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「魔物を克服せよ」

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 まずいことになった。
 錯覚魔法なしで魔物を見れるようにならないと第一王子と冒険に行けなくなる。それだけじゃない、魔物研究所においてもらえない。
 めちゃくちゃヤバイ、大ピンチだ。
 と、いうことで、なにがなんでも魔物を克服しなきゃいけない。
 キメラはさすがに難易度マックスだったからやっぱりここはゴブリンとか獣に似た魔物が慣れるのに適してると思う。
 さっそくひとりで洞窟へ向かった。
 フォ・ドさんにはあんなところを見られたから気まずいし、第一王子は・・・鼻で笑われるかバカにされそうだから話したくない。
 そう、第一王子にバレたくないから魔法は極力使わないようにしないと。特に魔石を発動させたら即バレる。(GPS機能付きみたいなもんだし)
 第一王子にバレずに、なおかつ戦わずに魔物に慣れる。そうなると、錯覚魔法を解いて、ひたすら洞窟の出入り口の前にはりこむしかない。(魔物に気づかれないように木の影に潜む)
 ここの洞窟はゴブリンだった。
 錯覚魔法を解除してから見たゴブリンは久々の不細工ぶりにオレの顔も歪んだ。
 すっかり可愛いゴブリンに見慣れてるせいで不細工顔で肌が緑色で、口を開くと鋭い牙が見えるのはやっぱりゾッとする。
 気づかれない程度に距離はとってるつもりなのにゴブリンの体臭が匂ってきて鼻がもげそうだ。(最悪)
 3分ももたずにゴブリンから目をそらして鼻をつまんだ。
 でも思ったより見れた気がする。問題は火魔法で燃やされた丸焦げのゴブリンだ。さすがに自分で燃やすのは気が引ける。と思っていたらあっさりゴブリンに見つかって追いまわされるはめに。

 

「あーーー疲れた。しんどい」
 夕飯とシャワーを済ませたあと、まっすぐベッドにダイブする。
 結局今日1日はゴブリンに追い回されるばかりだった。しかも、追いかけてくるゴブリンの顔が怖すぎて途中で錯覚魔法をかけて水魔法でやっつけてしまった。
 1日目でこれは思いやられる。克服どころか錯覚魔法を卒業できるかどうか。
 
「オレには無理なのかな」
 枕を抱えて半べそ顔でボソッと弱音がこぼれる。

『冒険は無理か』

 第一王子が言った言葉を思い出し、余計にへこむ。
「なにが無理だ! 誰のせいでトラウマになったと思ってんだよーー! 最初の魔物が丸焼きなんて誰でもこうなるわ!」
 さんざん足をバタバタさせて怒りを発散させる。5分でバテた。
 枕に顔を埋めていたら、そのまま寝た。爆睡だ。


「重っっっ!!」
 寝苦しさに叫びながら目を覚ますと、オレの腹を枕代わりにして寝ている第一王子が・・・いる!
「え? なんで?! なんでいるの?!」
 一瞬、第一王子の部屋かと思って辺りを見回すけど自分の部屋だった。
 第一王子がオレの部屋に、オレのベッドに来たのは今が初めてだ。
 なぜか感動する。
 そうだ、この手があった!
 第一王子がオレの部屋に来ればいいんだよ!
 なんでもっと早く気づかなかったんだ。次から誘えば・・・てオレから誘うのってエロくない? いやいやそういう意味で部屋に呼ぶわけじゃないし。あーでもそうゆう意味じゃなくてもやっぱ誘うのはちょっと勇気いるかも。ゆきやんなら気兼ねなくいくらでも言えるけど。
 ゆきやん? そうか、ゆきやんみたいに何か物で釣るなら呼びやすいかも。
 ゲームやんない? とか。いや、それまんまゆきやんだから。
 第一王子か・・・魔物ネタとか? ないな。

 それにしても第一王子の寝顔はちょい久しぶりだ。相変わらずのキレイな鼻筋とか起きてる時より幼く見えるとか・・・。眺めれば眺めるほどきゅんきゅんが止まらん。
 触れたくなる。けど、桃花のことを考えると気が引ける。
 頭を撫でるくらいならー・・・て、起きたら気まずい。
 つーか、もうそろそろ腹筋がヤバイ。なんで人の腹で寝てんだよ、いい加減この態勢キツイんだよ。
 軽く上半身起こして覗き見する態勢でいたけど、もう限界とばかりに倒れこむ。それでも背中が痛くて第一王子を押しのけて起き上がる。
「・・・ん」
 さすがの第一王子も目を覚ました。
「・・・お」(お?)
 あぐらを組んでるオレと目があった第一王子はしばらくオレと見つめ合ったあと、
「ここどこだ?」
「え。寝ぼけてオレの部屋に来たの?」
「ダイヤの部屋か?」
「そうだよ。細かくいうとオレの部屋のベッドな」

