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「次期国王の器」1/2
しおりを挟む約束していた場所にルノーを見つけ廊下を小走りする。
「ルノー!待たせてごめん、オレ遅かった?ちょっと早く部屋を出たつもりだったけど」
「とんでもありません!ダイヤ様は完璧です!僕がダイヤ様を待たせまいと1時間前からここにいるだけですので、どうぞお気になさらず」
「いや、めちゃくちゃ気になる!つーか、次からは約束の5分前に来て!」
「は、はい・・・それでは」
言いかけたところで、ルノーが行き交う人たちの視線に気づき、
「場所を変えましょうか」
「歩きながらでもいいよ、オレは」
「でしたらそうしましょう」
「移動魔法で行くの?」
「いえ、何度か足を運んだ場所ではありますが、馬車で2時間ほどのところですから」
「じゃぁ、馬車で行くんだ。わかった」
ルノーと一緒に歩き出す。
昨日、ばったりあったルノーに聞きたいことがあると言ったらわざわざ時間を作ってくれることになった。が、急きょ、王様の頼みで隣町へ行くことになったんだけど、なぜかオレも同行することになった。
「約束といっても断ってよかったのに。オレまで一緒に行って大丈夫だった?」
「もちろんです! むしろこちらの用事に付き合わせてしまい申し訳ありません。ですが、これから行く街は王都より広くはありませんがいたるところに庭園のある素敵なところなんです。庭園の中に街があるといってもいいくらいです」
華やかに微笑むルノーに庭園に行かなくても十分癒される。
「王様の用事も小荷物を受け取る程度みたいですので」
ふーんと、興味のないオレはとりあえず相づちを返す。
外出するといってもルノーは普段通りの格好だ。(ダボッとした体形を隠す白い服)
王族や貴族ってもっとギラギラと着飾るイメージだけど、この国はそうじゃないみたいだ。(みんないつも似た格好)
「ところでダイヤ様。僕に聞きたいこととはどのようなことでしょうか」
歩きながらルノーが本題を聞いてきた。実はけっこう気になっていたな。
「せっかく時間を作ってもらっておいて、全然大したことじゃないんだけど」
「構いません。むしろ歩きながらで申し訳ありません」
それは全然。と首を振る。
「オレの部屋って聖女・・・様の部屋だったんでしょ。迎える準備っていうならオレ、部屋を出た方がいいのかなーって思って。いつ出て行けばいい?」
「そんな、とんでもありません! ダイヤ様さえよければいつまででもいて構いません。出ていくなんてそんな」
ブンブンと強めに首を振って否定した。
「いいの?」
「もちろんです。聖女様の部屋は別に用意することになりましたので」
ニコッと笑顔で答えるルノーに、なるほどと頷く。あの部屋はもう用済みってことか。
「王都内ではありますが、聖女様には別邸に住んでいただくこと致しました」
「別邸?」
「兄上が素直に城内に住んでくれるはずがないことはもう知っていますから。ならば、いっそ聖女様と別邸に住んで頂こうと思いまして!」
良い案だとばかりにルノーのつぶらな瞳がキラキラ光っている。
「ロウ、と桃花が?」
ぷつん、と思考回路が止まる。が、すぐに動き出す。
「ゆくゆくは結婚なさるおふたりですから気が早いと思いますが、先に慣れた方が今後良いかと思いまして」
「今後?」
はてな顔をするオレに、ルノーがちょっと照れた顔を近づけ、耳元で、
「ややです」
やや?
もっとはてな顔をするオレにルノーがじれったいとばかりに声をひそめるのをやめ、
「兄上と聖女様のお子ですってば!」
言ったあとにキャーと恥じらうルノーとは反対に、オレはバットみたいな固いもので頭をおもいっきり殴られたような衝撃を受けた。
ロウと桃花の子供。だと?!
「建築魔法師だけでなく、魔道具も使って大急ぎで完成へ向けている最中です。聖女様のお兄様であるダイヤ様にはぜひ完成を見て頂けたらと思っているのですが、間に合うやら」
心配だと言いながらも嬉しそうなルノー。オレは頭から流れる見えない血を拭った。
「へー、いいじゃん。召喚儀式までに間に合うといいな」
「はい!」
満面の笑みを全力で向けてくるルノー。
ショックだけど、実はそこまでじゃないっていうか。それは、第一王子が桃花との結婚にまったく興味がないからだ。
最初に会った時から第一王子の口からは「どうでもいい」「興味ない」だ。(この前も確認済み)
だから、ショックだけど大丈夫。第一王子はオレと冒険に行くんだ。
別邸だって多分、一緒に住まないと思う。桃花だけが住むなんて贅沢すぎるけど。
頭では大丈夫だという理由がちゃんとあるのに、なぜか不安だ。心ん中がざわざわして落ち着かない。
というのも、ちゃんとした仲直りはしてないけど、第一王子とはまた普通に話してるし、魔物退治だって一緒に行ってる。オレが魔毒から復活してまだ数日しか経ってないけど・・・けど!100歩譲って、オレが療養中に移動魔法を使わなかったのは気をつかったんだと思うことにしても、おかしい!オレが第一王子の部屋が嫌だと言って以来、移動魔法は使っても、移動する場所が第一王子の部屋じゃない。
言い過ぎたことを謝るにしてももう今更かな?と思うし、なんで部屋に呼ばないの?なんて・・・、
オレの口から言いたくないーーーー!
そんな恥ずいこと言えないっ!言ったら好きだってバレる。絶対!
それとも、オレが意識しすぎ?
