38 / 52
第38話
しおりを挟む
気合十分といった様子で立ち上がったリーリアは、さっそく納品用の剣の荷造りを始める。
両手いっぱいに剣を抱えながら歩く彼女は、見た目の割にしっかりとした足取りをしていた。
それでも、女の子一人を働かせているわけにはいかない。
彼女を手伝うために俺も立ち上がろうとすると、しかしその動きはリーリアによって阻まれてしまった。
「アキラさんは休んでいてください。この剣だって全部アキラさんが作ってくれたんですから、荷造りくらいは私に任せてくださいね」
ニッコリ笑顔でそう言われて、俺はおとなしく引き下がることにした。
「分かったよ。それじゃ、俺は飲み物を取ってくるから」
いつもと逆で、工房にリーリアを残したまま俺は奥の部屋へと引っ込んでいく。
台所スペースにある冷蔵庫みたいな箱を開けると、中からはほんのりと冷気が漂ってくる。
そこにしまわれていた飲み物を手に取ると、あらかじめ用意してあったふたつのコップにそれを注いでいく。
心地よい音を鳴らしながらコップが満たされていって、注ぎ終わった飲み物は再び冷蔵庫にしまう。
「それにしても、この世界にも冷蔵庫があるとは驚きだよな。他にも家電製品によく似た物も多いし、異世界の知識でアイデア無双みたいな展開は無理そうだよなぁ」
がっかりした半面、生活面では前の世界とほとんど変わらず充実していることに安堵もしている。
冷蔵庫やクーラーのない生活なんて、考えられないもんな。
なんてどうでも良いことを考えながら飲み物を持って工房に戻ると、荷造りはもうほとんど終わってしまっていた。
「さすがに早いね。……はい、お疲れ様」
労うように飲み物を渡すと、リーリアはそれを受け取って満面の笑みを浮かべる。
「ありがとうございます。それじゃ、これを飲み終わったら出発しましょうか」
「了解。今から出れば夜までには帰ってこれると思うし、帰りに食事を取ればちょうどいいかもしれないね」
言いながら俺は、すでに日が傾きかけている窓の外を眺める。
この時の俺は、これから起こる小さな悲劇に全く気付いていなかった。
────
「ふぅ……。なんとか日が暮れる前に着けましたね」
ふたりがかりで荷物を持ち合って、俺たちはグランデール商会の前までやって来ていた。
すでに人通りはまばらで、商会に出入りしているのも従業員以外にはほとんどいない。
「それじゃ、急いで届けようか。これ以上遅くなったら、さすがに迷惑だろうし」
「そうですね。行きましょう」
最後のひと踏ん張りと気合を入れて、俺たちは商会の入り口まで歩いていく。
そうやって近づいていくと、この間と同じ守衛の男と目が合った。
「ん? あんたら、この間の……」
「ファドロ工房の者です。ノエラさんに頼まれていた武器を納品に来たんですけど……」
「ああ、そうだったのか。では担当の者を呼びますので、少々お待ちを」
要件を伝えると、この間とは違ってにこやかに笑った守衛はそう言いながら建物の中に消えていく。
しばらくして帰ってきた彼の後ろから、ジェリスが俺たちの方へと近寄って来た。
「よぉ、ふたりとも。期限はまだ先なのに、ずいぶんと早い納品だな」
「まぁね。予定よりも早く作業が終わったから持ってきたんだけど、もしかして迷惑だったか?」
「まさか。なにごとも早いに越したことはないさ。世の中には平気で納品期限を破る野郎どもも居るからな。こうやって早めに納品してくれるなら、むしろありがたい。さぁ、中に入ってくれ」
言いながらリーリアの持っている荷物を受け取ったジェリスは、俺たちを建物の中に招き入れる。
残りの荷物を担ぎながらジェリスについていくと、連れていかれたのは大きな倉庫のような場所だった。
「よし、着いたぞ。荷物はこの辺に置いておいてくれ」
「ああ、分かった。……よいしょ」
ジェリスに指示された場所に荷物を置くと、やっと重さから解放されて思わず声を上げる。
「なんだ、年寄り臭いな。もう少し身体を鍛えた方がいいんじゃないか?」
「うるさいな。普段こんな荷物を持つ機会なんてないんだから、少しくらい良いだろ」
神様から貰ったチートの中に身体強化に関するものはなかったから、今でも俺は普通の成人男性くらいの力しか持っていないのだ。
そりゃあ、毎日のように力仕事をやっているジェリスたちに比べたら、非力だとしてもおかしくないだろう。
「まぁ、俺の筋力のことはどうでも良いだろ。それより、ちょっとノエラに相談したいことがあるんだけど」
「なんだい? 私にどんな相談がしたいの?」
ノエラの居場所を聞こうとしていると、俺の声を聞きつけたのか背後からノエラが話しかけてくる。
「やぁ、アキラにリーリア。ちゃんと期限に余裕をもって納品してくるとは、感心だね」
そのまま俺たちの近くまで近寄って来たノエラは、納品した剣を軽く確認し始める。
「うん、あいかわらず良い剣ね。これならどこでだって売れるわ」
「ありがとう。そう言ってもらえたら、頑張って作ったかいがあるよ」
褒められれば素直にうれしくて、俺は少し照れながらノエラに笑みを返す。
