6 / 52
第6話
しおりを挟む
「えっと、ここが商人ギルドか……」
あの後、何度か迷いながらもなんとか商人ギルドに辿り着くことができた。
ただでさえ見知らぬ街なのに、なぜかこの辺りは似たような建物が多すぎる気がする。
それでも何とか目的のギルドまでたどり着くことができて、俺はホッと胸を撫でおろした。
「それにしても、なんだかイメージと違うなぁ」
なんとなく立派な建物を予想していたんだけど、着いてみればそこは巨大な倉庫のような見た目をしていた。
飾り気のない外装に申し訳程度の緑が添えてあって、目立つところには天秤をモチーフにした看板が掲げてある。
木製の扉を抜けて中に入ると、どうやら酒場と併設されているらしく大勢の人の姿があった。
昼間から大の大人が酒を酌み交わしている姿を見ると、なんだか一気に異世界って感じがしてくる。
前の世界に居た頃は酒を飲む時間すらなかったから、なんだか少し羨ましかったりする。
そんな彼らの姿を横目で見ながら、俺は正面に見えるカウンターまで近づいていった。
「こんにちは、商人ギルドへようこそ。今日はどのようなご用件でしょうか?」
俺の接近に気付いて、カウンターの中に居た女性がニッコリ笑顔で声をかけてくる。
「えっと、実はこれからこの街で商売を始めようと思って……」
「なるほど、ギルド登録をご希望ですね。では、まずはお名前をお聞きしてよろしいですか?」
「三上彰です」
「ミカミ・アキラさん、ですね。では次に、少し審査させていただきますのでこの水晶に触れてください」
そう言ってカウンターに出されたのは、手のひらサイズの水晶玉だった。
「これは?」
「身分証を発行するために、過去に犯罪歴がないかを調べる魔道具です」
「なるほど、取引相手が犯罪者じゃ困りますもんね」
特にやましいことのない俺は、迷うことなく水晶に手をかざす。
しばらく触れても特に変化はなく、その様子を見て女性は小さく頷いた。
どうやら、当たり前だけど俺に犯罪歴はなかったみたいだ。
「はい、確認ができました。では、ギルドカードを発行しますので少々お待ちください」
そのまま女性はカウンターの裏へ去っていき、しばらくして一枚のカードを持って帰ってくる。
「こちらが、ミカミさんのギルドカードになります。再発行には費用が掛かりますので、なくさないように気を付けてくださいね」
「ありがとう」
あっさり登録が終わって、カードを受け取ると女性は次にいくつかの書類を取り出した。
「では最後に、今後ご商売をされるうえでの注意点などをご説明しますね」
差し出された資料を受け取ると、そこには細かい字で色々と書き込まれていた。
「ギルドの許可のもとで商売をする場合、年間の売り上げから諸経費を除いた利益の1割をギルドに納めていただくことになります。売り上げはギルドカードに記録されるため、不正はできませんよ」
「へぇ、記録されるなら計算も楽そうだ」
「ふふ、そうですね。次に、ギルドからの買取依頼についてご説明します。特に商売を始めたての方には大事な話ですから、ちゃんと聞いてくださいね」
そう前置きして、女性は説明を続ける。
「ギルドでは定期的に、指定した物品を買い取る依頼を出しています。物品を持ってきていただければ、相場の8割程度で買い取らせていただきます」
「8割? それじゃ、普通に売った方が儲かるんじゃないか?」
「初めての方は、そう感じるかもしれませんね。ですが、商売を始めたばかりの方ではまだ販路が確立されていない場合もありますから。そういった場合でも、ギルドを介せば販売することが可能です。また、ギルド買取りの分での1割納付は納めた扱いとして免除されます」
「なるほど、そういうことか。確かに、誰も買ってくれないよりはマシかもしれないな」
「もちろん、依頼を受けるかは自由ですから。最初から店舗を構えている方なんかは、一度も利用しないこともあります。ちなみにミカミさんは、店舗を構えるご予定は?」
「今のところないな。というより、そんな余裕もない」
なんなら、今後の生活費さえ急いで稼がないといけないくらいだ。
それでも、いつかは店舗も構えてみたいものだ。
「ではやっぱり、最初は買取依頼を利用するのがオススメですね。もしも店舗をお探しの時は、ギルドが色々と相談に乗りますので」
「至れり尽くせりだな。ありがとう」
「いえいえ、これも仕事ですから。説明は以上ですが、何か他に質問はありますか?」
そう言われても、すぐに思いつくようなものではない。
あ、そういえば……。
「お姉さんの名前は、なんて言うんですか?」
「あぁ、そういえば名乗っていませんでしたね。私はレインと言います。以後、よろしくお願いしますね」
「レインさんか。こちらこそ、これから色々とお世話になると思うのでよろしくお願いします」
カウンター越しに頭を下げ合って、俺たちはどちらからともなく笑い合う。
「それじゃ、いつまでもここを占領しているわけにもいかないからそろそろ行くよ。また近いうちに来ると思うけど」
「はい、ではお待ちしていますね」
笑顔で手を振ってくれるレインさんに別れを告げて、俺は商人ギルドを後にする。
さて、これで俺もこれから商人の仲間入りだ。
この世界では、絶対に金持ちになってやるからな。
そんな決意を胸に秘めて、俺は商人としての第一歩を踏み出したのだった。
あの後、何度か迷いながらもなんとか商人ギルドに辿り着くことができた。
ただでさえ見知らぬ街なのに、なぜかこの辺りは似たような建物が多すぎる気がする。
それでも何とか目的のギルドまでたどり着くことができて、俺はホッと胸を撫でおろした。
「それにしても、なんだかイメージと違うなぁ」
