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第30話
しおりを挟む「あれ、涼子はもう帰ったの?」
「橅木! 今さっき帰っちゃったよ」
同期の橅木圭佑。
常にニコニコしていて取引先の相手に気に入られやすい。
見た目も暗いブラウンの短髪に切長の奥二重で見るからに体育会系と思える風貌だ。身長も高く手足も長くてスタイルはモデル並み。その見た目のおかげなのか(失礼か……)体育会系のノリのおかげなのか彼にとって営業も行うマーケティング部は天職なんじゃないかと入社当初から思っている。
チームは別なので今は仕事中に濃い絡みはないが涼香と橅木だけが同期なので昔はよく三人で仕事終わりに飲みに行ったりしていた。
今は涼子も家庭があるし、ここ数年行っていないが。
「んじゃ、真紀の隣に座るかな~」
「どうぞ」
さっきまで涼子が座っていた席に橅木が座り久しぶりお互いのグラスをカチンと合わせ小さく乾杯をした。
「真紀とこうやって飲むの久しぶりだよな」
「だね、もう歓迎会とか送迎会とかないと飲む機会ないもんね~」
「涼子も子供がいて大変だしな、俺と真紀だけ独り身じゃん」
「それはもう言わない方がいい……考えてはいけない」
はははと笑い合う。
橅木とは気を遣わずに話せるので楽で良い。
他の部署の女の人からも「爽やかイケメン~」とか言われモテているのに彼女がいないのが謎だ。
お互い飲んできたビールが空になった。
そろそろセーブしないと酔いそうなので白ワインをジンジャエールで割ったオペレーターを注文し、橅木はレモンサワーを頼んだ。
「どうよ、新人教育は大変か?」
「それが全く手が掛からなくてすぐに仕事覚えてくれるからかなりの即戦力になってくれてる」
「チャラそうに見えるけどそれがギャップなのか……こりゃ先が楽しみだな」
「そのうち橅木も抜かされちゃうかもよ」
「そんな事あり得ないですよ」
聞き覚えのある声が橅木とは反対の方から聞こえる。
いつの間にか隣に松田が座っていた。
ずっと松田は木島部長の隣にいると思っていたので、不意を突かれすぎて驚きと動揺を隠せなかった。
「お~松田! 一緒に飲もうぜ!」
「是非、今日は本当にありがとうございます」
近くにいる人達でもう一度乾杯をした。
カチャンとガラスの当たる音が鳴り響く。
「さっき真紀と話してたんだけど、松田仕事覚えるの早いらしいじゃん」
「いや、そんな事ないですよ、水野さんの教え方が上手なだけです」
……なんて猫被りな話し方をするんだろう。
世渡り上手とはこの事だ。
私を挟んで松田と橅木が話すものだからなんとも言えない両脇からの圧迫感に必死で耐えた。
少しでも姿勢を崩したら松田に肩がくっつきそうだ。
橅木は元からスキンシップが多い為肩を叩かれようが、腰を叩かれようが、なんなら頭を撫でられた事も何回もある。
しかしそれは年の離れた妹がいるらしくつい癖でやってしまうと昔本人が言っていた。
なので私も全く気にしなくなった。
今も私の肩に手をかけ松田に話しかけている。
けど良い加減重くなってきたのでそろそろ退かして欲しい。
「橅木、そろそろ肩が重いんだけど」
「あ、悪い悪い、つい真紀の肩の高さが丁度いいもんだから」
「肘置きにするな!」
「そんなに水野さんの肩がちょうど良いなら俺も乗せさせてもらおうかな」
冗談なのか本気なのか分からない表情で松田が言うものだから少しドキッとしてしまった。
橅木にはないこの緊張感はきっとキスされて、意識してしまっているからに違いない。
伸ばしてきた松田の手をビシッと手で払い「有料です」と言い放った。
周りにはこのやり取りがコントのようで面白かったらしく周りからドワっと笑いが起こった。
皆んなお酒がかなり進み酔っている人もチラホラ出てきていて、更に歓迎会は盛り上がりを見せた。
「水野さん、橅木さんかなり酔ってませんか?」
「ん? あー橅木はいつもあんな感じだから大丈夫よ」