そんな俺を見て彼女の微笑みながら、改めて俺たちの方へと向き直った。
両手いっぱいに剣を抱えながら歩く彼女は、見た目の割にしっかりとした足取りをしていた。
それでも、女の子一人を働かせているわけにはいかない。
彼女を手伝うために俺も立ち上がろうとすると、しかしその動きはリーリアによって阻まれてしまった。
「アキラさんは休んでいてください。この剣だって全部アキラさんが作ってくれたんですから、荷造りくらいは私に任せてくださいね」
ニッコリ笑顔でそう言われて、俺はおとなしく引き下がることにした。
「分かったよ。それじゃ、俺は飲み物を取ってくるから」
いつもと逆で、工房にリーリアを残したまま俺は奥の部屋へと引っ込んでいく。
台所スペースにある冷蔵庫みたいな箱を開けると、中からはほんのりと冷気が漂ってくる。
そこにしまわれていた飲み物を手に取ると、あらかじめ用意してあったふたつのコップにそれを注いでいく。
心地よい音を鳴らしながらコップが満たされていって、注ぎ終わった飲み物は再び冷蔵庫にしまう。
「それにしても、この世界にも冷蔵庫があるとは驚きだよな。他にも家電製品によく似た物も多いし、異世界の知識でアイデア無双みたいな展開は無理そうだよなぁ」
がっかりした半面、生活面では前の世界とほとんど変わらず充実していることに安堵もしている。
冷蔵庫やクーラーのない生活なんて、考えられないもんな。
なんてどうでも良いことを考えながら飲み物を持って工房に戻ると、荷造りはもうほとんど終わってしまっていた。
「さすがに早いね。……はい、お疲れ様」
労うように飲み物を渡すと、リーリアはそれを受け取って満面の笑みを浮かべる。
「ありがとうございます。それじゃ、これを飲み終わったら出発しましょうか」
「了解。今から出れば夜までには帰ってこれると思うし、帰りに食事を取ればちょうどいいかもしれないね」
言いながら俺は、すでに日が傾きかけている窓の外を眺める。
この時の俺は、これから起こる小さな悲劇に全く気付いていなかった。
────
「ふぅ……。なんとか日が暮れる前に着けましたね」
ふたりがかりで荷物を持ち合って、俺たちはグランデール商会の前までやって来ていた。
すでに人通りはまばらで、商会に出入りしているのも従業員以外にはほとんどいない。
「それじゃ、急いで届けようか。これ以上遅くなったら、さすがに迷惑だろうし」
「そうですね。行きましょう」
最後のひと踏ん張りと気合を入れて、俺たちは商会の入り口まで歩いていく。
そうやって近づいていくと、この間と同じ守衛の男と目が合った。
「ん? あんたら、この間の……」
「ファドロ工房の者です。ノエラさんに頼まれていた武器を納品に来たんですけど……」
「ああ、そうだったのか。では担当の者を呼びますので、少々お待ちを」
要件を伝えると、この間とは違ってにこやかに笑った守衛はそう言いながら建物の中に消えていく。
しばらくして帰ってきた彼の後ろから、ジェリスが俺たちの方へと近寄って来た。
「よぉ、ふたりとも。期限はまだ先なのに、ずいぶんと早い納品だな」
「まぁね。予定よりも早く作業が終わったから持ってきたんだけど、もしかして迷惑だったか?」
「まさか。なにごとも早いに越したことはないさ。世の中には平気で納品期限を破る野郎どもも居るからな。こうやって早めに納品してくれるなら、むしろありがたい。さぁ、中に入ってくれ」
言いながらリーリアの持っている荷物を受け取ったジェリスは、俺たちを建物の中に招き入れる。
残りの荷物を担ぎながらジェリスについていくと、連れていかれたのは大きな倉庫のような場所だった。
「よし、着いたぞ。荷物はこの辺に置いておいてくれ」
「ああ、分かった。……よいしょ」
ジェリスに指示された場所に荷物を置くと、やっと重さから解放されて思わず声を上げる。
「なんだ、年寄り臭いな。もう少し身体を鍛えた方がいいんじゃないか?」
「うるさいな。普段こんな荷物を持つ機会なんてないんだから、少しくらい良いだろ」
神様から貰ったチートの中に身体強化に関するものはなかったから、今でも俺は普通の成人男性くらいの力しか持っていないのだ。
そりゃあ、毎日のように力仕事をやっているジェリスたちに比べたら、非力だとしてもおかしくないだろう。
「まぁ、俺の筋力のことはどうでも良いだろ。それより、ちょっとノエラに相談したいことがあるんだけど」
「なんだい? 私にどんな相談がしたいの?」
ノエラの居場所を聞こうとしていると、俺の声を聞きつけたのか背後からノエラが話しかけてくる。
「やぁ、アキラにリーリア。ちゃんと期限に余裕をもって納品してくるとは、感心だね」
そのまま俺たちの近くまで近寄って来たノエラは、納品した剣を軽く確認し始める。
「うん、あいかわらず良い剣ね。これならどこでだって売れるわ」
「ありがとう。そう言ってもらえたら、頑張って作ったかいがあるよ」
褒められれば素直にうれしくて、俺は少し照れながらノエラに笑みを返す。
そんな俺を見て彼女の微笑みながら、改めて俺たちの方へと向き直った。
31
お気に入りに追加
