46 / 52
第46話
しおりを挟む
革の防具と言っても、その種類は様々だ。
全身を覆うレザーアーマーから、胸元だけを保護する胸当て。
さらに手の甲から上腕部までを覆う籠手も、防具としては欠かせないだろう。
その中でも今回は、革の胸当てを作ってみようと思う。
初めてでいきなり全身用のレザーアーマーを作るのは不安だし、胸当てなら籠手よりも細かい作業も少なくて済むはずだ。
それに普段から革の胸当てを使っているエステルが居るから、完成したらすぐに使い心地を確かめてもらえるというのも大きい。
と言うわけで作る品を決めた俺は、まずは必要な材料を机に広げていく。
まずなによりも必要なのは当然、なめした革だ。
革の防具と言っているんだから、革がないとなにも始まらない。
幸いなことに今回はすでになめした状態の革が置いてあったから、それを利用することにしよう。
ささっと簡単に頭の中で設計図のような物を描いた俺は、手に持った革包丁で革を必要な形へと切り始めていく。
ちなみにこれは余談だけど、なめす前のなんの加工もしていない状態のものを『皮』と書き、逆に製品を作るためになめした後の状態のものを『革』と書く、らしい。
あくまでチートスキルくんからの情報だから俺にもよく分からないけど、ともかくそんな違いがあるんだとか。
なんてことを考えている間にも俺の手は作業を止めず、作業台の上では徐々に革がその様子を変えていっていた。
「わぁ、すごい! まるで魔法みたいですね!」
俺の鍛冶仕事を初めて見たエステルが無邪気に笑い、その瞳をキラキラと輝かせる。
そんな彼の姿を横目でチラッと見ながら、俺は気合を入れ直して手元の作業に集中する。
そうすればチートは十全にその能力を発揮して、見る見るうちに机の上で作業が進んでいく。
革を切り終わればさらに道具を持ち替えて、その工程が終わればまた道具を持ち帰る。
そうやって作業すること一時間、ついにその時は訪れた。
「よし、これで完成かな? 初めてにしては、かなり上手くできた気がする」
そう言って額に伝う汗を拭った俺は、完成した革の胸当ての出来栄えに満足げに頷いた。
何枚も革を重ねた上でその裏に薄く伸ばした金属を仕込んだ革の胸当ては、その見た目に反してかなり防御力が高いはずだ。
さらに持ち上げてみれば重さもそれほど感じず、これなら激しい運動をしてもその動きを阻害されることはないだろう。
「と言うか、これはちょっとやりすぎたかも……」
エステルに格好悪いところを見せたくない一心でチートを全開にして作ってみたけど、そのせいでむしろ出来が良くなりすぎてしまった気がする。
そしてそれを感じているのは俺だけではないみたいで、リーリアも苦笑いを浮かべながら頷いていた。
「確かに、これはちょっと……。こんなのを流通させちゃったら、ちょっとマズいかもですね……」
「そうなんですか? 僕には、あんまり違いが分からないんですけど」
俺たちと違ってあまり鍛冶に詳しくないからか、エステルはひとり首を傾げている。
「うーん……。まぁ、一度身に着けてみなよ。そうしたら、分かるかもしれないし」
「いいんですか!? それじゃ、遠慮なく……」
そんな彼に完成した革の胸当てを手渡すと、エステルは瞳をキラキラと輝かせながらいそいそとそれを装着していく。
そのまま何度か確認するように動き回ると、やがてその顔を綻ばせながら俺の方へと視線を向けてくる。
「これ、すごいですね! こんなに動きやすいなんて、信じられないですよ!」
「それなら良かった。ちなみに耐久力のテストもしてみたいんだけど、協力してもらっていいかな?」
「はい、もちろんです! なにをすればいいですか?」
そう言いながら駆け寄ってくるエステルに、俺は手近にあったハンマーを持ちながら答える。
「今から俺がこのハンマーで胸当てを殴るから、どれくらい衝撃が伝わるか教えて欲しいんだ。たぶん痛くはないと思うけど、頼めるかな?」
「分かりました! これでも僕は冒険者なんで、ちょっとくらい痛くても大丈夫ですよ!」
グッと拳を握って頷くエステルは、そのまま胸を張るようにして胸当てを俺へ差し出してくる。
「どうぞ、いつでも良いですよ」
「よし、じゃあいくよ!」
軽くハンマーを振りかぶった俺は、そのまま勢いをつけてハンマーを胸当てに向けて振り下ろす。
ガンッという鈍い音を響かせながらハンマーと胸当てがぶつかると、その衝撃で俺は思わずハンマーを取り落としてしまった。
「痛ってぇっ!?」
「だ、大丈夫ですか!?」
腕の痺れに悶える俺とは反対に、エステルの方はなんともないみたいだ。
「けっこう本気で殴ったつもりだったのに、大丈夫だったのか?」
「はい、そうですね。ほとんど衝撃もなかったですし。本当にすごいですよ、この装備!」
表面をよく見ても傷すらついておらず、エステルの身体にもダメージが入っている様子はない。
どうやら製作は成功したみたいだけど、これはもしかしてまたやりすぎてしまっただろうか?
