異世界のんびりワークライフ ~生産チートを貰ったので好き勝手生きることにします~

樋川カイト

文字の大きさ
上 下
36 / 52

第36話

しおりを挟む
「まったく……。イザベラさんには困ったものですよ」
「本当にね。ちょっと疲れちゃったよ」
 ため息を吐いたリーリアに同調するように頷いていると、彼女はジト目で俺を見上げてくる。
「でも、アキラさんもアキラさんですよ。いくらイザベラさんが綺麗だからって、勝手にサービスまでしちゃって」
「いや、別にイザベラが綺麗だからサービスしたわけじゃないからね。素材のことで無茶を言っちゃったから、そのお詫びも兼ねてだから」
 どうやらまだ少し怒っているらしいリーリアの様子に慌てていると、ふとイザベラの言葉がよみがえってくる。
「そ、そうだ! これ、リーリアの分だよ」
 そう言って彼女にもネックレスを差し出すと、リーリアは目を丸くして驚いている。
「もともと、リーリアに渡そうと思って作ってたんだ。さっきイザベラに渡した物と同じように守護の付与がかけてあるから、リーリアをピンチから救ってくれると思うよ。良かったら受け取ってほしいんだけど」
 別にイザベラに言われたから用意したわけではないけど、俺は少し照れくさくなってしまう。
 そんな俺の様子を知ってか知らずか、ネックレスを受け取ったリーリアは嬉しそうに口元を緩める。
「まったく、アキラさんはしょうがない人ですね。……今回だけですからね!」
 そう言いながらも顔を緩ませながらネックレスを身に着けるリーリア。
 彼女のためにあつらえただけあって、それはお世辞抜きでよく似合っていた。
「どう、ですか……? 私、普段はあまりアクセサリーとかつけないんですけど……」
「とってもよく似合ってるよ。うん、いつも以上に可愛い」
「かっ!? なにを言ってるんですか! お世辞は止めてください!」
「お世辞なんかじゃないって。本当に、リーリアは可愛いよ」
「んんっ……!? もう、知りません!」
 反応がいちいち可愛くて褒め倒していると、彼女は顔を真っ赤にして工房の奥へと引っ込んでしまった。
 少しからかいすぎてしまったことを反省しながら、俺は後回しにしていたノエラへの納品用の剣の点検作業をすることにした。
 と言っても、その作業自体はそれほど面倒なことでもない。
 ほとんど失敗なく順調に完成しているはずだから、後は刀身や柄なんかの細かい部分を軽く確認するだけだ。
 いくら数が多いとは言っても、一時間もあれば軽く終わるくらいの楽な作業だった。
 そんな流れ作業のようなことをしながら、俺は俺の頭は別のことを考えている。
「やっぱりノエラにも、ポーションを買い取ってもらえるように頼んだ方がいいかな? ドロシーの店には置いてもらえることになったけど、たった一軒だけじゃそれほど大きな儲けにならないだろうし……」
 ノエラに頼んで別の街でも売りさばいてもらえば、もっと利益を上げることができるはずだ。
 もうこの街でこれ以上納品できる店を増やすことができないからには、それが利益を上げる唯一の方法と言っても良いだろう。
「とは言え、リーリアに相談はしておかないとな。ほとぼりが冷めたくらいに、一度話を通しておこう」
 今はまだ照れて怒っているかもしれないし、まずは目先の作業を終わらせよう。
 手元の剣の確認作業に集中しようとしていると、背後で扉の開く音が聞こえてきた。
「突然の訪問、失礼します。この工房は、ファドロ工房で間違いありませんか?」
 入ってきたのは中年くらいの男性で、彼は俺をまっすぐ眺めながらそう尋ねてくる。
「ああ、間違いないよ。それで、ウチになにか用か? もしかして、仕事の依頼?」
「いえ、依頼ではありませんよ。……申し遅れました、私はこういった者です」
 そう言って差し出された名刺を受け取ると、それには『イグリッサ商会、ノイマン・ドーンズ』と書かれていた。
「イグリッサ商会? 悪いけど、俺はこの街に来たばかりであまりそういうのに詳しくないんだけど……」
「ええ、よく存じておりますよ。イグリッサ商会はこの街でも一、二を争う商会でして、私はその紹介でスカウトマンのような仕事をしています」
「スカウトマン?」
 いったい商会が何をスカウトするのかは分からないけど、ともかくこの男はなんだか胡散臭い気がする。
「そのスカウトマンが、この工房にいったい何の用があるんだ?」
 何となく嫌な予感がした俺は、少し不愛想な態度でノイマンに尋ねる。
 そんな俺の態度を気にした様子もないノイマンは、まるで張り付けたような笑顔を浮かべながら俺をまっすぐに見つめてくる。
「今日はアキラさんに、ある提案をさせていただこうと思って参上いたしました」
 言いながら少しずつ近づいてきたノイマンは、テーブルを挟んで俺と見つめ合う。
「提案ってのは、いったいなんのことだ? 悪いけど、そんな話に付き合っている暇はないんだけど」
「そうおっしゃらずに……。あなたにとっても、きっと有益な話だと思いますよ。ほんの少しでいいので、お時間をいただけませんか?」
 冷たくあしらっても諦めないノイマンはそう言って、持っていたカバンから一枚の書類を取り出した。
「単刀直入に申します。あなたの腕を、私どもの元で振るっていただけませんか?」
 その言葉とともに、ノイマンは俺に向かって契約書を差し出すのだった。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

