聖女の兄で、すみません!

たっぷりチョコ

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「別邸」

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※流血表現があります。苦手な方はご注意下さい。


 第一王子の遠征が延長した。
 それが何を意味しているのか、考える暇もないくらいにアリッシュにある村や街が次々と魔物に襲われるようになった。
 ほとんどが弱い魔物だけどその数が20以上だとか。
 第一王子がいない今、強い魔物が現れないかヒヤヒヤしながら騎士団が退治しに向かっている。
 オレはというと、サムデさんの厚意に甘えて魔物克服を続行中だったけど、ついにフォ・ドさんから指示が出た。
 魔物調査という名の魔物退治。
 第一王子が一緒じゃないから本当なら退治はしちゃいけないんだけど、心配しないようにと騎士団員とつるんでることを話したのがまずくて、これをしっかり覚えていたフォ・ドさんにちゃっかり利用されることに。
 サムデさんも上司から言われてるらしく「ちょうどいい!」ということで、魔物克服&魔物退治で指示があった村へと行きまくった。

 

「ダイヤ様、ポーションでございます」
「・・・いつもありがとう」
 重い体をベッドから起こしてメリアヌさんからポーションを受け取り、一気飲みして復活する。
「んーーー! ポーションめっちゃくちゃありがたい!」
 ぐいーっと背伸びして体が軽くなったことを実感する。
「ここ3日間お疲れ様でございます。兄から伺っております。魔物退治で村を3件ほど行かれたと。しかもおふたりだけで10以上の魔物を相手したと聞いております」
「・・・ほとんどサムデさんが倒してくれたけどね。オレは他の騎士団がくるまでのしのぎくらいで」
「とんでございません。兄も感謝しております」
「いえいえ」
 
 めちゃくちゃとんでもない!
 錯覚魔法なしの魔物退治はグロすぎて調合薬が効いてても吐き気はするし、逃げたいし、集中できなくて魔法もうまく使えないし。つーか、第一王子がいない魔物退治があんなに大変なものだとは知らなかった! めちゃくちゃ時間かかるし、ゴブリンでさえなかなか死なないし! サムデさんとの連携も全然うまくいかないし。
 ゲームでいうと初心者に戻った気分だ。それか、ゆきやんじゃない友達とパーティ組んだ時みたいだ。
 思い出してげっそりしているとメリアヌさんが、
「昨夜お伝えしましたが、本日はルノー様とお会いする約束になっております」
「あ、はい」
「つきましては、これからご案内致しますので」
「これからですか?」
「はい。朝食はそちらでとるよう言わております」
「わかりました」
 慌てて洗面所へ行き身支度を済ませてメリアヌさんの案内でいつもは行かない建物へと足を踏み入れることに。

 建物の内部ががらりと変わって装飾や色使いが廊下だというのにきらびやかだ。天井なんて花柄の模様で埋め尽くされている。(なんの花かさっぱり)
 いわゆる宮殿というやつだ。
 ルノーや王様が住んでる建物には塔はなくてレゴブロックみたいな形の普通の建物だ。

 キョロキョロしながら広い応接間みたいな部屋に通された。
「こちらで少々お待ち下さい」
 ぺこりと頭を下げ、メリアヌさんは部屋を出て行った。
 広い部屋にぽつんと残されたオレは、しょうがないからひとり用のソファに座って待つことに。
 なんか視線を感じると思ったら、目の前の壁にルノーの肖像画があってドキリとした。まぎれもなくルノーの客用の部屋だ。

 それにしても暇だ。
 まだ5分しか経ってないと思うけど、することがないから長く感じる。
 ぼんやりしていると村で出会った子供たちを思い出した。
 気になることを言ってたからあんなに魔物と戦ったのにやけに印象に残ってる。

