22 / 25
「別邸」
しおりを挟む
※流血表現があります。苦手な方はご注意下さい。
第一王子の遠征が延長した。
それが何を意味しているのか、考える暇もないくらいにアリッシュにある村や街が次々と魔物に襲われるようになった。
ほとんどが弱い魔物だけどその数が20以上だとか。
第一王子がいない今、強い魔物が現れないかヒヤヒヤしながら騎士団が退治しに向かっている。
オレはというと、サムデさんの厚意に甘えて魔物克服を続行中だったけど、ついにフォ・ドさんから指示が出た。
魔物調査という名の魔物退治。
第一王子が一緒じゃないから本当なら退治はしちゃいけないんだけど、心配しないようにと騎士団員とつるんでることを話したのがまずくて、これをしっかり覚えていたフォ・ドさんにちゃっかり利用されることに。
サムデさんも上司から言われてるらしく「ちょうどいい!」ということで、魔物克服&魔物退治で指示があった村へと行きまくった。
「ダイヤ様、ポーションでございます」
「・・・いつもありがとう」
重い体をベッドから起こしてメリアヌさんからポーションを受け取り、一気飲みして復活する。
「んーーー! ポーションめっちゃくちゃありがたい!」
ぐいーっと背伸びして体が軽くなったことを実感する。
「ここ3日間お疲れ様でございます。兄から伺っております。魔物退治で村を3件ほど行かれたと。しかもおふたりだけで10以上の魔物を相手したと聞いております」
「・・・ほとんどサムデさんが倒してくれたけどね。オレは他の騎士団がくるまでのしのぎくらいで」
「とんでございません。兄も感謝しております」
「いえいえ」
めちゃくちゃとんでもない!
錯覚魔法なしの魔物退治はグロすぎて調合薬が効いてても吐き気はするし、逃げたいし、集中できなくて魔法もうまく使えないし。つーか、第一王子がいない魔物退治があんなに大変なものだとは知らなかった! めちゃくちゃ時間かかるし、ゴブリンでさえなかなか死なないし! サムデさんとの連携も全然うまくいかないし。
ゲームでいうと初心者に戻った気分だ。それか、ゆきやんじゃない友達とパーティ組んだ時みたいだ。
思い出してげっそりしているとメリアヌさんが、
「昨夜お伝えしましたが、本日はルノー様とお会いする約束になっております」
「あ、はい」
「つきましては、これからご案内致しますので」
「これからですか?」
「はい。朝食はそちらでとるよう言わております」
「わかりました」
慌てて洗面所へ行き身支度を済ませてメリアヌさんの案内でいつもは行かない建物へと足を踏み入れることに。
建物の内部ががらりと変わって装飾や色使いが廊下だというのにきらびやかだ。天井なんて花柄の模様で埋め尽くされている。(なんの花かさっぱり)
いわゆる宮殿というやつだ。
ルノーや王様が住んでる建物には塔はなくてレゴブロックみたいな形の普通の建物だ。
キョロキョロしながら広い応接間みたいな部屋に通された。
「こちらで少々お待ち下さい」
ぺこりと頭を下げ、メリアヌさんは部屋を出て行った。
広い部屋にぽつんと残されたオレは、しょうがないからひとり用のソファに座って待つことに。
なんか視線を感じると思ったら、目の前の壁にルノーの肖像画があってドキリとした。まぎれもなくルノーの客用の部屋だ。
それにしても暇だ。
まだ5分しか経ってないと思うけど、することがないから長く感じる。
ぼんやりしていると村で出会った子供たちを思い出した。
気になることを言ってたからあんなに魔物と戦ったのにやけに印象に残ってる。
『王様と聖女様は運命の赤い糸で結ばれてるんだよ』
小学生くらいの女の子が目をキラキラさせながらおとぎ話みたいなことを言った。
なんでそんな話になったかというと、魔物を退治した後、物陰から隠れて見ていた子供たちがオレや騎士団員にお礼をいうために寄ってきた。
そんでひとりの女の子が、
『お兄さんは聖女様に会ったことある? お城に住んでるんでしょ?』
『お城に住んでるからって聖女様にきやすく会えるわけないだろ』
バーカ。と茶々をいれる男子。
ふたりのやりとりを見ながらどう返事しようか迷っていたら、
『聖女様は王様と結ばれるためにアリッシュに来るって長老様が言ってた』
『え?』
『大昔から聖女様は王様と結婚するためにアリッシュに来るの。王様は聖女様を見たらすぐに恋に落ちるんだって!』
うふふふと言いながら照れる女の子。
すかさずちょっかいを出してくる男子が、
『そんなのおれだって知ってる。村の大人もみーんな知ってる。王様と聖女様は結ばれる運命なんだぜ。そんでアリッシュは平和になるんだ。魔物なんてすぐいなくなる』
『魔物が村を荒らすのは聖女様と王様がまだ結婚しないからだっておれのおとんが言ってた!』
『うちのカカ様も言ってたよー!』
次々と子供たちが会話に加わって騒ぎ出す。
ん?
聖女を召喚するだけじゃ魔物の数は減らないってこと?
