聖女の兄で、すみません!

たっぷりチョコ

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「第一王子」

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 うわさを聞いて、オレなりに勝手に想像していた。
 ルノーとは真逆なキャラを。
 大柄で筋肉ムキムキで髭ボーボーで、ダンジョンに入り浸ってるっていう話だから風呂を何日も入ってない臭い奴で、ワイルドで盗賊のボスみたいな。
 そんできわめつけに、部屋に入った瞬間、オレに気づいて怒りまくって大暴れしてオレを燃やすんだ。

 ガチャッとドアが開き、何の迷いもなく大股でスッと部屋の中に入って来た、男。
 パッと見、青年でオレと歳が同じか近いくらい。身長はオレより高くて180あるかないか。
 髪は短髪で赤みのある茶髪。鼻筋はスッとして目はキリッとアーモンド形。それを強調する濃くて太めの眉。
 服装はダンジョンから帰ってきたわりには汚れてもいないし汗臭そうでもない。むしろ、洗い立てのように見える襟無しのベージュのシャツに茶色のピタッとしたスキニーパンツみたいなのを履いてる。足元だけはごっつい革ブーツだ。
 
 ツンッとすました男がルノーの横に立つと、ルノーがオレに向かって「僕の腹違いの兄上で、第一王子でもあるロウです」と短めに紹介してくれた。(また腹違いって言った)

 お、思ってたんと違う。
 確かにルノーと全然雰囲気も顔も似てないけど、イケメンすぎる!!(かっこよ!)
 なんなんだ、この兄弟。顔面偏差値エグすぎる。
 弟がかわいい系の美男子で、兄が男前な美男子って!!
 妃はキレイな人だと思ったけど、王様は人の良さそうな普通のおっさんだったぞ。(異世界こえー)

 眩しすぎるふたりの王子にオレの目がつぶれかけていると、ロウとかいう第一王子がスッと一歩前に出てオレに近づいてきた。
「へー、あんたが聖女の兄か」
「!」
 スタイルのいい奴が目の前に立たれると迫力がある。(顔が良すぎる)
 やべ、顔面でびびりすぎて忘れてたけど、戦国時代の信長みたいな奴だった。
 思わず身構えると顔を近づけてマジマジとオレを観察する。(近っ)
「ふーん、なるほど」
「?」
 ニヤニヤしながら第一王子がオレから一歩下がった。
 あれ? 怒ってない? 暴れない? オレを燃やさない?
 また思ってたのと違う反応にオレの脳が混乱する。

「兄上、ダンジョンからお戻りになられたのでしたら王様のもとへ行かれては?」
「かたいこというなよ、ルノー。親父のところに行ったらまた小言を言われるに決まってるだろ」
 静かな口調だけどよく透る芯のある声だ。声までイケメンだ。
「そうかもしれませんが、今回は聖女様の召喚は失敗に終わりましたが、三ヶ月後には聖女様をお迎えするんですよ。兄上ももうそろそろダンジョン攻略はやめて落ち着かれては」
「やだね、誰がやめるか。聖女の召喚が失敗しようが成功しようが俺には関係ない。王位継承もどうでもいい。この城のお偉い奴らはみーんなルノーが継げばいいと思ってる。俺もそれに賛成だ」
「何を言ってるんですか! 王位を継ぐのは兄上です。皆は兄上の良さを知らなさすぎるんです」
「興奮するな、そう思ってるのはルノー、お前だけだ」
 穏やかなルノーが珍しく感情的になっているのはびっくりだ。
 第一王子になだめられているルノーはしっかりしてる子だと思ってたけど、やっぱり弟でまだ幼いんだと今実感した。

 唐突に第一王子がクルッと振り返ってオレを見た。不意打ちとばかりに慌てて身構えると、
「あんた名前は?」
「え」
 オレの代わりにルノーが言おうとしてそれを第一王子が手を軽く挙げて制する。
 視線だけで「お前が自分で言え」と言われ、
「・・・大矢、と言います」
「ダイヤ?」
 恐る恐る頷くと、
「わかった。またな、ダイヤ」
 ヒラヒラと手を振ってドアへと歩き出す。
 
 え? それだけ? 

 ビビってたのがバカらしく思うほど拍子抜けする。
「兄上、もう行かれるんですか? 一緒にお茶でも」
「西のダンジョンの報告しにジジイのところに行く。まだ知られてない新種の魔物を見つけたんだ」
嬉しそうに話しながら引き留めようとするルノーをおいてさっさと部屋を出て行った。
「兄上は本当にダンジョンが大好きで困ります」
 ふーとため息をつくルノー。そういうわりには困っているというよりちょっと寂しそうだ。
 なんであれ、オレの命の危険が去ったわけで、ものすごい安堵感で満たされる。

 あーマジでよかった! なにもなくてマジでよかった! 顔面がエグイいだけの奴でマジでよかった!