なんとなく立派な建物を予想していたんだけど、着いてみればそこは巨大な倉庫のような見た目をしていた。
飾り気のない外装に申し訳程度の緑が添えてあって、目立つところには天秤をモチーフにした看板が掲げてある。
木製の扉を抜けて中に入ると、どうやら酒場と併設されているらしく大勢の人の姿があった。
昼間から大の大人が酒を酌み交わしている姿を見ると、なんだか一気に異世界って感じがしてくる。
前の世界に居た頃は酒を飲む時間すらなかったから、なんだか少し羨ましかったりする。
そんな彼らの姿を横目で見ながら、俺は正面に見えるカウンターまで近づいていった。
「こんにちは、商人ギルドへようこそ。今日はどのようなご用件でしょうか?」
俺の接近に気付いて、カウンターの中に居た女性がニッコリ笑顔で声をかけてくる。
「えっと、実はこれからこの街で商売を始めようと思って……」
「なるほど、ギルド登録をご希望ですね。では、まずはお名前をお聞きしてよろしいですか?」
「三上彰です」
「ミカミ・アキラさん、ですね。では次に、少し審査させていただきますのでこの水晶に触れてください」
そう言ってカウンターに出されたのは、手のひらサイズの水晶玉だった。
「これは?」
「身分証を発行するために、過去に犯罪歴がないかを調べる魔道具です」
「なるほど、取引相手が犯罪者じゃ困りますもんね」
特にやましいことのない俺は、迷うことなく水晶に手をかざす。
しばらく触れても特に変化はなく、その様子を見て女性は小さく頷いた。
どうやら、当たり前だけど俺に犯罪歴はなかったみたいだ。
「はい、確認ができました。では、ギルドカードを発行しますので少々お待ちください」
そのまま女性はカウンターの裏へ去っていき、しばらくして一枚のカードを持って帰ってくる。
「こちらが、ミカミさんのギルドカードになります。再発行には費用が掛かりますので、なくさないように気を付けてくださいね」
「ありがとう」
あっさり登録が終わって、カードを受け取ると女性は次にいくつかの書類を取り出した。
「では最後に、今後ご商売をされるうえでの注意点などをご説明しますね」
差し出された資料を受け取ると、そこには細かい字で色々と書き込まれていた。
「ギルドの許可のもとで商売をする場合、年間の売り上げから諸経費を除いた利益の1割をギルドに納めていただくことになります。売り上げはギルドカードに記録されるため、不正はできませんよ」
「へぇ、記録されるなら計算も楽そうだ」
「ふふ、そうですね。次に、ギルドからの買取依頼についてご説明します。特に商売を始めたての方には大事な話ですから、ちゃんと聞いてくださいね」
そう前置きして、女性は説明を続ける。
「ギルドでは定期的に、指定した物品を買い取る依頼を出しています。物品を持ってきていただければ、相場の8割程度で買い取らせていただきます」
「8割? それじゃ、普通に売った方が儲かるんじゃないか?」
「初めての方は、そう感じるかもしれませんね。ですが、商売を始めたばかりの方ではまだ販路が確立されていない場合もありますから。そういった場合でも、ギルドを介せば販売することが可能です。また、ギルド買取りの分での1割納付は納めた扱いとして免除されます」
「なるほど、そういうことか。確かに、誰も買ってくれないよりはマシかもしれないな」
「もちろん、依頼を受けるかは自由ですから。最初から店舗を構えている方なんかは、一度も利用しないこともあります。ちなみにミカミさんは、店舗を構えるご予定は?」
「今のところないな。というより、そんな余裕もない」
なんなら、今後の生活費さえ急いで稼がないといけないくらいだ。
それでも、いつかは店舗も構えてみたいものだ。
「ではやっぱり、最初は買取依頼を利用するのがオススメですね。もしも店舗をお探しの時は、ギルドが色々と相談に乗りますので」
「至れり尽くせりだな。ありがとう」
「いえいえ、これも仕事ですから。説明は以上ですが、何か他に質問はありますか?」
そう言われても、すぐに思いつくようなものではない。
あ、そういえば……。
「お姉さんの名前は、なんて言うんですか?」
「あぁ、そういえば名乗っていませんでしたね。私はレインと言います。以後、よろしくお願いしますね」
「レインさんか。こちらこそ、これから色々とお世話になると思うのでよろしくお願いします」
カウンター越しに頭を下げ合って、俺たちはどちらからともなく笑い合う。
「それじゃ、いつまでもここを占領しているわけにもいかないからそろそろ行くよ。また近いうちに来ると思うけど」
「はい、ではお待ちしていますね」
笑顔で手を振ってくれるレインさんに別れを告げて、俺は商人ギルドを後にする。
さて、これで俺もこれから商人の仲間入りだ。
この世界では、絶対に金持ちになってやるからな。
そんな決意を胸に秘めて、俺は商人としての第一歩を踏み出したのだった。
37
お気に入りに追加
1,460
あなたにおすすめの小説
種から始める生産チート~なんでも実る世界樹を手に入れたけど、ホントに何でも実ったんですが!?(旧題:世界樹の王)
十一屋 翠
ファンタジー
とある冒険で大怪我を負った冒険者セイルは、パーティ引退を強制されてしまう。
そんな彼に残されたのは、ダンジョンで見つけたたった一つの木の実だけ。
だがこれこそが、ありとあらゆるものを生み出す世界樹の種だったのだ。
世界樹から現れた幼き聖霊はセイルを自らの主と認めると、この世のあらゆるものを実らせ、彼に様々な恩恵を与えるのだった。
お腹が空けばお肉を実らせ、生活の為にと家具を生み、更に敵が襲ってきたら大量の仲間まで!?