なんだそれ。と呆然としてると、サムデさんが話に入って来た。
『アリッシュで語り継がれている聖女様の伝承だよ。』
『え?』
『聖女様、この国に舞い降りたるは、国の王、一目で恋に落ち、ふたりは結ばれ、この国は永遠の平安と富を得る。てね。村じゃ長老が伝え、学校じゃ教師が伝え受け継がせる言い伝えだよ。他の国も似たような伝承があると思うけど?』
『え?!』
興味津々な眼差しでじっとオレを見るサムデさんに、子供たちも一緒になってオレに期待の視線を向ける。
テンパりまくったあげく、しょうがないから桃花が大好きだったシンデレラの話をしてなんとか切り抜けた。
そのあとはいろいろと処理とか片付けとかあって考えてる暇がなかったけど・・・。
「・・・運命、か」
それって、第一王子が聖女に一目ぼれするようになってるってこと? 強制的?
聞いた時、ルノーが言ってた結婚の習わしかと思ったけど、それとはちょっと違う気がする。
「・・・」
魔法や魔物がいるファンタジーな世界だ。相手の心なんておかまいなしの展開があってもおかしくない。
「ロウが、オレの妹を好きになる?」
絶対ない。なんて言いきれない。
最近の第一王子の言動を思い返すと言いきれない自分がいる。
モヤモヤする。
「伝承なんて・・・」
ガチャリとドアが開き、いつもの格好をしたルノーが部屋に入って来た。
「ダイヤ様、お待たせしました」
「ルノー、もう体調は大丈夫なの?」
「はい、このたびは僕の力およばず、ダイヤ様にはとてもご迷惑をかけてしまい、なんとお詫びをしたらいいか」
会った早々、めちゃくちゃ凹むルノーに気負う気持ちが全然おきない自分に拍子抜けつつ、慌ててルノーを励ます。
「気にしなくていいよ。魔力の暴走くらいオレだって最初の時したし」
「ダイヤ様、なんてお心の広い!」
ぱぁぁと笑顔を振りまくルノー。(かわいさは健在でなにより)
「本日はお伝えしたいことと、お見せしたい場所がありましてお呼びいたしました」
「伝えたいこと?」
はい。と言って、オレの隣のソファに座ってさっきとは違う真剣な顔で、
「聖女様の召喚の儀式の日取りが決まりました」
「え」
「すでに空には月がふたつ、重なり合うのを今かと待ちわびております」
「月・・・」
そうだった。
魔物を克服することで頭がいっぱいになってたけど、やたら視界に入ってたな。しかもふたつも。日に日に大きく見えると思ったら・・・。
「それでいつやるの?」
「4日後の夜、ふたつの月が重なるその時です。ダイヤ様も同じ時間に召喚を」
「あーそうか。逆召喚てやつかな?」
「そうですね」
ふふとルノーが微笑む。
4日後か。
そういえばまだフォ・ドさんに残るかどうかの返事をしてなかった。正直、魔物を克服したかというとまだ心もとない。でも、ちゃんと返事しなきゃ。
ルノーにも残ることを伝えないと。
「召喚儀式にもしかしたら兄上は参加できないかもしれません」
「遠征で間に合わないってこと?」
「そうですね。向こうでも大変みたいなので」
「他の大陸に行くって聞いたけど」
「はい。今、この世界に聖女様が足りていないのが問題になっていまして。手に負えない強い魔物を退治して欲しいと他国の王から直々に助けを求めてきたのです」
「聖女が足りてない?」
「はい。これは女神様と人間との問題なのですが・・・いろいろありまして。女神様もなかなか聖女様を召喚しないといいますか・・・」
口をモゴモゴさせて言いずらそうだ。結局、最後は濁してはっきり答えなかった。
なんか突っついたらいろいろ出てきそうで面倒だからオレも首をつっこまないことにして・・・。
とにかく第一王子は他国の王に呼ばれて魔物退治に行ってるってことか。
「他にも理由がありまして、正式に兄上がアリッシュの次期国王になるという宣言をしに、円卓会議に出席するためです」
「宣言・・・。じゃぁ、噂は本当なんだ」
「はい。そして、僕はそんな兄を支えたいと思います」
誇らしげな顔をするルノー。
そっか。やっぱり第一王子が。
がっくりと頭が落ちる。
一緒に冒険は無理かもしれない。この世界に残る理由にしてただけにけっこうショックだ。
でも、ここにいれば第一王子に会えるのは変わりないわけだし。と思うけど、なんだか気持ちが重い。
「ダイヤ様、朝食なんですが、これから行く場所でと思っていますが、いかがでしょう」
「あーうん、べつに構わないけど、どこ行くの? 見せたい場所とかさっき言ってたけどそれのこと?」
「はい! やっと完成したんです。聖女様と兄上の別邸が」
うふふと嬉しそうに微笑む。
「へー・・・よかったね」
そういえばそんなこと言ってたな。とどうでもいい気持ちを丸出しにしながら笑顔を貼り付けた。
第一王子は住まないと思うから、ほぼ桃花のためだけの別邸か。ほんとーにうちの妹のためにすみません!
街の中を馬車で10分、聖女の別邸に着いた。
庭は十分広くて門から建物まで馬車がないとだいぶ歩きそうだ。
お金持ちが住む敷地の広いお屋敷って感じ。ちなみに外から見て3階建てだ。
来る途中で馬車の中から見たけど、周りは住宅街で城内よりも市民といろいろと距離が近そうだ。交流とかありそう。
ルノーに案内され中に入って一通り見学する。
きらびやかだった宮殿とは違い、中はすごくシンプルでほとんど白で統一さている。(聖女だけに?)