まだ痺れている腕を押さえながら、俺は相変わらず苦笑いを浮かべたままのリーリアと頷き合う。
「量産するなら、もう少し性能を落とさないと駄目だな。じゃないと、馬鹿みたいに高い値段を付けなくちゃいけなくなりそうだ」
「そうですね。それに、ちょっと革も使いすぎかも。その分だけ強度は落ちちゃうけど、材料費を抑えれば価格も下げられるし」
「うん、そうだな。それじゃあ、その方向でもう少し考えるとするか」
ともかく、腕の痺れが回復するまでは鍛冶仕事もできない。
いったん作業を中断した俺は、休憩用のお茶をリーリアに頼むのだった。
全身を覆うレザーアーマーから、胸元だけを保護する胸当て。
さらに手の甲から上腕部までを覆う籠手も、防具としては欠かせないだろう。
その中でも今回は、革の胸当てを作ってみようと思う。
初めてでいきなり全身用のレザーアーマーを作るのは不安だし、胸当てなら籠手よりも細かい作業も少なくて済むはずだ。
それに普段から革の胸当てを使っているエステルが居るから、完成したらすぐに使い心地を確かめてもらえるというのも大きい。
と言うわけで作る品を決めた俺は、まずは必要な材料を机に広げていく。
まずなによりも必要なのは当然、なめした革だ。
革の防具と言っているんだから、革がないとなにも始まらない。
幸いなことに今回はすでになめした状態の革が置いてあったから、それを利用することにしよう。
ささっと簡単に頭の中で設計図のような物を描いた俺は、手に持った革包丁で革を必要な形へと切り始めていく。
ちなみにこれは余談だけど、なめす前のなんの加工もしていない状態のものを『皮』と書き、逆に製品を作るためになめした後の状態のものを『革』と書く、らしい。
あくまでチートスキルくんからの情報だから俺にもよく分からないけど、ともかくそんな違いがあるんだとか。
なんてことを考えている間にも俺の手は作業を止めず、作業台の上では徐々に革がその様子を変えていっていた。
「わぁ、すごい! まるで魔法みたいですね!」
俺の鍛冶仕事を初めて見たエステルが無邪気に笑い、その瞳をキラキラと輝かせる。
そんな彼の姿を横目でチラッと見ながら、俺は気合を入れ直して手元の作業に集中する。
そうすればチートは十全にその能力を発揮して、見る見るうちに机の上で作業が進んでいく。
革を切り終わればさらに道具を持ち替えて、その工程が終わればまた道具を持ち帰る。
そうやって作業すること一時間、ついにその時は訪れた。
「よし、これで完成かな? 初めてにしては、かなり上手くできた気がする」
そう言って額に伝う汗を拭った俺は、完成した革の胸当ての出来栄えに満足げに頷いた。
何枚も革を重ねた上でその裏に薄く伸ばした金属を仕込んだ革の胸当ては、その見た目に反してかなり防御力が高いはずだ。
さらに持ち上げてみれば重さもそれほど感じず、これなら激しい運動をしてもその動きを阻害されることはないだろう。
「と言うか、これはちょっとやりすぎたかも……」
エステルに格好悪いところを見せたくない一心でチートを全開にして作ってみたけど、そのせいでむしろ出来が良くなりすぎてしまった気がする。
そしてそれを感じているのは俺だけではないみたいで、リーリアも苦笑いを浮かべながら頷いていた。
「確かに、これはちょっと……。こんなのを流通させちゃったら、ちょっとマズいかもですね……」
「そうなんですか? 僕には、あんまり違いが分からないんですけど」
俺たちと違ってあまり鍛冶に詳しくないからか、エステルはひとり首を傾げている。
「うーん……。まぁ、一度身に着けてみなよ。そうしたら、分かるかもしれないし」
「いいんですか!? それじゃ、遠慮なく……」
そんな彼に完成した革の胸当てを手渡すと、エステルは瞳をキラキラと輝かせながらいそいそとそれを装着していく。
