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第21話
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「というわけで、テッドはどこか心当たりとかはない? できれば大口の契約を結んでくれるような所が良いんだけど」
「そんな都合のいい条件の奴が居たら、俺の方が紹介してほしいくらいだね。悪いが、俺じゃ力になれそうにないぜ」
「そっか。まぁ、仕方ないよな」
別に期待はしていなかったけど、やっぱり人生はそんなに甘くない。
テッドに紹介してもらえれば楽だったんだけど、どうやらこればっかりは自分たちの足で探すしかないみたいだ。
これからのことを考えて少しテンションを下げていると、悪いことをしたと思ったのかテッドは腕を組んでなにかを考え始める。
「ちょっと待てよ。もうちょっとで、なんか良いアイディアが浮かびそうなんだよ……」
そのまま唸り始めたテッドを眺めていると、不意に彼が大きな声を上げた。
「そうだ! この手があった!」
名案を思い付いたように満面の笑みを浮かべたテッドは、自信満々に話し始めた。
「この街で売れないなら、別の場所で売ればいいんだよ。ここよりももっと冒険者の多い町とかで売れば、買い手だって山ほど居るはずだ」
なにを言い出すのかと思ったら、そんなことか。
「それは俺も考えたけど、どうやればいいんだよ。わざわざ別の街まで売り込みに行って、定期的に納品に向かうなんて現実的じゃないだろ」
ただでさえ、この工房に居るのはリーリアと俺の二人だけだ。
工房である以上は商品を作る職人が必要で、二人ともそれぞれ鍛冶仕事を抱えている。
抱えている仕事を投げ出すわけにもいかないし、仕事をしながらでは別の街まで商品を売り込みに行く暇などあるはずもない。
どう考えても手が足りなさすぎる。
そんな俺の反論に、テッドは大声で笑って切り捨てた。
「がはは、馬鹿だなぁ! 別にお前らが自分で売り込みに行く必要はねぇよ。そんなのは他人に任せちまえ」
当たり前のことのように話すテッドに、俺たちは二人して首を傾げた。
「他人に任すって、いったいどうやって?」
彼の言っている意味が理解できずに困惑していると、そんな俺たちを見てテッドは呆れたようにため息を漏らす。
「お前ら、どんだけ世間知らずなんだよ……。職人ってのはだいたいそうだが、お前らは二人で工房を回してんだから、悪いことは言わねぇからもう少し勉強しとけ」
経営者の先輩であるテッドの言葉にリーリアが小さくなり、俺も気まずくて目を逸らす。
そんな俺たちの反応を見てもう一度ため息を吐いた彼は、優しく説明するように口を開いた。
「街から街を行き来して商売してる奴らが居るだろ。まずはそういう奴らに売り込んで、それから別の街に運んでもらうんだよ。上手くいけば、そいつら経由で継続的に注文がくるって寸法だ」
「確かにそれなら、俺たちがわざわざ別の街に行かなくても済むな」
「そういうことだ。だけど、ひとつだけ気をつけろ。そういう奴らの中には詐欺師みたいな奴も多いからな。ちゃんと信用できるかどうかは見極めろよ」
テッドが言うには、二束三文で買い取った後に他の街に行って高値で売りつける者たちも居るらしい。
「だから、本当はそういう知り合いがいれば良いんだがな。悪いが、俺にはそんなダチは居ない」
「私も居ませんね。そもそも、そう言った人と関わる機会もなかったので」
二人とも渋い顔でそう言っている中、俺には心当たりがあった。
「だったら、俺に任せてよ。実は一人、心当たりが居るんだ」
驚くふたりに向かって、俺は自信に満ちた笑みを浮かべて頷いた。
────
「着いた。ここだよ」
半信半疑なリーリアを連れてやってきたのは、とある建物の前だった。
街の中にあるうちでもかなり大きい部類に入るその建物には、入り口に大きく「グランデール商会」と書かれていた。
「ここって、グランデール商会の本社じゃないですか。ここに、アキラさんの知り合いがいるんですか?」
「うん、まぁね。というか、リーリアはここのことを知ってるんだ」
「当たり前ですよ。なんと言っても、グランデール商会と言えばこの街でも一、二を争う大企業ですから。この街でここを知らない人間なんて居ないと思いますよ」
「へぇ、そうなんだ。思ったよりも凄い会社だったんだな」
「もちろんですよ。でもそんな凄い所に知り合いがいるなんて、アキラさんの交友関係も馬鹿にできませんね」
「たまたまだよ。それじゃ、中に入ってみようか」
軽口を叩きながら、俺たちは改めて建物へ向かって歩き始める。
正面から建物の中に入ろうとすると、俺たちはそこに立っていた守衛の男性に呼び止められた。
「お待ちください。本日はどんなご用でしょうか?」
「ちょっと知り合いに会いに来たんだ。入れてくれないかな」
「失礼ながら、アポは取っておられますか?」
「え? アポが要るのか……」
やばい、そんなこと考えてもいなかった。
無理やり突破することもできないだろうし、そもそもそんなことをしたら怒られるだけでは済まないだろう。
「アポがないのであれば、お引き取りください」
「いや、待ってくれよ。ノエラさんに伝えてくれれば分かるはずだから」
ここで諦めるわけにはいかず、何とか守衛を説得しようと試みる。
しかし守衛も引き下がることなく、俺たちを一歩も中に入れないようにと必死にガードしている。