『王様と聖女様は運命の赤い糸で結ばれてるんだよ』
 小学生くらいの女の子が目をキラキラさせながらおとぎ話みたいなことを言った。
 なんでそんな話になったかというと、魔物を退治した後、物陰から隠れて見ていた子供たちがオレや騎士団員にお礼をいうために寄ってきた。
 そんでひとりの女の子が、
『お兄さんは聖女様に会ったことある? お城に住んでるんでしょ?』
『お城に住んでるからって聖女様にきやすく会えるわけないだろ』
 バーカ。と茶々をいれる男子。
 ふたりのやりとりを見ながらどう返事しようか迷っていたら、
『聖女様は王様と結ばれるためにアリッシュに来るって長老様が言ってた』
『え?』
『大昔から聖女様は王様と結婚するためにアリッシュに来るの。王様は聖女様を見たらすぐに恋に落ちるんだって!』
 うふふふと言いながら照れる女の子。
 すかさずちょっかいを出してくる男子が、
『そんなのおれだって知ってる。村の大人もみーんな知ってる。王様と聖女様は結ばれる運命なんだぜ。そんでアリッシュは平和になるんだ。魔物なんてすぐいなくなる』
『魔物が村を荒らすのは聖女様と王様がまだ結婚しないからだっておれのおとんが言ってた!』
『うちのカカ様も言ってたよー!』
 次々と子供たちが会話に加わって騒ぎ出す。

 ん?
 聖女を召喚するだけじゃ魔物の数は減らないってこと?

 なんだそれ。と呆然としてると、サムデさんが話に入って来た。
『アリッシュで語り継がれている聖女様の伝承だよ。』
『え?』
『聖女様、この国に舞い降りたるは、国の王、一目で恋に落ち、ふたりは結ばれ、この国は永遠の平安と富を得る。てね。村じゃ長老が伝え、学校じゃ教師が伝え受け継がせる言い伝えだよ。他の国も似たような伝承があると思うけど?』
『え?!』
 興味津々な眼差しでじっとオレを見るサムデさんに、子供たちも一緒になってオレに期待の視線を向ける。
 テンパりまくったあげく、しょうがないから桃花が大好きだったシンデレラの話をしてなんとか切り抜けた。
 そのあとはいろいろと処理とか片付けとかあって考えてる暇がなかったけど・・・。

「・・・運命、か」

 それって、第一王子が聖女に一目ぼれするようになってるってこと? 強制的?
 聞いた時、ルノーが言ってた結婚の習わしかと思ったけど、それとはちょっと違う気がする。

「・・・」
 
 魔法や魔物がいるファンタジーな世界だ。相手の心なんておかまいなしの展開があってもおかしくない。

「ロウが、オレの妹を好きになる?」

 絶対ない。なんて言いきれない。
 最近の第一王子の言動を思い返すと言いきれない自分がいる。
 モヤモヤする。

「伝承なんて・・・」
 
 ガチャリとドアが開き、いつもの格好をしたルノーが部屋に入って来た。
「ダイヤ様、お待たせしました」
「ルノー、もう体調は大丈夫なの?」
「はい、このたびは僕の力およばず、ダイヤ様にはとてもご迷惑をかけてしまい、なんとお詫びをしたらいいか」
 会った早々、めちゃくちゃ凹むルノーに気負う気持ちが全然おきない自分に拍子抜けつつ、慌ててルノーを励ます。
「気にしなくていいよ。魔力の暴走くらいオレだって最初の時したし」
「ダイヤ様、なんてお心の広い!」
 ぱぁぁと笑顔を振りまくルノー。(かわいさは健在でなにより)
「本日はお伝えしたいことと、お見せしたい場所がありましてお呼びいたしました」
「伝えたいこと?」

 はい。と言って、オレの隣のソファに座ってさっきとは違う真剣な顔で、
「聖女様の召喚の儀式の日取りが決まりました」
「え」
「すでに空には月がふたつ、重なり合うのを今かと待ちわびております」
「月・・・」
 
 そうだった。
 魔物を克服することで頭がいっぱいになってたけど、やたら視界に入ってたな。しかもふたつも。日に日に大きく見えると思ったら・・・。
 
「それでいつやるの?」
「4日後の夜、ふたつの月が重なるその時です。ダイヤ様も同じ時間に召喚を」
「あーそうか。逆召喚てやつかな?」
「そうですね」
 ふふとルノーが微笑む。
 
 4日後か。
 そういえばまだフォ・ドさんに残るかどうかの返事をしてなかった。正直、魔物を克服したかというとまだ心もとない。でも、ちゃんと返事しなきゃ。
 ルノーにも残ることを伝えないと。

