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「もしかして、まだ緊張してるんですか? そんなに身構えられちゃうと、私まで緊張しちゃいますよ」
「あはは、すいません。テレビで見るより何倍も可愛いから、つい見惚れちゃって」
これは本当のことだ。
実際に彼女と会って話して、彼女の笑顔が俺に対して向けられていると考えると、なんだか特別な存在になったような感情を覚える。
もちろんそれはただの錯覚で、彼女にとって俺なんて掃いて捨てるほどいるファンのうちの一人に過ぎないんだろうけど、それでも今この瞬間だけは彼女の笑顔は俺だけのものだ。
もしもこれが全て計算されているのだとしたら、彼女は俺の想像よりもずっと頭が良いのかもしれない。
まぁ、本当にそうだとしたらSNSに堂々と個人情報なんて乗せないだろうけど。
「ところで、エンジェラインさんって時間は大丈夫ですか? もしかして、忙しかったんじゃ……」
「いえ、大丈夫ですよ。今はプライベートなので。だから、私のことはエンジェラインじゃなくって天音って呼んでください。正体は秘密なんです」
口元に指を置いてシーッと小さく声を漏らしながら、天音はそう言って微笑む。
なんどもあざとい仕草だけど、それでも男心はグッと掴まれてしまうだろう。
「ああ、分かりました。それじゃあ、天音さんって呼びますね」
「はい、そうしてください!」
彼女に合わせるように微笑むと、天音も楽しそうに笑って頷く。
そうすると秘密を共有している気分になって、俺と彼女の距離がぐっと縮まったように感じる。
……やっぱり彼女は、こうやって人の心を掴む才能を持っているとしか考えられない。
裏の顔を知っている俺でさえ、彼女に心を奪われていてもおかしくないだろう。
それくらい、彼女の対応は神がかっているのだ。
そんな神対応に心の中で感心しながら、俺は彼女を誘い出すためにゆっくりと会話を誘導していく。
「ところで天音さん。もしもこれから用事がないんだったら、少し付き合ってもらえませんか? 実はこの先に女の子たちの間で話題になりかかってるって店があるらしくて。ちょっと興味あるんですけど、男一人だと入りにくくて。もしよければ一緒に行ってほしいんですけど」
「えぇ、どうしましょう……。いくらなんでも、初対面の男の子とデートだなんて」
「いや、デートとかそんなんじゃないですよ! だけど、迷惑だったら諦めます」
さすがに今日会ったばかりでいきなり連れ出すのは無理があっただろうか。
まぁ、最初からうまくいくとは思っていなかったし気長に計画を進めていこう。
俺が次の作戦について思考を巡らせていると、目の前で考え込むような仕草をしていた天音がニッコリと笑う。
「じゃあ、あなたの奢りだったら良いですよ。どんなお店か知らないですけど、私も興味はありますし」
「えっ!? いいんですか? やった!」
こんな雑な作戦がまさか成功するなんて、本当にこの子の危機管理はどうなっているのだろうか。
罠にはめている側のはずなのに、なんだか少し心配になってくる。
まぁ、もし一般人が彼女に襲い掛かったとしても、変身されたら勝ち目なんてないだろうけどな。
きっと彼女の危機感が薄いのも、そこらの男になんて絶対に負けないという自信の表れなのだろう。
ともかく成功したからには、最初のプラン通りに作戦を進めていこう。
「それじゃ、行きましょう。案内しますよ」
先導するように人混みに向かって歩き始めると、天音もそんな俺から少し距離を取ってついてくる。
あまり近寄って歩くと周りの人に誤解されるからだろうけど、危機感がないくせにそんなところだけは頭の回る彼女に思わず笑みがこぼれる。
そうやって歩いている間もすれ違う人たちの何人かは天音の姿に気付いたのか、チラチラとこちらに視線を向けてくる。
同時に俺にも不審そうな視線が向けられるけど、そんなものはお構いなしに歩みを進めていく。
そうやってしばらく歩いていると、だんだんと人通りが少なくなっていく。
「あの、本当にこんな所に人気のお店があるんですか?」
「もちろん。ちょっと隠れ家的なお店らしくって、分かりにくい所にあるみたいなんだ」
