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第46話

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 革の防具と言っても、その種類は様々だ。
 全身を覆うレザーアーマーから、胸元だけを保護する胸当て。
 さらに手の甲から上腕部までを覆う籠手も、防具としては欠かせないだろう。
 その中でも今回は、革の胸当てを作ってみようと思う。
 初めてでいきなり全身用のレザーアーマーを作るのは不安だし、胸当てなら籠手よりも細かい作業も少なくて済むはずだ。
 それに普段から革の胸当てを使っているエステルが居るから、完成したらすぐに使い心地を確かめてもらえるというのも大きい。
 と言うわけで作る品を決めた俺は、まずは必要な材料を机に広げていく。
 まずなによりも必要なのは当然、なめした革だ。
 革の防具と言っているんだから、革がないとなにも始まらない。
 幸いなことに今回はすでになめした状態の革が置いてあったから、それを利用することにしよう。
 ささっと簡単に頭の中で設計図のような物を描いた俺は、手に持った革包丁で革を必要な形へと切り始めていく。
 ちなみにこれは余談だけど、なめす前のなんの加工もしていない状態のものを『皮』と書き、逆に製品を作るためになめした後の状態のものを『革』と書く、らしい。
 あくまでチートスキルくんからの情報だから俺にもよく分からないけど、ともかくそんな違いがあるんだとか。
 なんてことを考えている間にも俺の手は作業を止めず、作業台の上では徐々に革がその様子を変えていっていた。
「わぁ、すごい! まるで魔法みたいですね!」
 俺の鍛冶仕事を初めて見たエステルが無邪気に笑い、その瞳をキラキラと輝かせる。
 そんな彼の姿を横目でチラッと見ながら、俺は気合を入れ直して手元の作業に集中する。
 そうすればチートは十全にその能力を発揮して、見る見るうちに机の上で作業が進んでいく。
 革を切り終わればさらに道具を持ち替えて、その工程が終わればまた道具を持ち帰る。
 そうやって作業すること一時間、ついにその時は訪れた。
「よし、これで完成かな? 初めてにしては、かなり上手くできた気がする」
 そう言って額に伝う汗を拭った俺は、完成した革の胸当ての出来栄えに満足げに頷いた。
 何枚も革を重ねた上でその裏に薄く伸ばした金属を仕込んだ革の胸当ては、その見た目に反してかなり防御力が高いはずだ。
 さらに持ち上げてみれば重さもそれほど感じず、これなら激しい運動をしてもその動きを阻害されることはないだろう。
「と言うか、これはちょっとやりすぎたかも……」
 エステルに格好悪いところを見せたくない一心でチートを全開にして作ってみたけど、そのせいでむしろ出来が良くなりすぎてしまった気がする。
 そしてそれを感じているのは俺だけではないみたいで、リーリアも苦笑いを浮かべながら頷いていた。
「確かに、これはちょっと……。こんなのを流通させちゃったら、ちょっとマズいかもですね……」
「そうなんですか? 僕には、あんまり違いが分からないんですけど」
 俺たちと違ってあまり鍛冶に詳しくないからか、エステルはひとり首を傾げている。
「うーん……。まぁ、一度身に着けてみなよ。そうしたら、分かるかもしれないし」
「いいんですか!? それじゃ、遠慮なく……」
 そんな彼に完成した革の胸当てを手渡すと、エステルは瞳をキラキラと輝かせながらいそいそとそれを装着していく。
 そのまま何度か確認するように動き回ると、やがてその顔を綻ばせながら俺の方へと視線を向けてくる。
「これ、すごいですね! こんなに動きやすいなんて、信じられないですよ!」
「それなら良かった。ちなみに耐久力のテストもしてみたいんだけど、協力してもらっていいかな?」
「はい、もちろんです! なにをすればいいですか?」
 そう言いながら駆け寄ってくるエステルに、俺は手近にあったハンマーを持ちながら答える。
「今から俺がこのハンマーで胸当てを殴るから、どれくらい衝撃が伝わるか教えて欲しいんだ。たぶん痛くはないと思うけど、頼めるかな?」
「分かりました! これでも僕は冒険者なんで、ちょっとくらい痛くても大丈夫ですよ!」
 グッと拳を握って頷くエステルは、そのまま胸を張るようにして胸当てを俺へ差し出してくる。
「どうぞ、いつでも良いですよ」
「よし、じゃあいくよ!」
 軽くハンマーを振りかぶった俺は、そのまま勢いをつけてハンマーを胸当てに向けて振り下ろす。
 ガンッという鈍い音を響かせながらハンマーと胸当てがぶつかると、その衝撃で俺は思わずハンマーを取り落としてしまった。
「痛ってぇっ!?」
「だ、大丈夫ですか!?」
 腕の痺れに悶える俺とは反対に、エステルの方はなんともないみたいだ。
「けっこう本気で殴ったつもりだったのに、大丈夫だったのか?」
「はい、そうですね。ほとんど衝撃もなかったですし。本当にすごいですよ、この装備!」
 表面をよく見ても傷すらついておらず、エステルの身体にもダメージが入っている様子はない。
 どうやら製作は成功したみたいだけど、これはもしかしてまたやりすぎてしまっただろうか?
 まだ痺れている腕を押さえながら、俺は相変わらず苦笑いを浮かべたままのリーリアと頷き合う。
「量産するなら、もう少し性能を落とさないと駄目だな。じゃないと、馬鹿みたいに高い値段を付けなくちゃいけなくなりそうだ」
「そうですね。それに、ちょっと革も使いすぎかも。その分だけ強度は落ちちゃうけど、材料費を抑えれば価格も下げられるし」
「うん、そうだな。それじゃあ、その方向でもう少し考えるとするか」
 ともかく、腕の痺れが回復するまでは鍛冶仕事もできない。
 いったん作業を中断した俺は、休憩用のお茶をリーリアに頼むのだった。
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