上 下
3 / 52

第3話

しおりを挟む
 意識が戻ると、俺は草原に立っていた。
 どこまでも広がる風景には遮る物などなにもなく、遠くにはうっすらと地平線のようなものまで見渡すことができる。
 見渡す限りの緑が、疲れ切った俺の目を優しく癒してくれるようだ。
「……じゃねぇよ! どこだよここ!!」
 知らない部屋にいたと思ったら、今度は知らない草原だ。
 いくらなんでも、ついさっきまで一般現代人だった俺には難易度が高すぎるだろう。
 もはや嫌がらせとしか思えない移動に、俺は思わず天を見上げて叫んでしまう。
 しかし誰もいないこの場所で、そんな俺の叫びに応えてくれるものはなにもなかった。
 ときおり吹く風でなびいた草原のさざめきだけが、すさんだ俺の心をなっぐ覚めてくれる。
「はぁ、あのクソ神様め。今度会ったら絶対ぶん殴ってやるからな」
 決意を新たにした俺は、とりあえずいったん落ち着くためにその場で座り込む。
 そうすると草のひんやりした感触を感じて、なんだか心地いい。
「そういえば、こうやってのんびりするのも何時ぶりだろう……」
 借金まみれになってからというもの、休む暇もなく働いていた。
 なにもせずのんびりするなんて時間の余裕もなかったし、たとえ時間があったとしても嫌な考えばかりが浮かんできそうでしようとも思わなかった。
 そしてそんなことを考えなくても済むように、余裕が悪なるくらいに仕事を詰め込む悪循環。
 もはや働くために生きていると言っても過言ではないくらい、俺は自分のことを追い詰め続けていた。
「そういう意味では、過労死もなかなか悪くないよな」
 今の俺には借金などないし、時間はたっぷりある。
 なんなら、このまま一度昼寝してもいいくらいだ。
「……って、さすがにそれはまずいだろう」
 こんなどことも分からないような場所で昼寝なんてしたら、なにが起こるか分からない。
 たとえなにも起こらなかったとしても、夜になってしまえば移動するのも一苦労だ。
 真っ暗な中で見知らぬ土地を歩き回るなんて、考えただけでもゾッとしてしまう。
「とりあえず、できるだけ早く安全な場所を探さないと。……そういえば、なんか力もくれたって言ってたな」
 もしかしたら、今の状況をクリアする能力を貰っているかもしれない。
 あの神様のことだから期待は薄いけど、確認してみる価値くらいはあるだろう。
 ……しかし、どう確認すればいいんだろうか?
 そう思った瞬間、俺の頭の中にいくつかのスキルとその詳細が浮かび上がってきた。

『クラフトレシピ。古今東西、ありとあらゆる物を作成できるレシピ』
『鑑定(絶)。この世の全てを鑑定できる』
『魅了(微)。異性に対して微小な効果のチャームを与える』
『健康体(超)。病気やケガなどに対しての耐性が非常に高い』
『鑑定眼。対象のおおよその価値を見抜く』
『異世界常識。異世界で生活するための最低限な常識』
『幸運(大)。説明不要』

 頭の中で再生された7つのスキルとその説明文。
 どうやらこれが俺の貰った能力らしい。
 どういう原理なのか分からないけど、しっかりと頭に刻まれたソレはもう二度と忘れられそうになかった。
「とりあえず、今の状況じゃ使えない物ばっかだな。……それにしても、だんだん説明が雑になってきている気がする」
 幸運(大)に関しては、もはや説明する気もないみたいだし。
 たぶん途中から面倒くさくなったんだろうなと言うことが、ひしひしと伝わってくるようだった。
「結局は、勘で動くしかないってわけだ」
 いつまでもここで突っ立っていても仕方ないし、とりあえず適当に歩き始めるとするか。
 見晴らしもいい草原だから迷うこともないだろうし、途中で道か川を見つけられたらそれに沿って歩けばいい。
 なんて楽観的に考えていると、しばらくして目の前に道のようなものが見えてきた。
 舗装はされていない砂利道だけど、どうやら頻繁に使われているらしく車輪の跡がくっきりと刻まれていた。
「ラッキー。この道に沿って行けば、人の居る場所につけるだろ」
 もしかしてこれは、幸運スキルの効果なのだろうか。
 予想よりもあっさりと進むべき道が見つかったことに気を良くしながら、俺はのんびりと道に沿って歩を進める。
 そうやってしばらく歩いていると、やがて目の前に何か大きな塊があるのが見えてきた。
「なんだ、あれ?」
 見たところ、馬車みたいだけど。
 実物を見たことがないのではっきりとは言えないけど、遠くに見えている物はゲームやテレビなんかで時々見るシルエットとそっくりだった。
 そんな馬車が、道の真ん中で全く動いていないように見える。
「いったいどうしたんだろう?」
 気になって近づいていくと、やがて理由が分かった。
 遠くからでは分からなかったが、どうやら馬車は横向きに倒れてしまっているみたいだ。
 そして周りには数人の男女が居て、男たちは必死に馬車を戻そうとしている。
 そんな彼らを少し離れたところで眺めていると、馬車を引いていたであろう馬の世話をしていた女性と目が合った。
「あっ、いいところに! そこのあなた、ちょっと手伝ってくれない?」
 目が合うと同時に素早い動きで俺に近寄ってきた女性は、そう言いながら俺の手を引いて馬車の方に戻る。
 どうやら俺に、拒否権はないらしい。
 引っ張られるまま馬車の方に連れられて行きながら、俺は女性に聞こえないように小さくため息をついた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