つーか、ちょっと言い過ぎただけで大人しくなるか?いつもはこっちの都合とか気にしたことないくせに。
前みたいに強引に来てもいいんじゃないんですかぁぁ。つーか、来いっ!
「ダイヤ様? どこか具合でも悪いのですか?」
悶々としていたらルノーに心配された。
「あーえーと、大丈夫。ちょっと考え事してただけ」
はははと笑ってごまかす。
「そうですか。ご無理だけはなさらないで下さいね」
優しい笑みを浮かべるルノーの前に、急に太ったおっさんが声をかけてきた。
「第二王子のルノー様。これからどこかへ行かれるのですか?」
「王様に用事を頼まれました」
ルノーが営業スマイルを貼り付け太ったおっさんと話し始める。こういう時オレは蚊帳の外だ。大人しくルノーの横でじっとしてる。
ルノーとの会話に夢中で気づかなかったけど、いつの間にか大通りに出ていた。
城内はだだっ広く、いくつかの建物を渡り廊下や広くて大きい廊下で繋いでいる。その大通りはロビーみたいでたくさんの人が行き交う。
城内で働く人や貴族と、いろんな人がいて見ていて飽きない。
でも、噂やささやき声が聞こえてくるのもこの場所ならではだ。
ルノーを待っている間に、ざわざわという雑音の中にまぎれて聞こえてくる噂話。
第一王子と第二王子、どちらが次期国王になるのか。
つい先日、先延ばしにしていた次期国王について王様が正式に発表する。と宣言したせいで、外に出ると城内はこの噂ばかりだ。(先延ばしにしたのは聖女の召喚が失敗したからだ。でもこのことは内密)
ルノーがいるせいか、次期国王はぜひ第二王子に!という声が多い。逆に、第一王子については相変わらず小言を言っただけで燃やされる。とか、ダンジョンに入り浸るドラ息子だとか言いたい放題だ。
オレもルノーが次期国王に向いてると思うし、ルノーに一票を入れたい。
この気持ちは最初の頃と違ってめちゃくちゃ不純な動機だ。
そう、ルノーが国王になれば第一王子は桃花と結婚しなくていい。あと単純に普段の第一王子を見てる限り国王に向いてないっていうか・・・。(遠い目)
ルノーは多分、オレより年下だと思うけど、それを感じさせないくらいしっかりしてるし頼れるし優しい。(あと、かわいくて癒される)
うん、次期国王はルノーで決定だ。(メリットしか感じない)
「お待たせしました。ダイヤ様、先を急ぎましょうか」
気づかれした笑顔で声をかけてくるルノーに同情。
「貴族の知り合い?」
「そう、ですね。無下にはできませんので」
歩き出すルノーのスピードがさっきより早い。置いてかれないようにオレもスピードを合わせて隣を歩く。
「この国って、わりとみんな同じ格好してるからパッと見じゃ身分がわからないよな。最初は良いと思ったけど、今は逆に困る時があるっていうか」
「そうですね。でもそれは、先代の聖女様のお考えのもとですので」
「先代の聖女?」
「はい。僕の曾祖母にあたります。先代の聖女様は召喚される前の世界でひどい身分差別を受けていたとそうです。・・・聖女様のお考えは王様さえもくつがえすことができない、絶対です」
「王様さえも・・・」
それを聞いて、ゾッとした。
それってつまり、オレの妹。あの桃花が言ったことはたとえアホらしいことでも、誰もノーとは言えないってことだ。(うわー)
この国、アリッシュは大丈夫なのか不安しかない。
「たとえば、聖女との間にできた子供って何かこの世界に影響とかあるの?」
雑音と一緒に聞こえてきた太ったおっさんがルノーに話していた内容は、聖女との間にできる子供についてだった。楽しみだとか言っていたな。
「もちろんです。聖女様は女神様の分身のような存在。その方の血を受け継ぐ子は魔力が高いとされています。兄上だって例外ではありません」
「ロウが?」
「僕は王様の子ではありますが、母上は純血。いわゆるこの世界で産まれ育った人間の間で生まれました。ですが、兄上の母上・・・女王様は混血。他の国の聖女様から産まれた方がこのアリッシュに嫁いでこられたのです。聖女様を親に持つ人から産まれた子はいっそう魔力が高くなります」
「魔力が高いのはそんなにいいの?」
「魔力が高いということは、聖女様をお守りする力があるということ。それは女神様にとって気に入られるひとつだけでなく、信頼も得られます。そしてその信頼こそが国の安泰。平和と富の維持に繋がるのです」
お、重い・・・。
「あの者は僕を次期国王にと言っていましたが、その反面、バカにもしていたのです。聖女様との子を楽しみと言っていましたが、僕は完全な混血じゃない」
ふぃっと顔をそむけるルノーを見て、実はけっこうあの太ったおっさんにムカついてるんだと気づく。(傷ついてるのかも)
唐突にぷにっとルノーの頬を指で突く。ルノーが頬を抑えながらびっくりした顔でこっちを向いた。
「ルノーはルノーだよ。混血だろうと純血だろうと関係ない」
「ダイヤ様」
「ていうか、聖女ってオレの妹だよ。桃花の子供って逆に申し訳ない」
「そんなこと!きっとダイヤ様に似たかわいいお子です」
「・・・オレってかわいい?」
「はい!あ、いいえ!」
「え。どっち?」
あわわわとあたふたするルノーがかわいくてぷっと吹き出して笑う。
混血同士の子供、か。
国王としての可能性が第一王子にちらついて不安が増す。
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