
 駆け寄る第一王子を魔法使いたちが慌てて押さえる。
「ロウ様なりません!! ダイヤ様と一緒に召喚されてしまいます!」
「ロウ様、どうか落ち着いてくださいませ」
「放せ!」
 第一王子がひとりの魔法使いを突き飛ばす。が、他の魔法使いが第一王子の脚にしがみつく。
「おい! 冒険はどうした?!」
 必死な顔をして第一王子が怒鳴った。
「やめた」と言おうとしたけど、すでに口が浸かって喋れなかった。
 
 最後に必死するぎる第一王子の顔を見れてなんか得した気分になりながら視界はぼやけ、意識も遠く消えた。


 バイバイ、ロウ。
 




 


 
 ぱちりと目が覚めた。
「あれ? オレなんでこんなところで寝てるんだろ?」
 起き上がるとそこは家のリビングだった。
 不思議がっていると視界に壁掛け時計が目に入り、
「うわやべ、もうこんな時間! 今日1限から授業あんのに!」
 リュックがないとあちこち探し回り、自分の部屋へ探しに行こうと廊下へ出ると玄関前に置いてあった。
 急げ急げと自分を促しながらスニーカーを履き、リュックをしょってドアを開けて鍵を閉め、いざ出発。と足を一歩踏み出すと、待っていたとばかりにゆきやんが目の前に現れた。

「はよ、大ちゃん」
「・・・」
 遠慮がちに笑うゆきやん。
 オレと身長がほとんど変わらない背格好に、生まれつきの焦げ茶色の前髪が目にかかってる。
 お互いイケメンでもなければとりたて不細工でもない。Tシャツにズボンとリュックと・・・格好まで似てる。
 すぐ近くに住んでるオレの幼なじみだ。
 ちょっと気まずい空気が流れてるのは、ケンカというよりオレが一方的に機嫌を悪くしてるわけで。
 彼女ができたらオレのことは放置状態。なのに彼女と別れたらまた遊びに来るとか。どんな神経してんだよって昨日まではキレてたけど。
 ゆきやんの顔を見たらなんだかすごく安心と懐かしい気持ちがこみ上げてきた。
 いじけてた自分がバカらしくて、むしろ冷たい態度をとっていたことを謝りたい気持ちでいっぱいだ。
 なんか、涙が出そうになるし。オレ、なんか変。

「大ちゃん?」
 黙ってるオレにゆきやんが首をかしげる。
 気を紛らわそうと拳を軽くゆきやんの脇腹にボスッと当てる。
「うっ」と声を漏らすゆきやん。
「そこで突っ立ってると大学遅刻する。ゆきやんも授業あるんだろ?」
 行こうぜ。とあごで促すと、脇腹をさすりながらゆきやんが嬉しそうに笑った。

「大ちゃんにマジで嫌われたかと思った」
「・・・なんでだよ」
 ふたりで駅に向かいながら歩く。
「俺はやっぱ大ちゃんと一緒にいる方が気が楽っていうかさ、ゲームしやすいっていうかさ」
「ふざけんな。・・・でも、オレもちょっといじけすぎた。ごめん」
「・・・大ちゃんが素直に謝ってくれた! え? 俺今日なんか不運なこと起きる!? 前兆?!」
 キョロキョロと辺りを警戒するゆきやんに腹が立つ。
「オレだって悪いと思ったら謝る。べつに彼女がいようと関係ないけど、ラインくらいは返せよ。寂しいだろ? 幼なじみなのに」
「うん、もう絶対気をつける。つーか、もう彼女作んない。束縛されるしゲームと私どっちが大事とか言われるし。俺にはやっぱ大ちゃんだけ!!」
「・・・うざ」
「え、それはどっち? 元カノ? 俺?」
「両方。ていうか、ゲーマーのゆきやん捕まえといてそんなこと聞いてくるんだ?」
「恋とはそゆうもんだって」
 悟ったかのような顔をするゆきやんにイラっとする。
「それよりさっきから気になってたんだけど、大ちゃんてピアスしてたっけ?」
「え」
 伸ばしてきたゆきやんの指が右耳に付いてる赤い石のついたピアスに触れる。
「今更何言ってるんだよ。物心つく前から付いてたじゃん。多分、母さんがアニメのキャラをマネて付けたんだと思うけど」
 さりげなくゆきやんの手を払う。
「そーだった! 小学校の頃よく他の奴にからかわれてたよね、生意気とかって。久々に会ったからつい忘れてた」
「幼なじみのピアス忘れるとかどんだけだよ。本当最低だな」
「ごめんごめん」と平謝りするゆきやん。

 横を走るランドセルを背負った女の子が「お兄ちゃん待ってー!」という声に思わず反応する。一瞬、頭の中に誰かの顔が浮かんだ・・・ような。
「どうした、大ちゃん? 小学生の子に知り合いでもいた?」
「・・・いや。なんか呼ばれ慣れてる気が・・・して」
「・・・大ちゃん、オレと一緒でひとりっ子じゃん」
 だよな。と言って苦笑いする。
 なんか今日のオレは変だ。
 リビングでなぜか寝てたし、ゆきやんを見て泣きそうになったり、兄弟がいたような、そんな錯覚すらある。

「それより大ちゃん、考えてくれた?」
「え」
 きょとんとするオレにゆきやんは目を輝かせ、
「断られたけどやっぱ飽きらめきれなくてさ。やっぱ大ちゃんと一緒にゲーム作りたいって思うんだよね!」
「・・・いいよ。作っても」
「マジで?!」
「でもオレ、文学科と言っても話作ったりとかできないけど。知ってるだろ、小学生の時にゆきやんの作文パクって先生に怒られたの」
 と言いつつ、今、ファンタジーな設定が頭の中に急に浮かんできた。(これがいわゆる降りて来たというやつか)
「国の王が魔物を退治する話ってどう? ゆきやんRPGとか好きだよな」
「いいじゃん! 難しそうだけどそうゆうのが燃える!」
「燃える・・・火魔法とか水魔法とか・・・細かく設定できたら面白くない? 主人公、赤い髪がいい!」
「絶対面白い!! つーかなぜ赤髪!(笑)」
 うわーーー!! と歩きながら幼なじみふたり、久々に意気投合する。
 
 それから駅に着くまでめちゃくちゃ盛り上がりまくった。

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