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目を覚ますと、視界に映ったのは知らない天井だった。
思わずアニメの主人公のようなことを呟きそうになるのをグッと堪えて、まずは状況を確認するために身体に力を込める。
だけどいくら力を入れても、俺の身体はピクリとも動かせない。
驚いて視線を向けると、どうやら何か器具のようなもので拘束されているようだ。
必死になって拘束から逃れようと暴れても、ただ静かな部屋にガチャガチャと金属の擦れる音が響くだけ。
しばらくそうやって暴れ続けたものの、ただの一般人である俺がそんなに簡単に拘束を抜け出せるはずがなかった。
諦めて何とか動かせる首を回して部屋の中を見渡してみても、これといって状況を察知するヒントになるようなものもない。
これは、いよいよ訳が分からなくなったぞ。
とりあえず今の段階で分かっていることといえば、俺は誰かに拉致されてしまったということだけだ。
誰かといっても、たぶんさっきの女たちに決まっているんだけど。
と言うか、それ以外に心当たりなんて全くない。
「だけど俺なんて攫って、いったいどうするつもりなんだよ……」
美少女でもなければ資産家の息子でもないただの一般人な俺なんて、誘拐しても何の価値もない。
せいぜい身代金としてはした金を引き出せるくらいだろう。
それだって、リスクを考えればとても普通の思考回路を持った奴のすることではない。
あまりの出来事に人ごとのように思考を巡らせていると、部屋の扉がかすかな音を立てて開いた。
「目が覚めたみたいね。おはよう、秋野一郎くん」
そしてそこから現れたのは、間違いなくさっき街中で声を掛けてきた女だった。
さらにその後ろからは部下らしき男たちがぞろぞろと入ってきて、彼らは一目散に部屋の四方に置かれた機械へと向かっていく。
その男たちの表情からは一切感情というものが感じられず、俺の背筋にはうすら寒いものが走る。
「ここ、どこだ? どうして俺をこんな所に連れてきたんだよ?」
「あら、もうそんな口が利けるくらい元気になってるのね。さすが優良遺伝子の持ち主は違うわ」
語気を強めて女に話しかけても、彼女は動じた様子もなくクスクスと笑う。
なんだか馬鹿にされたようで腹が立つけど、ここで相手を刺激するのはあまり得策ではないだろう。
「いったい何を言ってんだ? いったいここはどこなんだよ? どうして俺を誘拐したんだ?」
とりあえず少しでも情報を引き出すために、俺はもう一度同じ質問をする。
「いっぺんに聞かないの。ちゃんと説明してあげるから」
相変わらず笑みを崩さない女は、しかし今度は俺の質問に答える気になったようだ。
ゆっくりと近くまで寄ってきた女は、俺の拘束されているベッドに腰掛けて全身を眺めてくる。
「本当に良い素材してるわ。これなら、今までとは一味違うモノができそう」
呟きとともに向けられた視線はまるで実験動物を見るような感じで、思わず俺の背筋に冷たいものが走る。
「あぁ、ごめんなさい。つい癖がでちゃったわ。……それじゃ、そろそろ質問に答えてあげる」
俺の怯えにめざとく気付いた女は、そう言いながら優しく俺の頭を撫でる。
そうされるとちょっとドキドキしてしまう自分が嫌になる。
「ここはラウンズの前線基地のひとつ、山の奥に隠された私の研究所よ」
「ラウンズ? ラウンズが俺を誘拐したのか!?」
「うん、正解。ちなみに、どうしてあなたがここに連れてこられたかは分かるかしら?」
そんなの、分かるはずがない。
もちろん女もそれは分かっていたみたいで、俺の答えを待つこともなく言葉を続ける。
「あなたがここに連れてこられた理由はね、あなたが優良遺伝子の持ち主だからよ」
「優良、遺伝子?」
「そう。あなたの遺伝子は、百万人に一人とも言える稀有な性質を持っているの。そしてそれは、私たちラウンズの創り出した怪人細胞と呼ばれるものに強く適合するのよ」
説明されても、全く理解できない。
そもそも俺がその優良遺伝子の持ち主だとして、どうしてこの女がそれを知っているのだろうか。
「それは企業秘密。一つ言えるのは、私たちラウンズに水面下で協力している組織は結構あるってことよ。……さて、そろそろ準備ができたかしら?」
女のその声に応えるように、ベッドの脇からアームのようなものが姿を現した。
「今からあなたに怪人細胞を注入するわ。これにちゃんと適合できれば、怪人として私たちラウンズの仲間入り。適合できなかったら、戦闘員としてラウンズの仲間入りよ」
「それって、どっちにしても俺に逃げ場がないじゃないか!?」
「最初から逃げられるなんて思ってなかったでしょ。覚悟を決めて受け入れれば、早く楽になれるわよ」
そうやって話している間にも装置は着々と準備を進めていき、ついに俺の腕に注射針のようなものが刺されてしまう。
「いってぇ!」
「ほら、男の子なんだから我慢しなさい。本当に辛いのはここからなんだから」
その言葉通り、何かが注入されているような不快な感覚とともに身体中に激痛が走る。
まるで細胞が作り替えられているような痛みに声も出せず、俺は固定された身体を震わせながらのたうち回るしかない。
「ふふ、良い反応。これなら優秀な怪人になれるんじゃないかしら」
苦しむ俺を眺めながら笑う女の声を最期に、俺の意識は痛みの中に消えてしまった。
