悪の怪人になったのでヒロインを堕とすことにしました

樋川カイト

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 とある繁華街。
 本来ならば平和な喧騒に包まれているはずのそこに、いたる所から悲鳴や怒声が響き渡っていた。
 突如現れたラウンズの戦闘員によって街は破壊され、逃げ遅れた人々の中には恐怖で腰を抜かしている者まで居た。
「待ちなさい!」
 そんな彼らの前に、颯爽と降り立つ。
 純白の衣装をたなびかせながら戦闘員たちの前に現れた私――ロイヤルフォーチュンを見て、戦闘員は恐怖に顔を歪ませる。
 どうやら彼らは、私のことを知っているみたいだ。
 それがいったいどのような認識なのかは分からないけど、少なくとも私の強さは彼らにとって恐怖の対象になっているのは確実だ。
 戦闘員たちにゆっくりと動揺が広がり始め、さっきまで好き勝手暴れていた彼らの動きは見事に止まってしまう。
「どうした、お前ら。小娘一人にそんな伸び得るなんて情けないぞ!」
 突然響いた声に、戦闘員だけでなく私も驚いて顔を上げる。
 三階建てのビルの屋上に、声の主は居た。
 軍服のようなものに黒い外套をなびかせたその男は、仮面で隠した顔で高らかと語る。
「初めまして、ロイヤルフォーチュン。お会いできて光栄だ」
 芝居がかった鼻につくそんなセリフに、私は思わず眉をひそめてしまう。
「あなたは、いったい何者なの?」
「俺が何者なのかなんて、そんなことは些細な問題だ。それよりも、今は自分の身を心配した方がいいんじゃないか?」
 言われて視線を戻すと、さっきまで戦意を失っていた戦闘員たちが私に敵意を向けていた。
 いったいどんな魔法を使ったのか、彼らには再び士気がみなぎっている。
 だが、たかがそれだけだ。
「ふふ、戦闘員が何人集まろうと、それで私が倒せるとでも思っているのかしら? だとしたら、あまり私を舐めないでほしいわね」
「それはどうかな? あいにくと俺は、勝てない戦いはしない主義なんだ。……やれ」
 男──アインの号令で、戦闘員たちはいっせいに動き始める。
 あらゆる角度から突進してくる戦闘員を軽くいなしながら、私はいつものように魔法を唱える。
 瞬間、現れた光の球に飲まれて戦闘員の数人が消滅した。
「怯むな、戦い続けろ!」
 一瞬足が止まりそうになる戦闘員だが、それでもまた私に向かって走り出す。
 まったく統率の取れていない自殺行為ともいえる戦い方にため息を吐きながら、私はひたすら光を操っていく。
「ほら、そんな程度では私に触れることもできないですよ。いい加減、諦めたらいかがですか?」
 やがて戦闘員の半分ほどが消え、私を包囲する人の群れもだいぶ薄くなってきた。
 このまま戦い続ければ、全員を倒しきってしまうのも時間の問題だろう。
 しかしそれでも、アインの顔から余裕の笑みは消えない。
「いい加減、あなたもおりてきてはいかがですか? 味方がやられるのを高みの見物なんて、趣味が悪いですよ」
「そうだな。そろそろ終わりの時間だろう」
 彼がそう呟いた次の瞬間、私の身体に異変が起こった。
「なに、これ……!?」
 身体が、熱い。
 まるで内側から燃えるように身体中に熱を感じて、私は思わず胸元を押さえてしまう。
 それと同時に全身の肌が粟立ち、衣装の触れた場所がありえないほどくすぐったく感じる。
「どうした? ひどく辛そうだが、なにかあったのか?」
 ニヤニヤと笑いながら話しかけてくるアインをキッと睨むと、気を抜けばうずくまってしまいそうな身体を奮い立たせる。
「いったい、何をしたの!?」
「おいおい、俺はまだ何もしていないだろう。ただお前が、急に悶え始めただけだ」
 悠然と歩み寄ってくるアインに向けて魔法を唱えようとしても、小刻みに震える身体は言うことを聞かない。
 満足に詠唱もできないでいると、やがて彼は私の目の前まで近寄ってきた。
 その時、不意に嗅ぎなれた匂いが鼻孔をくすぐる。
「これ……。んひゃあっ!?」
 その匂いに一瞬だけ気を取られていると、いきなり電撃が走ったかのような快感が身体を貫く。
 胸を揉まれたのだと気が付いた時には、私の身体は彼によって押さえつけられていた。
「やっ、離して! んっ、んんぅううっ!!」
 ただ胸を揉まれているだけで全身が快感に震え、両足からは力が抜けていく。
 ガクガクと震える膝を必死に奮い立てながらアインを睨むと、ニヤついた表情の彼と目が合う。
「どうした? いつもみたいに華麗に戦えばいいじゃないか。お前の魔法なら、俺なんて一瞬で消滅させられるだろう」
 まるで挑発するようなその言葉に、私の頭にカッと血が上る。
 怒りに任せてなけなしの魔力で生み出した光の球をアインに向けて放つが、しかしそれはその手前で力なく消えてしまった。
「どうやら、もう魔法を使う力もないみたいだな。まったく、情けない」
「くっ……! どうして……?」
 いったい私は、何をされたんだろうか?
 少し調子が悪かったとはいえ、それだけでこんなに弱ってしまうなんて考えられない。
 きっと、なにかカラクリがあるはずだ。
 それを探るためにも、今は与えられる恥辱に耐えるしかない。
 そう決意した瞬間、私はいきなり唇を奪われた。
 最愛の彼にしか許したことのない唇を、憎むべき敵に奪われた。
 その事実が私の心を傷つけ、胸が締め付けられるように痛い。
 押し返そうともがいてみても、力の入らない身体ではそれも難しかった。
 唇を割り開かれ、舌を絡められ、まるで口の中を蹂躙されるように乱暴なキスをされる。
 そうするとなんだか頭がボーっとしてきて、思考に靄がかかったようになる。
 私は、このキスを知っている。
 嫌なはずなのに、なぜか身体は求めるように動き、気が付くと私は自分から舌を絡めていた。
「んっ、ちゅっ…。ちゅうぅっ……。ぷあぁ……」
 口元が唾液まみれになるほどキスをすると、ついに私は膝から崩れ落ちてしまった。
「おいおい、キスだけでそんなになってしまったのか? まったく、イヤらしい女だ」
 座り込んだ私に嘲るような視線を浴びせたアインは、いつの間にか取り出したナイフで私の衣装を切り裂いていく。
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