 どう寝ぼけてオレの部屋に来るんだよ! 移動魔法使ったんだろうけど。意味わからん。
 来たくて来たんじゃないことに地味にへこむ。
 よく見ると白の学ランみたいな格好のままだ。なぜか前がはだけて襟なしの白のシャツが見えてる。着替え途中にでも寝落ちしたみたいな格好だ。ズボンのチャックまで開いてる。(絶対寝落ちだ)
 王様の手伝いとかで多忙みたいだし、第一王子も疲れてるんだろうな。寝ながら移動魔法が発動するくらいに。

「とりあえず自分の部屋に戻ったら?」
 ナイトテーブルに置いてある時計を見るとまだ真夜中の1時だ。
 ボーッとしながら天井を仰ぐ第一王子。
「人の話聞いてる? おい」
 疲れてるならちゃんと自分のベッドで寝て欲しいし、しっかり疲れを取って欲しいと思って言ってんのに。そりゃぁもうちょっと一緒にいたいけど。(とは言わん。恥ずい)
 
 んー。と言いながら寝たまんまゴロリと転がってオレの膝の上に頭を乗せたかと思うと、ぎゅっと腰にしがみついてきた。

 ん?!!
 まだ寝ぼけてる?! つーか誰と間違えてんだよ! 魔物か?! それもどーなんだ?!

 内心動揺しまくりなオレに、第一王子はしがみつきながら顔を押しつけてなぜかスゥゥゥゥと匂いを嗅ぎだした。
「なに吸ってんだよ。人の匂いかぐな!」
 え。オレ汗臭い? 変な匂いしてる? ていうか、なんかこれめちゃくちゃ恥ずいからやめて欲しい。(変な気分になる)脇腹当たりに第一王子の息がかかってるのが服を着てても感じるのがいろいろヤバイ。
 全然やめないからマジで腹立って水魔法で頭から水をぶっかけてやった。おかげで第一王子もオレもベッドもぐっしょり濡れたけど、第一王子が熱風であっという間に乾かして元通りになった。(特にベッドがふかふかで気持ちいい)

 やっと(?)目を覚ました第一王子が、
「ダイヤに言うことがあったんだ」
「なんだよ」(そういうことか)
「明日から遠征に行く」
「遠征? どこまで?」
「別の大陸」
「大陸・・・。国じゃないんだ。海を渡るってことか。わかった」
「・・・ダイヤに何かあっても俺、助けに行けないからな」
「・・・それはどういう・・・移動魔法が効かないってこと?」
「あぁ。おまえがピンチなのもわかんない。魔石や魔法が発する力を感じることができない。というか、遠すぎたりいろいろ邪魔して探りずらくなる」
「それってGPSが電波に妨害されるみたいな?」
「言ってる意味がわからん」
「気にしなくていいよ。オレなりに理解しようとしてるだけだから」
「とにかく、無茶をするな。助けてやれない」
「魔石は発動するんだよな?」
「それは問題ない」
「ならわかった。気にせず行ってこいよ」
「・・・本当にわかってるのか? これは忠告だ。昨日、洞窟に入っただろ。明日からオレが戻ってくる3日間は絶対洞窟に入るな。市民の依頼も受けるな。いいな!」
「はいはい。そんな強めに言わなくてもわかってるよ。オレって信用ない?」
「・・・そうは言ってない。というか、自己犠牲があって心配だ。それを利用した俺が言えることじゃないが」
「ごめん、言ってる意味がわかんない。つーか、いつまでオレの膝の上にいんの? 重いからどいてくんない?」
「なぜだ?」
「おい」

 第一王子のセコムが効かない?!
 これってビッグチャンスじゃん!!
 魔法使っても第一王子が飛んで来ないってことだろ。この3日間のうちに魔物を克服するチャンスだ!!
 やば、早々に忠告を無視することになる。いやいや、これはオレの未来がかかってるからしょうがない。

 オレが目を輝かせている間に第一王子がオレの膝を枕代わりにしてまた寝た。(おい)
「重いんだよ」
 ムッとしながら寝顔を眺める。
 本当は嘘だ。めちゃくちゃ嬉しい。ぎゅーって抱きしめたいし、キスだってしたい。だけど、桃花の顔が浮かんで・・・。
 だからせめて、無防備な寝顔をさらす第一王子に触れないギリギリの距離で額にキスをする。

「オレ、頑張るから」

 錯覚魔法なしで魔物と対峙できるようになってみせる。

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