ユニークスキルで異世界マイホーム ~俺と共に育つ家~

楠富 つかさ
ファンタジー
 地震で倒壊した我が家にて絶命した俺、家入竜也は自分の死因だとしても家が好きで……。  そんな俺に転生を司る女神が提案してくれたのは、俺の成長に応じて育つ異空間を創造する力。この力で俺は生まれ育った家を再び取り戻す。  できれば引きこもりたい俺と異世界の冒険者たちが織りなすソード&ソーサリー、開幕!! 第17回ファンタジー小説大賞にエントリーしました!

種から始める生産チート~なんでも実る世界樹を手に入れたけど、ホントに何でも実ったんですが!?(旧題:世界樹の王)

十一屋 翠
ファンタジー
とある冒険で大怪我を負った冒険者セイルは、パーティ引退を強制されてしまう。 そんな彼に残されたのは、ダンジョンで見つけたたった一つの木の実だけ。 だがこれこそが、ありとあらゆるものを生み出す世界樹の種だったのだ。 世界樹から現れた幼き聖霊はセイルを自らの主と認めると、この世のあらゆるものを実らせ、彼に様々な恩恵を与えるのだった。 お腹が空けばお肉を実らせ、生活の為にと家具を生み、更に敵が襲ってきたら大量の仲間まで!? これは世界樹に愛された男が、文字通り全てを手に入れる幸せな物語。 この作品は小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~

川原源明
ファンタジー
 秋津直人、85歳。  50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。  嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。  彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。  白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。  胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。  そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。  まずは最強の称号を得よう!  地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編 ※医療現場の恋物語 馴れ初め編

外れスキル『収納』がSSS級スキル『亜空間』に成長しました~剣撃も魔法もモンスターも収納できます~

春小麦
ファンタジー
——『収納』という、ただバッグに物をたくさん入れられるだけの外れスキル。 冒険者になることを夢見ていたカイル・ファルグレッドは落胆し、冒険者になることを諦めた。 しかし、ある日ゴブリンに襲われたカイルは、無意識に自身の『収納』スキルを覚醒させる。 パンチや蹴りの衝撃、剣撃や魔法、はたまたドラゴンなど、この世のありとあらゆるものを【アイテムボックス】へ『収納』することができるようになる。 そこから郵便屋を辞めて冒険者へと転向し、もはや外れスキルどころかブッ壊れスキルとなった『収納(亜空間)』を駆使して、仲間と共に最強冒険者を目指していく。

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...