 コンコンとノックが聞こえ、ルノーの返事でメイドがお茶を持ってきた。
「紅茶をお持ちいたしました」
「ありがとう、テーブルに・・・ダイヤ様、よかったら一緒にお茶しませんか? 兄上に用意したのですが無駄になってしまいました」
 バツが悪そうな表情をしながら椅子を引いて誘ってくる。
 断るとしてもここオレの部屋だし、今さっきの兄弟のやりとりを見て断るなんて気が引ける。それに、無駄に緊張と恐怖で喉がカラッカラだ。
「いただきます! お茶菓子もあるとうれしい」
「木の実をふんだんに入れた焼き菓子があります! とってもおいしいですよ」
 ぱぁぁとあからさまに喜んでくれるルノー。(かわいい)
 
 席に着くと紅茶とその焼き菓子をメイドがオレの前に用意してくれた。
 お皿に乗っている焼き菓子は一切れのパウンドケーキってところだ。なんの木の実かわかんないけど、見た目的にはナッツ系に似てる。
 一口食べたけど、味も甘さ控えめでうまい。
「この木の実入りの焼き菓子は兄上の大好物なんです。ダンジョンから帰ってきた時はいつもシェフに作ってもらっているんです」
「へー」
 オレだったらこんなかわいい弟がここまで用意してくれたら用事があっても合わせるけどなーなんて思いながら、木の実をボリボリと食べる。(マジでナッツみたいな味だ)

「先ほどは手荒な真似をしてしまい、申し訳ありませんでした」
 座ったまま深々と頭を下げるルノー。
「ごめん、どの辺が手荒だったのか全然わかんないんだけど」
 だから頭上げてと声をかける。
 頭を上げたルノーは横髪を耳にかけながら、
「場所を移動したことです。断りを入れましたが、本来は手荒なことなのです」
「場所・・・。あー! 廊下からこの部屋にってこと? あれ、魔法だったんだ! すげーこの世界は瞬間移動もできるんだ」
「瞬間、移動・・・。そうですね、一瞬で移動できる魔法です。でも、この世界の誰もができるというわけではありません。女神様の加護を受けている特定の者だけです」
「女神様の加護?」
 女神様の加護って、ファンタジーもので聞く奴だよな。

「この国では王様と兄上、僕だけです」
「王族全員じゃないんだ」
「はい。以前は王族の者は全員加護を授かっていたと聞きましたが、女神様のお考えで王位候補のみに、と」
「じゃー、ルノーも王様になれるってこと?」
「なれますが、それは兄上にもしものことがあった場合です。基本、いえ、誰が何を言おうと次の王位を継ぐのは兄上です!」
「お、おう」
 急にスイッチが入ったルノーが鼻息を荒くして言うからドン引きして声がどもった。
「それに、聖女様と結婚できるのは昔の習わしで王位を継ぐ第一王子と決まっているのです」
「伝統・・・てやつ?」
 はい。と静かに微笑むルノーの笑顔がどこか曇ってみえる。その理由はだいたいわかる。ルノーは、
「本当に誇らしいです! 聖女様とご結婚できる兄上を。はぁ、三ヶ月後には聖女様にお会いできると思うと今から緊張が」
 頬に手をあててもじもじするルノー。

 こんなにお人形みたいにかわいいルノーなのに、この一週間で知ってしまった。ルノーは聖女オタクだ。いや、オタクと言っていいのか。
 こくりと紅茶を一口飲む。
 こっちの紅茶はオレが知ってる紅茶とちょっと違う。やたら苦い。最初に飲んだ時は出がらしが出すぎだと思ったけど、そうじゃないみたいだ。
 薄くしてほしいと何度か頼んだけど、苦いまま。多分、使ってる茶葉が違うんだろう。
 一生飲めないと思ったけど、慣れって怖いよな。一週間も経てば甘いものと一緒ならいける。