家具はまだ入ってない部屋がいくつかあったけど高級そうな家具ばっかり。でも、派手さはなくてあくまで生活するための質素なお屋敷だ。
国王と聖女が住む家だからお城でも建てるんじゃないかと思ったけど・・・建てる期間が極端に短すぎたせいだろうか。それともこれから装飾とか追加していくのか。
窓の外を見たら人が歩くところだけ植木があって、庭はまだ手付かずで土が耕されただけの場所もある。噴水なんて水すら出てない。
本当に完成したばっかりなんだな。
「ダイヤ様、朝食はこちらの部屋になります」
「今行く」
先にルノーが入って行った部屋へ自分も行こうとしたその時、ドアが開いたままの部屋に見覚えのある物がちらっと見えた・・・ような。
気になって部屋の中を覗くと・・・、
「! なんでこんなところにロウのコレクションが!!」
見回すと、魔物研究所の2階の部屋に置いてあった魔物のはく製が全部ある。一時的に置かれているのとは違ってちゃんと飾ってある。丁寧に名札まで付いてるはく製まで。
ど、どういうこと?!
フォ・ドさんが引っ越しをするから預かってるって言ってたよな。引っ越し先ってここ?
「ダイヤ様、どうかされたんですか?」
ルノーの声にビクッと肩が上がる。
「えーと・・・これってロウの私物だよな?」
「はい、兄上の物と聞いております。ご存じなんですか? 僕は昨日初めて見ましたが兄上にこんな悪趣味があるとは知らず・・・兄上は本当に魔物がお好きで!」
口が滑ったとばかりにいちオクターブ明るい声で言い換えた。
「ロウも本当にここに住むんだ?」
「もちろんです! 兄上もとても乗り気で間取りや家具などについて詳しく聞きに来たこともありました」
「・・・へぇ、そうなんだ」
『王様と聖女様は運命の赤い糸で結ばれてるんだよ』
さっき思い出していた言葉が頭の中に浮かぶ。
「ダイヤ様? それより朝食の準備ができておりますが」
「ごめん、寄り道して。お腹すいたー」
「僕もです。一緒に朝食をとるのは久しぶりなので嬉しいです」
「オレもー」
へらへら笑いながらルノーと一緒に別の部屋へと向かった。
「最悪だ」
ちょっと頭痛がする頭をおさえながら目的の街へやってきた。
王都から馬車で3時間ほどの小さな街に騎士団第5部隊と協力して魔物退治をすることになった。
獣人が暴れまわっているとか。(会いたくない)
「ダイヤくん、調子が悪いのかい?」
サムデさんが優しく声をかけてくれる。
「ちょっと夢見が悪くて寝不足なんです。すみません、戦闘が始まったらちゃんと集中するんで」
「ここ毎日のように討伐が続くからな。無理もない。今日はわりと団員がいる方だから馬車で休んでても構わないよ」
「だ、大丈夫です! 魔物にだいぶ慣れてきたんで皆さんと一緒に戦います!」
「頼もしい!」
鼻息を荒くするオレの肩をポンポンと叩いて「期待してるよ」と言いながら他の団員のもとへ歩いて行った。
空気が抜けたようにテンションが下がる。
昨日見に行った別邸がオレの中で相当堪えてるようで、ひどい夢を見た。
桃花が第一王子と腕を組みながら仲良くしてる夢だ。
『お兄ちゃん、あたし、この人と結婚するから。めちゃくちゃタイプなの~』
とか言って第一王子にべったり。
第一王子も、
『そうゆうことだから冒険は却下だ』
「・・・最悪だ」
おかげで寝不足だし、馬車酔いはするし、頭痛するし、マジで最悪だ。
別邸に桃花と第一王子が住むからって別にいいじゃん。なんならオレも一緒に住んでやる。
運命の赤い糸? ダサいんですけど。
魔法か何かで人の心操るだけじゃないんですかぁ?! 魔物か! 人魚の誘惑か?!
「クソッ」
その場で地面を蹴って八つ当たりする。
桃花の好きなタイプなんて興味持ったことないけど、イケメン好きなのは知ってる。
エグすぎる顔立ちの第一王子を見たら桃花は一目ぼれするんだろうか。
想像するだけで黄色い声をあげて喜ぶ桃花の顔が浮かぶ。
例え桃花が一目ぼれしても、第一王子が全然興味がないなら問題ないと思ってた。
実際「興味ない」ていつも言ってるし。だからオレも子供の話が出た時も結婚とか伝承とかいろいろ周りが言っても気にしないようにしてた。
オレはオレで好きでいればいい。そう自分に言いきかせてた。
魔物を克服するのだって、本当はめちゃくちゃ辛いし怖いし、グロイのばっかりで最悪だし。でも、好きな人のためならって・・・。
オレ、いつからそんなに健気な奴になったんだろう。
伝承どおり、どんなに努力してもどうにもならないことが起きて、桃花と第一王子が好き合ったら、オレ・・・。
「邪魔じゃん」
愛し合ってるふたりを近くで見守っていくって、オレにできる?