1,577
あなたにおすすめの小説

ユニークスキルで異世界マイホーム ~俺と共に育つ家~
楠富 つかさ
ファンタジー
地震で倒壊した我が家にて絶命した俺、家入竜也は自分の死因だとしても家が好きで……。
そんな俺に転生を司る女神が提案してくれたのは、俺の成長に応じて育つ異空間を創造する力。この力で俺は生まれ育った家を再び取り戻す。
できれば引きこもりたい俺と異世界の冒険者たちが織りなすソード&ソーサリー、開幕!!
第17回ファンタジー小説大賞にエントリーしました!

種から始める生産チート~なんでも実る世界樹を手に入れたけど、ホントに何でも実ったんですが!?(旧題:世界樹の王)
十一屋 翠
ファンタジー
とある冒険で大怪我を負った冒険者セイルは、パーティ引退を強制されてしまう。
そんな彼に残されたのは、ダンジョンで見つけたたった一つの木の実だけ。
だがこれこそが、ありとあらゆるものを生み出す世界樹の種だったのだ。
世界樹から現れた幼き聖霊はセイルを自らの主と認めると、この世のあらゆるものを実らせ、彼に様々な恩恵を与えるのだった。
お腹が空けばお肉を実らせ、生活の為にと家具を生み、更に敵が襲ってきたら大量の仲間まで!?
これは世界樹に愛された男が、文字通り全てを手に入れる幸せな物語。
この作品は小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。
モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。
日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。
今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。
そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。
特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。
【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~
川原源明
ファンタジー
秋津直人、85歳。
50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。
嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。
彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。
白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。
胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。
そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。
まずは最強の称号を得よう!
地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語
※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編
※医療現場の恋物語 馴れ初め編

外れスキル『収納』がSSS級スキル『亜空間』に成長しました~剣撃も魔法もモンスターも収納できます~
春小麦
ファンタジー
——『収納』という、ただバッグに物をたくさん入れられるだけの外れスキル。
冒険者になることを夢見ていたカイル・ファルグレッドは落胆し、冒険者になることを諦めた。
しかし、ある日ゴブリンに襲われたカイルは、無意識に自身の『収納』スキルを覚醒させる。
パンチや蹴りの衝撃、剣撃や魔法、はたまたドラゴンなど、この世のありとあらゆるものを【アイテムボックス】へ『収納』することができるようになる。
そこから郵便屋を辞めて冒険者へと転向し、もはや外れスキルどころかブッ壊れスキルとなった『収納(亜空間)』を駆使して、仲間と共に最強冒険者を目指していく。
田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。
けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。
日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。
あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの?
ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。
感想などお待ちしております。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる