異世界のんびりワークライフ ~生産チートを貰ったので好き勝手生きることにします~

樋川カイト

文字の大きさ
上 下
15 / 52

第15話

しおりを挟む
「アキラさん……。やっぱり量産品は私が全部作りますね」
 リーリアに頼まれてダガーを三本ほど作ったところで、俺は彼女からストップをかけられてしまった。
「あぁ、やっぱり駄目だった?」
 出来上がったダガーを眺めながら、俺は誤魔化すように笑う。
 テーブルに並べられたのは、明らかに他のダガーとは品質の違う三本のダガー。
 どうやら、俺が作るとリーリアの物より格段に性能が良くなってしまうみたいだ。
 材料は同じなのに、不思議なこともあったものだ。
「でも、性能が良いのはむしろ喜ばしいことなんじゃ……」
 と思っていたけど、その言葉にリーリアは難しい表情で首を振る。
「確かに質が良いに越したことはありませんけど、一応は大量生産品ですから、ある程度の品質は合わせておかないといけないです。アキラさんの作ったダガーは他と比べて出来が良すぎるので、同じ商品として納品するのはちょっと難しいかもしれません」
「なるほどね。商売ってのは難しいものなんだな」
 まぁ、確かにたくさんある商品の中で一部だけやけに品質の良い物があれば、みんなそっちを選ぶだろう。
 もしかしたらそれを基準にして、他の商品の品質が悪いとクレームが入るかもしれない。
「ごめんね、役に立てなくて」
「いえいえ、大丈夫ですよ。それだけアキラさんの腕前が凄いってことですから。いつか、私がアキラさんと同じくらいの物を作れるようになったら、また手伝ってもらいます!」
 グッと気合を入れ直すように拳を握ったリーリアは、そのまま炉と向き合う。
 炎に照らされて汗の光る彼女は、なんだかとても綺麗に感じた。
「でも、だったら俺のやることがなくなっちゃったな。他に何か手伝えることはある?」
 リーリアが頑張っているのに、なにもしていないのはなんだか悪い気がする。
 俺の言葉に少し考え込むように首を傾げた彼女は、やがて何かを思いついたようにポンと手を叩く。
「だったら、アキラさんには一点物を作ってもらいたいです」
「一点物?」
「はい。量産品とは違う、なにかこの工房を代表するような武器を作り上げてほしいんです」
「それは、ちょっと大げさじゃないかな?」
「そんなことないです! アキラさんならできるって、私は信じてますから」
 どうにもリーリアは、俺に対して過度に期待をしているような気がする。
 なんでこんなに懐かれてしまったのかは分からないけど、それでも期待に目を輝かせている彼女を裏切るなんて俺にはできそうにない。
「……分かった。できるかは分からないけど、やってみるよ」
「お願いします! あっ、材料は工房の中にある物をなんでも使っていいですから」
 俺の答えを聞いて満面の笑みを浮かべるリーリアを見ていると、なんだか気合が入る。
 それと同時に、少し楽しくなってきた自分が居ることにも気づいた。
 自分の思い描いた武器を自ら作り出すなんて、まるで男の子の夢のようだ。
 それが実現できるんだから、それだけで異世界に来たかいがあるというものだ。
 さて、どんな凄い武器を作ってやろうか。
 どうせならトコトンやってやろう。
 後世に語り継がれるような武器を作って、リーリアを世界一の工房の主にしてやりたい。
 工房に保管されている材料の山を眺めて、俺は頭の中で妄想を膨らませていく。
 リーリアが鉄を打つ音を背中に聞きながら、無意識のうちに口角を緩ませていくのだった。

 ────
 後世に語り継がれるような武器を作ると言っても、それは今すぐできるようなものではない。
 大きな目標を掲げても、実際にそれを達成するまでには長い道のりが待っているのだ。
 まず、俺にはそんな凄い武器を作る実力がまだ備わっていないと思う。
 いきなり作っても、大した武器などできないだろう。
 今のところ俺が作ったことのあるのはダガーだけ。
 打ち直したりした経験はあるけど、それは元からあった剣を転用したからノーカウントでいいだろう。
「だから、まずは基本的な武器の作り方を学ぶことにしようか」
 基礎ができていなければ、それ以上の物を作ることなんてできない。
 一歩ずつ確実に前に進んでいくのが、きっと一番の近道になるはずだ。
「それじゃあ、まずはなにから作ってみようか……」
 考え込んでいると、工房の扉が開いて誰かが中に入ってくる。
「やぁ、昨日は世話になったね」
 その声に視線を向けると、そこにはA級冒険者のイザベラが立っていた。
「イザベラか。いらっしゃい」
「アキラ君、昨日は本当にありがとうね。おかげで、今日の仕事もきっちりとやり遂げることができたよ。もしも武器が壊れたままだったらと考えたら、ゾッとするね」
 笑顔で肩をすくめながら、イザベラは俺にすっと手を差し伸べてくる。
 その手を取って握手をしていると、いつの間にか炉の前から離れていたリーリアが四人分の紅茶を用意して俺たちの元へと近寄ってくる。
「イザベラさん、いらっしゃいませ。紅茶をどうぞ」
「うん、ありがとう。遠慮なくいただくよ」
 リーリアから紅茶を受け取ったイザベラは、慣れた様子でカップを口に運んでいく。
 その優雅な仕草が今までの彼女のイメージと違って、そのギャップに思わず呆然としてしまった。
「どうしたの? もしかして、私がこうやって紅茶を飲むのが意外だったかな?」
「いや、そんなことは……」
 慌てて誤魔化そうとすると、彼女は楽しそうに笑った。
「ふふ、無理しなくていいよ。私もガラじゃないと思ってるから。まぁ。昔に叩きこまれた習慣だとでも思ってくれればいいよ」
 そう言われてしまえばもうなにも言うことができず、少し気まずくなった俺は紅茶に口をつける。
 しかし、そこで俺はかすかな違和感を覚えた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