少し経って戦闘準備が始まり、街の住民を避難させたあとサムデさんと組んで街の中心ともいえる像(初代の長老らしい)の前で獣人を待つ。
前回出没したのは昼過ぎだったらしい。1回目の時もそのくらいだと長老から聞き待ち構える。
下手したら今日は来ないことも考えて長期滞在を覚悟するも、わりと時間に正確らしい獣人は昼過ぎに10以上の群れでやってきた。
小さい街だけにあっという間に獣人が街の中に侵入し、入り口で固めていた団員たちがやられたりこっちへ逃げてきたりとあっという間にカオス状態に。
どんな獣人かと思ったらオオカミが二足歩行してる奴だった。
灰色の毛に顔は獰猛で大きい口からは尖った牙がよだれまみれだ。武器は自分のご自慢の爪と木の棒と石でできた斧だ。
残念なことに頭痛は治らなかった。むしろ、ひどくなってズキズキする。そのせいで集中できないのと、ゴブリンには慣れてきたけど獣人は初めてで怖いのとやっぱり魔物臭がひどくて気持ちが悪くなる。
そんなオレをサムデさんが離れずに守りながら獣人と戦ってくれる。
オレってダサすぎ。と思ったその時、ブシューッと獣人の返り血をもろに浴びた。
サラサラしたその血は赤くなく、紫色だった。
顔にかかった紫色の血を手で拭い、やけに冷静な自分がそれを観察する。
異臭がひどい。鼻がもげそうだ。
「ダイヤくん、危ない!」
サムデさんの切羽詰まった声が聞こえ視線を手から放すと、オレをかばったサムデさんが獣人の爪で切り裂かれたあとだった。
赤い血が噴き、崩れるようにサムデさんが目の前で倒れる。
スローのようで、一瞬の出来事。
ブチッと何かが切れる音が脳内に響いた。
同時にゆきやんのあの言葉を思い出す。
聞いててゾッとしたあの言葉を・・・。
『大ちゃん、ゲームで水魔法が使えるキャラが出るたんびに思うんだけどさ。水って液体じゃん? それなら同じ液体のものなら水同様操れるのかな? できたら面白くない?』
ゆきやん。
それ、オレが実践してみせるよ。
体内に流れる血は液体だ。魔物の血を操れるか、オレが試してやる。
肩で息をしながら街が悲惨な状態だということを認識する。
どこもかしこも獣人の紫色の血にまみれている。
魔物は一匹もいなく、討伐は終わった。
騎士団員たちがみんなオレを恐ろしいものを見るような目で見てる。
記憶は、ちゃんとある。
水魔法を使って獣人を倒した。タコスを倒した時の記憶も思い出した。
自分でもわかる。レベルが上がった気がする。
手についてる獣人の血を服にこすりつけ、すぐさま持ってるポーションをサムデさんに飲ませた。
切られたのは胸の部分。鎧ごと切られている。(魔物の爪ってヤバイ)出血はすごかったけど、まだ息はしてる。
念のためにと上級ポーションを持ってきて正解だった。
血はすぐに止まり、傷口も塞がった。浅かった呼吸も回復し、青白かった顔色も肌色になった。
「サムデさん、大丈夫ですか?」
声をかけてみると、ゆっくりまぶたが開き、
「ダイヤくん・・・君はいったい・・・」
「えーと・・・オレ、水魔法が使えるんです。あと・・・ちょっと人から攻撃魔法も教わっていて。結局、錯覚魔法使っちゃいました」
えへへと情けなく笑った。
「いいのかい。魔物を克服するんじゃなかったのかい」
「もう、いいんです。やっぱり、無理はよくないですよね」
「・・・そうか」
「これからはオレ、討伐頑張ります! 今までのやられた分、倍にして返してやります!」
それを聞いた騎士団員たちが「おぉぉ!!」と歓声を上げて近寄ってきた。
「いやーなにが起きたか本当にびっくりしたよ! きみ、水魔法が使えるのか!」
「なんだあれは! 見たこともない攻撃魔法だった! 急に獣人が膨らんだかと思ったら破裂したぞ!」
「もうだめかと思ったけど、一瞬で倒すとはすごい! ぜひ、騎士団に入団してくれ!」
「そりゃいい! 鬼に金棒だ!」
緊迫した空気が一気に和気あいあいムードに。
グロすぎるやり方をしたのに受け入れてくれたことにホッとしつつ、自分の能力にちょっとゾッとした。
でも、サムデさんが無事でよかった。
そんで、ゆきやんに感謝だ。
第一王子の遠征が延長した。
それが何を意味しているのか、考える暇もないくらいにアリッシュにある村や街が次々と魔物に襲われるようになった。
ほとんどが弱い魔物だけどその数が20以上だとか。
第一王子がいない今、強い魔物が現れないかヒヤヒヤしながら騎士団が退治しに向かっている。
オレはというと、サムデさんの厚意に甘えて魔物克服を続行中だったけど、ついにフォ・ドさんから指示が出た。
魔物調査という名の魔物退治。
第一王子が一緒じゃないから本当なら退治はしちゃいけないんだけど、心配しないようにと騎士団員とつるんでることを話したのがまずくて、これをしっかり覚えていたフォ・ドさんにちゃっかり利用されることに。
サムデさんも上司から言われてるらしく「ちょうどいい!」ということで、魔物克服&魔物退治で指示があった村へと行きまくった。
「ダイヤ様、ポーションでございます」
「・・・いつもありがとう」
重い体をベッドから起こしてメリアヌさんからポーションを受け取り、一気飲みして復活する。
「んーーー! ポーションめっちゃくちゃありがたい!」
ぐいーっと背伸びして体が軽くなったことを実感する。
「ここ3日間お疲れ様でございます。兄から伺っております。魔物退治で村を3件ほど行かれたと。しかもおふたりだけで10以上の魔物を相手したと聞いております」
「・・・ほとんどサムデさんが倒してくれたけどね。オレは他の騎士団がくるまでのしのぎくらいで」
「とんでございません。兄も感謝しております」
「いえいえ」
めちゃくちゃとんでもない!