これは世界樹に愛された男が、文字通り全てを手に入れる幸せな物語。
この作品は小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
ここ掘れわんわんから始まる異世界生活―陸上戦艦なにそれ?―
北京犬(英)
ファンタジー
第一章改稿版に差し替中。
暫く繋がりがおかしくなりますが、ご容赦ください。(2020.10.31)
第四章完結。第五章に入りました。
追加タグ:愛犬がチート、モフモフ、農業、奴隷、少しコメディ寄り、時々シリアス、ほのぼの
愛犬のチワワと共に異世界転生した佐々木蔵人(ささき くらんど)が、愛犬プチのユニークスキル”ここ掘れわんわん”に助けられて異世界でスローライフを満喫しようとします。
しかし転生して降り立った場所は魔物が蔓延る秘境の森。
蔵人の基本レベルは1で、持っているスキルも初期スキルのLv.1のみ。
ある日、プチの”ここ掘れわんわん”によりチート能力を得てしまいます。
しかし蔵人は自身のイメージ力の問題でチート能力を使いこなせません。
思い付きで農場をチート改造して生活に困らなくなり、奴隷を買い、なぜか全員が嫁になってハーレム生活を開始。
そして塒(ねぐら)として確保した遺跡が……。大きな陰謀に巻き込まれてしまいます。
前途多難な異世界生活を愛犬や嫁達と共に生き延びて、望みのスローライフを送れるのだろうかという物語です。
基本、生産チートでほのぼの生活が主体――のはずだったのですが、陸上戦艦の艦隊戦や戦争描写が増えています。
小説家になろう、カクヨムでも公開しています。改稿版はカクヨム最新。
異世界で魔法使いとなった俺はネットでお買い物して世界を救う
馬宿
ファンタジー
30歳働き盛り、独身、そろそろ身を固めたいものだが相手もいない
そんな俺が電車の中で疲れすぎて死んじゃった!?
そしてらとある世界の守護者になる為に第2の人生を歩まなくてはいけなくなった!?
農家育ちの素人童貞の俺が世界を守る為に選ばれた!?
10個も願いがかなえられるらしい!
だったら異世界でもネットサーフィンして、お買い物して、農業やって、のんびり暮らしたいものだ
異世界なら何でもありでしょ?
ならのんびり生きたいな
小説家になろう!にも掲載しています
何分、書きなれていないので、ご指摘あれば是非ご意見お願いいたします
神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく
霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。
だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。
どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。
でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!
女神スキル転生〜知らない間に無双します〜
悠任 蓮
ファンタジー
少女を助けて死んでしまった康太は、少女を助けて貰ったお礼に異世界転生のチャンスを手に入れる。
その時に貰ったスキルは女神が使っていた、《スキルウィンドウ》というスキルだった。
そして、スキルを駆使して異世界をさくさく攻略していく・・・
HOTランキング1位!4/24
ありがとうございます!
基本は0時に毎日投稿しますが、不定期になったりしますがよろしくお願いします!
僕の従魔は恐ろしく強いようです。
緋沙下
ファンタジー
僕は生まれつき体が弱かった。物心ついた頃から僕の世界は病院の中の一室だった。
僕は治ることなく亡くなってしまった。
心配だったのは、いつも明るく無理をして笑うお母さん達の事だった。
そんな僕に、弟と妹を授ける代わりに別の世界に行って見ないか?という提案がもたらされた。
そこで勇者になるわけでもなく、強いステータスも持たない僕が出会った従魔の女の子
処女作なのでご迷惑かける場面が多数存在するかもしれません。気になる点はご報告いただければ幸いです。
---------------------------------------------------------------------------------------
プロローグと小説の内容を一部変更いたしました。
平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。
モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。
日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。
今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。
そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。
特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。
若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双
たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。
ゲームの知識を活かして成り上がります。
圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる