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第32話
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「やぁ、いらっしゃい。って、また君たちか……。こんなに頻繁に私の店を訪ねてくるなんて、もしかして暇なのかな? それとも、可愛い私に会いたくなっちゃったかな?」
店の中に入ると、あいかわらず気だるげに店番をしているドロシーがおどけた調子で俺たちを迎えてくれる。
そんなドロシーだったけど、それでも俺たちの様子が普通でないことに気付いたのか少し真面目な表情を浮かべた。
「どうしたのかしら? なんだかとても困っている様子だけど。またなにか、私に相談でもあるの? 話の内容によっては、力になってあげるのもやぶさかではないけど」
口ではそう言っているものの、その表情からはリーリアを本気で心配していることが伝わってくる。
「まぁ、そんなところだよ。ドロシーならなにか知ってるかもしれないと思って」
「なんのことかは分からないけど、知ってることなら教えてあげるわ。それで、今日はなにを聞きたいの?」
急いで歩いたことで少しだけ荒くなっていた呼吸を整えると、俺はさっそく本題を切り出した。
「実は、今日は新しくできた商品を売り込みに街中の道具屋を巡っていたんだ。だけど、どこでも冷たくあしらわれてしまった」
「それは、ある程度は仕方ないんじゃないかしら。店の方だって、商売でやっているんだから」
「もちろん、その理屈も分かるよ。だけど、その断られ方が不自然なんだ。まるで俺たちの工房を避けてるみたいに、最初は乗り気だった店主も工房の名前を聞いた途端に態度が冷たくなって」
「ああ、そういうことね……」
そこまで言うと、ドロシーはなにかを察したように小さく声を上げた。
「どういうこと? ドロシーは、私たちが避けられてる理由を知ってるの?」
興奮した様子のリーリアが彼女に詰め寄ると、ドロシーはあいかわらずのクールな態度でそれをあしらいながら答える。
「……最近、この辺りの店に妙な圧力がかかってるのよ。大手の工房から商品を買っている大きな商店どころか、私たちのようにひとりで細々と経営している小さな店までターゲットにしてね」
「圧力? それっていったい、どういうことなんだ?」
俺の質問に一瞬だけ逡巡したドロシーは、しかしすぐにいつもの調子で口を開く。
「簡単に言えば、『リーリアの工房から商品を買うな』って圧力ね。もしも逆らえば、碌なことにならないぞって脅し付きで。そんな圧力がかかっていては、面倒ごとに巻き込まれたくないと考えるのが普通の経営者の思考だわ。たとえ、圧力に屈するつもりはなくてもね」
「そんな……。いったい、誰がそんなひどいことを……」
ドロシーの話を聞いて真っ青な顔になったリーリアは、ふらついた拍子に俺の胸に倒れこんでくる。
それを優しく受け止めながら、俺はさらに詳しい話を聞くためにドロシーを見つめた。
「それはいったい誰からの圧力なんだ? どうしてわざわざ俺たちを標的に?」
「さぁ? 残念だけどそれは分からないわ。ただ、私みたいなはぐれ者の店主のところにまで圧力をかけてくるんだから、よほど大きな力が動いてると思うわ。それに、自分の影響力にそうとう自信があるんでしょうね」
「ドロシーにまでなんて……」
それを聞いたリーリアは、まるで捨てられた子犬のような表情でドロシーの顔を眺めている。
そんな彼女を安心させるためか、ドロシーは努めて明るい声で笑った。
「ふふ、安心して。私はそんな圧力程度でどうこうできる女じゃないの。そう言うのって大っ嫌いだし。そもそも私の店の商品はほとんど自社製品だし、客である冒険者にまではさすがに手出しできないはずだから」
「本当に? 信じても良いの?」
「おやおや? もしかして君は、ドロシーさんを疑っているのかな? 幼馴染で親友の私を疑うなんて、いつから君はそんなに薄情な女になっちゃったのかな。男ができると変わるって言うのは、本当のことだったのかしら」
茶化すような口調でドロシーが笑い、それにつられるようにリーリアの表情も少し明るくなっていく。
「とは言え、これは問題だよ。たかが貧乏工房ひとつを市場から締め出すためだけに、これだけの力が動いてるんだ。いったい君たちは、どんな恨みを買ったのかな?」
「恨みなんて買った覚えはない。リーリアはそんな子じゃないし、俺はそもそもこの街に来て日が浅いから」
知り合いもほとんどいないのに、どうやって恨みを買えと言うんだ。
「だけど、心当たりはあるな。と言うか、それ以外では考えられないと思う」
ドロシーの言葉を聞いて、俺の頭にひとつだけ心当たりが浮かんでくる。
「もしかして……」
そしてどうやら、リーリアも同じ結論に至ったみたいだ。
実際、考えれば考えるほどそれ以外に理由が思いつかない。
「やっぱり心当たりがあるんだね。悪いようにしないから、ドロシーさんに教えてごらん」
俺の言葉に興味を引かれるように身を乗り出すドロシー。
だけど、この話をしても良いのだろうか?
聞いてしまえばドロシーを巻き込んでしまうかもしれないし、それにリーリアだって、親友に借金のことを知られたくないんじゃないだろうか?
