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第52話
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「だけど、どうしてそんなことになってるんだ? イグリッサ商会、なんの目的があってリーリアの工房に対してそんな嫌がらせみたいな行為を?」
どう考えても、理由が見えてこない。
金を貸した後で無理な取り立てをしてリーリアを脅し続け、その金を返す手段である工房の商売までわざわざ先回りして潰そうとする。
工房の経営が立ちいかなくなって困るのは、むしろ奴らの方じゃないのか?
「いや、もしかして最初からそれが目的で……?」
そこまで考えて思い至ったひとつの可能性に、俺は思わず表情を曇らせてしまった。
そんな様子を不思議そうに眺めてくるテッドに対して、俺はある質問を投げかける。
「なぁ、ちょっと聞きたいんだけど。リーリアの借金は親父さんから引き継いだものなんだよな? 親父さんは、どんな理由で返せないほどの借金を作ったんだ?」
俺の質問に一瞬だけ驚いた表情を浮かべたテッドは、やがてその表情を渋いものへと変えていく。
「なんだ、いきなり。……なんでそんなことをわざわざ知りたがるんだよ」
「話したくないのは分かるけど、教えてくれ。それが分かれば、もしかしたらリーリアが攫われた理由も分かるかもしれないんだ」
「はぁ? それとこれとどういう関係が……。はぁ……、分かったよ」
最初は言い渋っていたテッドだったけど、俺のただならぬ様子にやがて諦めたようにため息を吐く。
そのまま腕を組んで不機嫌そうな表情を浮かべながら、テッドは昔を思い出すように重い口を開いた。
「何年か前、まだリーリアの親父が工房を切り盛りしていた頃だ。あの時は弟子や従業員が山ほど居て、ファドロ工房はこの街でも一、二を争う立派な工房だった。特にアイツの作る武器は安いうえに性能も良いってんで、店に並べりゃ飛ぶように売れたもんだ」
まるで当時の光景が目に浮かんでいるように口元に笑みを浮かべたテッドだったけど、すぐにその表情は暗く沈んでいく。
「そんな時だ。弟子の一人が独立するって言うんで、どっかから金を借りたいなんて言い出した。そんで、その借金の保証人になって欲しいって頭を下げてきたらしい」
そんなテッドの言葉を聞いて、俺は思わず胸を締め付けられるような気分になってしまった。
まさか、そんなことってあるのか……?
思わず表情を引き攣らせる俺に構うことなく、テッドの話はさらに続いていく。
「もちろん、その話を聞いた俺や他のダチは止めたよ。自分で店を建てる金もねぇ奴が独立するなんて、百年早いってな。怒鳴りつけて、金が貯まるまで必死になって働けって言い聞かせろって言ったんだが……」
「その忠告を、聞かなかったのか?」
「ああ。あいつはリーリアと同じで、頑固なところがあったからな。『大丈夫だって。何年も一緒に働いてくれたんだから、これくらいはやってやりたいんだ』って言うばっかりで。俺たちが何度も考え直すように言っても、考えは変わらなかった。最後には『あの子は借金を踏み倒して迷惑を掛けるような奴じゃない!』って大喧嘩さ。んで、最終的にあいつはそのまま借金の保証人になった。あとは、分かるだろ?」
テッドの言葉に、俺は小さく頷きを返す。
そんな俺を見て口元を歪めたテッドが、それでも最後まで話を続ける。
「その弟子が借金をして独立してからしばらくして、いきなりファドロ工房に取り立て屋が乗り込んできた。そいつらの話じゃ、借金をした弟子が工房を畳んで夜逃げしたらしいじゃねぇか。そんで、残った借金は当然のように保証人に降りかかる。ちゃんとした契約書がある以上、突っぱねるわけにもいかねぇ。晴れてファドロ工房は借金まみれ。リーリアの親父は、その借金を返すために働き続けてそのまま死んじまったって話だ。あとは知っての通り、よせばいいのにあの娘が工房と一緒に借金まで引き継いだ」
その話を全て聞いて、俺はリーリアの親父さんのことを他人だとは思えなくなってしまっていた。
それはまるで、俺の境遇を聞いているようだった。
これほど似た人生を送った彼の娘の前に俺が現れたのは、はたして偶然だったのだろうか?
まるで運命に導かれるようにして、俺は今ここに立っているんじゃないかと錯覚してしまうほどだ。
「それで、この話を聞いてどうだ? リーリアが攫われた理由、分かったのか?」
テッドにそう聞かれて、俺はハッと我に返る。
「あ、あぁ、そうだな。……ちなみになんだけど、リーリアが借金を継いだ後で借金取りの様子になにか変わったことはなかったか?」
「変わったこと? そう言えば、親父が死んでから取り立てが厳しくなったって聞いたことがあるな。それまでは、そこまで乱暴な取り立てはなかったらしいんだが……」
「なるほど、やっぱりな」
そこまで聞いて、俺は自分の考えが正しかったことを確信した。
そうやってひとり納得している俺を見て、テッドは首を傾げながら尋ねてくる。
「おい、やっぱりってどういうことだよ? ひとりで納得してないで、俺にもちゃんと説明しろ」
「分かってるよ。ただ、あくまでこれは俺の予想だぞ」
それだけ前置きをして、俺はここに居る全員の顔を見つめながら口を開く。
「たぶん、奴らは最初からリーリアが目的だったんだ」
どう考えても、理由が見えてこない。
金を貸した後で無理な取り立てをしてリーリアを脅し続け、その金を返す手段である工房の商売までわざわざ先回りして潰そうとする。
工房の経営が立ちいかなくなって困るのは、むしろ奴らの方じゃないのか?
