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男と黒幕とそれぞれの思惑-1
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とあるお屋敷の、とある一室。
その部屋に通された男は、その屋敷の主人が現れるのを今か今かと待ち構えていた。
男は片腕がなく、みすぼらしい衣服は所々汚れ、破れてしまっている。
目はギラギラと血走り、その恨むような視線はここには居ない誰かへと向けられているような気がした。
そのどう見ても堅気ではない姿に、お茶を用意しているメイドも警戒感を露わにしている。
やがて男に紅茶を差し出したメイドは、そそくさと部屋を後にしてしまった。
もしもここで少しでも不審な動きをすれば、控えている兵士が一斉に部屋へとなだれ込んでくるだろう。
面白くない、と男は思う。
今までの男であれば、メイドが紅茶をテーブルに置く為に近づいたところでセクハラのひとつでもかますところだろうが、今日はそんな気分ではない。
いや、あの日から一度たりともそんな気分になった事などなかった。
頭の中にはあの悪魔のような男の姿が鮮明に残り、それを思い出す度に恐怖で無意識のうちに身体が震える。
あの男は自分をダンジョンマスターであると言った。
そしてあの男は、俺の仲間で親友でもあった男二人を殺すどころか、永遠の苦しみを与えていた。
あんな姿になって生き続けるくらいなら、死んだ方がマシだ。
そう考えると不思議と恐怖は薄れ、その代わりに胸に浮かんできたのは激しい怒りだった。
なくなってしまったはずの右腕が、ジクジクと痛む。
それが男の頭をクリアに澄み渡らせ、もはやそこには純粋な殺意しか残っていなかった。
そんな殺意を胸に湛えた男の待つ部屋の扉が、ゆっくりと開く。
そうして入ってきたのは、一人の男。
隻腕の男よりも少しだけ年上のその男は、背後に二人の騎士を控えさせていた。
「ボビー、生きていたのか。どうやら、悪運は強いようだな。……それで、今日は何の用だ? 金なら、すでに払ったはずだが」
隻腕の男──ボビーは目の前のソファで寛ぐ男の言葉に頷いた後で、その瞳を真っ直ぐ彼に向ける。
「確かに、金ならもう貰った。今回アンタを訪ねたのは、ちょっとアフターケアの手助けをお願いしに来たんだ」
「アフターケア? それはもしや、お前らの邪魔をした冒険者の事か?」
「その通り。あの男はどうやらアンタの事にも感付いたようだ」
実際に情報を漏らしたのはボビーであるが、それは言わなければ誰にも知られない。
だからボビーの言葉を聞いて、目の前の男──現領主ケルビンは驚いたように眉をひそめる。
「それは、本当か?」
「ああ、間違いねぇ。しかもあの男は積荷と一緒に捕まえた女のコレだったらしくて、異常なまでに執念深い」
親指を立てて関係を示しながら、ボビーは未確認情報をさも真実のように語る。
惜しむらくは、それが本当に真実であると言う事だ。
だが、それはボビーには関係ない。
彼が望むのは、ただ自分と仲間たちの為の復讐のみなのだから。
だからこそ、ボビーは目の前で神妙な顔をしているケルビンを焚きつける。
「執念深いアイツの事だから、きっとアンタにも復讐をするに決まっている。だからこそ、逆にこっちからあの男を始末するべきだ」
「しかし、その者は我が領の人間ではなく、居場所も分からん」
「それに関しては問題ないぜ。アイツの居る場所の目星はついてるからな」
「それは、真か?」
「こんな時に嘘はつかねぇよ。しかも、始末した後の処理なんかも簡単にできるぜ」
領主が乗ってきたのを確認したボビーは、精いっぱいの笑顔を浮かべながら身を乗り出すと、自分の握る重大な真実を告げる。
「あの男は、ダンジョンマスターだ。恐らくこの辺りから遠くないダンジョンの奥に居るはずだ。しかも、たぶん新しい奴だな」
「……だとすると、あそこか」
どうやら領主にも心当たりはあるらしい。
それならば話は早いと、ボビーはさらに一歩本題に踏み込んだ。
「アンタにも心当たりがあるのなら話が早い。アイツをさっさと始末した方が身のためだぜ」
「確かに、私の事を知っている人間は居ない方が良い。……知っているのは、その男だけなのか?」
「他に少なくとも女が二人ほど居るはずだが、恐らく男と一緒に居るだろうぜ」
「ほう、女か……」
「そういや、それもアンタにとっては役得かもな。凄まじく強い奴らだが、かなりの美形だったぜ」
ボビーにとっては、たとえ抱かせてくれると言われても遠慮するほどのトラウマなのだが。
まぁしかし、あの女どもが目の前の男に組み伏されて泣き叫ぶ姿を見れば、それもすぐに払拭できるだろう。
「ともかく、俺にとってはあの男さえ始末してくれれば後は何も求めない。何なら、俺の伝手を使って人も集めるぜ」
「必要ないさ。私には私兵団が山ほどいる。みんな私に忠誠を使った、可愛い部下たちだ」
「そうかい。まぁ、それなら俺は余計な手は出さないようにしておくさ」
「それが良い。しかし情報を頂いたからには謝礼を渡そう」
「だから、要らねぇって言ってんだろ」
「馬鹿を言うな。私は、お前たちのような輩に借りを作るつもりはないからな」