そのまま何度か確認するように動き回ると、やがてその顔を綻ばせながら俺の方へと視線を向けてくる。
「これ、すごいですね! こんなに動きやすいなんて、信じられないですよ!」
「それなら良かった。ちなみに耐久力のテストもしてみたいんだけど、協力してもらっていいかな?」
「はい、もちろんです! なにをすればいいですか?」
そう言いながら駆け寄ってくるエステルに、俺は手近にあったハンマーを持ちながら答える。
「今から俺がこのハンマーで胸当てを殴るから、どれくらい衝撃が伝わるか教えて欲しいんだ。たぶん痛くはないと思うけど、頼めるかな?」
「分かりました! これでも僕は冒険者なんで、ちょっとくらい痛くても大丈夫ですよ!」
グッと拳を握って頷くエステルは、そのまま胸を張るようにして胸当てを俺へ差し出してくる。
「どうぞ、いつでも良いですよ」
「よし、じゃあいくよ!」
軽くハンマーを振りかぶった俺は、そのまま勢いをつけてハンマーを胸当てに向けて振り下ろす。
ガンッという鈍い音を響かせながらハンマーと胸当てがぶつかると、その衝撃で俺は思わずハンマーを取り落としてしまった。
「痛ってぇっ!?」
「だ、大丈夫ですか!?」
腕の痺れに悶える俺とは反対に、エステルの方はなんともないみたいだ。
「けっこう本気で殴ったつもりだったのに、大丈夫だったのか?」
「はい、そうですね。ほとんど衝撃もなかったですし。本当にすごいですよ、この装備!」
表面をよく見ても傷すらついておらず、エステルの身体にもダメージが入っている様子はない。
どうやら製作は成功したみたいだけど、これはもしかしてまたやりすぎてしまっただろうか?
まだ痺れている腕を押さえながら、俺は相変わらず苦笑いを浮かべたままのリーリアと頷き合う。
「量産するなら、もう少し性能を落とさないと駄目だな。じゃないと、馬鹿みたいに高い値段を付けなくちゃいけなくなりそうだ」
「そうですね。それに、ちょっと革も使いすぎかも。その分だけ強度は落ちちゃうけど、材料費を抑えれば価格も下げられるし」
「うん、そうだな。それじゃあ、その方向でもう少し考えるとするか」
ともかく、腕の痺れが回復するまでは鍛冶仕事もできない。
いったん作業を中断した俺は、休憩用のお茶をリーリアに頼むのだった。
1
お気に入りに追加
1,460
あなたにおすすめの小説
種から始める生産チート~なんでも実る世界樹を手に入れたけど、ホントに何でも実ったんですが!?(旧題:世界樹の王)
十一屋 翠
ファンタジー
とある冒険で大怪我を負った冒険者セイルは、パーティ引退を強制されてしまう。
そんな彼に残されたのは、ダンジョンで見つけたたった一つの木の実だけ。
だがこれこそが、ありとあらゆるものを生み出す世界樹の種だったのだ。
世界樹から現れた幼き聖霊はセイルを自らの主と認めると、この世のあらゆるものを実らせ、彼に様々な恩恵を与えるのだった。
お腹が空けばお肉を実らせ、生活の為にと家具を生み、更に敵が襲ってきたら大量の仲間まで!?
これは世界樹に愛された男が、文字通り全てを手に入れる幸せな物語。
この作品は小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく
霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。
だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。
どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。
でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!