錯覚魔法なしの魔物退治はグロすぎて調合薬が効いてても吐き気はするし、逃げたいし、集中できなくて魔法もうまく使えないし。つーか、第一王子がいない魔物退治があんなに大変なものだとは知らなかった! めちゃくちゃ時間かかるし、ゴブリンでさえなかなか死なないし! サムデさんとの連携も全然うまくいかないし。
ゲームでいうと初心者に戻った気分だ。それか、ゆきやんじゃない友達とパーティ組んだ時みたいだ。
思い出してげっそりしているとメリアヌさんが、
「昨夜お伝えしましたが、本日はルノー様とお会いする約束になっております」
「あ、はい」
「つきましては、これからご案内致しますので」
「これからですか?」
「はい。朝食はそちらでとるよう言わております」
「わかりました」
慌てて洗面所へ行き身支度を済ませてメリアヌさんの案内でいつもは行かない建物へと足を踏み入れることに。
建物の内部ががらりと変わって装飾や色使いが廊下だというのにきらびやかだ。天井なんて花柄の模様で埋め尽くされている。(なんの花かさっぱり)
いわゆる宮殿というやつだ。
ルノーや王様が住んでる建物には塔はなくてレゴブロックみたいな形の普通の建物だ。
キョロキョロしながら広い応接間みたいな部屋に通された。
「こちらで少々お待ち下さい」
ぺこりと頭を下げ、メリアヌさんは部屋を出て行った。
広い部屋にぽつんと残されたオレは、しょうがないからひとり用のソファに座って待つことに。
なんか視線を感じると思ったら、目の前の壁にルノーの肖像画があってドキリとした。まぎれもなくルノーの客用の部屋だ。
それにしても暇だ。
まだ5分しか経ってないと思うけど、することがないから長く感じる。
ぼんやりしていると村で出会った子供たちを思い出した。
気になることを言ってたからあんなに魔物と戦ったのにやけに印象に残ってる。
『王様と聖女様は運命の赤い糸で結ばれてるんだよ』
小学生くらいの女の子が目をキラキラさせながらおとぎ話みたいなことを言った。
なんでそんな話になったかというと、魔物を退治した後、物陰から隠れて見ていた子供たちがオレや騎士団員にお礼をいうために寄ってきた。
そんでひとりの女の子が、
『お兄さんは聖女様に会ったことある? お城に住んでるんでしょ?』
『お城に住んでるからって聖女様にきやすく会えるわけないだろ』
バーカ。と茶々をいれる男子。
ふたりのやりとりを見ながらどう返事しようか迷っていたら、
『聖女様は王様と結ばれるためにアリッシュに来るって長老様が言ってた』
『え?』
『大昔から聖女様は王様と結婚するためにアリッシュに来るの。王様は聖女様を見たらすぐに恋に落ちるんだって!』
うふふふと言いながら照れる女の子。
すかさずちょっかいを出してくる男子が、
『そんなのおれだって知ってる。村の大人もみーんな知ってる。王様と聖女様は結ばれる運命なんだぜ。そんでアリッシュは平和になるんだ。魔物なんてすぐいなくなる』
『魔物が村を荒らすのは聖女様と王様がまだ結婚しないからだっておれのおとんが言ってた!』
『うちのカカ様も言ってたよー!』
次々と子供たちが会話に加わって騒ぎ出す。
ん?
聖女を召喚するだけじゃ魔物の数は減らないってこと?
なんだそれ。と呆然としてると、サムデさんが話に入って来た。
『アリッシュで語り継がれている聖女様の伝承だよ。』
『え?』
『聖女様、この国に舞い降りたるは、国の王、一目で恋に落ち、ふたりは結ばれ、この国は永遠の平安と富を得る。てね。村じゃ長老が伝え、学校じゃ教師が伝え受け継がせる言い伝えだよ。他の国も似たような伝承があると思うけど?』
『え?!』
興味津々な眼差しでじっとオレを見るサムデさんに、子供たちも一緒になってオレに期待の視線を向ける。
テンパりまくったあげく、しょうがないから桃花が大好きだったシンデレラの話をしてなんとか切り抜けた。
そのあとはいろいろと処理とか片付けとかあって考えてる暇がなかったけど・・・。
「・・・運命、か」
それって、第一王子が聖女に一目ぼれするようになってるってこと? 強制的?