もちろん、そんなものは嘘に決まっている。
こんな所に人気の店なんてないし、なんなら人気の店があると言うのも彼女を誘い出すための罠だ。
まんまと罠にはまった彼女を連れてやってきたのは、人気のない袋小路だった。
「着いたよ。ここが目的地だ」
「えっと……。お店なんてどこにも見当たらないだけど、これはいったいどういうこと?」
ここに至ってやっと自分が騙されたことに気付いたらしい彼女は、さっきまでとは打って変わって厳しい口調で俺を睨みつける。
どうやら、もう猫を被るのは止めたみたいだ。
高圧的な態度で俺を睨みつける天音を見ていると、なんだか背筋にゾクゾクとしたものが駆け巡る。
これからこの子を俺のものにするのだと思うと、興奮が抑えきれない。
「なにをニヤニヤしてるの? 気持ち悪いんだけど」
軽蔑するような視線と口調で吐き捨てると、彼女はサッと胸元に手を当てる。
それと同時に彼女の身体を眩い光が包み、一瞬で変身したエンジェラインが俺の目の前に現れた。
「あれ? いつもみたいに変身ポーズとかはないのか? 『悪を滅ぼす天使降臨っ!』てやつ。せっかく生で見られると思って期待したのに」
「はぁ? あんなの、ファン向けのパフォーマンスに決まってるでしょ。ここには私とあなたしかいないんだから、わざわざそんなサービスしてあげる義理もないし」
世の中のファンが聞いたら膝から崩れ落ちてしまうような裏側を暴露しながら、天音改めエンジェラインは俺に向かってファイティングポーズを取る。
「私を騙した罪は重いわよ。今のうちに土下座して謝るなら、半殺しくらいで許してあげるけど?」
「許してもらう必要はないさ。もうとっくに勝負はついてるからな」
「はぁっ? 何を言って……。キャアッ!?」
俺の言葉とともに、近くで待機していたマイティベルがエンジェラインの背後に現れる。
完全に意識の外から加えられた一撃に対応することができず、彼女の意識は一瞬で刈り取られてしまった。
「意識を失う瞬間まで俺を睨んでいたのは、さすが気の強いだけはあるな」
地面に倒れたエンジェラインを眺めながら、俺はそう言って笑うのだった。
「あはは、すいません。テレビで見るより何倍も可愛いから、つい見惚れちゃって」
これは本当のことだ。
実際に彼女と会って話して、彼女の笑顔が俺に対して向けられていると考えると、なんだか特別な存在になったような感情を覚える。
もちろんそれはただの錯覚で、彼女にとって俺なんて掃いて捨てるほどいるファンのうちの一人に過ぎないんだろうけど、それでも今この瞬間だけは彼女の笑顔は俺だけのものだ。
もしもこれが全て計算されているのだとしたら、彼女は俺の想像よりもずっと頭が良いのかもしれない。
まぁ、本当にそうだとしたらSNSに堂々と個人情報なんて乗せないだろうけど。
「ところで、エンジェラインさんって時間は大丈夫ですか? もしかして、忙しかったんじゃ……」
「いえ、大丈夫ですよ。今はプライベートなので。だから、私のことはエンジェラインじゃなくって天音って呼んでください。正体は秘密なんです」
口元に指を置いてシーッと小さく声を漏らしながら、天音はそう言って微笑む。
なんどもあざとい仕草だけど、それでも男心はグッと掴まれてしまうだろう。
「ああ、分かりました。それじゃあ、天音さんって呼びますね」
「はい、そうしてください!」
彼女に合わせるように微笑むと、天音も楽しそうに笑って頷く。
そうすると秘密を共有している気分になって、俺と彼女の距離がぐっと縮まったように感じる。
……やっぱり彼女は、こうやって人の心を掴む才能を持っているとしか考えられない。
裏の顔を知っている俺でさえ、彼女に心を奪われていてもおかしくないだろう。
それくらい、彼女の対応は神がかっているのだ。
そんな神対応に心の中で感心しながら、俺は彼女を誘い出すためにゆっくりと会話を誘導していく。
「ところで天音さん。もしもこれから用事がないんだったら、少し付き合ってもらえませんか? 実はこの先に女の子たちの間で話題になりかかってるって店があるらしくて。ちょっと興味あるんですけど、男一人だと入りにくくて。もしよければ一緒に行ってほしいんですけど」