「そうなんですね……」
本当に橅木が酔ったところを今まで見た事がない。いつも周りに気を使ってくれている。
橅木よりも自分の方が怪しい。少し寒気がしてきていた。
お酒を飲むと暑くなるどころかどんどん寒くなるタイプなので手足が冷えてくる。
手を温めようと自分の太腿の間に手を挟んで温めているとスルッと自分の太腿の間の手をすっぽり包んでしまう程の大きい手が私の冷たい指に絡んできた。
驚いて隣を見ると松田はなにもしていません、と平然な顔をしながら私の指に自分の指を絡めてくる。
周りに人がいる為やめて! とは声に出して言いづらい。
どうかバレませんように……
そう祈るだけで私は松田の指を拒否しなかった。
暖かくて触れているだけなのになぜか気持ちが良かった。
「真紀、顔が赤いけど珍しく酔ってる?」
「え? そう? いつもと変わらないと思うけど……」
「ふーん、じゃあ気のせいか、真紀の酔ったところって一回も見た事ないんだよなぁ」
私は人前で酔うのが苦手だ。
なんとなく自分の酔ってる姿を見られるのも恥ずかしいし、どうも昔からクラス会の幹事を任されたり、会社の飲み会の幹事もするので、酔った人を介抱する事が多い。
けどそれは外で気を張っているだけで、家に帰って気が抜ければ一瞬で酔いが回り一人で酔っ払いそのまま寝てしまう事も多々ある。
自分を人に曝け出すのが苦手だ。
特に弱い部分を見せるなんてもっての外。
なので私は外では酔ったところを人に見せない。
「……松田君、そろそろ部長の所に戻った方がいいんじゃない?」
早く戻ってこの手を離して欲しい。
もし誰かが見たりしたら大騒ぎになるだろう。
二人の体温が重なり合い手と手の間が少し汗ばんできた。
「まずいですかね~じゃあ戻ります、失礼しました」
「お~松田また飲もうなー!」
「はい」
やっと松田が席を立ち木島部長の元へ戻る。
離された手は少し汗ばんでいたせいかスースーする。
とにかくバレなくて良かったとホッと胸を撫で下ろした。
「橅木! 今さっき帰っちゃったよ」
同期の橅木圭佑。
常にニコニコしていて取引先の相手に気に入られやすい。
見た目も暗いブラウンの短髪に切長の奥二重で見るからに体育会系と思える風貌だ。身長も高く手足も長くてスタイルはモデル並み。その見た目のおかげなのか(失礼か……)体育会系のノリのおかげなのか彼にとって営業も行うマーケティング部は天職なんじゃないかと入社当初から思っている。
チームは別なので今は仕事中に濃い絡みはないが涼香と橅木だけが同期なので昔はよく三人で仕事終わりに飲みに行ったりしていた。
今は涼子も家庭があるし、ここ数年行っていないが。
「んじゃ、真紀の隣に座るかな~」
「どうぞ」
さっきまで涼子が座っていた席に橅木が座り久しぶりお互いのグラスをカチンと合わせ小さく乾杯をした。
「真紀とこうやって飲むの久しぶりだよな」
「だね、もう歓迎会とか送迎会とかないと飲む機会ないもんね~」
「涼子も子供がいて大変だしな、俺と真紀だけ独り身じゃん」
「それはもう言わない方がいい……考えてはいけない」
はははと笑い合う。
橅木とは気を遣わずに話せるので楽で良い。
他の部署の女の人からも「爽やかイケメン~」とか言われモテているのに彼女がいないのが謎だ。
お互い飲んできたビールが空になった。
そろそろセーブしないと酔いそうなので白ワインをジンジャエールで割ったオペレーターを注文し、橅木はレモンサワーを頼んだ。
「どうよ、新人教育は大変か?」
「それが全く手が掛からなくてすぐに仕事覚えてくれるからかなりの即戦力になってくれてる」
「チャラそうに見えるけどそれがギャップなのか……こりゃ先が楽しみだな」
「そのうち橅木も抜かされちゃうかもよ」
「そんな事あり得ないですよ」
聞き覚えのある声が橅木とは反対の方から聞こえる。
いつの間にか隣に松田が座っていた。
ずっと松田は木島部長の隣にいると思っていたので、不意を突かれすぎて驚きと動揺を隠せなかった。