ここ掘れわんわんから始まる異世界生活―陸上戦艦なにそれ?―
北京犬(英)
ファンタジー
第一章改稿版に差し替中。
暫く繋がりがおかしくなりますが、ご容赦ください。(2020.10.31)
第四章完結。第五章に入りました。
追加タグ:愛犬がチート、モフモフ、農業、奴隷、少しコメディ寄り、時々シリアス、ほのぼの
愛犬のチワワと共に異世界転生した佐々木蔵人(ささき くらんど)が、愛犬プチのユニークスキル”ここ掘れわんわん”に助けられて異世界でスローライフを満喫しようとします。
しかし転生して降り立った場所は魔物が蔓延る秘境の森。
蔵人の基本レベルは1で、持っているスキルも初期スキルのLv.1のみ。
ある日、プチの”ここ掘れわんわん”によりチート能力を得てしまいます。
しかし蔵人は自身のイメージ力の問題でチート能力を使いこなせません。
思い付きで農場をチート改造して生活に困らなくなり、奴隷を買い、なぜか全員が嫁になってハーレム生活を開始。
そして塒(ねぐら)として確保した遺跡が……。大きな陰謀に巻き込まれてしまいます。
前途多難な異世界生活を愛犬や嫁達と共に生き延びて、望みのスローライフを送れるのだろうかという物語です。
基本、生産チートでほのぼの生活が主体――のはずだったのですが、陸上戦艦の艦隊戦や戦争描写が増えています。
小説家になろう、カクヨムでも公開しています。改稿版はカクヨム最新。
異世界で魔法使いとなった俺はネットでお買い物して世界を救う
馬宿
ファンタジー
30歳働き盛り、独身、そろそろ身を固めたいものだが相手もいない
そんな俺が電車の中で疲れすぎて死んじゃった!?
そしてらとある世界の守護者になる為に第2の人生を歩まなくてはいけなくなった!?
農家育ちの素人童貞の俺が世界を守る為に選ばれた!?
10個も願いがかなえられるらしい!
だったら異世界でもネットサーフィンして、お買い物して、農業やって、のんびり暮らしたいものだ
異世界なら何でもありでしょ?
ならのんびり生きたいな
小説家になろう!にも掲載しています
何分、書きなれていないので、ご指摘あれば是非ご意見お願いいたします
スマートシステムで異世界革命
小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 ///
★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★
新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。
それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。
異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。
スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします!
序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです
第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練
第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い
第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚
第4章(全17話)ダンジョン探索
第5章(執筆中)公的ギルド?
※第3章以降は少し内容が過激になってきます。
上記はあくまで予定です。
カクヨムでも投稿しています。
気がついたら異世界に転生していた。
みみっく
ファンタジー
社畜として会社に愛されこき使われ日々のストレスとムリが原因で深夜の休憩中に死んでしまい。
気がついたら異世界に転生していた。
普通に愛情を受けて育てられ、普通に育ち屋敷を抜け出して子供達が集まる広場へ遊びに行くと自分の異常な身体能力に気が付き始めた・・・
冒険がメインでは無く、冒険とほのぼのとした感じの日常と恋愛を書いていけたらと思って書いています。
戦闘もありますが少しだけです。
「残念でした~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~ん笑」と女神に言われ異世界転生させられましたが、転移先がレベルアップの実の宝庫でした
御浦祥太
ファンタジー
どこにでもいる高校生、朝比奈結人《あさひなゆいと》は修学旅行で京都を訪れた際に、突然清水寺から落下してしまう。不思議な空間にワープした結人は女神を名乗る女性に会い、自分がこれから異世界転生することを告げられる。
異世界と聞いて結人は、何かチートのような特別なスキルがもらえるのか女神に尋ねるが、返ってきたのは「残念でした~~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~~ん(笑)」という強烈な言葉だった。
女神の言葉に落胆しつつも異世界に転生させられる結人。
――しかし、彼は知らなかった。
転移先がまさかの禁断のレベルアップの実の群生地であり、その実を食べることで自身のレベルが世界最高となることを――
異世界転生!俺はここで生きていく
おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。
同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。
今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。
だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。
意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった!
魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。
俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。
それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ!
小説家になろうでも投稿しています。
メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。
宜しくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる