悪の怪人になったのでヒロインを堕とすことにしました

樋川カイト

文字の大きさ
上 下
49 / 76

<49>

しおりを挟む
「もしかして、まだ緊張してるんですか? そんなに身構えられちゃうと、私まで緊張しちゃいますよ」
「あはは、すいません。テレビで見るより何倍も可愛いから、つい見惚れちゃって」
 これは本当のことだ。
 実際に彼女と会って話して、彼女の笑顔が俺に対して向けられていると考えると、なんだか特別な存在になったような感情を覚える。
 もちろんそれはただの錯覚で、彼女にとって俺なんて掃いて捨てるほどいるファンのうちの一人に過ぎないんだろうけど、それでも今この瞬間だけは彼女の笑顔は俺だけのものだ。
 もしもこれが全て計算されているのだとしたら、彼女は俺の想像よりもずっと頭が良いのかもしれない。
 まぁ、本当にそうだとしたらSNSに堂々と個人情報なんて乗せないだろうけど。
「ところで、エンジェラインさんって時間は大丈夫ですか? もしかして、忙しかったんじゃ……」
「いえ、大丈夫ですよ。今はプライベートなので。だから、私のことはエンジェラインじゃなくって天音って呼んでください。正体は秘密なんです」
 口元に指を置いてシーッと小さく声を漏らしながら、天音はそう言って微笑む。
 なんどもあざとい仕草だけど、それでも男心はグッと掴まれてしまうだろう。
「ああ、分かりました。それじゃあ、天音さんって呼びますね」
「はい、そうしてください!」
 彼女に合わせるように微笑むと、天音も楽しそうに笑って頷く。
 そうすると秘密を共有している気分になって、俺と彼女の距離がぐっと縮まったように感じる。
 ……やっぱり彼女は、こうやって人の心を掴む才能を持っているとしか考えられない。
 裏の顔を知っている俺でさえ、彼女に心を奪われていてもおかしくないだろう。
 それくらい、彼女の対応は神がかっているのだ。
 そんな神対応に心の中で感心しながら、俺は彼女を誘い出すためにゆっくりと会話を誘導していく。
「ところで天音さん。もしもこれから用事がないんだったら、少し付き合ってもらえませんか? 実はこの先に女の子たちの間で話題になりかかってるって店があるらしくて。ちょっと興味あるんですけど、男一人だと入りにくくて。もしよければ一緒に行ってほしいんですけど」
「えぇ、どうしましょう……。いくらなんでも、初対面の男の子とデートだなんて」
「いや、デートとかそんなんじゃないですよ! だけど、迷惑だったら諦めます」
 さすがに今日会ったばかりでいきなり連れ出すのは無理があっただろうか。
 まぁ、最初からうまくいくとは思っていなかったし気長に計画を進めていこう。
 俺が次の作戦について思考を巡らせていると、目の前で考え込むような仕草をしていた天音がニッコリと笑う。
「じゃあ、あなたの奢りだったら良いですよ。どんなお店か知らないですけど、私も興味はありますし」
「えっ!? いいんですか? やった!」
 こんな雑な作戦がまさか成功するなんて、本当にこの子の危機管理はどうなっているのだろうか。
 罠にはめている側のはずなのに、なんだか少し心配になってくる。
 まぁ、もし一般人が彼女に襲い掛かったとしても、変身されたら勝ち目なんてないだろうけどな。
 きっと彼女の危機感が薄いのも、そこらの男になんて絶対に負けないという自信の表れなのだろう。
 ともかく成功したからには、最初のプラン通りに作戦を進めていこう。
「それじゃ、行きましょう。案内しますよ」
 先導するように人混みに向かって歩き始めると、天音もそんな俺から少し距離を取ってついてくる。
 あまり近寄って歩くと周りの人に誤解されるからだろうけど、危機感がないくせにそんなところだけは頭の回る彼女に思わず笑みがこぼれる。
 そうやって歩いている間もすれ違う人たちの何人かは天音の姿に気付いたのか、チラチラとこちらに視線を向けてくる。
 同時に俺にも不審そうな視線が向けられるけど、そんなものはお構いなしに歩みを進めていく。
 そうやってしばらく歩いていると、だんだんと人通りが少なくなっていく。
「あの、本当にこんな所に人気のお店があるんですか?」
「もちろん。ちょっと隠れ家的なお店らしくって、分かりにくい所にあるみたいなんだ」
 もちろん、そんなものは嘘に決まっている。
 こんな所に人気の店なんてないし、なんなら人気の店があると言うのも彼女を誘い出すための罠だ。
 まんまと罠にはまった彼女を連れてやってきたのは、人気のない袋小路だった。
「着いたよ。ここが目的地だ」
「えっと……。お店なんてどこにも見当たらないだけど、これはいったいどういうこと?」
 ここに至ってやっと自分が騙されたことに気付いたらしい彼女は、さっきまでとは打って変わって厳しい口調で俺を睨みつける。
 どうやら、もう猫を被るのは止めたみたいだ。
 高圧的な態度で俺を睨みつける天音を見ていると、なんだか背筋にゾクゾクとしたものが駆け巡る。
 これからこの子を俺のものにするのだと思うと、興奮が抑えきれない。
「なにをニヤニヤしてるの? 気持ち悪いんだけど」
 軽蔑するような視線と口調で吐き捨てると、彼女はサッと胸元に手を当てる。
 それと同時に彼女の身体を眩い光が包み、一瞬で変身したエンジェラインが俺の目の前に現れた。
「あれ? いつもみたいに変身ポーズとかはないのか? 『悪を滅ぼす天使降臨っ!』てやつ。せっかく生で見られると思って期待したのに」
「はぁ? あんなの、ファン向けのパフォーマンスに決まってるでしょ。ここには私とあなたしかいないんだから、わざわざそんなサービスしてあげる義理もないし」
 世の中のファンが聞いたら膝から崩れ落ちてしまうような裏側を暴露しながら、天音改めエンジェラインは俺に向かってファイティングポーズを取る。
「私を騙した罪は重いわよ。今のうちに土下座して謝るなら、半殺しくらいで許してあげるけど?」
「許してもらう必要はないさ。もうとっくに勝負はついてるからな」
「はぁっ? 何を言って……。キャアッ!?」
 俺の言葉とともに、近くで待機していたマイティベルがエンジェラインの背後に現れる。
 完全に意識の外から加えられた一撃に対応することができず、彼女の意識は一瞬で刈り取られてしまった。
「意識を失う瞬間まで俺を睨んでいたのは、さすが気の強いだけはあるな」
 地面に倒れたエンジェラインを眺めながら、俺はそう言って笑うのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...