 三ヶ月後に会える聖女様とやらに焼き菓子そっちのけでうっとりしてるルノーにオレはため息しか出てこない。
 マジで哀れだ。
「ルノー。今までの聖女様がどんな方だったかは知らないけど、次に来る聖女は残念聖女だから」
 夢見てるところをマジで悪いけど、これは口をすっぱくして言いたい。ルノーのためにも!
「前にも言ったけど、オレの妹は家じゃがさつだし、口も悪いし、人のプリンを勝手に食べる奴だし、暑い日にはキャミソール姿でリビングをウロウロするくせに、オレが風呂上りに上半身裸でいると変態呼ばわりしてくる最低なヤローだ。なんで聖女として召喚されるのか兄のオレが頭を抱えてもわかんないくらい聖女とは遠い奴なの!」
 だから夢見るのはやめたほうがいいと、ポンッとルノーの肩に手を置く。
 きょとんとしながら話を聞いていたルノーがニコッとかわいい笑顔で微笑む。
「聖女様は聖女様です」

 ダメだ、何を言っても通用しない。

 ガクッと肩を落とすオレにメイドが紅茶のお代わりを注いでくれた。
「以前も聖女様について熱く語ってくださいましたね。本当に兄弟仲良く微笑ましい限りです。ぜひまた聖女様とのエピソードをお聞かせください」
「・・・そりゃどーも」
「この世界の母体は女神様です。しかし、女神様の力だけはままらないため定期的に国それぞれに聖女様を異世界から召喚してきました。それがこの世界の大昔からの習わしです。聖女様は国を平和へ、恵みと繁栄をもたらしてくれます。なくてはならい存在です。そして、その聖女様を命を尽くして守り続けるのが国の長、王家の務めです。どのような聖女様であろうと、女神様がお決めになられた方であれば受け入れます」

 どのような聖女様であろうと・・・か。

 ルノーは聖女オタクというか、ほぼ崇拝者に近い気がする。いや、もしかしたら幼い頃からそうやって大人に刷り込まれてきたのかもしれない。
 それに比べて第一王子は・・・。
『聖女の召喚が失敗しょうが成功しようが俺には関係ない』
 第一王子が言っていた言葉を思い出し、なんだかめんどくさそうだなーと思った。
 ま、オレは三ヶ月後には自分の地球に帰るわけだし、あんま首つっこまないように気をつけよう。つーか、桃花の結婚相手とかいうから品定めしようと思ったけど・・・。
 召喚される数日前に、桃花に楽しみにしていたチョコプリンを名前を書いたにもかかわらず食べられたことをさっき思い出した。
 
 めんどくさそうな奴だし、保留ってことで。

 小一時間ほどルノーとおしゃべりしてお茶会?は終わった。




 朝7時になるとメイドが起こしに来てくれる。オレはそれに合わせて起きる。
「おはようございます。朝食の準備が整いましたのでどうぞお席に」
「いつもありがとう・・・ルノーは?」
 日課になりつつある、ルノーとの朝食。
 オレの部屋のすぐ隣に食事をする部屋があり、昼食や夕食はひとりで食べることはあるけど、朝は必ずこの部屋で一緒に食べる。
 オレより先に席についてることが多いルノーが細長いテーブルのはじっこに座っていない。
「第一王子のロウ様が朝方早くにお城を出たそうです。本日行われる予定だったパーティを急遽中止することになったと、ルノー様が伝達に追われておりますので朝食はダイヤ様のみでとのことです」
「へ、へー。パーティって第一王子の歓迎会的な?」
「もとは聖女様のお披露目会だったようですが、それに合わせてロウ様が帰ってくる予定でしたので」
「なるほど」

 メイドが用意してくれたどっからどうみてもロールパンに見える丸いパンをちぎって食べる。
 おおかた、そのパーティが嫌でさっさと城を出たってやつか。ルノーは放浪兄を持って苦労するなーって思いながら、オレには関係ないけど。と他人事のようにバケットから2個目の丸いパンに手を出す。

 まぁでも、燃やされなかったけどうわさはあるんだし、物騒な王子は城にいないのが安心だ。なんならオレが地球に戻れるまでの間は帰ってこないでほしい。
 触る神に祟りなし、てね。

 そんなことを思いながら用意されたミルクに手を伸ばそうとしたその瞬間、目の前にあったテーブルが消え、椅子も消えてドカッと地面に尻もちをつく。
「いっで!!」
 尻をさすりながら辺りを見回すと食事部屋がすっかりなくなり、青々としげる草原と風にそよいで揺れる木々が。
「はぁぁぁ?! ここどこ!?」
 これは昨日、ルノーにやられた瞬間移動だ。てことは、ルノーの仕業?!
「ダイヤ、だったよな」
「!」
 透き通る芯のある声。イケメンボイスに振り返ると木々の中から何かを引きずりながらオレに近づいてくる、第一王子ロウの姿が。
「城にいるなんて退屈だろ? 俺とダンジョン攻略しようぜ」
 ニッと不敵な笑みを浮かべた。

 はいぃぃ?!!

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