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第51話

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「あの、どうしてさっきのやり取りだけでリーリアさんが居ないって分かったんですか?」
 ひとりだけ理解できていないエステルに尋ねられ、俺はそんな彼の質問に応えるように口を開く。
「あの受付嬢、俺たちが押しかけてもかなり余裕そうだっただろ? 最後には衛兵を呼ぶとまで言い出したしな。調べられて困るようなものがあれば、わざわざ自分から衛兵を呼んだりしないだろ」
「確かに! この街の衛兵は優秀な方が多いですから、僕たちの訴えを聞いて建物の中を調べてくれるかも知れないですしね」
「そういうことだ。だから必然的にリーリアはこの建物に居ないってことになる。まぁまだ、絶対に見つからない特別な場所がある可能性もゼロじゃないけど。そんなのは考え出したらキリがないから無視することにしよう」
 俺の説明に納得した様子のエステルに頷いていると、黙って聞いていたイザベラが口を開いた。
「それで、これからどうする? 本部に居ないとすると、どこか別の場所に監禁されているはずだ。ふたりは、どこか心当たりはあるか?」
「……いや、分からない。そもそも俺はイグリッサ商会に詳しくないし、そもそもなんでリーリアを攫っていったのかの理由すら分からないからな。まずは、情報を集めないと」
 俺のその言葉に頷いたイザベラは、少し考え込むような仕草をした後で再び口を開いた。
「なら、二手に分かれよう。私は冒険者仲間を当たってみるから、アキラとエステルはこの街の住人から情報を集めてくれ。エステルは、アキラの護衛も任せたぞ」
「はい! 任せてください! 今度こそ、絶対にアキラさんのことを守ってみせます!」
「期待してるよ、エステル。だけど、イザベラは一人で大丈夫か?」
 冒険者には荒くれ者が多いだろうし、それに相手はなりふり構わず工房を襲撃してくるような奴らだ。
 いくらイザベラが強くても、さすがに危ないんじゃ……。
 なんてことを考える俺の額を軽く小突いたイザベラは、自信満々な笑みを浮かべて胸を張る。
「おいおい、あまり私を舐めるんじゃないぞ。自慢じゃないが、この辺りの冒険者相手なら束になって襲われても負けないくらいの実力はあるさ。それよりも、エステルがいるとはいえアキラは戦えないんだから、ちゃんと気を付けるんだぞ」
 最後にそう注意したイザベラは、そのままひとりで人混みへと消えていく。
「よし。じゃあ俺たちも行こうか」
「はい! でも、どこから向かうんですか?」
 エステルの質問に、俺は悩むように顎に手を置いて考え込むのだった。

 ────
「それで、まずは手始めに俺の所に来たってことか?」
「そうです。そもそも俺ってこの街の知り合いは数えるほどしか居ないし、その中でもリーリアと親しい人は限られてますから」
 悩んだ末、俺はまずテッドの店を訪れていた。
 相変わらずカウンターで暇そうに欠伸をしていたテッドは、俺の姿を見ると笑顔で招き入れてくれた。
 しかしすぐにリーリアの姿がないことに気付いて不審がるテッドに事情を説明すると、彼は納得した様子で渋い顔を浮かべて先ほどの言葉を呟いたのだ。
「しかし、イグリッサ商会か……。お前ら、これまたとんでもない奴らを敵に回したもんだ」
「とんでもないって。もしかして、なにか知ってるのか?」
 その含みのある言い方に思わず食いつくと、テッドは逡巡するように唇を歪ませる。
 やがて諦めたようにため息を吐くと、テッドは重い口を開いた。
「……いや、別に特別なことを知ってるわけじゃねぇんだが。イグリッサ商会ってのは、この街じゃあんまり逆らいたくねぇ部類の連中なんだよ。特に商いをやってるようなのは、あいつらの顔色を伺いながら商売している奴らも少なくねぇ。これはあくまで噂だが、裏じゃ無法者どもを束ねて気に入らねぇ奴らを潰して回ってるなんて話もある。用がなきゃ関わりたくねぇ連中だよ、イグリッサ商会ってのはな」
「ついでに言えば、リーリアにお金を貸した奴らとも繋がっているみたいよ」
 テッドの言葉に繋げるように女の声が聞こえてきて、驚いて振り返るとそこにはドロシーが立っていた。
「ドロシー? どうしてここに?」
 いきなり現れた彼女に疑問を投げかけると、ドロシーは薄く微笑みながら答える。
「なんだか大変なことになってるみたいじゃない。久しぶりに工房に行ったら壁に大穴が空いてるんですもの。どういうことか聞こうにも工房には誰も居ないし、テッドさんならなにか知ってるかと思って来てみたら、たまたまあなたが居たのよ」
「なるほど、そうだったのか。……それより、さっきの話は本当なのか?」
「さっきのって、金貸しとイグリッサ商会が繋がってるってことかしら? ええ、本当よ。あの子に対する取り立てが普通じゃないみたいだから、ちょっと気になって調べてみたの。ついでに言えば、この街の店に圧力を掛けていたのも彼らの関係者みたいね」
 俺の近くで勝手に椅子へと腰掛けたドロシーの言葉で、今まで起こっていた出来事が線と線で繋がっていく。
 どうやら、俺たちはずっと同じ相手と戦い続けていたようだ。
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