聞いた時、ルノーが言ってた結婚の習わしかと思ったけど、それとはちょっと違う気がする。
「・・・」
魔法や魔物がいるファンタジーな世界だ。相手の心なんておかまいなしの展開があってもおかしくない。
「ロウが、オレの妹を好きになる?」
絶対ない。なんて言いきれない。
最近の第一王子の言動を思い返すと言いきれない自分がいる。
モヤモヤする。
「伝承なんて・・・」
ガチャリとドアが開き、いつもの格好をしたルノーが部屋に入って来た。
「ダイヤ様、お待たせしました」
「ルノー、もう体調は大丈夫なの?」
「はい、このたびは僕の力およばず、ダイヤ様にはとてもご迷惑をかけてしまい、なんとお詫びをしたらいいか」
会った早々、めちゃくちゃ凹むルノーに気負う気持ちが全然おきない自分に拍子抜けつつ、慌ててルノーを励ます。
「気にしなくていいよ。魔力の暴走くらいオレだって最初の時したし」
「ダイヤ様、なんてお心の広い!」
ぱぁぁと笑顔を振りまくルノー。(かわいさは健在でなにより)
「本日はお伝えしたいことと、お見せしたい場所がありましてお呼びいたしました」
「伝えたいこと?」
はい。と言って、オレの隣のソファに座ってさっきとは違う真剣な顔で、
「聖女様の召喚の儀式の日取りが決まりました」
「え」
「すでに空には月がふたつ、重なり合うのを今かと待ちわびております」
「月・・・」
そうだった。
魔物を克服することで頭がいっぱいになってたけど、やたら視界に入ってたな。しかもふたつも。日に日に大きく見えると思ったら・・・。
「それでいつやるの?」
「4日後の夜、ふたつの月が重なるその時です。ダイヤ様も同じ時間に召喚を」
「あーそうか。逆召喚てやつかな?」
「そうですね」
ふふとルノーが微笑む。
4日後か。
そういえばまだフォ・ドさんに残るかどうかの返事をしてなかった。正直、魔物を克服したかというとまだ心もとない。でも、ちゃんと返事しなきゃ。
ルノーにも残ることを伝えないと。
「召喚儀式にもしかしたら兄上は参加できないかもしれません」
「遠征で間に合わないってこと?」
「そうですね。向こうでも大変みたいなので」
「他の大陸に行くって聞いたけど」
「はい。今、この世界に聖女様が足りていないのが問題になっていまして。手に負えない強い魔物を退治して欲しいと他国の王から直々に助けを求めてきたのです」
「聖女が足りてない?」
「はい。これは女神様と人間との問題なのですが・・・いろいろありまして。女神様もなかなか聖女様を召喚しないといいますか・・・」
口をモゴモゴさせて言いずらそうだ。結局、最後は濁してはっきり答えなかった。
なんか突っついたらいろいろ出てきそうで面倒だからオレも首をつっこまないことにして・・・。
とにかく第一王子は他国の王に呼ばれて魔物退治に行ってるってことか。
「他にも理由がありまして、正式に兄上がアリッシュの次期国王になるという宣言をしに、円卓会議に出席するためです」
「宣言・・・。じゃぁ、噂は本当なんだ」
「はい。そして、僕はそんな兄を支えたいと思います」
誇らしげな顔をするルノー。
そっか。やっぱり第一王子が。
がっくりと頭が落ちる。
一緒に冒険は無理かもしれない。この世界に残る理由にしてただけにけっこうショックだ。
でも、ここにいれば第一王子に会えるのは変わりないわけだし。と思うけど、なんだか気持ちが重い。
「ダイヤ様、朝食なんですが、これから行く場所でと思っていますが、いかがでしょう」
「あーうん、べつに構わないけど、どこ行くの? 見せたい場所とかさっき言ってたけどそれのこと?」
「はい! やっと完成したんです。聖女様と兄上の別邸が」
うふふと嬉しそうに微笑む。
「へー・・・よかったね」
そういえばそんなこと言ってたな。とどうでもいい気持ちを丸出しにしながら笑顔を貼り付けた。
第一王子は住まないと思うから、ほぼ桃花のためだけの別邸か。ほんとーにうちの妹のためにすみません!
街の中を馬車で10分、聖女の別邸に着いた。
庭は十分広くて門から建物まで馬車がないとだいぶ歩きそうだ。
お金持ちが住む敷地の広いお屋敷って感じ。ちなみに外から見て3階建てだ。
来る途中で馬車の中から見たけど、周りは住宅街で城内よりも市民といろいろと距離が近そうだ。交流とかありそう。
ルノーに案内され中に入って一通り見学する。
きらびやかだった宮殿とは違い、中はすごくシンプルでほとんど白で統一さている。(聖女だけに?)
家具はまだ入ってない部屋がいくつかあったけど高級そうな家具ばっかり。でも、派手さはなくてあくまで生活するための質素なお屋敷だ。
国王と聖女が住む家だからお城でも建てるんじゃないかと思ったけど・・・建てる期間が極端に短すぎたせいだろうか。それともこれから装飾とか追加していくのか。
窓の外を見たら人が歩くところだけ植木があって、庭はまだ手付かずで土が耕されただけの場所もある。噴水なんて水すら出てない。
本当に完成したばっかりなんだな。
「ダイヤ様、朝食はこちらの部屋になります」
「今行く」
先にルノーが入って行った部屋へ自分も行こうとしたその時、ドアが開いたままの部屋に見覚えのある物がちらっと見えた・・・ような。
気になって部屋の中を覗くと・・・、
「! なんでこんなところにロウのコレクションが!!」
見回すと、魔物研究所の2階の部屋に置いてあった魔物のはく製が全部ある。一時的に置かれているのとは違ってちゃんと飾ってある。丁寧に名札まで付いてるはく製まで。
ど、どういうこと?!