そんな思いから、気付けば俺は隣に立つリーリアの顔を見つめてしまっていた。
店の中に入ると、あいかわらず気だるげに店番をしているドロシーがおどけた調子で俺たちを迎えてくれる。
そんなドロシーだったけど、それでも俺たちの様子が普通でないことに気付いたのか少し真面目な表情を浮かべた。
「どうしたのかしら? なんだかとても困っている様子だけど。またなにか、私に相談でもあるの? 話の内容によっては、力になってあげるのもやぶさかではないけど」
口ではそう言っているものの、その表情からはリーリアを本気で心配していることが伝わってくる。
「まぁ、そんなところだよ。ドロシーならなにか知ってるかもしれないと思って」
「なんのことかは分からないけど、知ってることなら教えてあげるわ。それで、今日はなにを聞きたいの?」
急いで歩いたことで少しだけ荒くなっていた呼吸を整えると、俺はさっそく本題を切り出した。
「実は、今日は新しくできた商品を売り込みに街中の道具屋を巡っていたんだ。だけど、どこでも冷たくあしらわれてしまった」
「それは、ある程度は仕方ないんじゃないかしら。店の方だって、商売でやっているんだから」
「もちろん、その理屈も分かるよ。だけど、その断られ方が不自然なんだ。まるで俺たちの工房を避けてるみたいに、最初は乗り気だった店主も工房の名前を聞いた途端に態度が冷たくなって」
「ああ、そういうことね……」
そこまで言うと、ドロシーはなにかを察したように小さく声を上げた。
「どういうこと? ドロシーは、私たちが避けられてる理由を知ってるの?」
興奮した様子のリーリアが彼女に詰め寄ると、ドロシーはあいかわらずのクールな態度でそれをあしらいながら答える。
「……最近、この辺りの店に妙な圧力がかかってるのよ。大手の工房から商品を買っている大きな商店どころか、私たちのようにひとりで細々と経営している小さな店までターゲットにしてね」
「圧力? それっていったい、どういうことなんだ?」
俺の質問に一瞬だけ逡巡したドロシーは、しかしすぐにいつもの調子で口を開く。
「簡単に言えば、『リーリアの工房から商品を買うな』って圧力ね。もしも逆らえば、碌なことにならないぞって脅し付きで。そんな圧力がかかっていては、面倒ごとに巻き込まれたくないと考えるのが普通の経営者の思考だわ。たとえ、圧力に屈するつもりはなくてもね」
「そんな……。いったい、誰がそんなひどいことを……」
ドロシーの話を聞いて真っ青な顔になったリーリアは、ふらついた拍子に俺の胸に倒れこんでくる。
それを優しく受け止めながら、俺はさらに詳しい話を聞くためにドロシーを見つめた。
「それはいったい誰からの圧力なんだ? どうしてわざわざ俺たちを標的に?」
「さぁ? 残念だけどそれは分からないわ。ただ、私みたいなはぐれ者の店主のところにまで圧力をかけてくるんだから、よほど大きな力が動いてると思うわ。それに、自分の影響力にそうとう自信があるんでしょうね」
「ドロシーにまでなんて……」
それを聞いたリーリアは、まるで捨てられた子犬のような表情でドロシーの顔を眺めている。
そんな彼女を安心させるためか、ドロシーは努めて明るい声で笑った。
「ふふ、安心して。私はそんな圧力程度でどうこうできる女じゃないの。そう言うのって大っ嫌いだし。そもそも私の店の商品はほとんど自社製品だし、客である冒険者にまではさすがに手出しできないはずだから」
「本当に? 信じても良いの?」
「おやおや? もしかして君は、ドロシーさんを疑っているのかな? 幼馴染で親友の私を疑うなんて、いつから君はそんなに薄情な女になっちゃったのかな。男ができると変わるって言うのは、本当のことだったのかしら」
茶化すような口調でドロシーが笑い、それにつられるようにリーリアの表情も少し明るくなっていく。
「とは言え、これは問題だよ。たかが貧乏工房ひとつを市場から締め出すためだけに、これだけの力が動いてるんだ。いったい君たちは、どんな恨みを買ったのかな?」
「恨みなんて買った覚えはない。リーリアはそんな子じゃないし、俺はそもそもこの街に来て日が浅いから」
知り合いもほとんどいないのに、どうやって恨みを買えと言うんだ。
「だけど、心当たりはあるな。と言うか、それ以外では考えられないと思う」
ドロシーの言葉を聞いて、俺の頭にひとつだけ心当たりが浮かんでくる。
「もしかして……」
そしてどうやら、リーリアも同じ結論に至ったみたいだ。
実際、考えれば考えるほどそれ以外に理由が思いつかない。
「やっぱり心当たりがあるんだね。悪いようにしないから、ドロシーさんに教えてごらん」
俺の言葉に興味を引かれるように身を乗り出すドロシー。
だけど、この話をしても良いのだろうか?
聞いてしまえばドロシーを巻き込んでしまうかもしれないし、それにリーリアだって、親友に借金のことを知られたくないんじゃないだろうか?
そんな思いから、気付けば俺は隣に立つリーリアの顔を見つめてしまっていた。
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