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番外編
幸せ
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携帯を持たない圭の代わりに、夕方、伸からメールがあった。
ダンスイベントの練習で、二人とも帰宅がいつもよりうんと遅れるらしい。
伸は別にどうだっていいんだけど、圭だけは早く帰してくれよ、と即レスで縋ってみたが、「うちのホープだからな。一番出番が多いんだよ」と、一言で却下されてしまった。
今夜こそ、抱こうと決意した途端にこれだ。
華奢な圭は、見た目どおり、体力が無い。きっと、帰ったらシャワーを浴びて、とっとと眠ってしまうだろう。
そうはさせるか。
俺は動物園の熊みたいに部屋をうろつきながら、何度も壁の時計を見た。
春なんだ。
動物も盛るが、人間も盛る。
今ごろ俺の事なんて忘れて、踊りまくってんだろうな、なんて思ったら、悔しくて余計に股間が疼いてしまう。
十時を過ぎても圭は帰ってこず、俺のいらいらは頂点に達していた。
「ただいま……」
そんなわけで、練習に疲れきった圭が、よろめきながら戻ってきたときには、俺は意味不明な興奮でびんびんになっていた。
「圭。とっとと着替えてきな。俺、部屋で待ってるから」
「何、それ」
ドアを開けるなりのキス攻めに、圭はへたれた顔を歪ませる。
みるからにオーバーワークでへろへろな上に、過剰すぎる俺の熱烈歓迎。
きっと相当うざがってんだろうな。
わかってるけど、性格だから仕方ない。
高まらない圭のテンションに薄く傷つきながら、俺は深呼吸をしてこう言った。
「俺、今日、お前を抱くから」
「ええ――っ」
あからさまに気乗りのしない声。
びっくりしてる、というよりは、拒絶の意味あいが大きい、ええ――っに、ガラスのようにデリケートな俺のハートは、ぴしりと嫌な音をたてた。
「ねえ、桔梗、イベント終わってからにしない? 俺、ほんとくたくたなんだ」
圭は言った。
「イベントって、いつ」
自分でも嫌になるくらい、拗ねた声だが、圭は全然気がついてない。
「七月」
しれっと教えられて、頭に血が上る。
「ざけんなよ。んなに、待てるか」
恋人を前にして、健全な高校男子が、何故にあと一ヵ月半も禁欲生活を送らねばならんのだ。
「だって、それまでは毎日練習があるんだもん。今日よりもっと遅くなるかも。けど、それが終わったらいつでも大丈夫だから」
圭はにっこりと俺に引導をわたし、自室に消えた。
話題にしてるのは、セックスではなく、何かほかの事かと勘違いしそうなほどあっさりとした爽やかさに呆然となる。
俺達って、恋人同士なんだよな。
俺だけの勘違いじゃ、ないんだよな。
お花見会場で感じた幸せが一気に遠ざかる。
部屋から洩れてきた気持ちよさそうな鼻歌に、俺ははっと我にかえった。
なんだ、全然元気そうじゃん。
俺の相手だって、できるんじゃね?
余裕、だよな?