思わずアニメの主人公のようなことを呟きそうになるのをグッと堪えて、まずは状況を確認するために身体に力を込める。
だけどいくら力を入れても、俺の身体はピクリとも動かせない。
驚いて視線を向けると、どうやら何か器具のようなもので拘束されているようだ。
必死になって拘束から逃れようと暴れても、ただ静かな部屋にガチャガチャと金属の擦れる音が響くだけ。
しばらくそうやって暴れ続けたものの、ただの一般人である俺がそんなに簡単に拘束を抜け出せるはずがなかった。
諦めて何とか動かせる首を回して部屋の中を見渡してみても、これといって状況を察知するヒントになるようなものもない。
これは、いよいよ訳が分からなくなったぞ。
とりあえず今の段階で分かっていることといえば、俺は誰かに拉致されてしまったということだけだ。
誰かといっても、たぶんさっきの女たちに決まっているんだけど。
と言うか、それ以外に心当たりなんて全くない。
「だけど俺なんて攫って、いったいどうするつもりなんだよ……」
美少女でもなければ資産家の息子でもないただの一般人な俺なんて、誘拐しても何の価値もない。
せいぜい身代金としてはした金を引き出せるくらいだろう。
それだって、リスクを考えればとても普通の思考回路を持った奴のすることではない。
あまりの出来事に人ごとのように思考を巡らせていると、部屋の扉がかすかな音を立てて開いた。
「目が覚めたみたいね。おはよう、秋野一郎くん」
そしてそこから現れたのは、間違いなくさっき街中で声を掛けてきた女だった。
さらにその後ろからは部下らしき男たちがぞろぞろと入ってきて、彼らは一目散に部屋の四方に置かれた機械へと向かっていく。
その男たちの表情からは一切感情というものが感じられず、俺の背筋にはうすら寒いものが走る。
「ここ、どこだ? どうして俺をこんな所に連れてきたんだよ?」
「あら、もうそんな口が利けるくらい元気になってるのね。さすが優良遺伝子の持ち主は違うわ」
語気を強めて女に話しかけても、彼女は動じた様子もなくクスクスと笑う。
なんだか馬鹿にされたようで腹が立つけど、ここで相手を刺激するのはあまり得策ではないだろう。
「いったい何を言ってんだ? いったいここはどこなんだよ? どうして俺を誘拐したんだ?」
とりあえず少しでも情報を引き出すために、俺はもう一度同じ質問をする。
「いっぺんに聞かないの。ちゃんと説明してあげるから」
相変わらず笑みを崩さない女は、しかし今度は俺の質問に答える気になったようだ。
ゆっくりと近くまで寄ってきた女は、俺の拘束されているベッドに腰掛けて全身を眺めてくる。
「本当に良い素材してるわ。これなら、今までとは一味違うモノができそう」
呟きとともに向けられた視線はまるで実験動物を見るような感じで、思わず俺の背筋に冷たいものが走る。
「あぁ、ごめんなさい。つい癖がでちゃったわ。……それじゃ、そろそろ質問に答えてあげる」
俺の怯えにめざとく気付いた女は、そう言いながら優しく俺の頭を撫でる。
そうされるとちょっとドキドキしてしまう自分が嫌になる。
「ここはラウンズの前線基地のひとつ、山の奥に隠された私の研究所よ」
「ラウンズ? ラウンズが俺を誘拐したのか!?」
「うん、正解。ちなみに、どうしてあなたがここに連れてこられたかは分かるかしら?」
そんなの、分かるはずがない。
もちろん女もそれは分かっていたみたいで、俺の答えを待つこともなく言葉を続ける。
「あなたがここに連れてこられた理由はね、あなたが優良遺伝子の持ち主だからよ」
「優良、遺伝子?」
「そう。あなたの遺伝子は、百万人に一人とも言える稀有な性質を持っているの。そしてそれは、私たちラウンズの創り出した怪人細胞と呼ばれるものに強く適合するのよ」
説明されても、全く理解できない。
そもそも俺がその優良遺伝子の持ち主だとして、どうしてこの女がそれを知っているのだろうか。
「それは企業秘密。一つ言えるのは、私たちラウンズに水面下で協力している組織は結構あるってことよ。……さて、そろそろ準備ができたかしら?」
女のその声に応えるように、ベッドの脇からアームのようなものが姿を現した。
「今からあなたに怪人細胞を注入するわ。これにちゃんと適合できれば、怪人として私たちラウンズの仲間入り。適合できなかったら、戦闘員としてラウンズの仲間入りよ」
「それって、どっちにしても俺に逃げ場がないじゃないか!?」
「最初から逃げられるなんて思ってなかったでしょ。覚悟を決めて受け入れれば、早く楽になれるわよ」
そうやって話している間にも装置は着々と準備を進めていき、ついに俺の腕に注射針のようなものが刺されてしまう。
「いってぇ!」
「ほら、男の子なんだから我慢しなさい。本当に辛いのはここからなんだから」
その言葉通り、何かが注入されているような不快な感覚とともに身体中に激痛が走る。
まるで細胞が作り替えられているような痛みに声も出せず、俺は固定された身体を震わせながらのたうち回るしかない。
「ふふ、良い反応。これなら優秀な怪人になれるんじゃないかしら」
苦しむ俺を眺めながら笑う女の声を最期に、俺の意識は痛みの中に消えてしまった。
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