「召喚儀式にもしかしたら兄上は参加できないかもしれません」
「遠征で間に合わないってこと?」
「そうですね。向こうでも大変みたいなので」
「他の大陸に行くって聞いたけど」
「はい。今、この世界に聖女様が足りていないのが問題になっていまして。手に負えない強い魔物を退治して欲しいと他国の王から直々に助けを求めてきたのです」
「聖女が足りてない?」
「はい。これは女神様と人間との問題なのですが・・・いろいろありまして。女神様もなかなか聖女様を召喚しないといいますか・・・」
 口をモゴモゴさせて言いずらそうだ。結局、最後は濁してはっきり答えなかった。

 なんか突っついたらいろいろ出てきそうで面倒だからオレも首をつっこまないことにして・・・。
 とにかく第一王子は他国の王に呼ばれて魔物退治に行ってるってことか。

「他にも理由がありまして、正式に兄上がアリッシュの次期国王になるという宣言をしに、円卓会議に出席するためです」
「宣言・・・。じゃぁ、噂は本当なんだ」
「はい。そして、僕はそんな兄を支えたいと思います」
 誇らしげな顔をするルノー。

 そっか。やっぱり第一王子が。
 がっくりと頭が落ちる。
 一緒に冒険は無理かもしれない。この世界に残る理由にしてただけにけっこうショックだ。
 でも、ここにいれば第一王子に会えるのは変わりないわけだし。と思うけど、なんだか気持ちが重い。

「ダイヤ様、朝食なんですが、これから行く場所でと思っていますが、いかがでしょう」
「あーうん、べつに構わないけど、どこ行くの? 見せたい場所とかさっき言ってたけどそれのこと?」
「はい! やっと完成したんです。聖女様と兄上の別邸が」
 うふふと嬉しそうに微笑む。
「へー・・・よかったね」
 
 そういえばそんなこと言ってたな。とどうでもいい気持ちを丸出しにしながら笑顔を貼り付けた。
 第一王子は住まないと思うから、ほぼ桃花のためだけの別邸か。ほんとーにうちの妹のためにすみません!


 街の中を馬車で10分、聖女の別邸に着いた。
 庭は十分広くて門から建物まで馬車がないとだいぶ歩きそうだ。
 お金持ちが住む敷地の広いお屋敷って感じ。ちなみに外から見て3階建てだ。
 来る途中で馬車の中から見たけど、周りは住宅街で城内よりも市民といろいろと距離が近そうだ。交流とかありそう。
 ルノーに案内され中に入って一通り見学する。
 きらびやかだった宮殿とは違い、中はすごくシンプルでほとんど白で統一さている。(聖女だけに?)
 家具はまだ入ってない部屋がいくつかあったけど高級そうな家具ばっかり。でも、派手さはなくてあくまで生活するための質素なお屋敷だ。
 国王と聖女が住む家だからお城でも建てるんじゃないかと思ったけど・・・建てる期間が極端に短すぎたせいだろうか。それともこれから装飾とか追加していくのか。
 窓の外を見たら人が歩くところだけ植木があって、庭はまだ手付かずで土が耕されただけの場所もある。噴水なんて水すら出てない。

 本当に完成したばっかりなんだな。

「ダイヤ様、朝食はこちらの部屋になります」
「今行く」
 先にルノーが入って行った部屋へ自分も行こうとしたその時、ドアが開いたままの部屋に見覚えのある物がちらっと見えた・・・ような。
 気になって部屋の中を覗くと・・・、
「! なんでこんなところにロウのコレクションが!!」
 見回すと、魔物研究所の2階の部屋に置いてあった魔物のはく製が全部ある。一時的に置かれているのとは違ってちゃんと飾ってある。丁寧に名札まで付いてるはく製まで。

 ど、どういうこと?!
 フォ・ドさんが引っ越しをするから預かってるって言ってたよな。引っ越し先ってここ?