そうやってしばらく押し問答をしていると、遠くから俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
「そんな都合のいい条件の奴が居たら、俺の方が紹介してほしいくらいだね。悪いが、俺じゃ力になれそうにないぜ」
「そっか。まぁ、仕方ないよな」
別に期待はしていなかったけど、やっぱり人生はそんなに甘くない。
テッドに紹介してもらえれば楽だったんだけど、どうやらこればっかりは自分たちの足で探すしかないみたいだ。
これからのことを考えて少しテンションを下げていると、悪いことをしたと思ったのかテッドは腕を組んでなにかを考え始める。
「ちょっと待てよ。もうちょっとで、なんか良いアイディアが浮かびそうなんだよ……」
そのまま唸り始めたテッドを眺めていると、不意に彼が大きな声を上げた。
「そうだ! この手があった!」
名案を思い付いたように満面の笑みを浮かべたテッドは、自信満々に話し始めた。
「この街で売れないなら、別の場所で売ればいいんだよ。ここよりももっと冒険者の多い町とかで売れば、買い手だって山ほど居るはずだ」
なにを言い出すのかと思ったら、そんなことか。
「それは俺も考えたけど、どうやればいいんだよ。わざわざ別の街まで売り込みに行って、定期的に納品に向かうなんて現実的じゃないだろ」
ただでさえ、この工房に居るのはリーリアと俺の二人だけだ。
工房である以上は商品を作る職人が必要で、二人ともそれぞれ鍛冶仕事を抱えている。
抱えている仕事を投げ出すわけにもいかないし、仕事をしながらでは別の街まで商品を売り込みに行く暇などあるはずもない。
どう考えても手が足りなさすぎる。
そんな俺の反論に、テッドは大声で笑って切り捨てた。
「がはは、馬鹿だなぁ! 別にお前らが自分で売り込みに行く必要はねぇよ。そんなのは他人に任せちまえ」
当たり前のことのように話すテッドに、俺たちは二人して首を傾げた。
「他人に任すって、いったいどうやって?」
彼の言っている意味が理解できずに困惑していると、そんな俺たちを見てテッドは呆れたようにため息を漏らす。
「お前ら、どんだけ世間知らずなんだよ……。職人ってのはだいたいそうだが、お前らは二人で工房を回してんだから、悪いことは言わねぇからもう少し勉強しとけ」
経営者の先輩であるテッドの言葉にリーリアが小さくなり、俺も気まずくて目を逸らす。
そんな俺たちの反応を見てもう一度ため息を吐いた彼は、優しく説明するように口を開いた。
「街から街を行き来して商売してる奴らが居るだろ。まずはそういう奴らに売り込んで、それから別の街に運んでもらうんだよ。上手くいけば、そいつら経由で継続的に注文がくるって寸法だ」
「確かにそれなら、俺たちがわざわざ別の街に行かなくても済むな」
「そういうことだ。だけど、ひとつだけ気をつけろ。そういう奴らの中には詐欺師みたいな奴も多いからな。ちゃんと信用できるかどうかは見極めろよ」
テッドが言うには、二束三文で買い取った後に他の街に行って高値で売りつける者たちも居るらしい。
「だから、本当はそういう知り合いがいれば良いんだがな。悪いが、俺にはそんなダチは居ない」
「私も居ませんね。そもそも、そう言った人と関わる機会もなかったので」
二人とも渋い顔でそう言っている中、俺には心当たりがあった。
「だったら、俺に任せてよ。実は一人、心当たりが居るんだ」
驚くふたりに向かって、俺は自信に満ちた笑みを浮かべて頷いた。
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「着いた。ここだよ」
半信半疑なリーリアを連れてやってきたのは、とある建物の前だった。
街の中にあるうちでもかなり大きい部類に入るその建物には、入り口に大きく「グランデール商会」と書かれていた。
「ここって、グランデール商会の本社じゃないですか。ここに、アキラさんの知り合いがいるんですか?」
「うん、まぁね。というか、リーリアはここのことを知ってるんだ」
「当たり前ですよ。なんと言っても、グランデール商会と言えばこの街でも一、二を争う大企業ですから。この街でここを知らない人間なんて居ないと思いますよ」
「へぇ、そうなんだ。思ったよりも凄い会社だったんだな」
「もちろんですよ。でもそんな凄い所に知り合いがいるなんて、アキラさんの交友関係も馬鹿にできませんね」
「たまたまだよ。それじゃ、中に入ってみようか」
軽口を叩きながら、俺たちは改めて建物へ向かって歩き始める。
正面から建物の中に入ろうとすると、俺たちはそこに立っていた守衛の男性に呼び止められた。
「お待ちください。本日はどんなご用でしょうか?」
「ちょっと知り合いに会いに来たんだ。入れてくれないかな」
「失礼ながら、アポは取っておられますか?」
「え? アポが要るのか……」
やばい、そんなこと考えてもいなかった。
無理やり突破することもできないだろうし、そもそもそんなことをしたら怒られるだけでは済まないだろう。
「アポがないのであれば、お引き取りください」
「いや、待ってくれよ。ノエラさんに伝えてくれれば分かるはずだから」
ここで諦めるわけにはいかず、何とか守衛を説得しようと試みる。
しかし守衛も引き下がることなく、俺たちを一歩も中に入れないようにと必死にガードしている。
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