自分でもコントロールできない理不尽ないらだちに突き動かされ、俺は大股でリビングを横切ると、圭の部屋をノックした。
返事も待たずに、ドアを開ける。
「な、桔梗?」
圭はシャツのボタンをはずしながら、きょとんと俺を見つめた。
ハムスターそっくりな茶色の目が、きらきらと光っている。
やっぱり……可愛い。物凄く。
俺は圭の肩から、制服を一気に脱がせ、抱きしめた。
「桔梗?」
そのまま、よりきりの要領で、ベッドへと運び、押し倒す。
俺のより一回り狭い圭のベッドが、俺達の体重を受けて、ぎしりと軋んだ。
「やらせて。抱きたい」
毀れるように大きな、つぶらな瞳が脅えたように左右に揺れる。
俺は、何度も、小さな顔のあちこちにキスをした。
「今日、させてくれたら、しばらくは我慢する。だから、させて。俺、もう我慢できない」
固くなった下半身を、か細い太ももに擦り付けながら、俺は言った。
柔らかい唇に自分のそれを重ねて、優しく舌を挿入すると、圭は小さな舌を絡めてきた。口腔を犯しているうちに、まずます下半身は熱くなっていく。
「するぜ……?」
俺は圭の耳もとで、囁いた。
体の下で、少しずつ体温を上げていく、圭の肢体は、たまらなく愛しくて、もう止まらない。
嫌がったって、許さない。
この上なく優しく、宝物を抱くみたいに犯してやる。
圭はゆっくりと目を開けて、俺を見上げた。
頬が、ピンク色に染まっている。
藤棚の下で恥らってた、昼間の圭と同じ、薄桃色に。
ああ、俺って、きっと馬鹿だ。
答えなんて、目の前にあるじゃんか。
わかってるはずなのに、確かめずにはいられないのだ。
そう、こんな風に。
「やっぱりお前って、俺の事、すんごく、好きだよな」
確信を言葉にすると、圭は、恥かしそうに頷いた。
花のような圭の、隣で歩いていられるだけで、俺は世界一幸せなんだ。だけど、どうしても、欲しくって。
「抱いても、いいよな」
俺の声がみっともなく掠れる。
圭はこくりと頷いた。
俺は再び圭をきつく抱きしめる。想いがあふれ出して止まらない。
「桔梗が、大好き……」
俺の胸に顔を埋めたまま、圭は小さく呟いた。
その夜、久しぶりに抱いた圭は、やっぱりとんでもなく可愛くて。
調子にのった俺はやり過ぎて最後には圭を泣かせてしまった。
翌朝、圭は鏡の前で、キスマークが残ってると青ざめていたが、結局、誰からの突っ込みもなかったらしい。
少しずつだけど、「公認のカップル」ってやつに、俺達もなりつつあるみたいだ。
ダンス部の練習は、ますます苛烈になってるらしく、最近では九時前に帰ってくるなんて滅多にない。
セックスもおあずけだ。
そして、イベントの日がやってきた。
ダンスイベントの練習で、二人とも帰宅がいつもよりうんと遅れるらしい。
伸は別にどうだっていいんだけど、圭だけは早く帰してくれよ、と即レスで縋ってみたが、「うちのホープだからな。一番出番が多いんだよ」と、一言で却下されてしまった。
今夜こそ、抱こうと決意した途端にこれだ。
華奢な圭は、見た目どおり、体力が無い。きっと、帰ったらシャワーを浴びて、とっとと眠ってしまうだろう。
そうはさせるか。
俺は動物園の熊みたいに部屋をうろつきながら、何度も壁の時計を見た。
春なんだ。
動物も盛るが、人間も盛る。
今ごろ俺の事なんて忘れて、踊りまくってんだろうな、なんて思ったら、悔しくて余計に股間が疼いてしまう。
十時を過ぎても圭は帰ってこず、俺のいらいらは頂点に達していた。
「ただいま……」
そんなわけで、練習に疲れきった圭が、よろめきながら戻ってきたときには、俺は意味不明な興奮でびんびんになっていた。
「圭。とっとと着替えてきな。俺、部屋で待ってるから」
「何、それ」
ドアを開けるなりのキス攻めに、圭はへたれた顔を歪ませる。
みるからにオーバーワークでへろへろな上に、過剰すぎる俺の熱烈歓迎。
きっと相当うざがってんだろうな。
わかってるけど、性格だから仕方ない。
高まらない圭のテンションに薄く傷つきながら、俺は深呼吸をしてこう言った。
「俺、今日、お前を抱くから」
「ええ――っ」
あからさまに気乗りのしない声。
びっくりしてる、というよりは、拒絶の意味あいが大きい、ええ――っに、ガラスのようにデリケートな俺のハートは、ぴしりと嫌な音をたてた。
「ねえ、桔梗、イベント終わってからにしない? 俺、ほんとくたくたなんだ」
圭は言った。
「イベントって、いつ」
自分でも嫌になるくらい、拗ねた声だが、圭は全然気がついてない。
「七月」
しれっと教えられて、頭に血が上る。
「ざけんなよ。んなに、待てるか」
恋人を前にして、健全な高校男子が、何故にあと一ヵ月半も禁欲生活を送らねばならんのだ。
「だって、それまでは毎日練習があるんだもん。今日よりもっと遅くなるかも。けど、それが終わったらいつでも大丈夫だから」
圭はにっこりと俺に引導をわたし、自室に消えた。
話題にしてるのは、セックスではなく、何かほかの事かと勘違いしそうなほどあっさりとした爽やかさに呆然となる。
俺達って、恋人同士なんだよな。
俺だけの勘違いじゃ、ないんだよな。
お花見会場で感じた幸せが一気に遠ざかる。
部屋から洩れてきた気持ちよさそうな鼻歌に、俺ははっと我にかえった。
なんだ、全然元気そうじゃん。
俺の相手だって、できるんじゃね?