「ダイヤ様、どうかされたんですか?」
 ルノーの声にビクッと肩が上がる。
「えーと・・・これってロウの私物だよな?」
「はい、兄上の物と聞いております。ご存じなんですか? 僕は昨日初めて見ましたが兄上にこんな悪趣味があるとは知らず・・・兄上は本当に魔物がお好きで!」
 口が滑ったとばかりにいちオクターブ明るい声で言い換えた。
「ロウも本当にここに住むんだ?」
「もちろんです! 兄上もとても乗り気で間取りや家具などについて詳しく聞きに来たこともありました」
「・・・へぇ、そうなんだ」


『王様と聖女様は運命の赤い糸で結ばれてるんだよ』
 さっき思い出していた言葉が頭の中に浮かぶ。


「ダイヤ様? それより朝食の準備ができておりますが」
「ごめん、寄り道して。お腹すいたー」
「僕もです。一緒に朝食をとるのは久しぶりなので嬉しいです」
「オレもー」
 へらへら笑いながらルノーと一緒に別の部屋へと向かった。





「最悪だ」

 ちょっと頭痛がする頭をおさえながら目的の街へやってきた。
 王都から馬車で3時間ほどの小さな街に騎士団第5部隊と協力して魔物退治をすることになった。
 獣人が暴れまわっているとか。(会いたくない)
 
「ダイヤくん、調子が悪いのかい?」
 サムデさんが優しく声をかけてくれる。
「ちょっと夢見が悪くて寝不足なんです。すみません、戦闘が始まったらちゃんと集中するんで」
「ここ毎日のように討伐が続くからな。無理もない。今日はわりと団員がいる方だから馬車で休んでても構わないよ」
「だ、大丈夫です! 魔物にだいぶ慣れてきたんで皆さんと一緒に戦います!」
「頼もしい!」
 鼻息を荒くするオレの肩をポンポンと叩いて「期待してるよ」と言いながら他の団員のもとへ歩いて行った。
 空気が抜けたようにテンションが下がる。

 昨日見に行った別邸がオレの中で相当堪えてるようで、ひどい夢を見た。
 桃花が第一王子と腕を組みながら仲良くしてる夢だ。
 
『お兄ちゃん、あたし、この人と結婚するから。めちゃくちゃタイプなの~』
 とか言って第一王子にべったり。
 第一王子も、
『そうゆうことだから冒険は却下だ』

「・・・最悪だ」
 おかげで寝不足だし、馬車酔いはするし、頭痛するし、マジで最悪だ。
 別邸に桃花と第一王子が住むからって別にいいじゃん。なんならオレも一緒に住んでやる。
 運命の赤い糸? ダサいんですけど。
 魔法か何かで人の心操るだけじゃないんですかぁ?! 魔物か! 人魚の誘惑か?!
「クソッ」
 その場で地面を蹴って八つ当たりする。

 桃花の好きなタイプなんて興味持ったことないけど、イケメン好きなのは知ってる。
 エグすぎる顔立ちの第一王子を見たら桃花は一目ぼれするんだろうか。
 想像するだけで黄色い声をあげて喜ぶ桃花の顔が浮かぶ。
 例え桃花が一目ぼれしても、第一王子が全然興味がないなら問題ないと思ってた。
 実際「興味ない」ていつも言ってるし。だからオレも子供の話が出た時も結婚とか伝承とかいろいろ周りが言っても気にしないようにしてた。
 オレはオレで好きでいればいい。そう自分に言いきかせてた。
 魔物を克服するのだって、本当はめちゃくちゃ辛いし怖いし、グロイのばっかりで最悪だし。でも、好きな人のためならって・・・。
 オレ、いつからそんなに健気な奴になったんだろう。
 伝承どおり、どんなに努力してもどうにもならないことが起きて、桃花と第一王子が好き合ったら、オレ・・・。

「邪魔じゃん」

 愛し合ってるふたりを近くで見守っていくって、オレにできる?
 