種から始める生産チート~なんでも実る世界樹を手に入れたけど、ホントに何でも実ったんですが!?(旧題:世界樹の王)

十一屋 翠
ファンタジー
とある冒険で大怪我を負った冒険者セイルは、パーティ引退を強制されてしまう。 そんな彼に残されたのは、ダンジョンで見つけたたった一つの木の実だけ。 だがこれこそが、ありとあらゆるものを生み出す世界樹の種だったのだ。 世界樹から現れた幼き聖霊はセイルを自らの主と認めると、この世のあらゆるものを実らせ、彼に様々な恩恵を与えるのだった。 お腹が空けばお肉を実らせ、生活の為にと家具を生み、更に敵が襲ってきたら大量の仲間まで!? これは世界樹に愛された男が、文字通り全てを手に入れる幸せな物語。 この作品は小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

ここ掘れわんわんから始まる異世界生活―陸上戦艦なにそれ?―

北京犬(英)
ファンタジー
第一章改稿版に差し替中。 暫く繋がりがおかしくなりますが、ご容赦ください。(2020.10.31) 第四章完結。第五章に入りました。 追加タグ:愛犬がチート、モフモフ、農業、奴隷、少しコメディ寄り、時々シリアス、ほのぼの  愛犬のチワワと共に異世界転生した佐々木蔵人(ささき くらんど)が、愛犬プチのユニークスキル”ここ掘れわんわん”に助けられて異世界でスローライフを満喫しようとします。 しかし転生して降り立った場所は魔物が蔓延る秘境の森。 蔵人の基本レベルは1で、持っているスキルも初期スキルのLv.1のみ。 ある日、プチの”ここ掘れわんわん”によりチート能力を得てしまいます。 しかし蔵人は自身のイメージ力の問題でチート能力を使いこなせません。 思い付きで農場をチート改造して生活に困らなくなり、奴隷を買い、なぜか全員が嫁になってハーレム生活を開始。 そして塒(ねぐら)として確保した遺跡が……。大きな陰謀に巻き込まれてしまいます。 前途多難な異世界生活を愛犬や嫁達と共に生き延びて、望みのスローライフを送れるのだろうかという物語です。 基本、生産チートでほのぼの生活が主体――のはずだったのですが、陸上戦艦の艦隊戦や戦争描写が増えています。 小説家になろう、カクヨムでも公開しています。改稿版はカクヨム最新。

おおぅ、神よ……ここからってマジですか?

夢限
ファンタジー
 俺こと高良雄星は39歳の一見すると普通の日本人だったが、実際は違った。  人見知りやトラウマなどが原因で、友人も恋人もいない、孤独だった。  そんな俺は、突如病に倒れ死亡。  次に気が付いたときそこには神様がいた。  どうやら、異世界転生ができるらしい。  よーし、今度こそまっとうに生きてやるぞー。  ……なんて、思っていた時が、ありました。  なんで、奴隷スタートなんだよ。  最底辺過ぎる。  そんな俺の新たな人生が始まったわけだが、問題があった。  それは、新たな俺には名前がない。  そこで、知っている人に聞きに行ったり、復讐したり。  それから、旅に出て生涯の友と出会い、恩を返したりと。  まぁ、いろいろやってみようと思う。  これは、そんな俺の新たな人生の物語だ。

女神スキル転生〜知らない間に無双します〜

悠任 蓮
ファンタジー
少女を助けて死んでしまった康太は、少女を助けて貰ったお礼に異世界転生のチャンスを手に入れる。 その時に貰ったスキルは女神が使っていた、《スキルウィンドウ》というスキルだった。 そして、スキルを駆使して異世界をさくさく攻略していく・・・ HOTランキング1位!4/24 ありがとうございます! 基本は0時に毎日投稿しますが、不定期になったりしますがよろしくお願いします!

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく

霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。 だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。 どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。 でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

スマートシステムで異世界革命

小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 /// ★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★ 新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。 それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。 異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。 スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします! 序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです 第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練 第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い 第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚 第4章(全17話)ダンジョン探索 第5章(執筆中)公的ギルド? ※第3章以降は少し内容が過激になってきます。 上記はあくまで予定です。 カクヨムでも投稿しています。

処理中です...