悪の怪人になったのでヒロインを堕とすことにしました

樋川カイト

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「これ、本当に大丈夫なのか?」
 叫び声を上げながら暴れる舞歌を眺めながら、俺は呆然と呟く。
「ご安心ください。理論上、この拘束はマイティベルのフルパワーでも壊れない設計になっております」
「いや、俺が心配しているのはそっちじゃないんだが」
 しかし今の状況を見れば、確かにそれも心配になってくる。
 暴れる彼女の身体に合わせて、固定された金具がガチャガチャと音を立てる。
 それくらい激しく暴れていた彼女の身体が、不意に大きく震えたと同時に大人しくなる。
「おいっ! これはどうなってんだ?」
 まさか、死んでしまったんじゃないだろうか。
 慌てて駆け寄り脈を確認すると、確かに感じられる。
 良く見るとちゃんと呼吸もしていて、どうやら命に別状はないみたいだ。
「ご安心ください。それは侵食が第二段階に至ったことによる一時的な昏睡状態です。数分で意識を取り戻すはずですから」
「本当か? ……良かった」
 せっかく手に入れたのに、こんなに早く別れることになるなんて冗談じゃない。
 俺の所有物になったからには、俺の許可なく死ぬことすら許さない。
「立派な心掛けです。さすがアイン様」
 まるで全てを見透かすように声をかけてくる女が、何となく癪に障る。
 思わず睨みつけてしまっても女はまるで動じる様子もなく、ただ黙ってそこに立っているだけだ。
 本当に、この女が何を考えているのかが全く分からない。
 もしかしたら、何も考えていないのかもしれない。
 そんな掴みどころのない女を眺めていると、やがて舞歌が微かな声を上げる。
「ん、うぅ……」
「どうやら、目を覚ましたようだな」
 意識を取り戻した舞歌に視線を戻すと、さっきまでとは明確な違いが感じ取れる。
 今にも射殺されそうなほどの敵意を放っていた視線は鳴りを潜め、代わりに今の彼女からは深い敬愛のようなものを感じる気がする。
「気分はどうだ?」
「……ふふっ、最高です」
 今まで見たこともないほど妖艶な舞歌の笑顔を見て、俺の背筋にゾクゾクとした期待が走る。
 ついに、彼女は完全に俺の物になった。
 その実感で無意識のうちに笑みがこぼれ、これからのことを考えるとわくわくが止まらない。
 そんな風に喜びを噛みしめている俺の代わりに、いつの間にか女が舞歌の拘束を外していた。
 自由になった舞歌は身体の調子を確かめるように軽くストレッチをした後で、まっすぐ俺に向き直る。
 そして俺がその視線に気づくと同時に、彼女は俺の前に跪いた。
 まるでそうするのが当然だというように、彼女の動きには一切の無駄がない。
 そんな彼女を見下ろしながら、俺はゆっくりと口を開く。
「今日からお前は、俺だけのヒロインだ。忠誠を誓うか?」
「はい、誓います」
 その言葉とともに、舞歌にさらなる変化が起こる。
 彼女の胸元が微かに発行すると、そこには見たことのないようなマークが浮かび上がった。
 歪なハートマークのようなそれはすぐに薄くなり目立たなくなるが、俺にはその存在がはっきりと分かった。
「今のはなんだ?」
「おそらく、アイン様に対する忠誠の証ではないかと」
 俺の問いに女が答え、舞歌もそれを肯定するように頷く。
 なるほど。
 なんだか、舞歌の身体にマーキングしたみたいで少し興奮する。
「とりあえず、これで全て終わりだ。舞歌も、疲れただろうし今日はもう帰れ。それと、敬語は使わなくていい」
「はい。……じゃなくて、うん。それじゃ、また明日からよろしくね」
 微笑みながら答えた舞歌は、そのまま女に連れられて部屋を出ていく。
 しばらくして一人で帰ってきた女は、俺の目の前で小さく頭を下げる。
「マイティベル様は一般職員に送らせました。それと、少しお時間はよろしいでしょうか?」
「ああ、大丈夫だ。俺もお前に聞きたいことがあるしな」
 いい加減、この女の名前を知っておきたい。
 今までは「おい」や「お前」なんかで済ませてきたけど、これからもこうやって接していくんだとしたら不便で仕方ない。
 だから俺は、女が話を切り出す前にまずは名前を尋ねることにした。
「私の名前ですか? ああ、そういえば名乗っておりませんでした。クレビスとお呼びください」
 女――クレビスはそう言って恭しく頭を下げる。
「では、こちらからもお話をよろしいでしょうか?」
「ああ、話を遮って悪かった。で、どんな内容なんだ?」
 促すと、クレビスはさっきの舞歌と同じように俺の目の前に跪いた。
「えっ? 急にどうしたんだ?」
「サトリ様から、本日よりアイン様の部下として働くようにと命を受けました。ですので、この場でアイン様に忠誠を誓わせていただきたいのです」
「それは別に構わないけど、だけどどうして急に?」
 今までだってクレビスは色々と手伝ってくれていた。
 サトリの命令だったとはいえ、それでなんの不自由もしていなかったはずだ。
 それが急に、今後は俺の部下になるなんて言われても戸惑ってしまう。
「アイン様は、見事ヒロインを手中に収めました。その功績を評価されたサトリ様による采配だと思われます」
「……つまり、手柄を上げたご褒美に君を貰えたってわけだ」
 言葉にしてから言い方がまずかったかと危惧したけど、クレビスは気にした様子もなく頷いた。
「その認識で間違いございません。私の全ては、今この瞬間から全てアイン様の所有となります」
 全て……。
 その言葉に、俺の中の欲望が小さく頭をもたげる。
「どんな命令をしてもいいのか?」
「はい。もちろんでございます」
 立ち上がったクレビスが力強く肯定し、それを聞いて俺の興奮はさらに高まっていく。
「だったら、まずは最初の命令だ。……服を脱げ」
 その命令を聞いて、クレビスの肩がピクッと震える。
「どうした? どんな命令でも聞いてくれるんだろう」
「……かしこまりました」
 少し試すように言えば、クレビスはそう言って頷く。
 そして彼女は、少し震える手で自分の服にゆっくりと手を掛ける。
 そんな彼女の姿を見て、俺の口角は無意識のうちに引き上げられていくのだった。
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