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なんてことない説明回

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「それじゃ、改めて詳しい説明をしていこうか」
 私の答えに満足げに頷いた人影は、私の目の前に新しいウィンドウを展開する。
 そこに表示されていたのはゲームなんかでよく見る、いわゆるステータスと呼ばれるものだった。
「そこに書かれているのが、今の君の能力だよ。と言っても、表示されるのは名前や職業とスキルだけだけどね」
 そう言われて改めてウィンドウに目を落とす。

『ユイカ・シマムラ』
<職業>
 女子高生
<スキル>
『被虐趣味』、『露出願望』

 そこには確かに、私の名前と女子高生と言う職業(?)が書かれていた。
 だけどそれより気になるのは、スキルの欄だ。
 そこには『被虐趣味』と『露出願望』という二つのスキルが記されていた。
「なに、これ?」
 スキルというよりもただの性癖としか言いようのないそれを見て、私は呆然と呟いた。
 これをスキルだと言い張るのはなんと言うか、あまりにも無理があると思うのだけど……。あまりの意味不明っぷりに呆然とする私を見て微かに笑うような仕草をした人影は、私の質問に答えるように口を開く。
「それは、君が現状で保有しているスキルだよ。どうやら、ずいぶんと君の趣味が反映されたみたいだね」
「いや、私にそんな趣味なんて……!」
「ない、というならそれで結構。どちらにせよ、すでにスキルとして習得してしまった以上はどうしようもないから。そしてスキルを習得したということは、君はその二つから逃れることはできないということさ」
「そんなぁ……」
 つまり私は、もうこの二つのスキルと一生を共にしなければいけないということなのか。
 それはなんだか……。
 まるで心の中に隠された扉をこじ開けられたみたいに、それを受け入れてしまっている自分がいる気がする。
 納得は行かないまでもそういうものだと理解した私に、人影は更に言葉を続ける。
「さて、じゃあまずは職業から変えていこうか。さすがに女子高生では、異世界で生きていくには大変だ」
 そう言って人影がウィンドウに触れると、私の職業欄が一瞬だけ空白になる。
 そして、溶けるように消えた文字の代わりに現れたのは『ダンジョンマスター』という新しい職業だった。
「ダンジョン、マスター?」
「そう。僕が自分の駒に与える職業はダンジョンマスターだ。君も小説やゲームなんかで知ってると思うけど、ダンジョンを運営して戦う職業だね」
「それって、ダンジョンコアを破壊されたら死んじゃうみたいなことって」
「安心して。そもそもダンジョンコアなんてないから。しいて言えば、君の心臓がコアみたいなものだ」
 言いながら人影が私の胸元を指差すと、なんだか胸の奥が陣割と熱くなってくるような気がした。
「心臓……」
「そう。君が死ねばダンジョンはその機能を完全に失ってしまう。逆に言えば、たとえダンジョンが攻略されても、君が生きている限り新しいダンジョンを作って何度でもやり直すことができるってことさ」
「なるほど」
 つまり当面の私の目標は「死なない」ということになるわけだ。
「そうだね、それが君の第一目標だ。その上で、ダンジョン内に存在する生物から奪った魔力を変換して、ダンジョンを成長させる。それと、君自身の成長にもその魔力を使うことになるね」
「私自身の成長って?」
「ダンジョンマスターは変換した魔力を使うことで、新しいスキルを覚えることができるんだ。だからこそ、ダンジョン内で生物を殺すか飼うことが重要になってくる」
 さらっとそんなことを言われても、さっきまで女子高生だった私にはちょっと荷が重い。
 不安を感じていると、人影は私を安心させるように柔らかく微笑む。
「大丈夫さ。異世界へ転生させるにあたって、君の精神的ダメージが大きく軽減するように処理をするから。生き物を殺すことも、じきに抵抗がなくなるはずだよ」
「処理って……。そんな実験みたいな言い方」
「駄目だったかな? なら君へのサポートと言い換えてもいいよ。ともかく、君の精神が早々におかしくなってしまわないようにするものだから、心配することはないよ」
 フォローするようにそんなことを言われても、処理という言葉の印象の悪さを取り除くことはできない。
「まぁ、あまり気にしないでくれると助かるよ。どちらにせよ、この処理はしなくてはいけないものだからね」
 どうやら結局、処理という言い方で落ち着いたらしい。
「言い方なんて些細な問題だからね。最終的に僕のやることは変わらない。そして、実はもう処理は終わっているんだ」
「えっ!?」
 特に何の変化も感じなかったけど、いったい私の身体に何が起こったのだろうか。
「まぁ、まだ実感はないだろうね。でも確実に、君の精神は処理を行う前より強くなっているはずだよ。ついでに、自らの欲望にも忠実になるようにしておいたから」
 後は実際に起こってからのお楽しみさ、と人影は朗らかに笑う。
 それは正直とても怖いけど、しかしどうやら詳しく教えてくれるつもりはないらしい。
「ともかく、これで準備はほとんど終わりだ。あとは、現地に行って説明しよう」
 人影の言葉とともに周りの景色がゆっくりと溶けていき、代わりに私は洞窟のような場所に立っていた。
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