そう言ってケルビンが手を打ち鳴らすと、一抱えほどの麻袋を持った執事が部屋の中へと入ってくる。
その部屋に通された男は、その屋敷の主人が現れるのを今か今かと待ち構えていた。
男は片腕がなく、みすぼらしい衣服は所々汚れ、破れてしまっている。
目はギラギラと血走り、その恨むような視線はここには居ない誰かへと向けられているような気がした。
そのどう見ても堅気ではない姿に、お茶を用意しているメイドも警戒感を露わにしている。
やがて男に紅茶を差し出したメイドは、そそくさと部屋を後にしてしまった。
もしもここで少しでも不審な動きをすれば、控えている兵士が一斉に部屋へとなだれ込んでくるだろう。
面白くない、と男は思う。
今までの男であれば、メイドが紅茶をテーブルに置く為に近づいたところでセクハラのひとつでもかますところだろうが、今日はそんな気分ではない。
いや、あの日から一度たりともそんな気分になった事などなかった。
頭の中にはあの悪魔のような男の姿が鮮明に残り、それを思い出す度に恐怖で無意識のうちに身体が震える。
あの男は自分をダンジョンマスターであると言った。
そしてあの男は、俺の仲間で親友でもあった男二人を殺すどころか、永遠の苦しみを与えていた。
あんな姿になって生き続けるくらいなら、死んだ方がマシだ。
そう考えると不思議と恐怖は薄れ、その代わりに胸に浮かんできたのは激しい怒りだった。
なくなってしまったはずの右腕が、ジクジクと痛む。
それが男の頭をクリアに澄み渡らせ、もはやそこには純粋な殺意しか残っていなかった。
そんな殺意を胸に湛えた男の待つ部屋の扉が、ゆっくりと開く。
そうして入ってきたのは、一人の男。
隻腕の男よりも少しだけ年上のその男は、背後に二人の騎士を控えさせていた。
「ボビー、生きていたのか。どうやら、悪運は強いようだな。……それで、今日は何の用だ? 金なら、すでに払ったはずだが」
隻腕の男──ボビーは目の前のソファで寛ぐ男の言葉に頷いた後で、その瞳を真っ直ぐ彼に向ける。
「確かに、金ならもう貰った。今回アンタを訪ねたのは、ちょっとアフターケアの手助けをお願いしに来たんだ」
「アフターケア? それはもしや、お前らの邪魔をした冒険者の事か?」
「その通り。あの男はどうやらアンタの事にも感付いたようだ」
実際に情報を漏らしたのはボビーであるが、それは言わなければ誰にも知られない。
だからボビーの言葉を聞いて、目の前の男──現領主ケルビンは驚いたように眉をひそめる。
「それは、本当か?」
「ああ、間違いねぇ。しかもあの男は積荷と一緒に捕まえた女のコレだったらしくて、異常なまでに執念深い」
親指を立てて関係を示しながら、ボビーは未確認情報をさも真実のように語る。
惜しむらくは、それが本当に真実であると言う事だ。
だが、それはボビーには関係ない。
彼が望むのは、ただ自分と仲間たちの為の復讐のみなのだから。
だからこそ、ボビーは目の前で神妙な顔をしているケルビンを焚きつける。
「執念深いアイツの事だから、きっとアンタにも復讐をするに決まっている。だからこそ、逆にこっちからあの男を始末するべきだ」
「しかし、その者は我が領の人間ではなく、居場所も分からん」
「それに関しては問題ないぜ。アイツの居る場所の目星はついてるからな」
「それは、真か?」
「こんな時に嘘はつかねぇよ。しかも、始末した後の処理なんかも簡単にできるぜ」
領主が乗ってきたのを確認したボビーは、精いっぱいの笑顔を浮かべながら身を乗り出すと、自分の握る重大な真実を告げる。
「あの男は、ダンジョンマスターだ。恐らくこの辺りから遠くないダンジョンの奥に居るはずだ。しかも、たぶん新しい奴だな」
「……だとすると、あそこか」
どうやら領主にも心当たりはあるらしい。
それならば話は早いと、ボビーはさらに一歩本題に踏み込んだ。
「アンタにも心当たりがあるのなら話が早い。アイツをさっさと始末した方が身のためだぜ」
「確かに、私の事を知っている人間は居ない方が良い。……知っているのは、その男だけなのか?」
「他に少なくとも女が二人ほど居るはずだが、恐らく男と一緒に居るだろうぜ」
「ほう、女か……」
「そういや、それもアンタにとっては役得かもな。凄まじく強い奴らだが、かなりの美形だったぜ」
ボビーにとっては、たとえ抱かせてくれると言われても遠慮するほどのトラウマなのだが。
まぁしかし、あの女どもが目の前の男に組み伏されて泣き叫ぶ姿を見れば、それもすぐに払拭できるだろう。
「ともかく、俺にとってはあの男さえ始末してくれれば後は何も求めない。何なら、俺の伝手を使って人も集めるぜ」
「必要ないさ。私には私兵団が山ほどいる。みんな私に忠誠を使った、可愛い部下たちだ」
「そうかい。まぁ、それなら俺は余計な手は出さないようにしておくさ」
「それが良い。しかし情報を頂いたからには謝礼を渡そう」
「だから、要らねぇって言ってんだろ」
「馬鹿を言うな。私は、お前たちのような輩に借りを作るつもりはないからな」
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