「えぇ、どうしましょう……。いくらなんでも、初対面の男の子とデートだなんて」
「いや、デートとかそんなんじゃないですよ! だけど、迷惑だったら諦めます」
さすがに今日会ったばかりでいきなり連れ出すのは無理があっただろうか。
まぁ、最初からうまくいくとは思っていなかったし気長に計画を進めていこう。
俺が次の作戦について思考を巡らせていると、目の前で考え込むような仕草をしていた天音がニッコリと笑う。
「じゃあ、あなたの奢りだったら良いですよ。どんなお店か知らないですけど、私も興味はありますし」
「えっ!? いいんですか? やった!」
こんな雑な作戦がまさか成功するなんて、本当にこの子の危機管理はどうなっているのだろうか。
罠にはめている側のはずなのに、なんだか少し心配になってくる。
まぁ、もし一般人が彼女に襲い掛かったとしても、変身されたら勝ち目なんてないだろうけどな。
きっと彼女の危機感が薄いのも、そこらの男になんて絶対に負けないという自信の表れなのだろう。
ともかく成功したからには、最初のプラン通りに作戦を進めていこう。
「それじゃ、行きましょう。案内しますよ」
先導するように人混みに向かって歩き始めると、天音もそんな俺から少し距離を取ってついてくる。
あまり近寄って歩くと周りの人に誤解されるからだろうけど、危機感がないくせにそんなところだけは頭の回る彼女に思わず笑みがこぼれる。
そうやって歩いている間もすれ違う人たちの何人かは天音の姿に気付いたのか、チラチラとこちらに視線を向けてくる。
同時に俺にも不審そうな視線が向けられるけど、そんなものはお構いなしに歩みを進めていく。
そうやってしばらく歩いていると、だんだんと人通りが少なくなっていく。
「あの、本当にこんな所に人気のお店があるんですか?」
「もちろん。ちょっと隠れ家的なお店らしくって、分かりにくい所にあるみたいなんだ」
もちろん、そんなものは嘘に決まっている。
こんな所に人気の店なんてないし、なんなら人気の店があると言うのも彼女を誘い出すための罠だ。
まんまと罠にはまった彼女を連れてやってきたのは、人気のない袋小路だった。
「着いたよ。ここが目的地だ」
「えっと……。お店なんてどこにも見当たらないだけど、これはいったいどういうこと?」
ここに至ってやっと自分が騙されたことに気付いたらしい彼女は、さっきまでとは打って変わって厳しい口調で俺を睨みつける。
どうやら、もう猫を被るのは止めたみたいだ。
高圧的な態度で俺を睨みつける天音を見ていると、なんだか背筋にゾクゾクとしたものが駆け巡る。
これからこの子を俺のものにするのだと思うと、興奮が抑えきれない。
「なにをニヤニヤしてるの? 気持ち悪いんだけど」
軽蔑するような視線と口調で吐き捨てると、彼女はサッと胸元に手を当てる。
それと同時に彼女の身体を眩い光が包み、一瞬で変身したエンジェラインが俺の目の前に現れた。
「あれ? いつもみたいに変身ポーズとかはないのか? 『悪を滅ぼす天使降臨っ!』てやつ。せっかく生で見られると思って期待したのに」
「はぁ? あんなの、ファン向けのパフォーマンスに決まってるでしょ。ここには私とあなたしかいないんだから、わざわざそんなサービスしてあげる義理もないし」
世の中のファンが聞いたら膝から崩れ落ちてしまうような裏側を暴露しながら、天音改めエンジェラインは俺に向かってファイティングポーズを取る。
「私を騙した罪は重いわよ。今のうちに土下座して謝るなら、半殺しくらいで許してあげるけど?」
「許してもらう必要はないさ。もうとっくに勝負はついてるからな」
「はぁっ? 何を言って……。キャアッ!?」
俺の言葉とともに、近くで待機していたマイティベルがエンジェラインの背後に現れる。
完全に意識の外から加えられた一撃に対応することができず、彼女の意識は一瞬で刈り取られてしまった。
「意識を失う瞬間まで俺を睨んでいたのは、さすが気の強いだけはあるな」
地面に倒れたエンジェラインを眺めながら、俺はそう言って笑うのだった。
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