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第34話

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 ドロシーとの商談を無事に終えた俺たちが工房に帰ると、工房にはなぜか明かりがついていた。
「あれ、おかしいな? 出かける時は明るかったから、明かりはつけてなかったはずなのに……」
「そうですよね。もしかして、誰か来ているんでしょうか?」
 首を傾げながら呟いたリーリアの言葉に、俺の頭に嫌な予感がよぎる。
 もしかして、俺たちに圧力をかけた本人かその仲間が待ち構えているのではないだろうか?
 街中の店に圧力をかけるだけにとどまらず、直接リーリアに危害を加えるつもりなんじゃ……。
 ついさっきその話をしたせいか、思考はあっという間にそっち方面へと流れていく。
 最悪の想定で俺の身体に緊張が走り、思わず表情も強張ってしまう。
「どうしたんですか? なにか心配なことでも?」
「いや、なんでもないよ。ちょっと考えごとをしていただけだから」
 俺の様子がおかしいことに気付いたリーリアに声を掛けられて、俺は誤魔化すように微笑む。
 まだ確定したわけではないし、ここでこの想像を伝えても彼女を怖がらせてしまうだけだろう。
 大丈夫、いざとなれば俺が盾になってでもリーリアを逃がせばいいだけだ。
 喧嘩なんてほとんどしたことはないけど、女の子が一人逃げるくらいの時間を稼ぐ程度なら出来るはずだ。
 むしろそれくらいできないと、男が廃るというものだ。
 彼女を守るように一歩前に進みながら、俺はゆっくりと工房の扉を開いて中を覗き込んだ。
「やぁ、おかえりなさい。二人とも留守みたいだったから、中で待たせてもらってたよ」
 工房の中に居たイザベラが呑気に声を掛けてきて、その姿にホッと一安心した俺はその場で脱力してしまう。
「なんだ、イザベラだったのか……。緊張して損したよ」
「なんで自分の家に帰るのに緊張するの?」
 俺の言っている意味が分からない様子で首を傾げるイザベラに、あいかわらず彼女の陰で隠れていたエステルが呆れたようにツッコミを入れる。
「いやいや、師匠。誰も居ないはずの家になぜか明かりがついていたら、誰だって警戒しますよ」
「そんなもんなの? 私は気にせずに帰るけどなぁ」
「それは師匠が特殊なんですよ……。お二人とも、すいません。僕は止めたんですけど、師匠が言うことを聞かなくって」
「いえ、大丈夫ですよ。イザベラさんもエステルさんも、いらっしゃいませ!」
 申し訳なさそうに頭を下げるエステル。
 そんな彼に微笑みかけながら、俺たちは改めて彼らを歓迎した。
「それで、素材の方はどうなった? 俺もよく知らなかったから、だいぶ無茶なことを言ったみたいなんだけど」
 少し罪悪感を覚えながら尋ねると、イザベラは満面の笑みを浮かべながらピースサインを出す。
「おいおい、私を誰だと思ってるの? 素材は余裕で手に入れてきたよ。エステルの良い修行にもなったし、ちょうど良かったわ」
「僕は死ぬかと思いましたけどね……」
 対称的な二人の表情を見て思わず笑みをこぼしていると、その間にもイザベラが素材をテーブルの上に広げていく。
 そうして並べられたのが、今回必要だった素材たちだ。
 そのどれもが手に取るだけで分かる高品質な物で、俺の中の職人魂ともいえる部分が熱く燃え上がってくる。
「さあ、これで準備は整っただでしょ。あとはアキラの仕事だよ」
「ああ、任せてくれ。必ず、今作れる最高の剣を作ってみせるさ」
 ここまで最高の物を準備されれば、手を抜くことなんてできない。
 俺はさっそく、頭の中で設計図を広げながらゆっくりと炉の前へと歩んでいった。
「三日で完成させるから、それまで待っていてくれ。完成したら知らせに行こうか?」
「いや、それには及ばないよ。完成した頃に、またここを訪ねて来るさ。それじゃ、よろしく頼むよ」
 微笑みながらそれだけを言い残して、イザベラとエステルはそのまま工房を後にする。
 残された期待を背中に受けて、気合とともに炉に火を灯した。

 ────
 あれから三日間、寝る間も惜しんで炉の前に立ち続けた俺の手には一振りの剣が握られていた。
 刀身を輝かせるその剣を何度も何度も注意深く確かめた俺は、強張っていた肩の力を抜いて安堵の声を上げた。
「……よし、完成だ!」
 炉の火を消してその場から離れた俺は、倒れこむように近くのテーブルに突っ伏す。
 そうすると、俺の声を聞きつけたようにリーリアがよく冷えたエールを持ってきてくれた。
「お疲れ様でした。どうぞ」
「ありがとう。……ふぅ、仕事の後のエールはうまい!」
 普段はアルコールを控えている俺だけど、今日は特別だ。
 今の俺に作ることのできる最高の剣が完成したのだから、これくらいのご褒美は許してもらえるだろう。
「あとは、イザベラたちが受け取りに来るのを待つだけだな」
 約束の三日は経っているし、待っていればそのうちやって来るだろう。
 エールをちびちびと飲みながら、俺は改めて刀身をうっとりと眺めていた。
 そうやって、どれくらい時間が経っただろう。
 手持無沙汰になっていた俺が細かい作業をしていると、工房のドアが勢いよく開いた。
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