 
 少し経って戦闘準備が始まり、街の住民を避難させたあとサムデさんと組んで街の中心ともいえる像(初代の長老らしい)の前で獣人を待つ。
 前回出没したのは昼過ぎだったらしい。1回目の時もそのくらいだと長老から聞き待ち構える。
 下手したら今日は来ないことも考えて長期滞在を覚悟するも、わりと時間に正確らしい獣人は昼過ぎに10以上の群れでやってきた。
 小さい街だけにあっという間に獣人が街の中に侵入し、入り口で固めていた団員たちがやられたりこっちへ逃げてきたりとあっという間にカオス状態に。
 どんな獣人かと思ったらオオカミが二足歩行してる奴だった。
 灰色の毛に顔は獰猛で大きい口からは尖った牙がよだれまみれだ。武器は自分のご自慢の爪と木の棒と石でできた斧だ。

 残念なことに頭痛は治らなかった。むしろ、ひどくなってズキズキする。そのせいで集中できないのと、ゴブリンには慣れてきたけど獣人は初めてで怖いのとやっぱり魔物臭がひどくて気持ちが悪くなる。
 そんなオレをサムデさんが離れずに守りながら獣人と戦ってくれる。
 オレってダサすぎ。と思ったその時、ブシューッと獣人の返り血をもろに浴びた。
 サラサラしたその血は赤くなく、紫色だった。
 顔にかかった紫色の血を手で拭い、やけに冷静な自分がそれを観察する。
 異臭がひどい。鼻がもげそうだ。

「ダイヤくん、危ない!」
 サムデさんの切羽詰まった声が聞こえ視線を手から放すと、オレをかばったサムデさんが獣人の爪で切り裂かれたあとだった。
 赤い血が噴き、崩れるようにサムデさんが目の前で倒れる。
 スローのようで、一瞬の出来事。

 ブチッと何かが切れる音が脳内に響いた。
 同時にゆきやんのあの言葉を思い出す。
 聞いててゾッとしたあの言葉を・・・。

『大ちゃん、ゲームで水魔法が使えるキャラが出るたんびに思うんだけどさ。水って液体じゃん? それなら同じ液体のものなら水同様操れるのかな? できたら面白くない?』

 ゆきやん。
 それ、オレが実践してみせるよ。
 体内に流れる血は液体だ。魔物の血を操れるか、オレが試してやる。




 肩で息をしながら街が悲惨な状態だということを認識する。
 どこもかしこも獣人の紫色の血にまみれている。
 魔物は一匹もいなく、討伐は終わった。
 騎士団員たちがみんなオレを恐ろしいものを見るような目で見てる。
 記憶は、ちゃんとある。
 水魔法を使って獣人を倒した。タコスを倒した時の記憶も思い出した。
 自分でもわかる。レベルが上がった気がする。
 
 手についてる獣人の血を服にこすりつけ、すぐさま持ってるポーションをサムデさんに飲ませた。
 切られたのは胸の部分。鎧ごと切られている。(魔物の爪ってヤバイ)出血はすごかったけど、まだ息はしてる。
 念のためにと上級ポーションを持ってきて正解だった。
 血はすぐに止まり、傷口も塞がった。浅かった呼吸も回復し、青白かった顔色も肌色になった。
「サムデさん、大丈夫ですか?」
 声をかけてみると、ゆっくりまぶたが開き、
「ダイヤくん・・・君はいったい・・・」
「えーと・・・オレ、水魔法が使えるんです。あと・・・ちょっと人から攻撃魔法も教わっていて。結局、錯覚魔法使っちゃいました」
 えへへと情けなく笑った。
「いいのかい。魔物を克服するんじゃなかったのかい」
「もう、いいんです。やっぱり、無理はよくないですよね」
「・・・そうか」
「これからはオレ、討伐頑張ります! 今までのやられた分、倍にして返してやります!」

 それを聞いた騎士団員たちが「おぉぉ!!」と歓声を上げて近寄ってきた。
「いやーなにが起きたか本当にびっくりしたよ! きみ、水魔法が使えるのか!」
「なんだあれは! 見たこともない攻撃魔法だった! 急に獣人が膨らんだかと思ったら破裂したぞ!」
「もうだめかと思ったけど、一瞬で倒すとはすごい! ぜひ、騎士団に入団してくれ!」
「そりゃいい! 鬼に金棒だ!」
 緊迫した空気が一気に和気あいあいムードに。
 グロすぎるやり方をしたのに受け入れてくれたことにホッとしつつ、自分の能力にちょっとゾッとした。
 でも、サムデさんが無事でよかった。
 そんで、ゆきやんに感謝だ。
 
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