余裕、だよな?
自分でもコントロールできない理不尽ないらだちに突き動かされ、俺は大股でリビングを横切ると、圭の部屋をノックした。
返事も待たずに、ドアを開ける。
「な、桔梗?」
圭はシャツのボタンをはずしながら、きょとんと俺を見つめた。
ハムスターそっくりな茶色の目が、きらきらと光っている。
やっぱり……可愛い。物凄く。
俺は圭の肩から、制服を一気に脱がせ、抱きしめた。
「桔梗?」
そのまま、よりきりの要領で、ベッドへと運び、押し倒す。
俺のより一回り狭い圭のベッドが、俺達の体重を受けて、ぎしりと軋んだ。
「やらせて。抱きたい」
毀れるように大きな、つぶらな瞳が脅えたように左右に揺れる。
俺は、何度も、小さな顔のあちこちにキスをした。
「今日、させてくれたら、しばらくは我慢する。だから、させて。俺、もう我慢できない」
固くなった下半身を、か細い太ももに擦り付けながら、俺は言った。
柔らかい唇に自分のそれを重ねて、優しく舌を挿入すると、圭は小さな舌を絡めてきた。口腔を犯しているうちに、まずます下半身は熱くなっていく。
「するぜ……?」
俺は圭の耳もとで、囁いた。
体の下で、少しずつ体温を上げていく、圭の肢体は、たまらなく愛しくて、もう止まらない。
嫌がったって、許さない。
この上なく優しく、宝物を抱くみたいに犯してやる。
圭はゆっくりと目を開けて、俺を見上げた。
頬が、ピンク色に染まっている。
藤棚の下で恥らってた、昼間の圭と同じ、薄桃色に。
ああ、俺って、きっと馬鹿だ。
答えなんて、目の前にあるじゃんか。
わかってるはずなのに、確かめずにはいられないのだ。
そう、こんな風に。
「やっぱりお前って、俺の事、すんごく、好きだよな」
確信を言葉にすると、圭は、恥かしそうに頷いた。
花のような圭の、隣で歩いていられるだけで、俺は世界一幸せなんだ。だけど、どうしても、欲しくって。
「抱いても、いいよな」
俺の声がみっともなく掠れる。
圭はこくりと頷いた。
俺は再び圭をきつく抱きしめる。想いがあふれ出して止まらない。
「桔梗が、大好き……」
俺の胸に顔を埋めたまま、圭は小さく呟いた。
その夜、久しぶりに抱いた圭は、やっぱりとんでもなく可愛くて。
調子にのった俺はやり過ぎて最後には圭を泣かせてしまった。
翌朝、圭は鏡の前で、キスマークが残ってると青ざめていたが、結局、誰からの突っ込みもなかったらしい。
少しずつだけど、「公認のカップル」ってやつに、俺達もなりつつあるみたいだ。
ダンス部の練習は、ますます苛烈になってるらしく、最近では九時前に帰ってくるなんて滅多にない。
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