「お~松田! 一緒に飲もうぜ!」
「是非、今日は本当にありがとうございます」
近くにいる人達でもう一度乾杯をした。
カチャンとガラスの当たる音が鳴り響く。
「さっき真紀と話してたんだけど、松田仕事覚えるの早いらしいじゃん」
「いや、そんな事ないですよ、水野さんの教え方が上手なだけです」
……なんて猫被りな話し方をするんだろう。
世渡り上手とはこの事だ。
私を挟んで松田と橅木が話すものだからなんとも言えない両脇からの圧迫感に必死で耐えた。
少しでも姿勢を崩したら松田に肩がくっつきそうだ。
橅木は元からスキンシップが多い為肩を叩かれようが、腰を叩かれようが、なんなら頭を撫でられた事も何回もある。
しかしそれは年の離れた妹がいるらしくつい癖でやってしまうと昔本人が言っていた。
なので私も全く気にしなくなった。
今も私の肩に手をかけ松田に話しかけている。
けど良い加減重くなってきたのでそろそろ退かして欲しい。
「橅木、そろそろ肩が重いんだけど」
「あ、悪い悪い、つい真紀の肩の高さが丁度いいもんだから」
「肘置きにするな!」
「そんなに水野さんの肩がちょうど良いなら俺も乗せさせてもらおうかな」
冗談なのか本気なのか分からない表情で松田が言うものだから少しドキッとしてしまった。
橅木にはないこの緊張感はきっとキスされて、意識してしまっているからに違いない。
伸ばしてきた松田の手をビシッと手で払い「有料です」と言い放った。
周りにはこのやり取りがコントのようで面白かったらしく周りからドワっと笑いが起こった。
皆んなお酒がかなり進み酔っている人もチラホラ出てきていて、更に歓迎会は盛り上がりを見せた。
「水野さん、橅木さんかなり酔ってませんか?」
「ん? あー橅木はいつもあんな感じだから大丈夫よ」
「そうなんですね……」
本当に橅木が酔ったところを今まで見た事がない。いつも周りに気を使ってくれている。
橅木よりも自分の方が怪しい。少し寒気がしてきていた。
お酒を飲むと暑くなるどころかどんどん寒くなるタイプなので手足が冷えてくる。
手を温めようと自分の太腿の間に手を挟んで温めているとスルッと自分の太腿の間の手をすっぽり包んでしまう程の大きい手が私の冷たい指に絡んできた。
驚いて隣を見ると松田はなにもしていません、と平然な顔をしながら私の指に自分の指を絡めてくる。
周りに人がいる為やめて! とは声に出して言いづらい。
どうかバレませんように……
そう祈るだけで私は松田の指を拒否しなかった。
暖かくて触れているだけなのになぜか気持ちが良かった。
「真紀、顔が赤いけど珍しく酔ってる?」
「え? そう? いつもと変わらないと思うけど……」
「ふーん、じゃあ気のせいか、真紀の酔ったところって一回も見た事ないんだよなぁ」
私は人前で酔うのが苦手だ。
なんとなく自分の酔ってる姿を見られるのも恥ずかしいし、どうも昔からクラス会の幹事を任されたり、会社の飲み会の幹事もするので、酔った人を介抱する事が多い。
けどそれは外で気を張っているだけで、家に帰って気が抜ければ一瞬で酔いが回り一人で酔っ払いそのまま寝てしまう事も多々ある。
自分を人に曝け出すのが苦手だ。
特に弱い部分を見せるなんてもっての外。
なので私は外では酔ったところを人に見せない。
「……松田君、そろそろ部長の所に戻った方がいいんじゃない?」
早く戻ってこの手を離して欲しい。
もし誰かが見たりしたら大騒ぎになるだろう。
二人の体温が重なり合い手と手の間が少し汗ばんできた。
「まずいですかね~じゃあ戻ります、失礼しました」
「お~松田また飲もうなー!」
「はい」
やっと松田が席を立ち木島部長の元へ戻る。
離された手は少し汗ばんでいたせいかスースーする。
とにかくバレなくて良かったとホッと胸を撫で下ろした。
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