「いや、もしかして最初からそれが目的で……?」
そこまで考えて思い至ったひとつの可能性に、俺は思わず表情を曇らせてしまった。
そんな様子を不思議そうに眺めてくるテッドに対して、俺はある質問を投げかける。
「なぁ、ちょっと聞きたいんだけど。リーリアの借金は親父さんから引き継いだものなんだよな? 親父さんは、どんな理由で返せないほどの借金を作ったんだ?」
俺の質問に一瞬だけ驚いた表情を浮かべたテッドは、やがてその表情を渋いものへと変えていく。
「なんだ、いきなり。……なんでそんなことをわざわざ知りたがるんだよ」
「話したくないのは分かるけど、教えてくれ。それが分かれば、もしかしたらリーリアが攫われた理由も分かるかもしれないんだ」
「はぁ? それとこれとどういう関係が……。はぁ……、分かったよ」
最初は言い渋っていたテッドだったけど、俺のただならぬ様子にやがて諦めたようにため息を吐く。
そのまま腕を組んで不機嫌そうな表情を浮かべながら、テッドは昔を思い出すように重い口を開いた。
「何年か前、まだリーリアの親父が工房を切り盛りしていた頃だ。あの時は弟子や従業員が山ほど居て、ファドロ工房はこの街でも一、二を争う立派な工房だった。特にアイツの作る武器は安いうえに性能も良いってんで、店に並べりゃ飛ぶように売れたもんだ」
まるで当時の光景が目に浮かんでいるように口元に笑みを浮かべたテッドだったけど、すぐにその表情は暗く沈んでいく。
「そんな時だ。弟子の一人が独立するって言うんで、どっかから金を借りたいなんて言い出した。そんで、その借金の保証人になって欲しいって頭を下げてきたらしい」
そんなテッドの言葉を聞いて、俺は思わず胸を締め付けられるような気分になってしまった。
まさか、そんなことってあるのか……?
思わず表情を引き攣らせる俺に構うことなく、テッドの話はさらに続いていく。
「もちろん、その話を聞いた俺や他のダチは止めたよ。自分で店を建てる金もねぇ奴が独立するなんて、百年早いってな。怒鳴りつけて、金が貯まるまで必死になって働けって言い聞かせろって言ったんだが……」
「その忠告を、聞かなかったのか?」
「ああ。あいつはリーリアと同じで、頑固なところがあったからな。『大丈夫だって。何年も一緒に働いてくれたんだから、これくらいはやってやりたいんだ』って言うばっかりで。俺たちが何度も考え直すように言っても、考えは変わらなかった。最後には『あの子は借金を踏み倒して迷惑を掛けるような奴じゃない!』って大喧嘩さ。んで、最終的にあいつはそのまま借金の保証人になった。あとは、分かるだろ?」
テッドの言葉に、俺は小さく頷きを返す。
そんな俺を見て口元を歪めたテッドが、それでも最後まで話を続ける。
「その弟子が借金をして独立してからしばらくして、いきなりファドロ工房に取り立て屋が乗り込んできた。そいつらの話じゃ、借金をした弟子が工房を畳んで夜逃げしたらしいじゃねぇか。そんで、残った借金は当然のように保証人に降りかかる。ちゃんとした契約書がある以上、突っぱねるわけにもいかねぇ。晴れてファドロ工房は借金まみれ。リーリアの親父は、その借金を返すために働き続けてそのまま死んじまったって話だ。あとは知っての通り、よせばいいのにあの娘が工房と一緒に借金まで引き継いだ」
その話を全て聞いて、俺はリーリアの親父さんのことを他人だとは思えなくなってしまっていた。
それはまるで、俺の境遇を聞いているようだった。
これほど似た人生を送った彼の娘の前に俺が現れたのは、はたして偶然だったのだろうか?
まるで運命に導かれるようにして、俺は今ここに立っているんじゃないかと錯覚してしまうほどだ。
「それで、この話を聞いてどうだ? リーリアが攫われた理由、分かったのか?」
テッドにそう聞かれて、俺はハッと我に返る。
「あ、あぁ、そうだな。……ちなみになんだけど、リーリアが借金を継いだ後で借金取りの様子になにか変わったことはなかったか?」
「変わったこと? そう言えば、親父が死んでから取り立てが厳しくなったって聞いたことがあるな。それまでは、そこまで乱暴な取り立てはなかったらしいんだが……」
「なるほど、やっぱりな」
そこまで聞いて、俺は自分の考えが正しかったことを確信した。
そうやってひとり納得している俺を見て、テッドは首を傾げながら尋ねてくる。
「おい、やっぱりってどういうことだよ? ひとりで納得してないで、俺にもちゃんと説明しろ」
「分かってるよ。ただ、あくまでこれは俺の予想だぞ」
それだけ前置きをして、俺はここに居る全員の顔を見つめながら口を開く。
「たぶん、奴らは最初からリーリアが目的だったんだ」
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