ユニークスキルで異世界マイホーム ~俺と共に育つ家~

楠富 つかさ
ファンタジー
 地震で倒壊した我が家にて絶命した俺、家入竜也は自分の死因だとしても家が好きで……。  そんな俺に転生を司る女神が提案してくれたのは、俺の成長に応じて育つ異空間を創造する力。この力で俺は生まれ育った家を再び取り戻す。  できれば引きこもりたい俺と異世界の冒険者たちが織りなすソード&ソーサリー、開幕!! 第17回ファンタジー小説大賞にエントリーしました!

種から始める生産チート~なんでも実る世界樹を手に入れたけど、ホントに何でも実ったんですが!?(旧題:世界樹の王)

十一屋 翠
ファンタジー
とある冒険で大怪我を負った冒険者セイルは、パーティ引退を強制されてしまう。 そんな彼に残されたのは、ダンジョンで見つけたたった一つの木の実だけ。 だがこれこそが、ありとあらゆるものを生み出す世界樹の種だったのだ。 世界樹から現れた幼き聖霊はセイルを自らの主と認めると、この世のあらゆるものを実らせ、彼に様々な恩恵を与えるのだった。 お腹が空けばお肉を実らせ、生活の為にと家具を生み、更に敵が襲ってきたら大量の仲間まで!? これは世界樹に愛された男が、文字通り全てを手に入れる幸せな物語。 この作品は小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

異世界転生漫遊記

しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は 体を壊し亡くなってしまった。 それを哀れんだ神の手によって 主人公は異世界に転生することに 前世の失敗を繰り返さないように 今度は自由に楽しく生きていこうと 決める 主人公が転生した世界は 魔物が闊歩する世界! それを知った主人公は幼い頃から 努力し続け、剣と魔法を習得する! 初めての作品です! よろしくお願いします! 感想よろしくお願いします!

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。 ※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。 ※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・) 更新はめっちゃ不定期です。 ※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。

変人奇人喜んで!!貴族転生〜面倒な貴族にはなりたくない!〜

赤井水
ファンタジー
 クロス伯爵家に生まれたケビン・クロス。  神に会った記憶も無く、前世で何故死んだのかもよく分からないが転生した事はわかっていた。  洗礼式で初めて神と話よく分からないが転生させて貰ったのは理解することに。  彼は喜んだ。  この世界で魔法を扱える事に。  同い歳の腹違いの兄を持ち、必死に嫡男から逃れ貴族にならない為なら努力を惜しまない。  理由は簡単だ、魔法が研究出来ないから。  その為には彼は変人と言われようが奇人と言われようが構わない。  ケビンは優秀というレッテルや女性という地雷を踏まぬ様に必死に生活して行くのであった。  ダンス?腹芸?んなもん勉強する位なら魔法を勉強するわ!!と。 「絶対に貴族にはならない!うぉぉぉぉ」  今日も魔法を使います。 ※作者嬉し泣きの情報 3/21 11:00 ファンタジー・SFでランキング5位(24hptランキング) 有名作品のすぐ下に自分の作品の名前があるのは不思議な感覚です。 3/21 HOT男性向けランキングで2位に入れました。 TOP10入り!! 4/7 お気に入り登録者様の人数が3000人行きました。 応援ありがとうございます。 皆様のおかげです。 これからも上がる様に頑張ります。 ※お気に入り登録者数減り続けてる……がむばるOrz 〜第15回ファンタジー大賞〜 67位でした!! 皆様のおかげですこう言った結果になりました。 5万Ptも貰えたことに感謝します! 改稿中……( ⁎ᵕᴗᵕ⁎ )☁︎︎⋆。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

処理中です...