フォ・ドさんが引っ越しをするから預かってるって言ってたよな。引っ越し先ってここ?
「ダイヤ様、どうかされたんですか?」
ルノーの声にビクッと肩が上がる。
「えーと・・・これってロウの私物だよな?」
「はい、兄上の物と聞いております。ご存じなんですか? 僕は昨日初めて見ましたが兄上にこんな悪趣味があるとは知らず・・・兄上は本当に魔物がお好きで!」
口が滑ったとばかりにいちオクターブ明るい声で言い換えた。
「ロウも本当にここに住むんだ?」
「もちろんです! 兄上もとても乗り気で間取りや家具などについて詳しく聞きに来たこともありました」
「・・・へぇ、そうなんだ」
『王様と聖女様は運命の赤い糸で結ばれてるんだよ』
さっき思い出していた言葉が頭の中に浮かぶ。
「ダイヤ様? それより朝食の準備ができておりますが」
「ごめん、寄り道して。お腹すいたー」
「僕もです。一緒に朝食をとるのは久しぶりなので嬉しいです」
「オレもー」
へらへら笑いながらルノーと一緒に別の部屋へと向かった。
「最悪だ」
ちょっと頭痛がする頭をおさえながら目的の街へやってきた。
王都から馬車で3時間ほどの小さな街に騎士団第5部隊と協力して魔物退治をすることになった。
獣人が暴れまわっているとか。(会いたくない)
「ダイヤくん、調子が悪いのかい?」
サムデさんが優しく声をかけてくれる。
「ちょっと夢見が悪くて寝不足なんです。すみません、戦闘が始まったらちゃんと集中するんで」
「ここ毎日のように討伐が続くからな。無理もない。今日はわりと団員がいる方だから馬車で休んでても構わないよ」
「だ、大丈夫です! 魔物にだいぶ慣れてきたんで皆さんと一緒に戦います!」
「頼もしい!」
鼻息を荒くするオレの肩をポンポンと叩いて「期待してるよ」と言いながら他の団員のもとへ歩いて行った。
空気が抜けたようにテンションが下がる。
昨日見に行った別邸がオレの中で相当堪えてるようで、ひどい夢を見た。
桃花が第一王子と腕を組みながら仲良くしてる夢だ。
『お兄ちゃん、あたし、この人と結婚するから。めちゃくちゃタイプなの~』
とか言って第一王子にべったり。
第一王子も、
『そうゆうことだから冒険は却下だ』
「・・・最悪だ」
おかげで寝不足だし、馬車酔いはするし、頭痛するし、マジで最悪だ。
別邸に桃花と第一王子が住むからって別にいいじゃん。なんならオレも一緒に住んでやる。
運命の赤い糸? ダサいんですけど。
魔法か何かで人の心操るだけじゃないんですかぁ?! 魔物か! 人魚の誘惑か?!
「クソッ」
その場で地面を蹴って八つ当たりする。
桃花の好きなタイプなんて興味持ったことないけど、イケメン好きなのは知ってる。
エグすぎる顔立ちの第一王子を見たら桃花は一目ぼれするんだろうか。
想像するだけで黄色い声をあげて喜ぶ桃花の顔が浮かぶ。
例え桃花が一目ぼれしても、第一王子が全然興味がないなら問題ないと思ってた。
実際「興味ない」ていつも言ってるし。だからオレも子供の話が出た時も結婚とか伝承とかいろいろ周りが言っても気にしないようにしてた。
オレはオレで好きでいればいい。そう自分に言いきかせてた。
魔物を克服するのだって、本当はめちゃくちゃ辛いし怖いし、グロイのばっかりで最悪だし。でも、好きな人のためならって・・・。
オレ、いつからそんなに健気な奴になったんだろう。
伝承どおり、どんなに努力してもどうにもならないことが起きて、桃花と第一王子が好き合ったら、オレ・・・。
「邪魔じゃん」
愛し合ってるふたりを近くで見守っていくって、オレにできる?
少し経って戦闘準備が始まり、街の住民を避難させたあとサムデさんと組んで街の中心ともいえる像(初代の長老らしい)の前で獣人を待つ。
前回出没したのは昼過ぎだったらしい。1回目の時もそのくらいだと長老から聞き待ち構える。
下手したら今日は来ないことも考えて長期滞在を覚悟するも、わりと時間に正確らしい獣人は昼過ぎに10以上の群れでやってきた。
小さい街だけにあっという間に獣人が街の中に侵入し、入り口で固めていた団員たちがやられたりこっちへ逃げてきたりとあっという間にカオス状態に。
どんな獣人かと思ったらオオカミが二足歩行してる奴だった。
灰色の毛に顔は獰猛で大きい口からは尖った牙がよだれまみれだ。武器は自分のご自慢の爪と木の棒と石でできた斧だ。
残念なことに頭痛は治らなかった。むしろ、ひどくなってズキズキする。そのせいで集中できないのと、ゴブリンには慣れてきたけど獣人は初めてで怖いのとやっぱり魔物臭がひどくて気持ちが悪くなる。
そんなオレをサムデさんが離れずに守りながら獣人と戦ってくれる。
オレってダサすぎ。と思ったその時、ブシューッと獣人の返り血をもろに浴びた。
サラサラしたその血は赤くなく、紫色だった。
顔にかかった紫色の血を手で拭い、やけに冷静な自分がそれを観察する。
異臭がひどい。鼻がもげそうだ。
「ダイヤくん、危ない!」
サムデさんの切羽詰まった声が聞こえ視線を手から放すと、オレをかばったサムデさんが獣人の爪で切り裂かれたあとだった。
赤い血が噴き、崩れるようにサムデさんが目の前で倒れる。
スローのようで、一瞬の出来事。
ブチッと何かが切れる音が脳内に響いた。
同時にゆきやんのあの言葉を思い出す。
聞いててゾッとしたあの言葉を・・・。
『大ちゃん、ゲームで水魔法が使えるキャラが出るたんびに思うんだけどさ。水って液体じゃん? それなら同じ液体のものなら水同様操れるのかな? できたら面白くない?』
ゆきやん。
それ、オレが実践してみせるよ。
体内に流れる血は液体だ。魔物の血を操れるか、オレが試してやる。
肩で息をしながら街が悲惨な状態だということを認識する。
どこもかしこも獣人の紫色の血にまみれている。
魔物は一匹もいなく、討伐は終わった。
騎士団員たちがみんなオレを恐ろしいものを見るような目で見てる。
記憶は、ちゃんとある。
水魔法を使って獣人を倒した。タコスを倒した時の記憶も思い出した。
自分でもわかる。レベルが上がった気がする。
手についてる獣人の血を服にこすりつけ、すぐさま持ってるポーションをサムデさんに飲ませた。
切られたのは胸の部分。鎧ごと切られている。(魔物の爪ってヤバイ)出血はすごかったけど、まだ息はしてる。
念のためにと上級ポーションを持ってきて正解だった。
血はすぐに止まり、傷口も塞がった。浅かった呼吸も回復し、青白かった顔色も肌色になった。
「サムデさん、大丈夫ですか?」
声をかけてみると、ゆっくりまぶたが開き、
「ダイヤくん・・・君はいったい・・・」
「えーと・・・オレ、水魔法が使えるんです。あと・・・ちょっと人から攻撃魔法も教わっていて。結局、錯覚魔法使っちゃいました」
えへへと情けなく笑った。
「いいのかい。魔物を克服するんじゃなかったのかい」
「もう、いいんです。やっぱり、無理はよくないですよね」
「・・・そうか」
「これからはオレ、討伐頑張ります! 今までのやられた分、倍にして返してやります!」
それを聞いた騎士団員たちが「おぉぉ!!」と歓声を上げて近寄ってきた。
「いやーなにが起きたか本当にびっくりしたよ! きみ、水魔法が使えるのか!」
「なんだあれは! 見たこともない攻撃魔法だった! 急に獣人が膨らんだかと思ったら破裂したぞ!」
「もうだめかと思ったけど、一瞬で倒すとはすごい! ぜひ、騎士団に入団してくれ!」
「そりゃいい! 鬼に金棒だ!」
緊迫した空気が一気に和気あいあいムードに。
グロすぎるやり方をしたのに受け入れてくれたことにホッとしつつ、自分の能力にちょっとゾッとした。
でも、サムデさんが無事でよかった。
そんで、ゆきやんに感謝だ。
228
お気に入りに追加
451
あなたにおすすめの小説

【完結】だから俺は主人公じゃない!
美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。
しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!?
でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。
そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。
主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱!
だから、…俺は主人公じゃないんだってば!

マリオネットが、糸を断つ時。
せんぷう
BL
異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。
オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。
第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。
そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。
『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』
金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。
『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!
許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』
そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。
王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。
『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』
『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』
『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』
しかし、オレは彼に拾われた。
どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。
気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!
しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?
スラム出身、第十一王子の守護魔導師。
これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。
※BL作品
恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。
.

魔王様の瘴気を払った俺、何だかんだ愛されてます。
柴傘
BL
ごく普通の高校生東雲 叶太(しののめ かなた)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。
そこで初めて出会った大型の狼の獣に助けられ、その獣の瘴気を無意識に払ってしまう。
すると突然獣は大柄な男性へと姿を変え、この世界の魔王オリオンだと名乗る。そしてそのまま、叶太は魔王城へと連れて行かれてしまった。
「カナタ、君を私の伴侶として迎えたい」
そう真摯に告白する魔王の姿に、不覚にもときめいてしまい…。
魔王×高校生、ド天然攻め×絆され受け。
甘々ハピエン。

アルファな俺が最推しを救う話〜どうして俺が受けなんだ?!〜
車不
BL
6歳の誕生日に階段から落ちて頭を打った主人公は、自身がオメガバースの世界を舞台にしたBLゲームに転生したことに気づく。「よりにもよってレオンハルトに転生なんて…悪役じゃねぇか!!待てよ、もしかしたらゲームで死んだ最推しの異母兄を助けられるかもしれない…」これは第2の性により人々の人生や生活が左右される世界に疑問を持った主人公が、最推しの死を阻止するために奮闘する物語である。
その男、有能につき……
大和撫子
BL
俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか?
「君、どうかしたのかい?」
その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。
黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。
彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。
だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。
大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?
更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!

ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる